登録日:2022/06/10 (金) 18:01:16
更新日:2024/06/20 Thu 10:28:55NEW!
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刮目せよっ…!男の生き様っ…!
最強伝説 黒沢とは、『ビッグコミックオリジナル』に連載されていた漫画。
作者は福本伸行。既刊:全11巻。
【概要】
漫画雑誌『ビッグコミックオリジナル』において2003年1号から2006年18号まで連載された。
作者の福本にとっては初の小学館系の漫画雑誌での連載作品となっている。
福本伸行の得意ジャンルと言えば大多数の人々は「デスゲーム要素の入ったギャンブル漫画」を挙げると思われる。
基本的にその認識で間違いはないのだが、デビュー初期の福本は所謂「人情モノ」をテーマにした作品も目立っていた。
本作は福本のそういった初期路線への回帰が行われており、世間的には「底辺」に分類される独身中年男を主人公に置き、彼の妙な哀愁と奮闘をテーマにした作品内容となっている。
人情や底辺の哀愁を描いたギャグコメディだけではなく、作品中盤からは不良とのバトル漫画としての作風が強化されていった。
上述のような事情もあって、『銀と金』や『賭博黙示録カイジ』から作者を知ったファンからは異色作として扱われることも多い。
しかし、福本が得意とする独自の人間論や台詞回しは本作でも健在で、意外にも熱いバトル展開も高い評価を得た。
話数も全11巻と比較的短い尺で収まっており、良くも悪くも長期化しやすい福本漫画としては読むハードルが低い点も指摘されることがある。
最終回はビターエンドのような結末を迎える形で連載に幕を閉じたが、福本は続編への意欲を定期的に示していた。
そして連載終了から7年後、ビッグコミックオリジナル創刊40周年の企画として続編及び第二部の『新黒沢 最強伝説』の連載がスタートした。
続編は前作よりも連載期間を伸ばすことに成功しているが、内容に関しては激しく賛否両論が分かれる結果となっている。
【あらすじ】
高校を卒業した18歳から穴平建設で延々と働く日々を送っていたベテラン作業員の中年男性・黒沢。
彼はFIFAワールドカップの日本代表の試合を見ていたある日、仕事仲間と試合を大騒ぎで応援する最中でも唐突にあることが分かってしまった。
画面の向こうの日本代表の試合は所詮他人事でしかないので感動など無く、自分が求めていたのは自分自身の感動だったのではないかという現実だった。
黒沢は働いてこそいたが地味な日々を送り、44歳を迎えたが誰にも誕生日は気が付かれずに衰えた身体と人望も家族も持たない孤独を感じ、同年代と比べても浮いた存在と化していた。
工事現場用の人形である安全太郎を唯一の話し相手として孤独に苦しむ黒沢は、他人との違いや今の生き方に頭を悩めていた。
やがて黒沢は人望を得るために生まれ変わろうとするが、不器用な人間性が引き起こす奇妙な日々が幕を開けるのだった…。
【主な登場人物】
穴平建設
- 黒沢
闘わなきゃ…………この世に生まれてきたら…………
本作の主人公で44歳の独身中年男性。高校卒業後に就職した穴平建設で平社員の現場監督として働いている。物凄くデカい顎がトレードマーク。
一応は現場監督だが実力で昇進したという訳ではなく、他の同年代が出世するか或いは辞めるかの中でどちらのルートにも入らずに会社に残った結果の肩書である。
コミュニケーション能力や常識的な視点が欠けており、人望に飢えるようになったことから何とか周囲の信頼を得ようとするが、アプローチが下手糞なことや運の悪さで結果として全て裏目に出る。その代表例が伝説として語り継がれるアジフライ作戦。
一方で人並み外れた度胸や底辺故の独特な人間論を展開することがあり、やがて黒沢の周りには奇妙な形で人々が集まってくることになる。
体格が大きい土木作業員ということもあってか喧嘩に関してのセンスがあり、戦闘に関する洞察力や味方を鼓舞する振舞いなどでも高い才能を見せる。
- 坂口義明
穴平建設における黒沢の後輩。藤崎第二中学校出身。最初は黒沢に否定的な姿勢を見せており、アジフライ作戦では誤解の末に黒沢を故意的に現場で置き去りにするという判断も見せた。
