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オーブを形作る主な四つの島のひとつ、カグヤ島にある統一地球圏連合地上軍基地。ここの基地食堂で五日ばかり続いた昼食の炒飯を平らげたところで、イザークは軍統合司令本部からの出頭命令を受けた。
(これで出張ともなれば、しばらくはディアッカの炒飯に付き合わずにすむな)
他のコックに混じって厨房の奥で中華鍋を振るう褐色の戦友の背を見ながら、ふとイザークはそんな事を考える。いささか不遜な思考だがいいかげん飽き飽きしていたのも事実だからだ。
イザーク=ジュールとディアッカ=エルスマンは、共に旧ザフトのクルーゼ隊に所属し、地球とプラントが戦った二度の大戦、第一・第二次汎地球圏大戦の両方を生き残ってきた歴戦のつわものだ。戦中を通して二人はコンビを組み、今では互いに俺・お前で呼び合う古い戦友でもある。
ざっくばらんな金髪のディアッカに対して、上品なショートボブの銀髪をしたイザーク。そこから人は彼らを金銀コンビと呼ぶ事もあった。
そのディアッカの趣味が中華料理であり、何より炒飯を作ることなのである。”ディアッカの炒飯”といえば、今の部隊でもすっかり有名な名物料理と化していて、新兵や転属者は必ず一度はこれを食べるのが一種の通過儀礼になっている程だ。そしてクルーゼ隊の頃から続いてきたこの彼の趣味に最も長く付き合ってきたのは、イザーク自身だった。それ故こうして日々の食事が炒飯づくしとなる場面にも、度々遭遇する事もある。
ディアッカの作る炒飯はかなり美味く、料理人としても十分行けるだろうとイザークも常々思っているが、いくら美味くてもこうも続くとさすがに飽きてくる。イザークは食器を片付けるとそのまま厨房の中に入り、ディアッカに声をかける。
「おい、ディアッカ。俺はしばらく留守にする。その間、部隊の事は任せたぞ」
短くカットした金髪を調理帽子で覆い、滴る汗を肌に滲ませていた褐色の臨時料理人は、上官兼親友の声に鍋を動かす手を休め、何事かと問い返してきた。
「出かけるのか?イザーク」
「ああ、統合司令本部からの出頭命令だ。それもキサカ大将直々にな」
「そりゃ大事だな」
「そういう事だ。だから俺の不在の間はディアッカ、副官のお前に全部任せる。中華鍋ばかり回してないで仕事しろ」
「へいへい」
「それからな」
「何だよ、まだあるのか?」
「……炒飯以外の料理もたまには作れ」
「はっ、考えとくよ」
ディアッカの捨て台詞を背にイザークは厨房を出ると、そのまま士官用自室に戻る。一分ほどで必要な書類を取りまとめて、用意させておいたヘリに乗った。イザークを乗せたヘリは、駐留基地の置かれたオーブの一角カグヤ島を離れ一路、統一地球圏連合軍統合司令本部の置かれたオノゴロ島に向かったのだった。
「統一地球圏連合地上軍、第三軍団第四機動師団所属、イザーク=ジュール中佐! ただ今出頭いたしました!」
統一連合地上軍、総司令官専用執務室の中に入るとイザークは一際よく通る声で申請をし、敬礼した。
「うむ。ご苦労、中佐」
低く重厚な声が返ってくる。
奥には統一連合地上軍総司令、レドニル=キサカ大将の姿があった。どっしりと執務机に構えたその姿は、その階級にふさわしい威容を兼ね備えている。キサカのいる執務机の前には応接用のソファーと家具調応接机があり、見るとソファには背広を着た二人の中年男性が縮こまって座っている。ひ弱な印象を漂わせるその男達からは、硝煙の匂いはしない。
場違いな奴らだな、とイザークは内心思った。
キサカ大将は元々オーブ軍属の上級将官で二度に渡る大戦中、現統一地球圏連合主席カガリ=ユラ=アスハの護衛武官として彼女と共に各地を転戦してきた男だ。カガリ本人だけでなく軍部からも厚い信頼を受けていた彼は戦後、地上軍総司令官として抜擢される。
出自はナチュラルながら、階級はコーディネイターのイザークより上なのである。元ザフト軍人としてのイザークからすれば、ナチュラルの下にコーディネイターがつき従うという構図に疑問を持たない事もないわけではなかった。理屈の上では分かっていても、どうしてもそういう感情が湧き上がる事が今でもある。だがそこはあくまで軍人としての立場だと、イザークは割り切る事にしていた。何よりこれは自分の信じるラクス=クラインも同意の上での人事なのだから。
「よく来てくれた、ジュール中佐。今日来てもらったのは他でもない。実は中佐に内々に相談したい事があったからだ」
(俺に内々に相談?)
