登録日:2016/06/16 Thu 13:14:56
更新日:2024/01/23 Tue 13:56:42NEW!
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スチームパンクシリーズ ゾンビ 小説 桜井光 ライアーソフト ニトロプラス ポストアポカリプス 外伝 星海社 精神的おねショタ 最悪のif世界 ニャル様の「飽きた」で世界がヤバい 灰燼のカルシェール
ふたり寄り添いながら、すれ違いながら、
死んでしまった世界の果てで最後の場所を求め、旅を続ける――
灰燼のカルシェールとは、PCゲームメーカー・ライアーソフトとニトロプラスのコラボ企画として発表された小説。
人類滅亡後の世界をたったふたりで旅する青年と少女を描いた、いわゆる終末ものである。
◆あらすじ◆
1907年。高度に発達した蒸気機関は文明の灯火となっていた。
けれども、ある日。排煙に満ちる空を引き裂いて超大なねじれた柱時計が――《大機関時計》が落ちてきた。
それと同時に全ての都市で原因不明の災厄が発生。世界人口の9割が失われ、生き残った人間も鋼鉄の異形・機械死人に駆逐されていった。
時は過ぎ。
荒廃した世界を旅するふたりがいた。
ひとりはこの世界にまだ安息の地があると信じる少女。名前はジュネ。
もうひとりは最後の場所を目指す少女に寄り添う青年。名前はキリエ。
互いに想い合い、守りあうふたり。けれど、そこにある命はひとつだけ――
◆概要◆
ライアーソフトが展開しているPCゲームシリーズ、スチームパンクシリーズの外伝小説。
シリーズ本編の設定が物語の大きな基盤となっているが、一応これ単体でも独立した話となっている。
ニトロプラスとのコラボ企画として発表された作品で、ニトロプラスブックスから販売された後で星海社文庫からも文庫化された。
シリーズ外伝作品ではあるが、おそらく入手ハードルがシリーズ中最も低い。
小説本文を桜井光氏が、挿絵etcを漆黒のシャルノスや紫影のソナーニルのAKIRA氏が、付属サントラの楽曲を鬼哭街やデモンベインなどのZIZZ STUDIOと咎狗の血などのVERTUEUXが手がけた。
(※サントラが付いているのはニトロプラスブックス刊行の単行本のみで星海社文庫版には付いていない)
「シリーズ本編のバッドエンドが積み重なった結果がこれだよ!!!」というif世界が舞台になっており、ぶっちゃけどう足掻いても絶望。
設定を紐解けば紐解くほど念入りに人類、というか地球が殺されている。
そんな世界観のこの作品で主題になっているのは「どうすれば世界を救えるのか」「すべての元凶を倒せるのか」といったこと……
……ではない。
この物語で焦点が当てられているのは、とにかく「旅するふたりの関係性」である。
世界を救おうにもすでに人類は回復不能なまでに滅亡しており、元凶を倒そうにも諸々の要因からかなりの無理ゲーとなっている。
この作品は世界を救う英雄譚でも胸躍る冒険活劇でもなく、終わった世界で出会ったふたりがどのような結末へ向かうのかを見届ける物語である。
◆登場人物◆
・キリエ
黒い朽ちかけたコートを纏った青年。
機械の左腕、胴体上部、左脚を状況に応じて異形化させて戦う。
論理性と合理性に振り切れた思考回路をしており、元は人間であるはずの機械死人相手でも容赦がない。
根はとても素直で不器用。
一緒に旅をしている少女、ジュネのことを何よりも大切に思っている。
以下ネタバレ
人類最後のひとりにして地球上最後の生物。
青年の姿をしているが実年齢不明。
年表や半公式同人誌の一節から実は8歳疑惑がある。
どこか幼さを感じさせるほどの愚直さを持つ一方で、年頃の少年のようにジュネを意識している。
6才くらいの頃に避難していたショッピングモールが機械死人に襲われた。
このときにジュネと出会い、ほとんど袋小路の状態まで追い詰められた状況下で「ジュネを守りたい」という強い願いを抱いた。
その願いが世界を破滅させた元凶である悪神・チクタクマンにたまたま聞き届けられた結果、機械死人に対抗しうる唯一の力である機械化した体をチクタクマンから授けられた。
物語開始時点で肉体の7つの部位の内3つが完全に機械化している。
これは一気に機械化したわけではなく、更なる力を与えようとするチクタクマンの誘惑にキリエが乗るたびに変わっていった。