それでも黒沢を見直していくようになり、何だかんだで黒沢の取り巻き的ポジションとして彼に協力していく。
姉がスタイリストであり、不良からの襲撃を逃れようと変装を試みる黒沢に協力したが結果はすぐにバレた。
- 浅井純一
黒沢の後輩の一人。頬が特徴的な容姿で、気弱でどこか子供っぽい(悪く言えば頭が弱い)雰囲気を放っている。
初期の時点で比較的黒沢に対する人当たりは良かったが、黒沢に付き合わされた際に買ったゲームがしたいと泣き始める場面も…。
過去にイジメを受けていた経験があり、そういうこともあって黒沢が不良中学生との決闘を経て醜態を晒した際には大きく心配して追っかけまわしたこともあった。
- 赤松修平
黒沢の後輩で、28歳で現場監督を担当している男性。黒沢から勝手に敵視されており(赤松は気付いていない)、物語初期におけるある意味ライバル。
多数の資格と他作業員からの強い支持を得ており、プライベート面でも妻子持ちと言う黒沢と徹底的に対照的な人物。
アジフライ作戦の際にも広い心構えと黒沢への理解を示すなど、既に社長待望論が出るだけある謙虚で優れた人格を持つ。
しかし、物語の路線が変更するに伴って徐々に存在感が薄れていったという点で考えれば実は不遇だったりするのかもしれない。
- 穴平社長
穴平建設の社長を勤める老人。趣味はサイクリング。
黒沢が騒ぎを起こして警察沙汰になる度に身元を引き受けるという流れを担当していることを考えると何だかんだ優しいお方。
- 小野
穴平建設で働く新米の職人。元番長で喧嘩に自身があったことから、不良との一件で誇張されまくる黒沢の噂から彼を一方的に敵視するようになる。
ところが黒沢の言動や態度を勘違いで解釈したことで心酔するようになり、それからは黒沢の派閥を立ち上げるなど逆に黒沢の暴君としての噂を強める事態に発展させた。
- 太郎
道路工事用の誘導ロボット人形。物語開始時から孤独な黒沢が友人と認識していた存在。
7~8年前に潰れた警備会社から安価で引き取られて穴平建設で運用されており、延々と動き続けるその姿は「年中無休の働き者」として黒沢の心の支えとなっていた。
事故で大破してもなお誘導灯を振り続ける姿とそれを見て泣く黒沢の姿は他の作業員達も思わず涙する名シーンを作ったが、その後は補修されて現場で再度運用されることになる。
黒沢が涙ながらに太郎に抱擁するコマはレス画像やパロディネタとして利用されることが多く、恐らく本作を読んだことが無い人でもこのシーンだけは見たことがある人もいるのではないだろうか?
黒沢を取り巻く人々
- 仲根秀平
藤崎第二中学校に通い、不良生徒として名前が知られている男子中学生。
190cm以上の身長を誇る体格による喧嘩の強さと他人に平気で暴力を奮える極悪さを持ち、外国語を使いこなせる学力や様々な方面に通じた人脈など中学生としてはオーバースペックの持ち主。
大人に失望していたが自身と決闘する事態になった黒沢の姿を見て衝撃を受け、最終的に敗北を経て「兄さん」と黒沢を呼んで強く慕うことになる。
顔は良くないようだが上述のスペックもあってか女性にもモテており、その様子は黒沢の迷言「向こうは…FカップGカップ…オレにあるのは…スーパーカップ…!」を生み出した。
- 中谷安晴
黒沢が坂口達を呼び出したファミレスにおいて、彼らの隣の席にいた28歳の男性。レンタルビデオ店のアルバイト。
理由が思い付かない怠惰な気分で自身が勤めるバイトを辞めたい気分だったが、黒沢の決闘の覚悟と人間論を耳にして彼に心酔することになる。
- 孝志
中谷と同様に黒沢が来店したファミレスで家族と共に過ごしていた少年。
不登校の状態で曖昧な理由で退学を願うようになり、何とか理解を示そうとする母親と内心では苦悩して息子にツッコみまくる父親という構図が出来ていた。
黒沢を見届ければ再び登校できるようになるかもしれないという希望を抱き、その後は不登校の真の理由だった不良を倒すために立ち向かう。
ファミレスで退学の意志を見せる孝志に対する父親の内心での嘆きは未だに話題に上がりやすい。
- 茜
公園でホームレスと共に生活していた老婆。夫は祝言の翌日に太平洋戦争の影響で入隊した末に戦死しており、男女としての関係も実質結ばなかったという悲しい過去がある。
