◇第十七話:魔導士ザッカー
ポリクタがなんとか部屋を片づけ、私たちは壁へ備え付けられた簡易ベッドに並んで座った。
ボーラは正面に丸椅子を持ってきて腰掛けた。ポリクタはその横に控えている。
「私の名はフォーリ・ボーラだ。先ほどは手荒な真似をしてすまなかった。逃げたり暴れたりされると取り返しがつかない事態になっていたから、なかば強引に連れてこざるを得なかったんだ。お詫びになんでも教えよう」
「それじゃあ、広域通信で先に教えてくれればよかったんじゃない? 単純な電波を飛ばすだけじゃ意図は伝わらないわよ」
普段と違って語気が強い。さすがのメイズさんもこの状況にはかなり怒っているみたいだ。
「それに関しては申し訳ないな。我々は秘密裏に行動しているため、居場所や行動を悟られるわけにはいかないんだ。ミリー・V・クリーニスとベル・ペッパー……君たちが狙われているからね」
「私たちが狙われてる?」
「そうだ。君たちのことを狙っている人物は魔導士ザッカーという」
魔導士ザッカー。聞いた事がない名前だ。
ミリーちゃんを見ると、首を振った。彼女にも心当たりは無さそうだった。
「ザッカーはP.L.Dの前所長——つまり私の元上司で、主に魔導力学の研究を行っていた。もともとは人々のために熱心に研究に打ち込んでいたんだが、ある日突然……姿を消してしまった」
「その後は私が所長代理に就任した。徹底的に調査したところ、どうやらザッカーはこの世界——宇宙を消滅させるつもりだということがわかった」
魔導? 宇宙を消滅させる? どういうこと?
突拍子もない言葉に面食らってしまった。
私が言葉に詰まっていると、メイズさんが苛立ったように口を挟んだ。
「そんなことできるわけないじゃない。この宇宙の広さは文字通り無限なのよ」
ボーラは顎に手を添えて少し考えると、「少し長くなるが」と前置きし、話し始めた。
「今から三百年ほど前、地球を旅立った人類が宇宙を漂流していた時代……ある生命の死骸が見つかった」
「それは異次元の狭間に住む生命体だった。ドラゴンのような姿をしていたため、当時の学者はそれをこう名付けた……」
「次元悪魔龍……グラーナ?」
私が名前を言うと、ボーラは片眉を上げて話を止めた。
「知っているようだね」
「はい、夢で会いました」
「夢で……そうか。やつならそういうこともできるか。何か言っていたかい?」
「ええと、今の自分は魂だけの存在だとか、セプテントリオンはグラーナさんの心臓で動いているとか……あとは従者が私たちの元に向かってきているって言ってました」
「従者? ……おそらく、それは我々のことだろう。ポリクタ、私たちも勝手にしもべ扱いされてしまったね」
「俺に振るな。お前は気に入ってるかもしれないが、俺はあいつが嫌いだ」
ボーラが声をかけると、ポリクタはフンと鼻を鳴らしながら答える。
「やれやれ……。従者うんぬんはいいとして、ザッカーの目的は悪魔龍に関連している。きみの乗っているハルディナス——セプテントリオンという機体は、次元悪魔龍の心臓で動いている」
「ちょっと待って。セプテントリオンのエンジンルームには何もなかったわよ」
「それはそうだろう。グラーナの心臓は機体内部へ密接に組み込まれている。部品として取り出せるものではない」
「本来ならばハルディナスはP.I炉が生み出すマナエネルギーで稼働するものだが、それを悪魔の生み出す超次元エネルギーで代用している形になるな」
「そして、悪魔龍の心臓を正常に稼働させるための鍵が——」
ボーラはミリーちゃんを指さした。
「ミリー・V・クリーニス、きみだ」
「ミリーちゃんが鍵?」
ミリーちゃんはきょとんとしている。
「その子はグラーナの細胞から生み出された人工生命だ」
「次元悪魔龍から造られた?」
「そうだ。次元悪魔は惑星から出るマナエネルギーを超次元エネルギーに変換することが出来る。きみはその力を目の当たりにしたはずだ」
「そうだったんだ……」
確かに人間じゃないかも知れないと思っていたけど……。
でも。
ミリーちゃんの小さな手に触れると、握り返してくれた。
目を合わせ、ミリーちゃんに笑いかける。
この子がどんな生まれでも関係ない。
私たちの様子を見て、ボーラは静かに微笑んだ。
「いい友達を持ったな、ミリー」
「うん」
「二人はどんな関係なの?」
「……ミリーは私の父が造り上げたんだ。名前は大谷育郎。オオタニ・ポリマーの開発者だ」
「オオタニ・ポリマーの開発者!? なるほどねぇ……」
メイズさんが驚きの声を上げた。
私も知っている。自己再生・自己修復能力を兼ね備えた、テラフォーミングに使われている素材だ。
道路とか配管の素材に混ぜてあって、最近の設備はインフラの修理がほとんどいらなくなったんだって聞いた事がある。
——それに、フロンティアデバイスにも使われてる。
「そしてこれは公開されていない情報だが、オオタニ・ポリマーの再生能力は次元悪魔の細胞によるものだ」
「ミリーは、次元悪魔の力をより効果的に活用するために生み出された存在だ。だが……」
ボーラはしばらくの間目を閉じ、再び話し始めた。
「……ザッカーは、目的のために父を殺してミリーを奪おうとしたんだ。なんとかその子は奪われず、君たちのもとへ送り込むことができた」
「そうだったんですか……」
父親が殺されてしまったなんて……。
私だったら耐えられない。
「なんで私たちの店に送ってきたんですか?」
「それは……ベル、きみの父親がわりのロボットがいただろう。彼も私たちの仲間だ」
「え!?」
「おお、あいつか! あいつの作るメシは美味かったな! がはは!」
ポリクタが大きな声で笑った。
私はいてもたってもいられず立ち上がった。
「お父さんを知っているんですか!?」
「彼は帝国の放棄された宇宙ステーションで稼働し続けていたところを私たちが拾った——保護したんだ」
「お父さん、安否を確認できていないんです!グラーナさんは生きているって言ってましたけど……何か知りませんか?」
「グラーナがそう言ったのか。ううむ……」
ボーラは目を伏せ少し躊躇したが、やがて口を開いた。
「君たちがプラネットイーターの襲撃を受けた際に、信号は途絶えている。正直なところ……今どうなっているかはわからない」
そんな……お父さんが死んじゃった?
そんなまさか。でも、あの時お父さんは倒れてて……。
あれ?
私は床にへたりこんだ。
「ベル、だいじょうぶ!?」
「ベルちゃん!」
ボーラは私に駆け寄り、顔を覗き込んだ。
「まだ死んだと決まったわけじゃない。信号を送れない状態なだけで、もしかしたらメモリーは無事かもしれないんだ」
「お父さんは……死んでない?」
「……そうだ。まだわからない、だから落ち着け」
右手が暖かい……見ると、ミリーちゃんが手を握ってくれている。
メイズさんも肩を抱いてくれていた。
しばらく、私たちはそのままでいた。

コメント
最新を表示する
NG表示方式
NGID一覧