登録日:2015/01/23 Fri 06:39:25
更新日:2024/01/12 Fri 10:25:14NEW!
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ジャイロジェットとは、1960年代初めにMBアソシエイツ社が開発・販売した世界初の(そして今のところ最初で最後の)拳銃型ロケットランチャー。
見た目こそ拳銃だがれっきとしたロケットランチャーであり、発射する銃弾は推進力を持つ正真正銘のロケット弾である。
前説――そもそもなぜロケット弾なのか
諸説あるがロケットそのものが誕生したのは11~13世紀の中国*1とされる。
兵器としての我々の知る形になったのは、第一次大戦後にヴェルサイユ条約で大口径砲の保有数を制限されたドイツのV1とかV2ロケットによる所が大きい。
静音性が暗殺用として丁度よかったのだろう、もちろん当時もサイレンサーもあったが実用に耐えるとは言い切れず*2、ロケット推進式ハンドガンの研究も進めていたようだ。
実用化されたのかどうかは寡聞にして知らないが、この夢のような拳銃は表舞台に出る事はなく、第三帝国の夢と野望とともに露と消え、培った技術やノウハウは連合国が接収。
そして、東西陣営に流出・解析されることでミサイル兵器などが加速的に進化していく………。
と、そんなロケットの銃弾化で見込まれたメリットは3つ。
- 静音化。
装薬の爆発音=推進剤の高速燃焼音だから、発砲音はかなり抑えられる。音については概ね期待通りだったようで、実銃の爆発音を響かせるよりは格段にマシにはなった。
- 射程延伸。
一般的な拳銃と違い、銃弾自らが推進力を持っているのだから飛翔中も加速できるし遠くまで飛べるはず≒射程距離も伸びるのでは?ここでもう少し冷静になっていれば…………。
- 反動軽減。
拳銃は火薬を爆発させた圧力で鉛玉を放り出すときに、射手もその反動を受けてしまう。弾自身が飛んでいくロケット弾ならその反動自体が無くなるはず! これも後に牙を剥く
ではデメリットは?
- 弾の単価が非常に高い。
装薬詰め込んで雷管仕込んだキャップに弾頭はめ込む一般的な弾丸に対し、弾丸サイズにまで小型化したロケット弾では容易に想像ができるだろう。
ようやくジャイロジェットピストルの解説
1960年のカリフォルニア。ここで2人の男が会社を立ち上げる。ロバート・メイナードとアート・バイエルだ。アルトバイエルンは関係ない
社名はMBアソシエイツ。2人のファミリーネームの頭文字をとって名づけた。
彼らが開発したものこそ、本項で解説する『ジャイロジェット・ピストル』である。
なぜジャイロジェットかというと、尾部の2~4つの噴射口がそれぞれ角度付きになっていて、回転することで直進性を上げているからだそうな。
兵器や航空機オタは「ジェットエンジンとロケットエンジンの構造の違い」というのに囚われがちだが
そもそもjetというのは「物質やエネルギーを吹き出すもの」という意味なので
この銃の弾を兵器として分類するなら「ロケット弾」に該当するが呼び名に「ジェット」とついたとしても英語的には何の間違いではない。
本体の見た目は全体的に肉抜き穴が目立つ以外は割と普通の拳銃に近い見た目。
丸い肉抜き穴が多く空いているが、スライドのそれは推進薬の燃焼炎を外に逃すためのもの。
銃身カバー部については不明。軽量化目的かもしれないがその結果「踏んだら壊れる」と言われる程度には脆くなっている。
バレルもあくまで「ロケット弾をまっすぐ飛ばすためのガイドレール」でしかないためライフリングもなく、ただの筒。
まあジャイロジェットピストルの真価は手のひらサイズの携行式ロケットランチャー(爆発はしないが)なので、本体なんぞ弾飛ばせりゃいいやというのはわからんでもないが。
初期型では13mmロケット弾を使用したが、68年の法改正で50口径以上の銃器は「破壊兵器」扱いとなってしまった。
なので後期生産型では12mm(=47口径)ロケット弾に切り替えられている。ついでに後期型ではバレルにライフリングが追加されたが、効果の程は雀の涙だったとか。
チャンバーという概念はなく、装弾数は本体固定式(グリップ内蔵)のマガジンに6発+銃身に1発。
上部のスライド状カバーを引いて給弾孔を露出させ、グリップサイドのマガジンフォロアーを押し下げながら装弾する。
