第十話 再起動

ページ名:第十話 再起動

 ◇第十話:再起動

 私たちは、セプテントリオンで搬入口をこじあけて中に侵入した。
 非常灯だろうか、中は最低限の照明だけがついており、少し薄暗かった。外にいたような無人機は見当たらない。
 
 ミリーちゃんがぴこんと耳を動かすと、セプテントリオンの胴にあるライトが点灯した。
 
「凄い……広いね。」

 内部は宇宙港の格納庫のようになっており、輸送船や、宇宙戦闘機のようなものまである。
 素人目にも、ニュースで見かけるものよりずっと年代物に見えた。

 そばを通ると、沢山の鳥が一斉に飛び去った。基地の中は、今や彼らの住処になっていたらしい。
 
 足を止め、周囲を観察していると、操縦席の外を軽く叩く音がした。
 ハッチを開けると、メイズさんが顔を出した。
 
「一休みできそうな場所を探すんだって。このままついて来てもらえる?」
「わかった。ブラシカちゃんを安全な所に寝かさないとね。」

 わざわざ彼女が伝えに来たのは、電磁波で無線機がだめになってしまったからだ。

 施設の通路は、セプテントリオンが余裕で歩けるくらいの大きさがあった。
 まるで巨大ロボットで移動するのが想定されているみたいだと思った。

「私たちもいこっか。」
「うん。」

 ミリーちゃんが頷く。
 私はセプテントリオンをゆっくりと歩かせ、皆について行った。
 
 ————————

 宇宙船のドックエリアを抜けると、小さな扉を見つけた。セプテントリオンをその場に残し、全員で中に入った。
 そこは管制室のようだった。広々としたホールに沢山のモニターと物理キーボードが並べられており、正面には大きなスクリーンが張られていた。
 
 この部屋の機材も古風な印象を受ける。以前私たちが調べた軍艦よりも更に古いのは間違いない。
 手でモニターの埃を拭いてみると、自分の顔がぼんやりと反射して見えた。
 
 机の上に置かれた小物類やごみは放置されており、椅子には上着が掛けられている。
 ここにいた人たちはどうなったんだろう?
 
 暖かい外に比べ、室内はひんやりとしていた。
 室内が薄暗いのも相まって、少し不気味だった。

「ね、見て。これ、宇宙移民時代のメーカーロゴよ。」

 メイズさんがモニターの1つに近付き、興味深そうにフレームをなぞった。
 
「なに?それじゃあ100年以上前のものってことじゃないか。」
「そういうことになるわね……。たぶん、私たちの祖先とは違う船団のものね。」
「調べものをしようにも、メイン電力が復旧しないと話にならないな。」
「ともあれ、一旦休憩にしよう。みんな休んでてくれ。」

 皆、思い思いにくつろぎ始めた。
 私は、手頃な椅子にどさっと座りこんだ。忘れていた疲労が、一気に押し寄せてきた。
 
 ティフはブラシカを近くに寝かせ、奥の部屋に行ってしまった。施設を調べるのだろう。
 全員、しばらく無言だったが、意外にもミリーちゃんが最初に口を開いた。
 
「大変だったね。」
「うん、そうだね。あれだけの数を相手にするのは大変だったよ。もう、必死で。」
「ベルは頑張ったと思う。だんだん上手になってきた。」
「ふふ、ありがとう。」

 私が返事をすると、ミリーちゃんはにっこり笑った。
 慣れてきたからだろうか?口数も増え、表情も少しずつ豊かになってきた気がする。

「そういえばメイズさん。さっき言ってた、違う船団って?」
「ああ、それね。ベルちゃんは歴史の授業で習ったんじゃない?元々、私たちの祖先は地球って星で生まれたのよね。」
「私たちのご先祖様が宇宙を旅した末にたどり着いたのが、今住んでいる銀河なの。」
「で、元々、地球を脱出した船団は全部で5つのグループに分かれてたのよ。例えば、この前の戦争の相手は、第三船団の末裔って話ね。」
「えっ、そうだったんだ。」

 知らなかった。もうちょっと真面目に歴史の勉強をしなくちゃ。

「じゃあ、この場所は残り3つの船団のどれかが作ったってこと?」
「多分そうね。……ふわ。」

 メイズさんは口に手を当て、小さくあくびをした。私もつられてあくびが出る。

「ベルちゃんは休んだほうがいいわよ。」
 
 室内が薄暗いこともあり、いつの間にか眠たくなってきた。まぶたが重い。
 意識がふわふわと揺れる。疲労から、私はすんなりと眠りに落ちた。
 
 ————————
 
「うーん……。」

 私はゆっくりと目を開けた。いつのまに眠ってしまったのだろうか?

