登録日:2009/06/09(火) 23:53:01
更新日:2023/08/18 Fri 10:37:26NEW!
所要時間:約 21 分で読めます
▽タグ一覧
劇場版 劇場版ポケットモンスター ポケットモンスター 映画 アニメ ポケモン ラティオス 衝撃のラスト 神曲 涙腺崩壊 こころのしずく 湯山邦彦 犠牲 兄弟愛 絆 魂 おとぎ話 自己犠牲 生贄 アニポケ 隠蔽 搾取 不遇の名作 嘘予告 心 キス 受難 先祖 釈由美子 園田英樹 最終作 ビターエンド 共依存 鬱展開 ボーイミーツガール メリーバッドエンド 東宝 時代が追いついた olm ラティアス カノン 水の都の護神 ヴェネツィア アルトマーレ ゴンドラ coba 神曲のオンパレード 宮沢和史 ひとりぼっちじゃない アコーディオン 青い水の星 ゆめうつし ダブスタ 推しポケモン映画ナンバーワン 犠牲の上に成り立つ平和 邪悪な怪物 防衛 神田うの グッチ裕三 早すぎた傑作
むかし、むかし、アルトマーレという島に、おじいさんとおばあさんがいました。
ある日、二人は海岸で、小さな兄妹がケガをしているのをみつけました。
二人は、おじいさんとおばあさんの手厚い看護で、みるみる良くなっていきました。
しかし、突然、邪悪な怪物が島に攻めてきたのです。島はたちまち怪物に飲み込まれました。
と、その時、おじいさんとおばあさんの目の前で、兄妹の姿がみるみる変わっていきました。
二人はむげんポケモン、ラティオスとラティアスだったのです。
二匹は空から仲間を呼び寄せました。彼らは邪悪な闇を追い払う力を持ってきてくれました。
それは、『こころのしずく』という宝石だったのです。
島には平和が戻りました。それからというもの、『こころのしずく』があるこの島に、
ラティオスとラティアスたちは、しばしば立ち寄るようになりました。
この島が、邪悪な怪物におそわれることは、その後、二度とありませんでした。
───冒頭より抜粋
……おとぎ話には続きがあるって言ったでしょう?
「おじいさんは『こころのしずく』の力を、この島を、永遠に護るために使うことにしました」
つまり、『こころのしずく』のパワーを利用する装置を人間が作り出した。
これはその使い方を記したものってワケ。
●目次
◆概要
『劇場版ポケットモンスター 水の都の護神 ラティアスとラティオス』とは、2002年7月13日に公開されたアニメ映画。
『ポケットモンスター』映画第5作にして無印最終作。
同時上映は『ピカピカ星空キャンプ』。
カスミのニョロゾがニョロトノに進化しているため248話以降の話になるが当時の本編はフスベジム→ヨーギラス編→ジョウトリーグという流れのため、映画マップにおいてヒワダタウンの真南と設定されたアルトマーレには本編の展開上寄り道出来ないことから本編とは矛盾が生じる。
ポケモン映画で初めて実在の都市をモデルにした街を舞台とする。
本作の舞台となる「アルトマーレ」のモデルはタイトル通り“水の都”の通称を持つ「ヴェネツィア」。
みなさんも、このアルトマーレで素敵な時間をご一緒しませんか?