機械化部分の材質は機械死人を構成する金属と同質のものであり、このまま機械化が進むとキリエも機械死人になると思われる。
ジュネと出会うより前のことは記憶領域からほとんど消えてしまっている。
そのため、彼の世界はどこまでも広がる荒涼とした風景と襲いくる機械死人とジュネだけで構成されているようなものである。
ただひとりの仲間であり、家族であり、友人であり、想い人でもあるジュネを「この世界でもっとも美しいもの」と考えて必死に守ろうとしている。
また、あらゆる知識をジュネに与えてもらったこともあって(そして基本的にそれは正しい情報だったこともあって)「彼女の言うことは絶対に正しい」と固く信じている。
好物はスパムの缶詰。嫌いなものはホウレンソウの缶詰とキャットフード。
好き嫌いが激しいのか嫌いな食べ物は積極的に避けようとする。
光彩のない黄色い白目に猫の瞳孔のような黒い瞳(光の加減によって拡大縮小する)があるのみという不思議な右目をしている。
裏設定によるとこれは《大機関時計》が世界に突き立った日に突然変異したもので黄金瞳の一種であるらしい。
一応はその効果も発動しているようだが…。そこには突然のラッキースケベに動揺するキリエがいた。
・ジュヌヴィエーヴ・ナインス
ぼろぼろの白衣を纏った少女。愛称は「ジュネ」。
キリエに色々なことを教えたり身の回りの世話をしたりする姉か母親のような存在だが、その一方でキリエを異性として意識して動揺する年頃の少女のような一面もある。
キリエの体調管理を徹底したり窮地に陥った彼を助けるためにグレネードランチャーをぶっぱしたりする気丈さを持つ。が、基本的にはとても大人しい性格。
絶望的な状況に心が折れそうになりながらも彼の前では柔らかな表情を絶やさないように気を張っている。
以下ネタバレ
正式名称は研究補助用機械人形試作機、R・ジュヌヴィエーヴ・九号機。
世界が終わるより前に《大協会》と呼ばれる組織に作られた女性型の機械人形である。
試験機体として作られた個体で、機械人形としてそこまで性能は高くない。
鋼鉄製の内骨格と神経索で構成された鋼の体を特殊樹脂製の人造皮膚で覆われており、外見的には人間と大差ない。
人間らしい振舞いを自我教育されており、姉妹機からは「最も人間らしい機械人形」と評されていた。
数年前、機械死人に追われる中で幼い頃のキリエと出会った。
そして自ら囮になって彼を助けようとしたが、キリエが機械化したことで難を逃れることになる。
彼女の旅の目的は徹底して「キリエが平穏に生きられる場所を見つけること」で自分自身のことはどうでもいいと思っている節がある。
他の機械人形同様、何よりも優先される命題として「人類の継続」を入力されている。
そもそもキリエを守ろうとしたのもこの命題に則っての行動だったが、知り合ったばかりにも関わらず懸命にジュネを守ろうとするキリエの姿に「この子を守りたい」と強く願った。
後にこの時の感情は誰かに与えられた命題ではなくジュネ自身がそうしたいと決めたことだと回想している。
機械であることをキリエに隠している。
およそ隠し通せることではない…はずなのだが、世界が終わる前のことを記憶しておらず一般常識を失っているキリエに「女の子は異性の前では食事しないものよ」などと教えることで誤魔化し続けている。
そんな自らの行動に嫌悪感を抱きつつも真実を伝えることができないままでいる。
この他にもキリエから向けられる親愛以上の好意や自分がキリエを意識していることについて深く考えないようにしているが……
ジュネの裸をかたくなに見ようとしないキリエに「昔は一緒に入っていたのだしふたりで水浴びしましょうよ」と誘いかけたり、水浴び中に襲ってきた機械死人に「お前には見せない」とキリエが激怒している理由がわからなかったり、そういう意味では少し鈍感に思える描写がある。
なお、随所で浮かべる様々な微笑みが印象的な彼女だが、完全に人間を再現した型式ではないために最大限に笑っても微笑みにしかならないというどこか悲しい設定がある。
・機械死人
終末世界を跋扈する異形。人間の死体を素体として作られた存在。
人間だった頃の記憶の有無については個体差が大きいが、正常な精神を保っているものはひとつも存在しない。例外なく狂っている。
原則としてひとつの都市に1体存在する。自分の領域の命を喰らい尽くすと動かなくなり、その残骸はやがて物理法則の死と呼ばれる現象を引き起こす。