その言葉にイザークは奇妙な違和感を覚えた。
必要ならただ命令すればいい。それが軍というものなのだから。
だがイザークの心中を無視してキサカは続ける。
「中佐もすでに知っての通り、先日東ユーラシア共和国コーカサス州にて第三特務隊が、敵現地レジスタンス部隊と交戦。全滅するという驚くべき事態が発生した。その際、遭遇した敵機は一機だけだという事が確認されている。この事を重大視した国防省は先日、議会でコーカサス州への地上軍派遣を決定した。これを受けて地上軍は先遣隊をすでに派遣したが昨日、国防省で増兵が決定した。どの部隊をさらに派遣するかは現在検討中だ」
第三特務隊と聞いてイザークは忘れかけていた記憶を手繰る。
(四年前の大戦でドムトルーパーに乗っていたあの三人組、確か第三特務隊に配属されていたな。ヒルダ、マーズ、ヘルベルトという名前だったか……)
厚い忠義をラクスに誓っていた三人のモビルスーツパイロットを思い出す。その中に眼帯をした橙色の髪の女性パイロットがいた事も。現在の彼等の機体は最新鋭モビルスーツ『ドムクルセイダー』で、整備性や製造コストの問題から正式採用は見送られたものの、その機体性能はイザークの乗る次期主力モビルスーツ『ストライクブレード』よりも上だったはずだ。
(テロリストのモビルスーツ一機に遅れを取るとはな。無様な)
内心、チッと舌を打つ。
反統一地球圏連合を掲げるレジスタンスやゲリラ等は今でも世界中におり、軍では彼等を”テロリスト”と呼ぶ者も多い。以前イザークもそれらの討伐では随分と奮闘したものだった。中でも最大規模のものが、今から1年半前にオーストラリア大陸を治める国家、大洋州連合で起こった『オセアニア紛争』だ。
『オセアニア紛争』とは大洋州連合最大規模を誇る”テロリスト”組織『レイヴェンラプター師団』が、CE77年6月に発表された大洋州連合の統一地球圏連合への主権返上宣言に反発し、同年9月「打倒統一連合、大洋州連合独立」をスローガンに反政府テロ活動を開始した事から始まった紛争である。
プラントを併合し、世界を手中に収めつつあったオーブへの反発や不満が、主権返上宣言をきっかけに彼等の中で一気に爆発したのが原因だった。構成員の相当数が祖国を失った元ザフト軍人で占められており、ディンΩやジン=グランドといった旧式ながらチューンUP改造されたモビルスーツや、ボズゴロフ級潜水母艦などの艦船で武装。さらに元ザフトのエースの多くも参加していたため、その活動は大規模かつ熾烈を極めた。
もはやテロという枠を超え内戦状態になりかかったCE77年11月、大洋州連合の要請により統一地球圏連合地上軍の派遣が決定、ついに『レイヴェンラプター師団』と全面戦争に陥った。この討伐にイザークも部隊を率いて参戦する。質・物量共に上回る地上軍は『レイヴェンラプター師団』をたちまち劣勢に追いやり、事態は速やかに収束するかに見えた。だが翌年CE78年1月、地球圏を揺るがす一大事件が発生する。
プラント、中央ユーラシアにて大規模な叛乱が同時発生、のちの世に言う『九十日革命』の勃発である。
叛乱軍は『革命軍』を名乗り、ようやく再建された宇宙要塞ヤキン・ドゥーエを奇襲攻撃で陥落。駐留していた宇宙軍第三艦隊を壊滅させ、中央ユーラシアを占領した上に独立宣言、と瞬く間に一気呵成の大攻勢を掛けてきたのだ。この事態に統一地球圏連合は大混乱に陥り、軍もこの革命への対応で完全に手一杯になってしまう。そのため大洋州連合に派遣されていた兵力も中央ユーラシアに回された。
残った僅かな駐留部隊を託されたイザークは、代わりに派遣された治安警察軍と共に部隊を率いて、敵『レイヴェンラプター師団』と対決する事になったのである。自身、新たに受領した次期主力新型モビルスーツ「ストライクブレード」を駆って、イザークは戦った。その隣には常に盟友のディアッカがいた事はいうまでもない。
大幅な戦力の減少は一時的に『レイヴェンラプター師団』に優位な状況をもたらしたが、それにもめげずイザークと彼の部隊は数で勝る敵モビルスーツ隊を相手に獅子奮迅の活躍をし、見事に地上軍の抜けた穴を塞いだのだった。おかげでせっかく貰ったイザークの新型機体もボロボロのスクラップ同然になってしまい、ついには破棄してしまうハメにはなったが(今の乗機は2代目である)、結果として”テロリスト”組織『レイヴェンラプター師団』の勢力も大幅に減少した。
