私は独りの頃、冬が嫌いだった。
特に雪が降る日は心まで凍って、二度と解けねえんじゃねえかと錯覚させられた。
銃把と掌の皮がくっ付いて、二度と銃を手放せなくなるんじゃねえかって。
そのくせ撃鉄を起こす親指は痺れ言う事を聞かない。お前は臆病者だと、自分に言われてるみたいに。
私は「やってやるか」なんて独り呟き、両手から離せなくなった二梃の拳銃同士を当て、小さく音を立てる。ガキの手慰みのよう。でも私には大切な儀式だったさ。
一旦仕事が始まっちまえば、心の凍えも指の痺れもわからなくなる。一分間に命をベットする興奮で全身の血は沸騰し、代わりに7.63mm口径の暗い穴が相手の体温を奪う。相手を食って生きていくのが人生だと思った。
そうして私は、制服連中に後片付けを任せ、ホット缶コーヒーで身体の霜を溶かし、死んだように眠る。
あの日もそんな夜だった。
一等凍える夜に、ふざけたローグの始末。奴は悪夢を使った殺人で曲の詩を書いてたらしい。人殺しでこさえた歌の円盤がヒットする世の中だ。桜の木の下の死体があっても不思議じゃねえ。
私はその日もとっとと仕事を終えちまう予定だった。予定と違ったのは、現場に着いた時にはもう、ローグ野郎がくたばってたって事だ。死体のわきには自動小銃を持った野郎が一人。私をじぃっと見てやがった。
獲物を横取りされたと一瞬で理解した。カモられて黙ってられるか。当然私は話すよりも先に詰め寄ったさ。
最大の誤算は、奴が凄腕中の凄腕だったって事だ。いとも容易く、まるで花でも手折るように。雪が溶けて濡れた地面に組み伏せられた。状況が理解できないという私の顔はさぞ滑稽だったろう。
凍えずに済むなら、そこで終わるのもよかった。だがそいつは、「俺のところに来い」とのたまった。そしてそこで私は"首輪"を着けられたんだ。試してみたくなったからな。
少しでも嘘を吐きやがったら、そうさ奴が裏切りやがったら、すぐにでも逃げてやるつもりだった。
だが、どうだ。癪な話だが、すっかり凍えは感じなくなった。私が右手を突き出せば、左手以外の奴が返事をする環境にも慣らされちまってる。ここの連中は首輪が無くても奴に従順だ。私は結局、自分で着けた首輪を外せずにいる。
だがな、私はいつまでも秘書みたいな事をしてるほど飼い馴らされちゃいねえんだ。いつかリベンジして、その時こそ自分で首輪を外してやるさ。
それまでは私が一歩後ろを歩いてやるよ。
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