この現象を起こした土地には誰も立ち入れなくなるため、あらゆる命が喰い尽くされて機械死人が次々に朽ちていっている今の状況は人の住める場所が現在進行形でどんどん失われているということになる。
世界を終わらせた存在によってあらゆる物理法則を無視する加護を与えられており、焼こうが貫こうが粉砕しようが圧縮しようが破壊することは不可能。
機械死人を殺せるのは同様の加護を受けた存在の攻撃のみである。
また、機械死人が動かなくなるのは彼らを作った存在がすでにこの宇宙に意識を払おうとしていないから。
もしもその存在がまだこの宇宙に在ったなら他の世界で出現した機械びとのように動き続けていたのかもしれない。人間性を削り取られたまま、意味もなく。
- ビリー・パーシング
過去パートの語り手。合衆国先住民との紛争で軍功を挙げた父を持つ若き軍人。
軍の命令でA国最大の研究組織《大協会》の基幹研究所、ロス・アラモスを訪れる。
友の不可解な死の真相を知るべく《大協会》主宰に誘われるまま黄金螺旋階段を下ったが…
あらゆる意味で人類の黄金比となる肉体を持っていたために国家と文明に尽くす個体として機械死人を作ろうとしていた《大協会》に狙われており、ロス・アラモス訪問も仕組まれたものだった。
最後は黄金螺旋階段を下った先に設置されていた魔術と呪術とその他詰め合わせの狂気の数式に捕らわれて、精神を混乱させられたまま機械死人・タナトスの素体となる。なお友人はビリーをタナトスの素体とすることに反対した結果死んでしまっていた模様。
・どこかで嗤う何者か
直接的には登場しないものの文章の端々で存在を匂わされる。
世界をめちゃくちゃにした張本人。
以下ネタバレ
その正体はクトゥルフ神話で言うところのニャルラトテップ。人類に直接干渉しその様子を観察する悪神・チクタクマンその人。
複数の《大機関時計》を地球に突き立てて終焉の引き金を引いた張本人にして、機械死人を生み出した大本でもある。
窮地に陥ったキリエの呼びかけに応じて彼の視界の端に黒い時計を浮かべさせる。
これを食べると強力な戦闘力を得ることができるが、その代わりに肉体の7つの部位のひとつが完全な機械化を果たすことになる。
世界を終わらせた理由は「飽きたから」。
カルシェール世界はとっくに見切って他の宇宙に移動している。が、キリエのことは暗黒の果てに存在する玉座から観察し、徐々に人間性を失って鋼鉄に変わっていく様子を見て嗤っている。
この作品のラスボスである機械死人・タナトスは彼の信奉者がノリノリで作った産物。
◆用語◆
- 大機関時計
世界が終る際、一斉に世界中に突き建った存在。邪悪の円柱とも呼ばれ、この作品のタイトルにもなっている。
見た目は巨大な時計塔の形をしており、針は常に零時ちょうどを指している。
大きさは最小で数キロメートル以上あり、大小三十三ものこれが、空から一斉に惑星の中心核に達する勢いで降り注いだ。
これほどの質量が落下したにも関わらず落下地点の損害は衝突した物体の破壊のみであり、ジュネはこの時のことを回想してこれは後に言われる「物理法則の死」がすでに始まっていたからだと推測している。
- 終わった世界
世界中に《大機関時計》が突き立ち、その後の物理法則の死によって大地は枯れ、機械死人によって人類はほぼ刈りつくされている。
しかし、世界が終った確定的な要因ははっきりしない。上記にあるように、何者かの思惑によって引き起こしたことはおぼろげに語られているが、その存在が何をどうやって世界を終わらせたのかは分っていない。
僅かな生き残りの記憶は混乱しており、様々な説も立てられたというが、そうした人物はすでに機械死人によって刈りつくされている。
以下、ジュネの記憶の断片
――空を覆う黒い人型。
――白き死の仮面。
――チク・タク。チク・タク。
――嘲笑する黄金の仮面。
――銀色にゆらめく影。
――海底から浮かび上がる朽ちた神殿。
――咆哮。触手。翼。虚空にむせび泣く蛸の異形。
――機械で出来た巨人の群れ。
――砕かれる、無数の戦車と兵隊たち。
――引き裂かれる大地と、真っ赤な血の大河。
――逆さになって頭から地面に埋め込まれた人、人、人。
――悲鳴。懇願。嗚咽。
――誰かがどこかで嗤う声。
――死んでいく街、廃墟と化す都市。
――最後のラジオ放送から響いた教皇さまのお声。
――最後に発行されたTIMESの記事。
――巨大な穴だけ残して消えてしまった、R市国。
