登録日:2020/06/13(土)14:05:57
更新日:2024/05/17 Fri 13:30:04NEW!
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ギリシャ神話 ファンタジー ヘラクレス ドウェイン・ジョンソン アメコミ
「偽りの神か、真実の英雄か」
●概要
『ヘラクレス(Hercles)』は2014年のアメリカ映画。監督はブレット・ラトナー。スティーヴ・ムーア作のコミックを実写化したアクションファンタジーで、タイトルの通りギリシャ神話最強の英雄ヘラクレスの活躍を描いている
ヘラクレスと言えば、12の試練をはじめとする数多くの冒険に挑み、武勲を打ち立てた怪力無双の豪傑として名高いが、この作品ではそうした過去の作品でも既に幾度となく主題として扱われてきた神話の内容そのものではなく、それらが神話として成立し、ヘラクレスの一連の活躍が語り継がれる事になった経緯に焦点が絞られた物語が展開する。
言い換えるならば....
「ヘラクレスは本当に神の子だったのか」
「ヘラクレスがもし実在の人物だったとしたら、本来はこのような姿だったのではないか」
という推測を交えて新しく作られたオリジナルストーリーである。したがって神話的要素は必要最小限に留められ、神々も登場しないため、『タイタンの戦い』や『インモータルズ』のように神々や魔物が入り乱れる本格的なファンタジーを期待して観ると肩透かしを食らう可能性がある。
しかし、神話という贔屓目を抜きにしても、一人の英雄が戦いを通じて成長し、葛藤や苦悩を乗り越えるという、ヒーロー物としてのポイントはしっかりと押さえているし、曲者揃いの傭兵仲間たちが駆使する個性的な戦闘スタイルといったアクション面での見所も用意されている。
また、彼らと協力して謎めいた強敵に立ち向かうという筋書きにも、友情・努力・勝利という冒険譚の鉄則とも言うべき要素がコンパクトにまとまっており、上映時間も約110分と短いため、細かい歴史などの難しいことは考えず手軽に古代ギリシャの世界観に浸れる仕上がりとなっている。
良く言えば王道、悪く言えばありきたりだが、それも全ては主演であるドウェイン・ジョンソンの鍛え抜かれた筋肉が躍動する様を引き立てるために用意された舞台装置であると考えればこれ程相応しい世界観もないのではなかろうか。
●あらすじ
神託によって授けられた12の難行を果たし、多くの怪物を狩った英雄、ヘラクレス。しかし、それらは事実を大幅に誇張して広められた伝説に過ぎなかった。神の子と謳われた男、その本当の姿とは?
紀元前395年、傭兵団の頭目として各地を転戦していたヘラクレスは、トラキアの王女ユージニアから危機に瀕した父王コテュスを助けて欲しいと依頼される。かつて無いほどの莫大な報酬に惹かれたヘラクレスと傭兵仲間たちは仕事を請け、一路トラキアへ向かう。
コテュス王は稀代の英雄の到来を歓迎するが、彼らの置かれた窮状は事前に知らされたよりも遥かに厳しいもので、反乱の討伐に赴いた軍は壊滅、都は村々を追われた難民で溢れていた。
圧倒的な劣勢の中、ヘラクレスたちは僅かに残った寄せ集めの民兵を率いて強大な反乱軍を鎮圧するという困難な任務に挑むことになる。相対する敵の首謀者は妖術使いのレーソス。それはヘラクレスの築いてきた伝説の真偽を、そして英雄としての資質を問う戦いでもあった。
●登場人物
○ヘラクレス
演:ドウェイン・ジョンソン/吹替:楠大典
物語の主人公。大神ゼウスと人間の母との間に生まれた半神で、多くの怪物を狩って12の難行を果たした事でギリシャ全土に名を轟かせる英雄。しかし、その栄光も今は昔。故郷を出奔し、一介の傭兵隊長として仲間と共に諸国を渡り歩いている。
