◇第九話:強行突破
3日後、私は塔に向けてセプテントリオンを走らせていた。もちろん、ミリーちゃんも一緒だ。
後方にはティフとメイズさんを乗せた車が見える。その少し後ろから、巡洋艦のエンジンを浮かせたブラシカが後に続いていた。
今日はあいにく大雨だった。
ざざ……とノイズが鳴り、コックピットにぶら下げた無線機からティフの声が聞こえる。
「いいか、ベル。作戦をもう一度説明しておくぞ。巡洋艦のパーツとはいえ、むき身のエンジンは当然ながらデリケートだ。小さいやつの弾なら何とかなるだろうが、ミサイルだとか、砲弾をくらったらおしまいだ。」
「うん。」
「その点、ハルディナス……セプテントリオンは超硬金属コリオバイトの塊だ。何を喰らってもやられはしない。」
「ブラシカがあの塔の1km圏内に到達するまで、守ってやる必要がある。頼んだぞ。」
「私、頑張って運ぶよ。皆を助けるんだ!」
大きなエンジンを運んでいるが、ブラシカはまだ元気そうだった。
昨日の夜、作戦の流れを何度も頭の中でイメージしてきた。緊張してあまり眠れていない。
地面を蹴るたび、セプテントリオンの足音が大きく響く。驚いた動物の群れが草むらから飛び出した。
「ベルちゃん、大きいのにだけ集中してね!」
「メイズの言う通り、小さいのは無視していい。雑魚は全部こいつが何とかするからな。」
「全部!?……まぁいいわ。ちゃんと武器はメンテナンスしたからね。そっちこそ片腕でちゃんと運転できるのかしら?」
「こんなもん楽勝だ。目を瞑ってたってできるぜ。」
2人の会話に、自然と笑みがこぼれた。1人じゃないんだ、きっと大丈夫。
「きたよ!」
ミリーちゃんの声が聞こえてから少し遅れて、大型ドローンが3機、岩陰から浮き上がってきた。大量の小型機も引き連れている。
後方から飛ぶ赤い光線が小型機を次々に撃ち落としていく。メイズさんだ。相変わらず正確に敵を撃ち抜いている。
「よーし、私も!」
私は背部の武器ラックから大砲を引き抜く。
大型機に照準を合わせ、引き金を引いた。
撃ち出された弾頭がぶつかるや否や、大爆発を起こし、3機まとめてばらばらに砕け散った。黒煙が上がる。
「すごい……!」
私は驚きの声を上げる。
この武器は、巡洋艦に搭載されていたスペースデブリ射出装置「ダンプシューター」と言うらしい。
どんなものでも撃ち出せる大砲で、今、発射したのは巡洋艦に装備されていたミサイルだった。
昔の軍艦に積まれているエンジンでは、レーザー兵器を使うことが難しかったために使われていた……と、メイズさんが言っていた。
セプテントリオンが持てるように、この大砲を改造したのも彼女だ。
私は背中に括り付けたミサイルを装填した。手作業なので弾の補充に時間がかかる。
「来たぞ、増援だ!」
ティフが言いきるや否や、一斉に発射されたミサイルの群れが迫る。
機体をひねり、左腕と装甲で防御した。衝撃でコックピットが揺れるけれど、大したことはない。
迫ってくる敵は10機以上いるようだった。
ミサイル弾を撃ち込む。殆ど撃破できたが、2機、撃ち漏らしてしまった。
残りの敵が接近してくる。装填が間に合わない。
「いけない!」
慌てて左腕のツイン・ブラスターで1機撃ち落とした。
続けて、目の前に迫った敵へ、正拳突きを叩き込む。金属のひしゃげる鈍い音が聞こえた。
逃してしまえばみんなの命が危ない。気を引き締めなきゃ……。
ちらりと後ろの様子を確認すると、ブラシカが巨大なエンジンを浮かせながら後ろを飛んでいる。
ただ、その表情からは疲れが伺える。心なしか、纏っているオーラが弱まっている。——急がないと。
「まだ何とかなってるけど、このままじゃきりがないよ……!」
「目標地点までもう少しだ、頑張れ!」
目の前の塔があまりにも大きいため、距離感が上手く掴めない。
計器類を見ると、ティフの言う通り、もう少しで予定地だった。
更に数十機、大型機が接近してきた。
「まだ来るの!?」
即座に初弾を撃ち込み、背部の武器ラックへダンプシューターを乱暴に戻した。
両腕を前へ向け、ツイン・ブラスターを敵にどんどん撃ち込んでいくと、大型機は次々に爆発し、墜落していった。
撃ち漏らした敵機が肉薄してくる。
しまったと思う間もなく、セプテントリオンにぶつかると同時に、大爆発を起こした。