「おはよう、ようやく会えたな。」
 
 驚いて前を見ると、丸いテーブルを挟み、背の高い女性が座っていた。
 青い髪を後ろにまとめた、翠の瞳が特徴的な美人だ。
 
 彼女は顎に手を当て、私を興味深そうに観察している。目元のほくろが目を引く。
 
 私が呆気に取られていると、美人はふと気づいたように顎から手を離した。
 
「ああ、そういえば自己紹介をしなくてはな。おほん。」
「余は次元悪魔龍グラーナ。7柱ある悪魔龍どもの頂点に君臨している。わかりやすく言うと、魔王だ。」
「ええと……、次元悪魔龍って?」

 いきなり言われても、なんのことだかわからない。

「む?ああそうか。ほら。」

 グラーナはそう言うと、頭と背中から、大きな2本のツノと羽根をにゅっと出して見せた。
 どうやら人間でないのは本当らしい。

「次元と次元の狭間には、余のような悪魔どもが住んでおる。時にお前たちの宇宙に侵入して、悪さをするものもおるがな。」
「えっ、なんだか不気味……。」
「ぶ、不気味か……。まぁいいだろう。次元悪魔は、たまにお前たちの世界に入り込んで、星の命を少しばかり拝借しておるのだ、問題ない範囲でな。」
「そうなんですか。」

 この時代に悪魔なんて、なんだか変な感じだ。
 
「——ここはどこですか?」
「ん?ここはお前の夢の中だろう?」

 グラーナが軽く首を傾げると、両耳のイヤリングがちゃらりと音を立てた。左右で色が違う。
 
「えっ、私の夢?」
「そうだな……試しに、どこか行きたい所でも想像してみると良い。」

 行きたい所……。
 そういわれてすぐ、我が家が思い浮かんだ。
 すると、周囲の景色が歪み、いつの間にか私たちは店の中に移動していた。
 ついキッチンへ目を向けた。しかし、お父さんの姿はなかった。
 
「あの……なんで私のことを知っているんですか?」
「お前のことならなんでも知っている。生まれてから今までの全てをな。」

「えっ!?じゃあ、私の故郷がどこかも知ってるんです……か?」
「それはお前の父に直接聞くがよい。そのうち会えるだろう。」
「お父さんに会えるって……お父さんは無事なんですか!?」

 私は思わず立ち上がり、声を荒げた。
 
「そうだな、お前の父は今も生きておる。」
「無事なんだ。良かった……。」

 私は心の底から安堵した。

 続けて彼女が話そうとすると、周囲の空間に紅い亀裂が入った。どこかで見覚えがある。
 その亀裂を見て、グラーナは一瞬、しまったという顔をした。

「……今の余は無駄話をしている場合ではないのだった。」
「要点だけ話すぞ。お前には助言をしに来たのだ。お前たちは当面の危機が去ったと思っているようだが、苦難は始まったばかりだ。」
「苦難……ですか。」
 
「そうだ。お前の乗る機械人形は、余の心臓……つまり、最強の悪魔の核で動いておる。」
「え?」

 セプテントリオンが、悪魔の心臓で動いている?どういうことだろう?

「ええと、グラーナさんの心臓が無くなっているなら、なんで私と話ができているんですか?」
「余を定命の者と一緒にするでない。われら悪魔龍は滅びぬ。」

 どこか忌々しそうな様子で「今は魂だけの存在だがな。」と、付け足した。
 
「話を戻すぞ。あの機械人形……今は蓄えられた力を使っている状態だ。だが、長い間使っているのだから、そろそろ限界が近いだろう。」
「エネルギーがもうない……?どうやって補給するんですか?燃料を入れるとか?」
「ばかもの、そんなものを余の心臓に入れるでない。」

 グラーナは呆れた様子で続けた。
 
「機械人形は、普段次元の狭間で待機しておる。超次元の力を補給しながらな。」
「お前の呼びかけに応じて現れるが、戻らないと力の補給はできん。」
「今は次元跳躍もできないほどだ。あれは特に消耗が激しいからな。」
 
 セプテントリオンは力を補充するために帰っていたのか。
 すぐに呼び出せなかったのも、エネルギーを補給してるからだったんだ……。
 
「そこで、あの長耳娘……ミリーといったか。あやつを通して星の命を吸う必要がある。」
「星の命……?」
「そうだ。惑星から生み出される……魂の循環と言ってもよいな。あの娘が、それを超次元の力に変換し、余の心臓に取り込むのだ。」
「ただし、そうすると星の寿命を大きく削ることになるぞ……余の心臓を満たすのだからな。星が死んでしまうやもしれぬ。」
 
