◇第六話:星の巫女
私たちの車は空中で静止していた。
「なんだこりゃ!?」
「なんだか暖かい感じ。」
「……ふわふわ、してる。」
突然のことにみんな慌てている。
私たちは金色の輝きに包まれていた。
「君たち、何してるの?」
声と共に、足元から女の子が顔を出した。
頭と腰のあたりから翼が生えている。天使?……幻覚か何かだろうか。
私が目を白黒させていると、彼女は怪訝そうな顔をして続けた。
「どうしたの?もしも~し……おや、羽根がない。それに変な格好。」
「ええっと……。」
天使は近付いて私の顔を覗き込んだ。緑の瞳の中に、煌めく星が見えた。
彼女はひらひらとした、民族衣装のような恰好をしている。
黒い肌と対照的な、身の丈ほどの長い銀の三つ編みが目を引く。
視界の隅に動きを感じて目を向けると、飛行メカが谷をすべるように降りてくるのが見えた。
「危ない!」
「……む。」
私が叫んだ瞬間、彼女は振り向き、手を掲げた。
すると、機械は空中に凍り付いたように停止し、手を軽く握りこむと——。
キュッ、と小さな音を立てて、スクラップの玉に変わった。
まるで魔法か、超能力のようだ。
「……あなたは、誰?」
私がようやく声を絞り出すと、少女は額を指さし、笑った。
そこには光る紋章の様なものが浮かんでいる。
「私はブラシカ、星の巫女だよ。」
続けて、谷の入口から大量の飛行メカが飛び込んできた。
「とりあえず逃げよっか!」
そう叫ぶと、ブラシカは翼を大きく振り、一気に加速して飛び出した。
彼女に引っ張られるように、私たちを乗せた車も後を追う。
強烈な慣性と空気抵抗を感じる。
ジェットコースターみたいだ。それも、とびきり怖いやつ。
あまりの速度に目が回りそうだったが、それでも飛行メカはぴったりと私たちの後ろについてきていた。
ときどきブラシカは後ろを振り向き、手を一振りする。そのたびに、最前列の敵が崖に叩きつけられ、爆散する。
「しつこいなぁ……!いつもはこんなについて来ないのに!」
ブラシカが露払いを続けていると、更に後方から違うタイプの大きな飛行メカが姿を現した。
中からどんどん小型メカが放出される。
「んもー!大きいのも来ちゃったじゃないか!」
「ひっ……!」
私たちを包むオーラの光がひときわ強くなり、私たちの車は更に加速した。
自然と口から悲鳴が漏れる。私は必死で車にしがみついた。
大型メカの背から大量のミサイルが発射された。
すんでのところで回避に成功するも、通り過ぎた弾頭が崖にぶつかり、崖が崩壊した。
「やばい!……あ。」
ブラシカはとっさに能力で落盤を受け止めた。
その代わり、車を浮かせていた力が消え、私達は猛スピードで落下していった。
「うわああああ!」
ブラシカは再び車を止めたが、私だけ放り出されてしまった。
地面が迫ってくる。
あまりの恐怖に、指輪を固く握りこんだ。
——お父さん。
「助けて!」
私の叫び声に呼応するように、谷の底が紅い光で包まれ、空間が裂けた。
銀の騎士が浮き上がってくる。
「セプテントリオン!」
そのまま開け放たれたコックピットに乗り込む。
したたかに打ちつけたお尻が痛いが、気にしている余裕はない。
正面のモニターに文字が浮かび上がる。
WELCOME BACK, MY LORD.
P.I SYSTEM ACTIVATION...
「みんなを守らなきゃ……行けえ!」
私は力いっぱい操縦桿を倒す。
セプテントリオンの右足が浮き上がり——。
そのまま後ろへ倒れた。
「あれ?」
慌てて操縦桿やフットペダルを動かすが、もぞもぞと手足が動くだけだった。
「どうして!?」
思ったように動かすことが出来ない。
この前と違って、まったく動かすイメージが湧かなかった。
モニターにはERROR. D SYSTEM ACTIVATION...READY.と赤く表示されていた。
頭の中が真っ白だ。『D SYSTEM』……何のことだろう?
