◇第十一話:選択
どたどたと音を立て、ティフが戻ってきた。肩で息をしている。
「すまん、駄目だ!何をしても止まらなかった……っ!」
右手の部品がところどころ歪んでいる。止めようとして相当暴れたに違いない。
「ああ……やっぱり……。ティフ、これを見て。この塔は星間攻撃用の巨大レールガンだったのよ。位置座標はここ。」
「まじか……。」
「私たちの星系の、超重惑星オルビオンに目標がセットされているわ。この星がやられると——。」
「惑星同士のバランスが失われて、起動不安定化を起こす……。宇宙連合領は壊滅し、2兆人が住む場所を失うわけだな……」
ティフはモニターを見て唸った。
「どういうこと?」
「この大砲が発射されると、重力のバランスが崩れて、私たちの住んでる星々が全滅しちゃうって事だよ……。」
私がミリーちゃんに説明すると、彼女は口元を押さえた。
私も動揺が収まらない。
「ただ……ここは100年以上放置されていた施設だから、上手く発射できずに自爆する可能性も高いわ。」
「どちらにせよ、このまま見ていたら終わりってことだな。」
「……まだ、止める方法もなくはないわ。」
「どうするんだ?……まさか。」
「そう。最深部にある、発射機そのものをどうにかするしかないわ。でも、それができるのは……。」
メイズさんたちは躊躇うように私を見た。
「ベルちゃんと、ミリーちゃん。あなた達がセプテントリオンで行くしかないわ。」
————————
私はセプテントリオンの中で、その時を待っていた。
エレベーターの静かな駆動音が響き渡る。振動1つないことが、不気味に感じる。
武器を確認する。ダンプシューターは残り1発。
ライトニング・ソードも、ツイン・ブラスターも問題なく使えそうだった。
時折、ミリーちゃんの耳がぴくりと動く。
「ミリーちゃん。」
「うん。」
「セプテントリオンのエネルギーって、まだ大丈夫かな?」
「戦わないなら何とかなると思う。」
「エネルギーの充填に星の命が必要なのって、ほんと?ミリーちゃんならできるって——。」
ミリーちゃんは驚いた様子で私を振り返った。
「うん。……でも、やらない方が良いと思う。」
……グラーナの言っていたことは本当だったんだ。
室内のスピーカーが、静寂を破った。
「ベルちゃん、そのエレベーターは地下10km付近まで降りたら自動的に停止するわ。搬入口が開いたとき、外は超高温だから、絶対に生身で出ないようにしてね。」
「それに、超高圧にさらされて体がぺしゃんこになっちまうぞ。有毒ガスも充満している恐れがある。」
「そんなところに降りて大丈夫なの?」
「ああ、ハルディナスはどんな環境にも耐えられる、マグマの中だって泳げるさ。」
セプテントリオンはそんなに頑丈だったんだ……。
「もうじき目標地点よ。」
「まず最深部まで降りたら、まっすぐ前進してね。そうすると大きな隔壁が見えるはずよ。」
「そこを通り抜けたら、もう砲身の内部。実体弾は装填されているはずだから、わきを抜けて下に降りて。発射機につながれてる、ものすごく太いケーブルがあるはずだから、それを切って。」
「管制室のデータが正しければ、障害は無いはずよ。」
「わかった。」
「エレベーターを出たら通信は届かないから、私たちは手伝えないわ。ごめんなさい……。」
「こんな役割をやらせちまって、本当にすまないな……。」
エレベーターが止まり、扉が開いた。
「私たちは脱出に使えそうな宇宙船を探しておくわ。無事に帰って来てね。」
「なんとかなるよ。みんなで無事に帰ろう!」
「そうね、終わったらみんなで一緒に遊びに行きましょ。」
「だな、全員一緒だ。」
「みんな一緒。」
そうだ、絶対に帰ろう。故郷へ……!