スライドを戻して右側面後方のレバーを上げ、ロックしたら完了。
ハンマーの動作方式も従来品とは全く異なり、トリガー直上にハンマーがあり、ロケット弾先端を叩く。
叩かれて後端を押し付けられたロケット弾は着火し、推進力が十分に得られるまでのわずか一瞬の間押さえ込まれる。
推力を十分得たところで弾がハンマーを押し退けてバレル内を突き進み、外界へと飛び出す仕組みだ。
この過程でハンマーは再度元通りになり、次の弾が下からバネ仕掛けでせり上がってくる。
かつての第三帝国も成し得なかった夢の拳銃を作り、意気揚々と世に送り出したMBアソシエイツだったのだが……
肝心の性能
種別:拳銃(極小型ロケットランチャー)
口径:51口径(Mk.I)、49口径(Mk.II)
銃身長:5インチ(12.7cm)
使用弾薬:13mmロケット弾(Mk.I)、12mmロケット弾(Mk.II)
装弾数:6+1発
作動方式:ブローフォワード
全長:10.88インチ(27.6cm)
発射速度:60発/分
銃口初速:極めて遅い(最終的に381m/s程度まで加速)
有効射程:50m
野心的なロケット銃弾を採用した結果、拳銃として大事な物が尽く犠牲になってしまったのである。
まず致命的なのが初速の遅さ。ロケット弾である以上は最初は遅く徐々に加速していくのだが、その最初は遅くが致命的なまでに遅かった。
速度が遅いということは破壊力が低いという事なのだが、具体的には至近距離では鉄帽はおろかベニヤ板すら貫通し損ねる事があったという有様。
近距離で使用する拳銃としてはこれは非常に致命的だった。
しかし初速が遅いからこそ反動も小さくなっているので、これはもうロケット銃弾の根本的な仕様である。
加速さえすればマグナム弾程度の破壊力は有していたようだ。
次に有効射程50m。これはその辺の拳銃の1.0倍程度の有効射程でありつまり射程延伸の効果はほぼ無かった事になる。
たしかに遠くまで飛んでは行くのだがそれが狙った所に飛ぶかは別。精度が非常に悪かった。
今更ではあるが銃弾サイズとはいえそもそも無誘導ロケットにそんな精度を求める方がおかしい話ではあるのだが、命中精度の低い拳銃なんぞ誰も使いたがらんのも事実。
それなら市販のマグナムオートの方がまだ信頼出来るとなってしまうのだ。
MBアソシエイツもこの辺は不味いと思ったか慌ててバレルにライフリングをつけてみたりしたが、そもそもロケット銃弾の問題なので焼け石に水であった。
こんなジャイロジェットピストルだが、試作品(Mk.0)が米陸軍に試験的に納入され運用テストが行われた。試作品は給弾孔がスライド式ではなく、左側面のローディングポートに押し込む方式だが他の仕様は大体同じ。
MBアソシエイツは軍への採用を夢見ていたわけだが、当然というか案の定というか不採用。
前述の通り至近距離での致命的な破壊力不足が原因。そもそも近距離で使えない拳銃の時点でもうアレなのだが。
その後
軍への採用は駄目だったがMBアソシエイツはジャイロジェットピストルを民間に向け販売。
性能こそ凄惨ではあったが存在そのものが珍しいからかまったく売れないという事もなく、最終的に3,000挺ほど売れたところで生産中止。
当時の本体価格は$100強で本体だけでもガバメントと同じかそれ以上であった。
ちなみに弾のお値段、1発15ドル。7発撃てばその辺の拳銃が買えるお値段で、言うまでも無いが銃弾としては信じられないほど高額である。
ちなみに組み立て式である。こいつを購入して蓋を開けると、出てくるのはバラけた部品である。
プレス成形の左右貼り合わせ式モナカ割りで、各種部品を組み込んだ後にはめ合わせ、ネジ止めして完成。
夜店の景品でもお目にかかれないレベルのネジ止めである。
モ ナ カ 割 り で ネ ジ 止 めである。
しかもネジはホムセンで売ってる安い奴で、銃身付近のはさらにそれをざっくりぶった切ってサイズ調整したもの。
当時のブリキのおもちゃですらもうちょいマシな仕上がりであろう。
そんなのがガバメントと同じか、あるいはそれより高いくらいのお値段で店頭に並んでたのだ。そりゃ誰も買わんわ。
また派生型として、バレルを延長しストックを装着したライフル仕様とカービン仕様がある。
カービン仕様はAK-47っぽいストックがついた感じのデザインで、どことなく猟銃チック。
ライフル仕様はキャリングハンドルが付き、M16のようなデザイン。あれ、仕様名称逆では?