その輝かしい武名は傭兵として名を売るのに大いに役立っており、実際、神の子の名に違わぬ人間離れした怪力を持っている。故に何処へ行っても歓待されるが、本人はそれを有り難迷惑に思っている様子で、ある程度の蓄えができたら稼業を引退して戦乱の無い辺境に隠居したいと口にしている。
また、自身に付いて回る噂については肯定も否定もせずにはぐらかしているが
その中には狂気に取りつかれて妻子を殺したという黒い内容のものもあり、自分自身にも真偽の分からないこの話についてだけは固く口を閉ざし、仲間も触れないようにしている。
古代ギリシャの人物をサモア系の俳優が演じる事に難色を示す声もあったようだが、そこは我らがロック様、他に適役がいるとは思えない抜群の説得力である。
○アムピアラオス
演:イアン・マクシェーン/吹替:辻親八
槍の使い手の老人。一行のブレーン的存在。
アルゴス出身の予言者で、時折意味深な言葉を口にするが、実際に予言が当たっているのか、偶々その内容に近い状況が起きているだけなのかは不明瞭で、仲間たちも話半分に受け止めている。
劇中後半では自分から予言の内容通りに行動して死のうとさえするが、一向に成就しない。
神話でも予知能力を持った武将で、アルゴスのテバイ侵攻の際には自分を含む将軍たちの死を予言し、的中した。
○アウトリュコス
演:ルーファス・シーウェル/吹替:高木渉
アテネ出身でヘラクレスの幼馴染み。ナイフ投げによる遠距離攻撃が得意。
傭兵団の経理ポジションで、仕事の依頼に対する応否も決めている。
一見、拝金主義者のような言動が目立つが、英雄気質の抜けないヘラクレスの良き理解者でもあり、非を問われて処刑されかけた兵士の身元を引き受けて助命する等、情には厚い。
神話ではオリュンポス十二神の一人ヘルメスの息子でゼウスの孫とされる。盗みの名手で、ヘラクレスの冒険の幾つかにも同行している。
○テュディウス
演:アクセル・ヘニー/吹替:烏丸祐一
傭兵団の切り込み隊長。テバイの出身で、二丁の斧を武器に振るうバーサーカーめいた戦士。
普段から気性が激しく言葉も話せないため、仲間でさえその殆ど獣のような凶暴さに手を焼いている。ただ、兵士として訓練を施したヘラクレスにだけは忠実で、弟分的な存在。その人格は幼少期の過酷な経験によって作られたもので、時折過去を夢に見てうなされているが、詳細は誰にも分からない。
神話にはアムピアラオスと同じくテバイを攻めた七人の将軍の一人として登場する
○アタランテ
演:イングリッド・ボルゾ・ベルダル/吹替:林真里花
傭兵団の紅一点。スキタイ(現在のウクライナ地方)出身のアマゾネスで弓の名手。
ファンタジー物におけるこの手のキャラの例に漏れず接近戦も普通に強い。そのため格好がエロい割に仲間の誰からも女扱いされていないし、観客目線でも余りエロスを感じさせない。本人の実力の成せる業と思っておこう。
神話では婚約者の男性と徒競走で勝負し、負けた相手を射殺す女傑として語られている。
○イオラオス
演:リース・リッチー/吹替:平川大輔
ヘラクレスの兄弟の息子。伯父の武功に脚色を加え、神の子の伝説を流布させた張本人。言うなれば傭兵団の広報担当か。
伯父の勇姿に憧れて旅に同行しているが、戦闘には不馴れで足手まといの感が否めない。しかし弁舌の才は確かで、兵士たちを鼓舞し、軍の士気を上げるのに貢献する。
神話でもヒュドラ退治等、多数の冒険に同行している。
○ユージニア
演:レベッカ・ファーガソン/吹替:皆川純子
トラキアの王女。ヘラクレスたちの元を直々に訪れ、仕事を依頼する。
ヘラクレスの伝説については半信半疑のようだが、黒い噂については子を持つ親として思う所がある様子。
○アリウス
演:アイザック・アンドリュース/吹替:阿久津秀寿
ユージニアと先代国王の間の息子で、次期王位継承者。子どもらしく、純粋にヘラクレスの伝説を信じている。憧れの英雄と直々に対面し目を輝かせるが、その英雄の到来によって危機に見舞われる事に。