私たちは施設内に踏み込んだ。施設内は薄暗く、視界がまるで油の中にいるように歪む。
コックピット内ではわからないが、周囲は相当な高温に包まれているようだった。
経年劣化からだろうか、施設内はところどころ岩壁がむき出しになっていて、ガスが噴き出している様子も見えた。
モニターの気温表示は摂氏300度を超えていた。
息がつまりそうだ。
「はやく行こ。」
あまりの光景に圧倒されていると、ミリーちゃんが私の膝をぽんぽんと叩いた。
「そうだね、急がないと。」
そうだ。いままでも何とかなってきたんだ、今回も大丈夫なはず。
私は一度深呼吸すると、ペダルを踏み込んだ。
セプテントリオンがずしん、ずしんと音を立て、歩みを始める。
周りに動く物は何もなく、ただ、圧迫感だけがあった。
ガス漏れの音だけが静かに響く。
「ねえ、ミリーちゃん。」
「どうしたの?」
「私、夢で次元悪魔龍のグラーナさんって人に会ったんだ。知ってる?」
「うーん、わかんない。」
たまに、モニターへノイズが走る。外が過酷な環境だからだろうか。
「向こうはミリーちゃんのことを知ってるみたい……さっきの話もその人から聞いたんだ。」
「ミリーちゃんはお店に来る前はどこに居たのか、覚えてないんだよね?帰るところはないの?」
「うん。」
「そっか……。」
むきだしの岩肌が少なくなってきた。
施設の中心が近い。
————————
隔壁にはあっさりとたどり着いた。
出入口は無さそうだった。巨大な地下空間に、大きな金属の壁がそびえている。
腰からライトニング・ソードを抜き、壁面に突き刺す。十分に隙間を作ってから、こじ開けた。
これを何度か繰り返すと、広い空間にたどり着いた。向こうの壁まで500メートルはあるだろうか。
内部は円筒状になっており、見上げると、僅かに空の光が見えた。
陽炎やガスの色で、空の光が歪んで見える。
入ってすぐの場所から壁面を沿うように、大きな溝が走っている。
望遠モードで観察すると、反対側にはスロープの入り口のようなものが見える。あそこが昇降口らしい。
「降りるよ。」
「うん。」
私は、すぐ目の前にある溝に飛び込んだ。
大きな音を立てて着地すると、外壁沿いに大きなケーブルがつなげられている様子が見えた。
ケーブルはかなり太く、その直径はセプテントリオンの膝くらいまであった。
足元からは、ごうんごうんと施設の鳴動が響いてくる。
メイズさんは発射機のすぐ下に地熱変換施設があると言っていた。たぶんその音だろう。
私は剣でケーブルを切りながら、弧を描くように進んだ。すると、僅かに点灯していた照明が消え、周りは暗闇に包まれた。
望遠モードで人間用のコンソールを見ると、エラー文のような表示が見えた。どうやら成功したみたいだ。
発電設備の稼働音だけが不気味に響いている。
「間に合った……。」
「あとは帰るだけだね。」
「急ごう。」
思ったよりも簡単な仕事だった。安心感に、少し気が緩んだ。
これならセプテントリオンのエネルギーも持ちそうだ。
セプテントリオンの出す光を頼りに、スロープを登っていく。
さっき侵入した穴の反対側に出た。そのまま歩みを進める。
このまま帰れたら、ミリーちゃんはどうなるんだろう?