明るく振舞っているが別の場所へ移動する余力は残っておらず、ホームレスが公園から撤退しようとした際には裏では泣く姿を見せた。
その姿が一度はホームレスの撤退を許容した黒沢の心を動かし、暴走族との最終決戦に繋がっていく。
暴走族との最終決戦後は祝勝会で黒沢の傍に寄り添っていたが、黒沢の異変にいち早く気が付くことに…。
- 御木涼一
ホームレスを食い物にする卑劣な暴走族集団『ガロンキッズ』のリーダーを務める男性で、本作の事実上のラスボス。
実際は某私立医大の一年生かつ有数の大病院の長男坊であり、違法薬物が手に入る身分を使って遊び気分で暴走族を率いている。
黒沢からはその身分からさり気無く保身術を使っていることを指摘されており、追い込まれると金の力で乗り越えようとする。
続編ではまさかの物語開始時のキーパーソンへと変貌する。
【スピンオフ】
最強伝説*1 仲根
『やわらかスピリッツ』にて連載されている、仲根を主人公としたスピンオフ作品。
作画は『1日外出録ハンチョウ』で作画担当をしている上原求と新井和也であるため、絵柄は本編に近い。
物語の舞台は本編から10年後で、銀行マンとして社会人となった仲根の物語を描いている。
初期はSNSの承認欲求に飢える仲根の奮闘をテーマにしていたが、後に資産形成や金融を話題にするビジネス漫画へと路線変更されている。
【余談】
- 同作者の作品であるカイジシリーズでは、利根川幸雄の名言として知られる「勝たなきゃゴミ」「勝ちもせず生きようとすることがそもそも論外」という発言があるが、本作では「敗者にも意味がある」としてそれを否定するかのようなテーマが訴えられており、この両作品の違いが指摘されることがある。
ただし、そもそもの話として前述の利根川の発言は作中の描写をよく見ると実際には真理を突いた正論としては描かれていない*2ため、別に黒沢の描写と違いが生じているという訳でもないとも言えるだろう。
- 本作作中において東京五輪の新国立競技場2500億円の問題や児童ポルノ法について触れたため、政府広報オンラインにて無料で公開されていて福本伸行氏の漫画危険ドラッグの本当の怖さを知っていますか?が公開停止されたという説がある。
- なお、実はバトル展開に関しては既定路線であり、むしろ当初はもっと積極的に喧嘩をして強くなっていく流れを想定していたとの事。タイトルの「最強伝説」はその名残らしい。
追記・修正は交通誘導ロボットを友人と認識している人にお願いします。
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▷ コメント欄
- こうはなりたくないと反面教師的に読み始めて、今はすっかり窓際に追いやられた俺 -- 名無しさん (2022-06-10 18:52:22)
- 子供の頃に父親がこの作品の掲載誌をたまに買ってて自分も読んでたから、自分の中では福本伸行の作品といえばカイジやアカギでもなく真っ先にこれが挙がる(それこそ弘兼憲史といえば島耕作でなくて黄昏流星群って挙げるくらい) -- 名無しさん (2022-06-10 21:05:22)
- バトル路線前の人間関係構築能力が低すぎるがゆえの悲哀がね… -- 名無しさん (2022-06-10 21:10:56)
- 新黒沢のほうは、インチキ合気編に何年も費やした挙句が、最後は主人公が行方不明のまま脇キャラの会話で最後という、とんでもない終わり方をしてて草 -- 名無しさん (2022-06-10 22:59:32)
- 福本によると当初の新黒沢は黒沢にささやかな幸せが訪れる構想があったぽいけど、連載を続けてくうちに描けなくなったみたい。 -- 名無しさん (2022-06-10 23:07:12)
- ↑ささやかな幸せをかけなくなったって連載中になにがあったのか…たしか作者は現在の路線がヒットするまでは人情もの描いてたりしたのに -- 名無しさん (2022-06-10 23:37:02)
- 危険ドラックの公開停止の理由を断定していいの? -- 名無しさん (2022-06-11 04:19:40)