『ルギア爆誕』のような美しい映像が特徴だが、こちらはCGをふんだんに使用している。
音楽に至っては日本アコーディオン奏者の第一人者であるcoba氏を起用するという力の入りっぷり。
アコーディオンを主体とした本作のBGMはアルトマーレの街並みの雰囲気と見事にマッチしており評価が非常に高い。
実際、ミュージックコレクションにプレミア価格がつくほど。
特に『謎の少女、再び(迷宮)』や主題歌の『ひとりぼっちじゃない』は人気が高い。
さらに後者は映画の結末と密接にリンクした内容の歌詞となっており、カタルシスを得られること間違いなし。
▷ 音楽にまつわるトリビア
- 冒頭のおとぎ話の朗読シーンにかかるBGM『伝説』は、早送りすると『ひとりぼっちじゃない』のメロディーになる。
- 『謎の少女、再び(迷宮)』はcoba氏の1stアルバム『シチリアの月の下で』*1に収録された『花市場』という曲とよく似ており、この曲が元ネタになったのではと言われている。
- 『ひとりぼっちじゃない』にも元曲があり、coba氏が作曲した『most decision』という曲に宮沢和史氏が歌詞をつけたものである。こちらは『運命のレシピ』に収録。
- さらに『ひとりぼっちじゃない』は、映画版とシングル版で歌詞が一部異なっている。
- ラストシーンで使われたBGMの名前は『カノン』である。
テーマはおそらく“兄妹の絆”。
ラティアスとラティオスの仲の良さ、兄妹愛の深さについての描写は素晴らしいの一言に尽きる。
一方で作品に散りばめられた設定の数々を注意深く見てみると、美しさの裏に隠されたアルトマーレの負の側面も垣間見えるようになっている。
まさに光と影そのものであり、それが作品にさらなる深みを与えたと言っても過言ではないだろう。
そもそもタイトルにも使われている「護」の字にはただ単に守るだけでなく、「かばう」という意味合いも含まれている。
内容を考えると、この時点で色々暗示的と言える。
▷ 湯山監督のメッセージ
『世界中の子供たちに“心のしずく”を届けたい』
街が傷ついた時、そこに住む人々の心も傷つくでしょう。なぜなら、街は全てが人間の意志のもとに造られた、そこに住む人々の心の形だからです。
そして、ポケモンも、子供達の夢想が具現化したひとつの心の形なのです。
そんな二つの心の形が出会った時、何が生まれるのか?それが今回のポケモン映画の大きなテーマです。
舞台として選んだのは、ベネチアをモデルとした水の都「アルトマーレ」。
街中にはり巡らされた水路と空中庭園には、たくさんのポケモンが生息し人間達と共存している……
ポケモンと人間の夢が形になった世界です。
その世界を支えているのは、実は、そこに住む生き物達の目には見えない様々な心の形なのです。
そんな、目には見えないけれど大切なものを、スクリーンの中で形にして、お届けしたいと思っています。
*2
また、物語の舞台、アルトマーレ(Alto Mare)を直訳すると「高い海」となる。
名前の由来はヴェネツィアで起こる、街が冠水するほどの高潮「アクア・アルタ(acqua alta)」、あるいは満潮を意味する「alta marea」からであろう。
神秘的で詩的な響きの美しい名前であるが、内容を考えるとかなり皮肉の効いた名前となっている。
本作は歴代の中でも高い人気を誇ったものの、なぜか興行収入が当時としては歴代最低となってしまった。
この低迷ぶりに、配給元の東宝からは「来年悪かったら終わりだ」と怒られたとか……*3
現在は『光輪の超魔神 フーパ』と『ボルケニオンと機巧のマギアナ』、『劇場版ポケットモンスター ココ』が本作の興行収入を下回ったため、歴代ワーストの立場ではなくなっている。
この興行収入はポケモン側も懸念したようで、次回作からはポケモンを引き換えられる前売り券を考案することとなる。
しかし多くの人の心に残る作品になったのは確かで、歴代ポケモン映画の人気投票企画「推しポケモン映画ナンバーワンは キミにきめた!」で堂々の1位を獲得。
『劇場版ポケットモンスター キミにきめた!』を記念する深夜特番での放送が決定した。
さらに2021年の「ポケモン映画ナンバーワン決定戦!イッキ観オンライン上映会」の旧無印部門でも1位を獲得。
改めて根強い人気を持つことが証明された。
そして公開から20周年を迎えた2022年、「夏の思い出ゲットだぜ!25周年ポケモン映画祭」にて投票上位3作に選ばれ、8月11日~8月18日までのリバイバル上映が決定した。
海外では『Pokémon Heroes: Latios and Latias』のタイトルで公開され、怪盗姉妹がロケット団のメンバーだったり、冒頭のおとぎ話がばっさりカットされているなどの違いがある。
ポスターをよく見ると、ラティアスの模様がラティオスと同じになっている。公式絵とかと比較してみよう。
◆ストーリー
“水の都”と呼ばれる美しい街「アルトマーレ」へやって来たサトシ一行。
早速サトシとカスミは街の一大イベントである水上レースに参加し、カスミは見事優勝を納める。
レース後、優勝のお祝いとして同じくレースに出場していた青年ロッシのゴンドラに乗せてもらい、
“水の都の護神”として伝えられているポケモン“ラティアス”と“ラティオス”についての伝説を聞く。
一方その頃、怪盗姉妹として名を馳せるザンナーとリオンがアルトマーレに現れる。
彼女達の目的は、アルトマーレに伝わる大秘宝『こころのしずく』の奪取だった。
しかしこれによって隠された封印が解かれた時、町は滅亡の危機に見舞われる……!