「うわああああ!」
一瞬視界が飛び、衝撃が全身を襲う。
「このくらいなら、なんともないよ。」
——ミリーちゃんの言葉通り、少し装甲が灼けただけだ。まだいける。
「もうすぐだ……もうすぐ……うわ!」
あと少しと言うところで、足元が大きく揺れ始めた。
何かに反応するように、ミリーちゃんの耳がぴくりと動く。
「地震?」
——違う。
轟音と共に地が裂け、機械の塊がせり出してきた。
高さはセプテントリオンの3倍もある。流線形のシルエットは、陸に上がった鯨を思わせた。
「あれは何!?」
「……大きいね。」
上部のハッチが開き、大型機械を射出してくる。どうやら、ドローンの母艦らしい。
その鯨は、2本の”ひれ”を輝かせ、突進してきた。雨粒が触れるたび、白い蒸気が沸き上がる。
地形が削り取られ、岩や木が一瞬で消えていく。
鯨が進んだ後には、横幅数十メートルの溝が残る——どうやらここの地形はあれの仕業みたいだった。
避けたらティフたちが巻き込まれてしまう。私は覚悟を決めて、怪物の胴体を受け止めた。
「ぐうっ……!」
ぶつかり合う衝撃が全身を襲う。
シートごと前に飛び出してしまいそうだ。
「ベル!無理するな!」
「は……やく……離れて……!」
すごいパワーだ。徐々に押し返されていく。
続けて、左右から大型ドローンが体当たりを仕掛けてくる。機体へと次々にぶつかり、大爆発を起こす。
いくら頑丈なセプテントリオンでも、持たないかもしれない。
ミリーちゃんが私の腕を握った。緊張感が伝わってくる。
爆発の切れ目、一瞬視界が開けた瞬間、後ろを確認した。よし、誰もいない。
視線を上げると、追加のドローンを吐き出そうと、背中のハッチが開いた。
「今だよ!」
「わかった!」
ミリーちゃんの合図でペダルを強く踏み込むと、セプテントリオンは大きく跳躍した。
鯨の顔面を蹴り、一気に背中へと駆け上がる。
開かれたハッチにダンプシューターを突き込んだ。
即座に引き金を引く。
すぐに怪物から離れると、内部から膨れ上がり、大爆発を起こした。
前を向くと、目標地点はもうすぐそこだった。塔の頂上は雲に隠れてよく見えない。
「ベルちゃん、すごい!やったわねー!」
「時限装置を作動させるぞ、ブラシカ!頼む!」
ティフの叫びに応え、ブラシカは力を振り絞って急上昇した。
誰も追いつけないスピードで、どんどん加速していく。
私たちの周りにおびただしい数の敵が迫ってくる。
後方には更に数機、さっきと同じ怪物の姿があった。失敗したら終わりだ。
「いくよ、せー……のっ!」
ブラシカは全身を輝かせ、エンジンを振り回し始める。
ハンマー投げの要領で、そのまま上空へ放り投げた。
エンジンは砲弾のような速度で打ち上げられ、雲の中に消えた。
エンジンが見えなくなると同時に、彼女は急降下を始めた。
私は爆発に備え、車を守る体制を取った。
「5……4……3……2……1……くるぞ!」
ティフのカウントと共に上空で大爆発が起こり、円形に雲が散っていく。
一瞬遅れて大きな衝撃が全身を襲った。私は指輪に手を添え、祈った。
————————
停止した無人機がどんどん落下していく。
視界に動く物はなく、さっきまでの激戦が嘘みたいに静かだった。
爆発の衝撃により雨はやみ、雲一つない大空が広がっていた。
「……やった。やったぞ!」
「ブラシカは?」
周囲を探すと、地面に倒れているブラシカを見つけた。ティフとメイズさんが駆け出す。
私とミリーちゃんも急いで機体から降り、後に続いた。
全員で覗き込んだ。目を閉じている。
もしや……と思ったとき、彼女は目をうっすらと開け、安心したように笑った。
「ははは、ちょっと疲れちゃった、もう歩けないや……。」
どうやら無事なようだ。緊張が解け、私はその場に座り込んだ。
「……ありがとう。ブラシカちゃんが居なかったら、どうにもならなかったよ。」
「お前のおかげで助かったぜ。」
「よく頑張ったわね。」
「すごく、よかった。」
皆、思い思いに感謝や賞賛の言葉を述べた。
その言葉を聞き、ブラシカは満足した様子で眠りについた。
「さあ、急いで塔に向かうぞ。」
ティフはブラシカを担ぎ上げ、歩き出した。

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