仮想第26話:ガルナハンの春(後編):第二十一幕A

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☆第二十二幕:ザ・リヴェレーション



コーカサス州バトゥーミ。黒海に面するコーカサス州東部(現グルジア共和国)の有力都市は今、前代未聞の状況となっていた。

まず、キプロスに展開していたはずのピースガーディアン地中海部隊ソロネ中隊がいた。1個中隊といえどもフリーダムブリンガー6機を要する戦力は赤道大戦で大軍を打ち破ったほどの実力である。実際には内半数を先のゴランボイ戦で消耗したとは言えども、最早この時点でバトゥーミは黒海沿岸最大の軍事力を要する最大軍港と化してしまったのだ。

それに加えて、今バトゥーミにはもう2隻の軍艦が寄港しようとしていた。これもただの軍艦などではない。いずれもソロネと同じ改アークエンジェル級航空巡洋艦のプリンシパリティにエンジェル。どちらもピースガーディアン1個中隊の旗艦であり、ここに至ってバトゥーミは黒海沿岸最大どころか東アジア共和国クァンチョウ、大西洋連邦ハワイ、そしてオーブ連合首長国オノゴロすら上回る現時点での世界最大軍港へと変貌してしまったのである。


 改アークエンジェル級3隻、フリーダムブリンガー15機、そしてキラ=ヤマト駆る蒼白の天使エターナルフリーダム1機というピースガーディアンの半分にも及ぶであろう戦力は今ただコーカサス州鎮撫の為にのみこの港に錨(いかり)を下ろしていたのである。




 その内の一隻エンジェル。エンジェル中隊旗艦であり、ピースガーディアン隊長キラ=ヤマトが座乗するピースガーディアン部隊3個中隊の総旗艦にソロネ艦長タイイープ=ムーサー=サゼルは現状を報告する為に乗り込んでいた。


「えー、現在までの戦況の経過を報告します。

我々、ソロネ中隊は命令に従いバトゥーミ沿岸へ到着すると共に、レジスタンス連合最大戦力であるゴランボイ守備隊の威力偵察と無力化を遂行する為に、カリスト及びティクリー両小隊長率いる2個小隊を出撃させました。

ゴランボイの衛星基地であるメディクス基地はティクリー小隊が壊滅させたものの、ゴランボイ近郊に展開する陸上戦艦を中心とする戦力の殲滅を行っていたカリスト小隊は敵主力部隊の強烈な反撃に遭遇し全滅、それ以上の戦闘が圧倒的に不利と予測した為に残ったティクリー小隊は撤退させ、現在に至っております。」


「最大のカードには最大の保険を掛けておいたというわけだね。それがジュール隊と五分に引き分けたレジスタンス連合の精鋭リヴァイブチームって事で良いんですか、サゼル艦長。」


 そう言ったのはピースガーディアンの知恵袋ウノ=ホト。プリンシパリティの1個小隊を率いる部隊長でもあり智勇兼備の小隊長である。


「ま、そういう事だろな。連中の旗艦と思われる陸上戦艦も、ジュール隊が交戦したミステール級陸上戦艦に酷似していた。敵機動兵器の戦力もエゼキエル2機にシグナス2機とシグナス系列のオリジナルモビルスーツ1機。シグナス2機がダガーコンシューマ2機に変わっていた違いこそあれ、恐らくあれがレジスタンス連合主力リヴァイブチームと見て当たりだろうよ。」


「だが艦長、あなたはまだ半分も戦力が残っていながらむざむざと敵を目の前にして撤退の命令を下したのですか。理由を聞きたいですね。」


 好戦的なその発言はプリンシパリティのもう一人の小隊長であるコージ=タケダ。最年少にして最も勇敢、戦績も問題無いものの少しばかり自信と自尊心が強過ぎる青年である。


「まあ戦えたかもしれないけどな。相手はあのプライド部隊のカリストとゲイルを潰した連中なんだぜ?お前もあいつらの元小隊長だったから分かると思うが、性格は論外としても腕については超一流の連中だ。危ない橋を渡るよりは、お前達の増援と一緒になって潰した方が安全だろうが。」


「………まあそうですね。ティクリー小隊だけで戦うより、我等プリンシパリティ中隊の部隊と合同で攻めた方が有利なのは事実。で、いつゴランボイを攻略するんですか、隊長?」


 そう言ってタケダが指示を求めた先、そこには世界最強の男として何一つ不足の無いエターナルフリーダムの駆り手、キラ=ヤマトがいた。


「その事だけれども、まだ交戦は少し先になりそうなんだ。」


「先に?」


「うん。今回の作戦は治安警察省のライヒ長官が全指揮を取る事になったんだ。予定では、治安警察省と東ユーラシア共和国軍が合同でコーカサス州解放の為に動く事になっているらしい。それと同時にユーラシア全土でのローゼンクロイツ検挙作戦が行われるそうなんだ。

僕達の任務はライヒ長官の指示で始まるローゼンクロイツ頂上作戦における東ユーラシア共和国軍の軍事的援護。今回の一件で共和国軍側のストラヴィンスキー中将もピースガーディアン部隊をこれ以上軽々しく投入する事はしないって言っていたからライヒ長官の指示が下りるまでは、戦いは起きないだろうね。」


 小さくだがタケダの舌打ちが響く。


「そう言う事だから、エンジェルとプリンシパリティに所属する僕、エターニア、ホト、タケダの4個小隊はマハチカラ近郊に展開する東ユーラシア共和国軍に合流する。ソロネのティクリー小隊はこの場所で待機、以上。」


 キラの一声で会議は解散となり、その数刻後にはバトゥーミからマハチカラに向けて1機の蒼白の天使の機影に続いて11機の紅白の天使の機影が飛び立った。後にこの瞬間をとある歴史家はある古典の丸写しで見事に描写した。

『私は目を上げた。そして蒼褪めた馬を見た。その馬の上に座った者の名は”死”であった。”地獄”が彼に続いた。』

古典の名を新約聖書ヨハネの黙示録、終末を描写した預言である。






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