◆主な登場人物
CV:松本梨香
ご存じ主人公。
遂にポケモンとフラグをぶっ立てちゃったお方。
CV:飯塚雅弓
ハナダのおてんば人魚。
見事水上レースで優勝する。流石は将来のハナダのジムリーダーと言ったところか。
CV:うえだゆうじ
元ニビのジムリーダー。
ラストのあれはどちらでも羨ましいようである。
ムサシ(CV:林原めぐみ)、コジロウ(CV:三木眞一郎)、ニャース(CV:犬山犬子)
いつもの3人組。
コジロウはザンナーとリオンについて知っていた。
今回はサトシ一行と関わらない上、ただ被害に巻き込まれるだけと扱いが酷い。
また、今作から劇場版恒例の彼らによる締めが廃止されてしまった。残念な人もいるとか。
しかしお約束が廃止されたことで、ポケモン映画史に残る名シーンが生まれたのも事実である。ロケット団は犠牲になったのだ……
- カノン(Bianca)
CV:折笠富美子
本作のヒロイン。絵を描くことが好きな長身の美少女。その人気は『ルギア爆誕』のフルーラに匹敵する。
祖父と共に秘密の庭と『こころのしずく』を守っており、ラティアスとラティオスとも仲が良い。
中の人は後にカロス地方のチャンピオン、カルネを演じる。
また、予告編では歴代のヒロインでも異例の早さで登場。
サトシ・ピカチュウと共に古代装置に立ち向かっていたり、古代装置を介さないと扱えないはずの『こころのしずく』の力を発動させている描写が見られる。
出典:劇場版ポケットモンスター 水の都の護神 ラティアスとラティオス予告編 製作:OLM、配給:東宝、製作年度:2002年
- ボンゴレ(Lorenzo)
CV:グッチ裕三
カノンの祖父のゴンドラ職人。
暇なときはアルトマーレの大聖堂でガイドもしており、そこでサトシ達と出会った。
さらには秘密の庭と『こころのしずく』を守る一族の末裔と、何気に設定盛りだくさんである。
彼の古代装置に関する説明は作品を見た後だと、絶妙な言葉選びで、非常に含みのある言い回しをしていたことが分かる。なお、額に炎を灯して「リッボォォォオンッッ!!!!!!」と叫んで全裸になったりはしない。
- ザンナー(Annie)
CV:神田うの
怪盗姉妹の姉。金髪。
宝石や金品が大好きなナルシストで、なかなかのシスコン。
手持ちに懐かないと進化しないエーフィがいる、妹が強大な力を手にしたことで変貌していく姿を見て戸惑いを覚えるなど、根っからの悪人ではない模様。
しかし結局、『こころのしずく』への執着を捨て切れなかったことから破滅への引き金を引くことになってしまう。
手持ちはエーフィ。
- リオン(Oakley)
CV:釈由美子
怪盗姉妹の妹。銀髪。
姉と違って金品や宝石への関心が薄い代わりに、野心が強い。
好奇心も強いらしく、『こころのしずく』そのものよりも、むしろそれに秘められた力やおとぎ話の隠された続きの方に興味津々だった。
そして古代装置を掌握して圧倒的な力を振るうが、その力に魅入られすぎた結果……
手持ちはアリアドス。
- ロッシ
CV:山寺宏一
水上レースの先代チャンピオン。カスミが優勝した際に餞別としてゴンドラに乗せてくれるなどイイ人。
水上レースのパートナーはホエルコ。
◆主な登場ポケモン
CV:大谷育江
我らがマスコット。
サトシとラティアスが出会うきっかけを作った。
CV:こおろぎさとみ
(ry
CV:大谷育江
カスミとパートナーとして水上レースに出場し、見事優勝を飾る。
CV:小西克幸、三木眞一郎
大聖堂の床に使われていた化石から、古代の装置によって甦ったポケモンたち。
