第十四話 航路

ページ名:第十四話 航路

 ◇第十四話:航路
 
 動けずにじっとしていると、ティフが来た。

「ちょっとは元気出たか?」
「ううん、まだちょっと……」
「少しは食べないとだめだぞ」

 そう言いながらティフはクッキーの包みを差し出した。
 包装を開き口に放り込む。ぱさぱさとしていて、飲み込みにくかった。
 
 食料は、脱出前に集めたものを積み込んであった。しばらくは大丈夫って聞いたけど、いつまでもつかはわからない。
 食欲がなく、食べるのに時間がかかったけど、なんとか最後の一口を飲み込んだ。
 ティフは何も言わずに、私が食べ終わるのを待っていてくれた。
 
「……」
「……」

 宇宙船のエンジンが動く音だけが、わずかに響いていた。

「ブラシカちゃんと約束したんだ。……村のお祭りを見せてくれるって」
「ああ」
「でも、私が星を死なせちゃったから……」
「……」
「ベルは、頑張ったんだろ。私はお前が生きてるだけで嬉しいよ」
 
 ティフは私の肩を優しく抱いた。
 機械の腕のひんやりとした感覚は、どこか懐かしさを覚える。
 彼女はしばらく天井を見上げた後、何かを決心したように私に向き直った。

「私が、元々軍隊に居たことは知ってるだろ?」
「……うん」
「私の部隊には、2人の仲間がいてな。フィクスとシトラスって言うんだが……。名前はどうでもいいか」
「とにかく、そいつらは親友というか、家族みたいなもんだった」
「……」
「惑星ドラスーⅢの東部戦線で、2人とも死んじまった。後方の連中も全滅して……私だけが生き残った」
「え……」
「私がもっと上手くできていたら、誰も死なずに済んだ」
「いまだに夢に見るよ。あいつらが死んだときのこと」
「だからさ、元気出せよ……っていうのはちょっと違うか。うーん……」
「まあ、気持ちは分かるというか……そんな感じだ、すまん」
「ううん、ありがと」

 しばらくすると、ドアが開いた。
 
「ベルちゃん、ちょっとこれからのことで相談があるんだけど……来られる?」

 メイズさんについていき、操縦席へ向かった。ミリーちゃんとオレラが座っている。
 オレラは私を見ると、小さく会釈した。
 ミリーちゃんも私と同じく、少し元気がないように見えた。

 ミリーちゃんは、私が座るとトコトコと歩いて来て膝に座った。
 暖かい……少しだけ落ち着いた。

「ブラシカちゃんは、まだ気持ちの整理がついていないみたい。欠席するかわりに、最年長のオレラに判断を任せるそうよ。ベルちゃん、こんな時になんだけど、ちょっと今後の相談がしたくて……」
「大丈夫だよ」
 
 私の返事を聞いたメイズさんは、テーブルに置かれたモニターを起動させた。
 星図が映し出される。

「マルーンは、私達の星系の端にある惑星だったの。人が住んでいなかったのは、陸地が極端に狭いからね。宇宙連合にはあまり重要視されていなかったんでしょう」
「あの施設を造った第二船団がどこに行ってしまったのかはわからないけどね」
「なるほどな」
「それで、通常航行で移動するしかないんだけど、この宙域は他の有人惑星と離れすぎているから、どう計算しても到達前に食料が尽きてしまうわ」
「えっと、つまり……星の海で迷子になっちゃったって事ですか?」

 オレラが、恐る恐る挙手をして聞いた。
 
「今の状況を一言で言うと、そうね」
「そんな……!」

 船内に重い空気が漂う。

「ただ、助かる可能性はまだ残っているわ」
「八方塞がりだと思っていたんだけれど、さっきから電波を受信しているの。ここよ」

 メイズさんは星図の一か所を指した。光る点がある。確かに、他の星よりもそれなりに近いように見える。

「この光る点が発信源で、私たちの進行方向にまっすぐ向かってきているの」
「試しに進行方向や速度を変えてみたんだけど、こっちの進路に合わせてきてる。明らかに接触する意思があるのよね」
「それじゃあ……助けてくれる誰かが向かってきてるってこと?」
「なんとも言えないわね。こういった広域通信は、所属や目的、船の型番などの情報を含めておくように連合宇宙法で定められているんだけれど……不思議なことに情報が入ってないのよね」
「うーん……どうやってこっちの位置を探知しているかもわからないな……。ただ、そこに人間がいることだけは間違いなさそうだな」
「そうなのよねぇ。何者かはわからないけれど、ひょっとしたら宇宙海賊みたいなものかも知れない」
 
「もし敵だった場合、セプテントリオンがいれば問題なく対処できるだろうな。ベルとちびは十分休めていないが……」
「そういうわけで、一か八かの賭けになるわ。正直選択肢は無いんだけれど……この電波の方に向かう方針でいいかしら?」
 
 メイズさんがみんなの顔を見回す。
 オレラとティフ、それにミリーちゃんが小さく頷いた。

「ベルちゃんもそれでいいかしら?」

 不安だった。
 でも、このまま何もしなければ、本当に終わってしまう。
 私は小さく頷いた。

「行こう」
「わかったわ」

 そう言うとメイズさんは操縦席のボタンをいくつか押し、操縦桿を握った。
 宇宙船は静かに向きを変え、目的地に向かって加速していった。

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