- 黒沢二部の終わり方が酷いというが、アカギも零も最近の福本作品は「度を越した引き延ばし&投げっぱなしの終わり方」というね……カイジはどうなるんやろうか -- 名無しさん (2022-06-11 04:42:21)
- 新も無印もラストがもやもや… -- 名無しさん (2022-06-11 06:24:54)
- 新の方は、引き延ばしも酷いけどそれ以上に前作のキャラが一向に出てこなかったっていうのが。黒沢が意識不明で長期入院して、更に病院から脱走後はホームレスに落ちたという異常事態なのに、おかしいぐらいどの前作キャラも漫画に出てこなかった -- 名無しさん (2022-06-11 06:54:26)
- アカギ、カイジ、黒沢と掛け持ちが多いからダレちゃうんだと思うな。マルチタスク連載は良くないという一例 -- 名無しさん (2022-06-11 09:01:21)
- 父親が学校行くのやめるっていう息子に「流されろ…!なんとなくで行けばいいんだよ学校なんて…!」って言うのもコレだったっけ -- 名無しさん (2022-06-11 14:21:12)
- ↑コレ。項目内の孝志と父親のやり取りだね。「人間はルールに縛られてるから人間でいられるんであって、『本当の自由』なんてもの手にしたらそれはただの野生動物なんだよ」みたいな文脈だね -- 名無しさん (2022-06-11 15:54:37)
- ↑あらためてみるとたしかにそうなんだよね、アウトローはアウトローなりにその世界のルールがあるわけでむしろ堅気よりも厳しかったりするし -- 名無しさん (2022-06-11 15:58:54)
- ↑2なんか母親が「学校なんて無理してまで行くもんでもない」みたいに言ったら「無理してでも行かなきゃいけないもんなんだ」って心の中で言ってたのしか覚えてなかった -- 名無しさん (2022-06-11 22:59:56)
- あちこち手を広げて畳み切れなくなって無理矢理終わらせるって、福本伸行は小説家で言うところの夢枕獏みたいなことになってるんだな… もっとも向こうは「ゆうえんち」で開き直って風呂敷広げ癖を最終回で持ちネタにした感じすらするがw -- 名無しさん (2022-06-11 23:45:45)
- ↑本人も若い頃は「ギラギラしたハングリー精神を失ったら終わり」って宣言してたんだけどねぇ -- 名無しさん (2022-06-12 00:33:19)
- 問題提起した↑11から1日経ってませんし、記述消すなら消すか否か相談すべきでは -- 名無しさん (2022-06-12 03:43:02)
- ↑失礼しました。ではここで相談させていただきます。「本作作中において~」の下りはリンク先含めてどこにも根拠がないので、削除したほうが良いのではないでしょうか? -- 名無しさん (2022-06-12 13:19:23)
- 件の記述はなくてもいいか、現在の断定するような書き方ではなく有力な説と言われているとかに書き換えるのがいいんじゃないかと。少なくとも現在の根拠なしに断定するような記述のままは良くないでしょうね -- 名無しさん (2022-06-12 18:29:06)
- 福本作品にしては珍しく女性キャラも 登場するんだけど、しづかは凶悪すぎた・・・。 -- 名無しさん (2022-06-13 19:26:06)
- 追加した人間です、ごめんなさい政府系の陰謀論にどハマりして信じきっていました。 -- 名無しさん (2022-06-13 23:21:03)
- 2話で黒沢が自分とは違いすぎる赤松の完璧超人ぶりに土下座の姿勢で「人間かよ…!それでも…!」って嘆くシーンはカイジの限定ジャンケンのあのシーンのセルフオマージュかな? -- 名無しさん (2023-01-23 22:04:06)
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*2 他媒体での作品紹介時や名言集などでは切り抜きされがちだが、カイジが利根川の発言を暴論や詭弁と指摘する場面がある
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