○コテュス
演:ジョン・ハート/吹替:中博史
ギリシャの東方に位置するトラキア(現在のブルガリア地方)の国王。ユージニアの父でアリウスの祖父。
長引く内乱により国土が荒廃し、民が苦しむ惨状を憂いており、ヘラクレスの到来を喜ぶ。
神話ではなく実在のトラキア王、コテュス1世(在位:前384 – 前359)が名前の元ネタ。
以下ネタバレ注意
今作の真の敵、トラキアを混乱に陥れた元凶。
その正体は冷酷非情な暴君で、虐殺も厭わない過酷な圧政を敷いたことがレーソスの反乱を招いた。元は一介の将軍だったが、ユージニアを先代国王に輿入れさせた後暗殺し、アリウスが成長するまでの後見人という名目でトラキアの王座を得た。その野心は老いても尚留まる所を知らず、エウリュステウスと盟を結んでギリシャ全土を支配する帝国を築こうと目論んでいる。
真実を知ったヘラクレスらに対しては将軍になれと持ちかけ、それが出来ないと分かるや子殺しと罵って叩き出し(一応、ちゃんと報酬は払った)。さらにその一行が戦う姿勢を見せれば捕縛、計画の邪魔となる自分の娘や孫さえ何の躊躇いもなく手にかけようとする。
本性を現してからの悪党ぶりがとにかく卑劣で憎たらしいが、呂布や項羽レベル、或いはそれ以上の豪傑を相手にしても全く動じず、それどころかヘラクレスは只の人間だと言い切り、伝説を真っ向から否定。怖じ気づく配下の兵を叱咤して立ち向かわせている辺り
非常な胆力の持ち主で、将としての技量は本物と言える。
○シタクレス将軍
演:ピーター・ミュラン/吹替:石住昭彦
コテュス王の側近。ヘラクレスの武勇伝に対しては疑いを持っており、何かにつけ嫌味を言ってくる。
鞭が得意武器で、傭兵団の面々にも劣らぬトリッキーな戦いを見せる。
○レーソス
演:トビアス・ザンテルマン/吹替:遠藤大智
コテュスと対立する反乱軍の指導者。邪悪な妖術使いで、占領した地域の住民を狂戦士に変え操る、半人半馬のケンタウロス族を味方につける等、ヘラクレスに劣らぬ人間離れした噂の持ち主。
○エウリュステウス
演:ジョセフ・ファインズ/吹替:桐本琢也
ギリシャ随一の大都会アテナイの王。ヘラクレスの元主君で、遠縁の親戚でもある。
ヘラクレスに絶大な信頼を寄せ、怪物を討伐して帰ってくる彼を国民的な英雄として称えていたが、家族を殺したと聞くや糾弾し、国を追放した。
以下ネタバレ注意
ヘラクレスの家族を死に追いやった黒幕。ヘラクレスの名声が自分の地位を脅かすようになる事を恐れ、薬で昏倒させた隙に妻子を狼に襲わせて殺害した。
コテュス王に負けず劣らずの卑劣漢だが、あちらが仮にも老獪さを見せたのに対し、こちらは自ら真相を暴露してヘラクレスの怒りに火を付けた上、追い詰められて情けなく命乞いするという有り様。自ら墓穴を掘った姿の小者っぷりが凄まじい。
●作中用語
○12の難行
ゼウスの妻ヘラが夫の不義の子へ向けた嫉妬と憎しみを鎮めるためヘラクレスに課された試練。最初は10個だったが後にエウリュステウスが勝手に2つ追加して12になった。ヘラクレス伝説の中核を成す物語だが、この映画は前述の通り自らに付いて回る伝説に翻弄される人間の姿がテーマなので、劇中のシーンに登場するのは そのうちの4つ、しかも内3つが冒頭数分で片付けられ、残りの8つは口頭で触れられるのみという雑な扱い。
一応、エンディングでは実際の試練がどのように遂行されたのかをダイジェストで見せる一種の種明かしが行われているが、それも一部本編の描写と矛盾している。そのため結局の所どこまでが本当でどこからが誇張なのか、その境目は曖昧なままにされている。
○ネメアのライオン
ネメアの谷の洞窟に住む巨大なライオン。怪物夫婦エキドナとテュフォンの息子とも、その息子のオルトロスとの母子相姦による子とも。