「ミリーちゃんにそんな力が……。あの子は何者なんですか?」
「うむ。あやつは余の——。」

 グラーナが言いかけたとき、周囲の亀裂が大きく広がり、ついに足場も消え去った。
 
「そろそろだな、残念だが目覚めの時だ。」
「えっ、そんな。まだ聞きたいことが沢山あるんですよ!」
「すぐには無理だろう。だが、機械人形と、あの娘……お前とそれらのつながりが途切れぬ限り、また相まみえるだろう。」

「その時まで、さらばだ、人の子よ。」
「あ、言い忘れておった。余の従者も向かっておるでの、仲良くし——。」

 言い終わらないうちに、視界の全てが紅く染まった。
 
 そうだ、これはセプテントリオンの時と同じ……次元の壁を引き裂く、悪魔の光だったのか。
 
 ————————

「待って!」
「うわっ!?」
 
 慌てて飛び起きると、メイズさんが飛び跳ねた。手に毛布を持っている。
 
「びっくりした。どうしたの?怖い夢でも見た?」
「ううん、ごめんなさい。なんでもないです。」
 
 メイズさんは心配そうな表情で私を見ていた。
 ミリーちゃんは、寝ているブラシカの羽根をいじっている。退屈そうだ。

 さっきのは、変な夢だった。次元悪魔龍の心臓に、星の命。
 お父さんの事は聞けずじまいだったけど——。
 絶対に、うちに帰らなくちゃ。

 考えごとに集中していると、メイズさんは、私の膝に毛布を掛けた。
 
「疲れたわよね。あんなに頑張ったんだもの。……普通の子に戦わせるなんて、ほんとは良くないわよね。ごめんね。」
「えっ、メイズさんでもそういうこと言うんだ?」
「え!?ちょっと心外なんだけど……はあ、まあ元気そうならいいわ。」
「ふふ、平気だよ。」

 平気——。
 本当に平気なんだろうか。色々なことがあって、感覚が麻痺しているだけなのかも——。

 突然、部屋の照明がついた。
 モーターの駆動音のような音が聞こえるとともに、周囲のモニターや正面のスクリーンが点灯する。

「おっ、やっとあいつが電源を見つけたみたいね。これで色々わかりそうよ。」

 メイズさんは手近なコンソールをカタカタと触り始めた。
 触り始めてすぐ、施設全体が低く振動し始めた。
 
「えっ!?」

 メイズさんは驚きに目を見開き、一瞬手を止めた。
 その後すぐに慌てた様子でタイプを再開した。
 徐々に表情が深刻なものになっていく。

「おーい、そっちはどうだ?」
「ティフ!早く戻って!電源を落として!今すぐ!!」
 
 ティフが帰ってくるなり、メイズさんはすごい剣幕で叫んだ。
 彼女は驚いた様子だったが、メイズさんの様子を見てすぐに踵を返し、走り出した。

「どうしたの?」
 
 ミリーちゃんは、何事かと近づき、画面を覗き込んだ。
 メイズさんはコンソールに打ちこみながら、やや早口で話し始めた。

「ここは第二船団の放棄された基地よ。」
「第二船団って、さっき話してた……。」
「そう、地球を脱出したグループの1つね。」
 
「この塔は……いや、ここ全体が他の惑星を攻撃するための基地だったのよ。」
「そんな……。」
 
「これは、電磁加速型の質量弾射出砲……名前はアフェリオンって言うみたい。さしずめ『惑星破壊兵器』ね。」
「惑星破壊!?」

 惑星を壊す兵器なんて、本当に存在していたんだ。
 
「今、止まっていた命令が再稼働したわ。発射シークエンスに入ってしまったらロック状態になって、誰にも止められない!」
「じゃあ、セプテントリオンで塔を壊しちゃえば……!」
「そんなことをすれば、この星が無くなってしまうわ。見て。」

 メイズさんはモニターを私の方に向けた。
 そこには施設の見取り図が表示されている。かなり地中深くまであるように見える。
 あんなに大きく感じた地表の施設は、ほんの僅かだった。
 
「見ての通り、上に見えている塔の部分は、全体のごく一部にすぎないわ。」
「この化け物みたいな大砲は、施設の最奥から地表まで達する長大な電磁加速バレルを持っていて、質量弾を亜光速まで加速して撃ち出すことができるの。」
「えっと……。」
「つまり、上の施設を壊したら、行き場を失ったエネルギーによって惑星が木っ端みじんってこと!」

「じ、じゃあ、このまま放っておいた場合は……?」
「駄目よ。これは……。」
「メイズさん?」
「これの標的は、私たちの住む星系よ。」
 
 私は全身の血の気が失せる感覚を覚えた。
 

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