結局この一連の戦いはCE78年5月まで続くものの、平和の歌姫ことラクス=クラインが全世界に向け停戦と平和を訴える演説を行うなど政治的努力も功を奏し、紛争開始から一年を経てようやく大洋州連合にも平穏が訪れたのである。現在の所、大洋州連合は小康状態を保っており表向きは平和だ。散発的な小競り合いはまだあるものの、以前のようにモビルスーツを使っての大規模攻勢は無くなった。
もっともその一方で『オセアニア解放軍』という別の組織が、つい最近オーブで主席暗殺未遂事件まで起こしており、未だ油断できる状況では無いのも確かではある。
手ごわい相手ではあるが大敗を喫するほどのものでもない――というのが、イザークのこれまでの”テロリスト”達の評価だった。
「ひとつ質問をしてもよろしいでしょうか?」
「何だね?中佐」
「第三特務隊の仇を討つのが、今回の自分の任務でありましょうか」
つい本音が口に出る。だがキサカは部下の生意気な台詞にも動ぜず淡々と返す。
「ある意味そうかもしれないが、事態はそう単純ではない」
おもむろにキサカは執務机に据えられた装置のスイッチいくつか押す。すると応接机の上が明滅し、地図を表示した。机の上はモニターにもなっているのだ。地図の示す場所は東ユーラシア共和国コーカサス州である。
コーカサス州の地図の中央には、『ゴランボイ』という地名と共に少し大きめの赤い丸がマークされていた。
見れば
『エネスタス・フォーブ社、ゴランボイ地熱エネルギープラント』
と書いてある。
――『エネスタス・フォーブ社』
オーブ資本の大手エネルギー開発公社であり、いまや世界有数のエネルギーメジャー企業だ。そしてコーカサス州の地図の隣には、統一連合直轄領となった西ユーラシア自治区の地図もあった。
「ここからはこのお二人に説明してもらった方がいいだろう」
キサカはそう言うと、ソファに座る二人の中年男性に目をやった。
「紹介しよう。エネスタス・フォーブ社の開発本部長ヤスオ=スミヤ氏と、営業本部長のベイツ=ゲーファン氏だ」
紹介された二人はイザークに向かって「よろしくお願いします」と一礼し、懐から名刺を出して手渡した。いつもの”社交辞令”だ。
対して受け取ったイザークも敬礼で返す。こちらも軍人流の”社交辞令”だ。
「では僭越ながら、私からご説明させていただきます」
開発本部長の肩書きを持つ五十歳そこらのしょぼくれた男が、たどたどしく説明を始める。
――その内容は大まかにはこうだった。
現在、世界のエネルギー需要の大半は太陽発電と地熱発電、メタンハイドレード等に頼っている。石油や天然ガスといった化石燃料もほとんど枯渇し、さらにプラントがニュートロンジャマーを地球上のいたる所に投下したため、原子力も使えなくなったためだ。中でも特に太陽発電と地熱発電は重要な位置を占めている。
中東など旧産油国は砂漠化した地域に太陽発電プラントを多数設置し、エネルギー輸出大国となっている。対して極東アジア地域や中央ユーラシアなどは火山地帯が多数ある事を理由して、大深度地熱発電プラントを建設。やはりエネルギー輸出大国となっている。これらの電力は一般的にエネルギーパイプラインで各消費国に運ばれる。現在、西ユーラシアのエネルギー需要の2/3を中央ユーラシアや東ユーラシアから運ばれる地熱発電によるエネルギーに頼っているのである。
――そして今ここで焦点となっているコーカサス州は地熱エネルギーの世界有数の産地であり、いわば西ユーラシアの生命線になるのだ。
「こんな小さな国が西ユーラシア全体の命運を握るというのか」
やや大げさじゃないか、とイザーク思ったが、開発本部長ヤスオ=スミヤは冷静にそれに返した。
「現在、コーカサス州で産出される地熱エネルギーは西ユーラシアの年間消費量の約18%を賄っています。このゴランボイ地熱エネルギープラントですが」
そういうと彼は地図上に表示された赤丸、すなわち地熱エネルギープラントのある場所を指して続ける。
「これはそれまであった老朽化したプラントに代わって新たに弊社が建設したもので、その規模は世界最大クラスになります。今月中に稼動予定ですが、これが操業開始すると西ユーラシアで必要なエネルギー量の約23%まで生産できるようになります。つまりこのコーカサス州一国で西ユーラシアで必要なエネルギー全体の約1/4を賄う事になるのです。しかもここはコーカサス州各地で産出される地熱エネルギーの集積所としての役割も果たします。すなわち」