私がパニックになっていると、ドローンから弾丸やミサイルが次々と撃ち出され、機体に命中していった。
衝撃が走り、操縦席が揺れる。
——動けないからといって、相手は待ってくれない。
プラネットイーターの攻撃と比べると大したことがないように見えるが、着弾の衝撃は、私を焦らせるには十分だった。
「わ、わ、わ……!」
その時、ミリーちゃんが頭上からコックピットに滑り込んできて、私の膝の上に座った。
「ミリーちゃん!?」
「いっしょならだいじょーぶ、だよ。」
私の顔を見上げ、ミリーちゃんが笑った。
彼女は私の膝をポンポンと叩いた。
赤く光っていた計器類が緑色に変わっていく。
ALL SYSTEMS GREEN.
あれ……この前も、ミリーちゃんが来た途端に画面が変わったような……。
恐る恐るペダルを踏み込むと、さっきまでが嘘みたいに起き上がることが出来た。
これなら……。
操縦桿を引き、機械の群れへ腕を突き出す。
スイッチを押すと光弾が連射されていき、ドローンたちは光の粒となって消えていった。
「あ、危なかった……。」
「おーい、大丈夫か!?ちびは?」
浮いた車の中から2人が顔を出した。ゆっくりと降りてくる。
私はコックピットを開け、手を振った。
「無事だよー!」
「そうか……。いきなり飛び降りた時は驚いたぞ。」
視線を上に移すと、空中で佇むブラシカが見えた。
「ふぅ……ふぅ……さすがに疲れたなあ。」
深呼吸をして呼吸を整えると、ブラシカは空を見上げた。
彼女が纏うオーラの光を、汗が反射している。
「その巨人、すごいね。君たちの友達?」
暗闇に淡く輝く彼女の姿は、天使のようだった。
しばらく、私たちは宙で佇む彼女に見とれていた。
――――――
「うわ、これ面白いねぇ!すっごい揺れるよ、わはは!」
ブラシカちゃんは、セプテントリオンの肩の上に腰かけ、翼と脚をばたばたとさせた。
「ちょっと遅いけど、飛ばなくてもいいなんて楽だなぁ。」
「すごいスピードだったもんね。私、目が回っちゃったよ。」
「ふふふ。何度も飛べば慣れるよ。」
「えぇー、今度はもうちょっとゆっくりでよろしく……。」
私たちはブラシカにいろいろな事を教えてもらった。
彼女は星の巫女と呼ばれており、強力な超能力を使うことが出来るようだ。
超能力を使って空を飛んでいるらしく、力を使い切ったら飛ぶことが出来ないらしい。
この星は翼人が住んでおり、元々狩りや漁をして暮らしていた。
「でね、6日前くらいからかな?急にあいつらが攻めてきたんだよね。」
「あの塔からか?」
操縦席にぶら下げた無線機から、ノイズ交じりのティフの声がした。
「そうだよ。最初は小さいのばっかりで、私一人でなんとかできてたんだけど……。」
「さっきの大きなやつにやられたのか?数が揃えば厄介そうだが。」
「うん、そうだよ。1つ2つくらいなら何とか出来たんだけど、大量に出てきちゃって……。」
「命からがら、みんなを逃がして、私だけこっち側に飛んで逃げてきたんだ。」
翼人たちは無人兵器の襲来により住処を追われ、島の反対側に閉じ込められているらしい。
ブラシカの表情が曇る。
家族に会えない気持ち……。
ブラシカちゃんの気持ちは痛いほどわかる。
「大丈夫、きっと何とかなるよ!」
私はそんなことを口走りながら、セプテントリオンで握りこぶしを作って見せた。

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