――1900年式郊外型ショッピングモール。
――呻き声を上げる機械死人たち。
――刻印された神聖文字。
――赫い血の涙。
――そして、墓標のように惑星のあらゆる場所に突き立った《柱》の姿。
- 物理法則の死
大機関時計や朽ちた機械死人から発生する現象。
周辺の重力と引力を狂わせた後、無機物を形容しがたい粘液へと変える。
一連の事象が終わった後には不毛の空間が残る。
キリエたちが撃破した機械死人からも起こるため、ふたりの旅路は本格的な世界の終わりを早めていることにもなる。
◆小ネタ◆
- ソナーニルに登場するモールの別名は機械びと。
- ソナーニル回想パートでデートに使われた遊園地はロス・アラモス同様フォード系列
- 過去エピソードで登場するビリー・パーシングやF社主宰のビジュアルとプロフィールはスチパンワールドガイド01に載っている
- 《大機関時計》はシリーズ正史世界にもひとつ突き立っていた。が、シャルノス本編終了後のThe Mによって食べられた。まずかったらしい。
- 途中で存在を匂わされたけどフェードアウトした「ローゼンクロイツ」はシリーズ別作品のラスボスである。この方、「シリーズ正史世界では悪役だがカルシェールとは別のif世界では正義の味方」という善人なのか悪人なのか灰色の人である(そしてほぼ確実に人外)。
- ビリー・パーシングの愛読書、マン・オブ・スティールとはスーパーマンのことなのだが、スチパン世界におけるコミック「マン・オブ・スティール」には実在のモデルが存在する。…冷静に考えるととんでもない設定のような気がする。
また、(if世界なので当然といえば当然だが)カルシェール世界の年表とシリーズ正史世界の年表は間違い探しのようにズレがある。
以下、ズレの一部
・1822年
【カルシェール世界】 E国北海にて、探索者R・カーターが行方不明になる。碩学チャールズ・バベッジが失踪。 大碩学エジソン、「最後の文明の始まり」を宣言。 【シリーズ正史世界】 英国北海、探索者ランドルフ・カーターがカダス地方へと通じる≪門の位相≫を発見。 R・カーター、チャールズ・バベッジ、ローラ・ネーデルマン、カダスへ到達。
(カルシェール世界のチャールズ・バベッジはこの数年後に帰還するが、どうやら異星カダスと行き来するための《門の位相》は発見されないままだったらしい)
・1904年
【カルシェール世界】 R市教皇による『灰色宣言』が物議を醸す(12月31日) 【シリーズ正史世界】 小説『フランケンシュタイン、あるいは現代のプロメシュース』がローマ教皇に激賞され、直後から欧州各地で舞台化。 世界の各主要都市、空の隙間の存在の報告が相次ぐ(12月25日以降) ローマ教皇による『太陽発言』が物議を醸す(12月31日)
(赫炎のインガノック本編の時系列にして蒼天のセレナリア本編の2年後。正史世界の年表にシリーズ主人公たちの行動の影響が反映され始める)
また、年表から察するにカルシェール世界にもすべての元凶に真っ向から勝負を挑んだヒーローはいたらしいが、カルシェールの前提条件(シリーズ本編のバッドエンド後)的に彼の復活に必要な物語もバッドエンドを迎えたため……
すべてにおいてジュネを優先し彼女を守るために戦うキリエと、彼のために自分自身すら簡単に投げ出してしまえるジュネ。
そんなふたりの歪で純粋な関係は物語の終盤で大きな転機を迎えることになる。
果たしてその後にも変わらず存在するものはあるのか否か……
追記・修正はジュネおねえちゃんにやさしく叱られたい人にお願いします。
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▷ コメント欄
- 続編あってももう全部終わっちゃってるというのがなんとも。チクタクさんを倒せばなんとか… -- 名無しさん (2016-06-16 21:04:13)
- どちらかといえば前日譚が読みたい。「激痛に泣き叫ぶ幼いキリエをずっと抱きしめていたジュネ」とか「ジュネは下半身を喰われた老碩学に出会って機械死人の情報を聞かされたことがある」とか本編のあちこちに気になる情報が。あと1907年時点でロンドンにいたっぽいジュネがアメリカに渡るまでとか。 -- 名無しさん (2016-06-16 23:53:37)
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