その皮は棍棒も矢も通さないほど硬いため、ヘラクレスは三日三晩の格闘の末、馬鹿力でもって締め殺した。これが第一の試練で、ヘラクレスは獅子の皮を剥いで鎧代わりに纏うようになり、以後彼のトレードマークとなった。
しかし映画冒頭に登場した姿はその後の本編で頭に被ってるそれよりも明らかにデカい。
一応、ヨーロッパにはホラアナライオンという現代のライオンよりも大きな種が生息していた。有史以前に絶滅した種だが、洞窟に残る化石から着想を得たという可能性はあるか。
○ヒュドラ
アルゴス地方の沼地に住む9つの頭を持つ巨大な蛇。テュフォンとエキドナの息子でネメアのライオンとは兄弟の間柄。
首を切り落としても直ぐに傷口から新しい頭が生えてくるため、ヘラクレスはイオラオスに松明の火で傷口を焼いて塞がせ、再生を止めることで倒した。またその血には猛毒があり、矢じりにこれを塗って毒矢を作って武器にした。
伝説の中で最も現実離れした存在だが、その正体は[[蛇の被り物をした人間(の集団)>ネタバレ]]である事が示唆されている。
○エリュマントスの大猪
アルカディア地方のエリュマントス山に住む巨大な猪。
捕獲の際は罠に追い込んだとも、素手で捕まえたとも。捕獲した後はヘラクレスが担いで持ち帰ったが、それにビビったエウリュステウスは大甕の中に隠れてしまった。
野生の豚が巨大化する例は現代でも報告例が多数存在するため、伝説の中では比較的現実味のある方か。
本編中盤でヘラクレス一行は民兵たちにこの猪の皮を使ったという新品の鎧を軍に支給するが、その際「どうやって皮を剥いだんだ」と鋭い突っ込みを受け、イオラオスは答えに窮しながらも咄嗟に「何でも切れる剣を使った」と言って苦し紛れだが切り抜けた。
○ケルベロス
三つの頭を持つ巨大な犬。冥界の入り口を守る番犬で、逃げようとする死者や逆に入ろうとする生者を監視している。
ネメアのライオン、ヒュドラと兄弟だが、彼らと違って真っ当に仕事をしている。そのためかヘラクレスも冥界の王ハデスから殺さないという許可をもらって連れ出した。
神話でのヘラクレスはこの試練をもって12の難行全てを完遂し、エウリュステウスの下を去ったというが、この映画では時折、この怪物の姿と共に家族が血を流して死んでいく幻影を見て苦悩している。
その正体は...
三頭の(別々の体を持った)巨大な狼。妻子が食い殺される光景は、毒による朦朧とした意識の中でヘラクレスが実際に目撃していたものだった。
○ケンタウロス
上半身が人間、下半身が馬の姿をした異形の部族。
レーソスの同盟者として反乱軍に加わっていると言われ、戦場でも度々姿が目撃されている。
神話ではヘラクレスと酒を巡って争いになったり、そのとばっちりで賢者ケイロンを殺してしまったり、何かと因縁が深く、最終的にヘラクレスに死をもたらしたのもケンタウロスの一人であるネッソスだった。
その正体は...
その正体は何と言う事も無い、ただ馬に乗っただけの人間。目撃例も遠目に見た姿が人馬一体に映っただけのもの。
元々、ケンタウロス自体、馬に乗る習慣の無かった時代のギリシャ人が周辺の騎馬民族の姿を誇張して描いたのが起源とする説が有力なため、この描写は的を射ていると言える。
<言ってみろ、お前は誰だっ!
<俺の・・・名は・・・Wiki籠りだあぁーーーッ!!
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▷ コメント欄
- この映画見に行ったことあるわぁ、なんか同時期に似たようなファンタジー満載な方のヘラクレスの映画もあったような -- 名無しさん (2020-06-13 18:43:53)
- 神話と史実が上手い具合に混ざってる。日本だと安彦良和のナムジとか神武に近いものを感じる -- 名無しさん (2020-12-13 13:11:14)
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