ふうと息を継ぎ、一拍置く。
「このプラントにもし万が一の事があれば、西ユーラシアへのエネルギー供給が完全に途絶えてしまうのです」
今の時代、家庭や企業、日々の生活や経済活動を支えるのは全て電気だと言っても過言ではない。モビルスーツを動かすのだっていまや電気なのだ。それがある日突然、必要な電気の1/4が無くなってしまうとどうなるか?たちまち残ったエネルギーの取り合いになり、大パニックになる事は容易に想像できる。
――旧世紀に起きた石油ショックならぬエネルギーショックだ。経済や政情は大混乱に陥り、西ユーラシア復興に意気込む統一地球圏連合の屋台骨も大きく揺るがすだろう。
「そんな大事なものを何でテロリストが跋扈する所に作ったんだ!他所に作ればいいだろう!」
少しイラただししくイザークは問い詰めるが、開発本部長はさらりとかわす。
「そうはいきません。莫大なエネルギーを産出する国は世界にとって必要不可欠な存在です。多少危険だからといって見過ごすわけにはいきません。確かにこのコーカサス州にもゲリラはいます。え…と、リヴァイブという名前でしたか。しかしそのリヴァイブの活動は他のそれに比べれば極めて大人しいものでした。エネルギー関連施設への破壊活動などもした事ありませんでしたし。まあエネルギーパイプラインに小細工をして、貧しい村々に横流しをするといった泥棒のようなマネはいくつかありましたが……」
「つまり地域リスクがかなり低かったと言いたい訳だな」
「はい」
「じゃあ何故今更!?」
「ここからが本題なのだ」
それまで沈黙を守っていたキサカが口を開いた。
「このリヴァイブというレジスタンス組織は以前よりコーカサス州の独立、あるいは自治権獲得を目的として活動している一種の土着民兵組織だ。そしてここは先の式典で起きた、カガリ=ユラ=アスハ主席暗殺未遂事件の実行犯組織のひとつでもある。主席の推進している主権返上法案に反発しての犯行だろう。各国の主権が統一連合に帰属してしまえば、独立どころではないからな。そこで事態を重要視した治安警察は東ユーラシア共和国軍と協力して、リヴァイブ討伐に向かったが……」
キサカは手元にあった煙草に火をつける。
「中佐、君も知っての通り結果は無残なものだった。東ユーラシア共和国コーカサス方面軍は壊滅的な打撃を受け、治安警察から派遣されたドーベルマン保安部長も戦死。ドムクルセイダー隊こと第三特務隊も全滅という有様だ。この結果は皮肉にもリヴァイブ自身に正規軍と十分渡り合えるという、自信をつけさせる結果になったわけだな。次にこれを見てほしい」
そういうとキサカが再び机の装置を操作する。卓上の映像が入れ替わり、衛星から写した思われる数枚の映像写真が表示された。森林や山間地の中に大型移動車両やモビルスーツと思われるものが移動する姿が写っている。隊列を組んでいるものや、単機だったり、その規模はバラバラだ。
「過去二週間にユーラシア全域を対象に写した衛星写真だ。いずれもコーカサス州に向かうルートを示している。他にもこうした映像が多数確認されており、軍情報部の分析ではリヴァイブへの増援か、もしくは九十日革命以後行くあての無くなった残存レジスタンス部隊がリヴァイブを頼って来たのだろう見方が出ている。しかし一方で大規模攻勢の前準備ではないかという意見もある」
「もし後者が正しければ……」
「その目標としてひとつ考えられるのが、このゴランボイ地熱エネルギープラントなのだ。もし万が一ここがレジスタンスの手に落ちれば、西ユーラシアは喉元に匕首を突きつけられるも同然。そうなれば連合政府としてもレジスタンスに相当の譲歩を迫られる事になるだろう」
「しかし閣下。一介の民兵組織にそこまでの力があるのでしょうか?」
「一介の民兵組織ならな」
そういうとキサカは別の資料を見せる。
「こ、これは……!?」
その資料にイザークは忌まわしい名を見つけた。
『ローゼンクロイツ』
つい1年前、地球圏全体を震撼させたあの九十日革命を起した主犯組織だ。