残念ながら弾の方が問題だったので銃のほうを改良してもどうにもならなかった。
当然というべきか、これら派生型の生産数は極めて少ない様子。
登場作品
『007は二度死ぬ』にてタイガー田中(演:丹波哲郎)が使用。日本の諜報組織の秘密兵器……らしい。
クライマックスのシーンでは忍者部隊の一部がカービン仕様を使用。NINJA!?NINJAがカービンナンデ!?
また、こち亀でも両津が使用したことがあるが、初速がアホ低いせいでロッカーに跳ね返されるシーンがある。
あと『真・女神転生2』(と登場銃器がほぼ同じif)にもちゃっかり登場してたりする。他にもうちょいメジャーな珍兵器があっただろうに……
1980年代に書かれたライトノベル『緋牡丹警察2-O』にも登場。警察が分割民営化された日本で、ヤクザの娘にして民営警察の社長であるヒロインが使用。「カ・イ・カ・ン」とは言わない。
余談
ロケットハンドガンなんぞこれっきりかと思いきや、意外や意外、米軍で絶賛研究中だったりする。
2025年をめどに研究中の『フューチャー・ウォリアー』計画なるものの歩兵携行火器部門らしい。
ヘルメット内蔵のFCSでロックした相手に、ガントレットめいて装着した15mm4連装ロケットポッド、あるいは同口径携行型ロケットガンから
ヒートシーカー内蔵15mmロケット弾を発射するという実に近未来臭漂うシロモノである。
さらにこの武装(ウルトラ・ライトウェイト・デュアル・ムニッションズ・ポッド・ウェポンというそうな)、4.6mmフルオートガンも仕込まれているという。
しかもウルトラ・ライトウェイトの名に恥じず、ガントレット状と言っても肘関節手前までしかないので関節可動に支障はなし、ガンタイプも大型ピストルに毛が生えた程度のストックレス仕様。重量も現状の試作型で約2.8kgと極めて軽量。
技術の進歩かあるいはアメリカ軍脅威の技術か、もしかしたらジャイロジェットピストルの後輩が生まれる日も遠く無いのかもしれない。先輩だと言うには性能が違いすぎるが
追記・修正はロケットランチャーを拳銃サイズに小型化してからお願いします。
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▷ コメント欄
- 後半が忍殺語ナンデ? -- 名無しさん (2015-01-23 09:28:23)
- 弾が火を吹いて飛んでいくって両さんも評してた(派出所でぶっ放して) -- 名無しさん (2015-01-23 13:58:38)
- 徐々に加速していく為至近距離ではヘルメットすら貫通出来ず、遠距離では精度不足で当たりもしない。つまりこの銃の有効射程とは××メートル以上××メートル未満というピンポイントのエリアを指す。 -- 名無しさん (2015-01-24 03:06:05)
- こいつも基礎技術さえ追いついてればって感じの武器よな。発想自体はかなり面白いんだよなー。 -- 名無しさん (2015-01-24 05:54:47)
- なんだ英国じゃないのか(偏見) -- 名無しさん (2015-01-24 17:13:34)
- ↑2コレを完全に実用化してるのがポリスノーツ(小島作品)のリフトガン。無重力低重力の宇宙では無反動の方が使いやすい。あと古いコロコロコミックの漫画(小学生の刑事物)で主人公(小学生)でも扱える銃としてジャイロジェットガンが登場してた。(弾はショック弾) -- 名無しさん (2017-06-10 00:01:54)
- 報告にあった違反コメントを削除 -- 名無しさん (2022-01-18 23:22:40)
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*2 サイレンサー自体非常に大きくとても嵩張るもので、弾速を亜音速に抑える必要あり、貫通力がガタ落ちしてしまう
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