「ね、無事に帰れたら一緒に暮らそうよ。お父さんは優しいし、毎日楽しいよ。」
「いいの?」
「もちろん!」
はやく脱出して、みんなのところに行こう。
家に帰るんだ。
突然けたたましい警報音と共に、赤い照明が点灯した。
「なに!?」
続いて壁面のハッチがいくつか開き、中からセプテントリオンと同じくらいの大きさの人型ロボットが出てきた。
「あれは……!」
「囲まれてる。」
それらは全部で3機。宙に浮いて私達を取り囲んだ。
胴体が小さく、手足が非常に長く、手首と足首がない。それらの背中につながれたケーブルが、バンと音を立てて外れる。
セプテントリオンに比べて全体的に尖ったシルエットをしていて、背中には空を飛ぶための羽がついていた。
戦うためだけに作られた形をしていた。
それぞれが私に向けて腕を伸ばした。
「避けて!」
ミリーちゃんが叫んだ。
私は反射的に、横に飛びのいた。
さっきまでいた場所を光弾が通り過ぎ、壁面にぶつかると爆発が起きた。
攻撃はやまず、光弾が次々と発射されていく。
「あれは何!?」
「わかんない……でも、誰も乗ってないみたい。無人機だよ。」
「外にいたやつらと同じってこと?」
「多分、違う。あれよりも……もっとセプテントリオンに近い……と思う。」
弾を回避し続けていると、2機が急接近してきた。
慌ててライトニング・ソードを2本取り出し、左右から迫りくる光刃を防御した。
敵の腕から光の剣が伸びている。
斬り返すと、腰から下を180度回転させ、地面を蹴って回避されてしまった。
セプテントリオンとは明らかに違う……動きが読めない。
背後で爆発が起き、激しい衝撃が私を襲った。
「ぐっ……!」
「まだ大丈夫だよ。」
再度突っ込んできた2機を剣ではじき、振り返って残りの1機に迫るが、すんでのところで躱されてしまった。
そこへ、自由になった2機からの射撃が降り注ぐ。
次々と攻撃が命中していく。命中精度も段違いだ。
反撃に転じる隙が無い。計器がひっきりなしに警報を出している。
正面のモニターに警告が表示された。
LOW ENERGY;DEFENSIVE SCREEN OFFLINE.
「うわああっ!」
弾を撃ち込まれる感覚が変わった……装甲がきしむような、鈍い音が聞こえる。
機体が大きなダメージを受けているのは明らかだった。
——このままじゃ、まずい。
ミリーちゃんの息が荒い。恐怖と疲労が感じられた。
私までパニックになるな……!
「射撃なら……っ!」
剣をしまい、ダンプシューターを取り出す。
左腕のツイン・ブラスターでけん制しながら、弾頭を撃ち込んだ。
1機に命中したものの、まったくの無傷だった。
「効かないの!?」
弾を受けた敵機が、怯むことなく突撃してきた。
とっさに左腕で防御したが、高速で繰り出される体当たりを受け、衝撃と共に機体が一瞬浮かび上がる。
一瞬、本当に殴られたように息が詰まった。体に伝わる衝撃も、以前よりも大きく感じられた。
細かいことはわからないが、エネルギー不足により、防御に必要な機能が停止してしまっていることは明らかだった。
反撃のために左の操縦桿を動かすが、反応がない。
今の攻撃で、セプテントリオンの左腕が吹き飛んでしまっていた。
「はあっ、はあっ、はあっ……。」
もう、どうすればいいのかわからない。
死の恐怖と絶望感でいっぱいだった。
……エネルギーを補充しないと。
「でも……。」
それは、ブラシカたちの故郷を奪ってしまうかもしれない選択だった。
それだけは——したくない。でも。
徐々にコックピット内の温度も上がってきた。
呼吸が乱れる。
「もう……だめかも。」
「えっ?」
ミリーちゃんが弱々しい声を上げた。ぐっしょりと汗をかき、息が浅い。
セプテントリオンの動きがさらに鈍る。
膝をつき、右腕で胴体を庇うことしかできなかった。
追撃を受けた瞬間、セプテントリオンが完全に停止し、コックピットは暗闇に包まれた。
「ミリーちゃん……!うわ!」
これまで以上に機体が激しく振動した。総攻撃を受けているみたいだ。
慌てて操縦桿やペダルを動かしたり、コンソールを触ってみるが、まったく反応がない。
息苦しい。
機体はぼろぼろで、もう安全な空気も出せないみたいだった。
…………。
もう……もう、だめだ。
私は操縦桿を離し、ミリーちゃんの手を握った。
握り返した力は、弱々しかった。
「ミリーちゃん、ごめん。もう打つ手がないみたい。」
「うん。」
ミリーちゃんはぐったりと頷いた。
「星の命を吸ったら、何が起こるかわからない。」
「うん。」
「それでも、私はみんなを助けたい。」
ミリーちゃんは静かに頷いた。
もう選択の余地はない。
「——やって。」
「わかった。」
操縦席が、金色のオーラに包まれた。

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