「現地からの調査報告によると、そのローゼンクロイツがどうやらリヴァイブと手を組んでいるようなのだ」
「何ですって!?」
「だとすれば東ユーラシア共和国軍が敗北したのも頷ける。先の革命騒ぎが示すように奴らは、相当のつわものだ。しかも組織のリーダー、ミハエル=ペッテンコーファーは未だ逮捕されておらす行方不明。終戦の混乱にまぎれて、相当数の戦力がシベリア方面に逃走している。ローゼンクロイツはまだ滅びていない。ユーラシア大陸のいずこかで、虎視眈々と牙を研いでいるのだ」
イザークの喉がごくりと鳴る。
「これら集結中の戦力の多くがローゼンクロイツの息がかかったものだろう。そしてもっと懸念すべき事項もある」
そういうと別の一枚の資料をイザークに渡す。細かい字で書かれた解説と共に、一人の人物写真が載ってある。イザークはそれを見て驚きの声を上げた。
「か、閣下! もしかしてこいつはザフトの……!?」
「その通り。元ザフトのエースパイロット、シン=アスカだ」
シン=アスカ。ザフト時代、イザークもその名は何度か聞いたことがあった。ミネルバ隊に所属しレイ=ザ=バレルと共に、亡きデュランダル議長の二枚刃とまで言われたパイロットだと。議長から直々に最新の専用機まで授けられていたという。メサイア攻防戦以降、彼の行方はプツリと聞かなくなっていたのだが。
「第二次汎地球圏大戦において、デュランダル議長の懐刀とまでいわれたザフト最強のエースパイロット。あのキラ=ヤマトを唯一撃墜した男でもある」
「生きていたんですね。てっきり戦死したかと自分は考えていましたが」
「そのシン=アスカが今リヴァイブにいるとしたらどう思うかね?しかも第三特務隊を沈めたのはその男らしい」
「!?」
――西ユーラシアの運命を握る東ユーラシア共和国コーカサス州。
――そこに建造された世界最大規模を誇る地熱エネルギープラント。
――コーカサス州独立を望むリヴァイブ。
――九十日革命を起し再起を目論むローゼンクロイツ。
――そして、シン=アスカ。
これが全て絡み合ってひとつになった時、それは世界にとってどれほど危険な火薬庫となるか。事の重大性にイザークは戦慄を感じた。そして何故自分がここに呼ばれたかも同時に理解した。
「……自分の部隊にそのシン=アスカと戦え、と閣下はおっしゃるわけですね」
キサカはしばし沈黙した後、「そうだ」と頷いた。
「シン=アスカがどれだけの脅威かは、第三特務隊の例を見ればおのずと分かるはずだ。奴とまともに戦えるのはピースガーディアンのキラ=ヤマトか、近衛総監のアスラン=ザラ。その二人を除けば統一連合軍全体でも数えるほどしかいないだろう。そして私は君の腕を高く評価している」
イザークは何も答えない。彼は敗れたヒルダ達を見下していた自分自身を叱責していたのだ。なんと己は無知な愚か者だったのか――と。神妙な面持ちで黙り込むイザークを、キサカは特に咎めるでもなくこう言った。
「今すぐに答える必要は無い。この件に関する資料はあとで送るから、リスクを考えた上で回答してくれたまえ。もちろん君の部隊だけに全て任せるつもりはない。相当規模の部隊を編成し現地に投入するつもりだ」
だが――。
一人の非凡なパイロットが戦局を覆す。その前にはいくら数を集めても烏合の衆に過ぎない。キラ=ヤマトがいい例であるように、それは実際にあるのだ。もしイザークほどのパイロットにも手に余るようであれば、キサカはあのピースガーディアンに正式に出動要請をする事も念頭に置いていた。兵を無駄死にさせるようなマネだけは絶対に避けなければ、と考えていたのである。イザークはしばし考え込んだのち静かに、そしてよく通る声で返した。
「分かりました閣下。では一両日中にでも返答させていただきます」
「うむ。待っている」
そしてイザークは敬礼すると執務室を退室する。司令本部のヘリポートでは来た時と同じ様に、ヘリがイザークの帰りを待っていて、彼を乗せるとすぐさまカグヤ島目指して飛び去っていった。基地に戻る機内の後部座席に据えられた携帯テレビでは、ワイドショーがあのリヴァイブから救出されたという少女の記事を報じている。興味本位の愚にもつかない内容だったが、イザークはこれから相対する敵の残り香を感じ取っていた。
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