復元方法が違うため、通常の個体より体が大きい。
化石からポケモンを復元するのはゲームでもおなじみだが、アルトマーレでは『こころのしずく』の力が大きいとはいえ、古代から既にその技術が確立していたようだ。
ただ白目しかないあたり、使い手の問題かどうかは不明だが、自我はほぼ存在しないものと思われる。
リオンに命じられてラティアスをつけ狙うが、事件解決後は化石に戻る。
もしラティアスが捕えられていたら、兄のエネルギーが切れたときのスペアにされていたのかもしれない……
なお、この作品のキャッチコピーは「“心のしずく”が、伝説のポケモンを呼びさます」だが、実際に呼び覚ましたのはこいつらである。
- [[ラティアス>ラティアス]]
CV:林原めぐみ
本作の真のヒロイン。ポケモンにして萌えモン。サトシに“懐く”のではなく“好意”を持っちゃったポケモンでもある。
ラティオスの妹で、共に“水の都の護神”と呼ばれ、秘密の庭を住処にして『こころのしずく』を代々守っている存在。
心優しく好奇心旺盛な性格で、カノンの姿に変身して街を散策することもある。
彼女との区別の方法は、帽子をかぶっていないことと、言葉をしゃべらないこと。
変身とステルス能力の他に、ラティオスが見ているものを周囲の人に見せる「ゆめうつし」の能力を持つ。
怪盗姉妹に襲われたところを助けてくれたサトシのことを気に入り、秘密の庭へといざなう。
この一連の流れは名曲『謎の少女、再び(迷宮)』もあって、本作屈指の名シーンである。
しかし冷静に考えると、この行動がアルトマーレの存亡を司るものが存在する場所に敵を招く決定打となっている。
その結果、街は壊滅の危機に陥るという、“水の都の護神”にあるまじき大失態をやらかしていることになるが……
彼女のおかげで本作は名作たり得たので、あまり責めないであげよう。
色的に中の人がマネージメントしてる白猫を彷彿とさせる。
- [[ラティオス>ラティオス]]
CV:江原正士
本作最高の漢であるポケモン。ラティアスの兄。共に“水の都の護神”として『こころのしずく』を守っている存在。
最初はラティアスに招待されて秘密の庭にやって来たサトシ達を侵入者と勘違いして襲撃するが、誤解が解けた後は一緒にはしゃぎまくる。
その後怪盗姉妹の襲撃から妹をかばい、『こころのしずく』の力を引き出す鍵として捕らわれの身となるが、「ゆめうつし」でサトシ一行にアルトマーレの危機を伝える。
本作は劇場版5周年記念作品ということで、それまでの作品で主役を飾ったポケモンたちがアートとしてどこかに登場する。
探してみよう。
ちなみに劇場配布特典のジャンボカード「ラティアスとラティオス」の技「ひかりのみちびき」は、
「自分のコレクションしているカードの中から、上のイラストの丸の中にいるポケモンを好きなだけ選び出し、ベンチに出す。(ベンチに空きがなくても出すことができる。)」
という、上記の4種のポケモンを文字通り好きなだけ出せるトンデモ性能だった。
もちろん公式戦使用不可。
アバンにちらっとだけ登場。ある意味この作品の真の主役かもしれない。
例のアニメ騒動以降、アニメシリーズには全く登場していないが、今回の件で劇場版のアバンでなら登場できるという事を証明した。
以降のシリーズでポリゴン族はアバンでほんの一瞬だけ登場する事になるが、如何せん小さすぎてわからない。わかりやすい位置にいるのは後にも先にこの作品だけである。
◆キーアイテム
- 『こころのしずく』(Soul Dew)
『こころのしずく』は、二匹の涙なの*4
はるか昔、今のラティアスとラティオスの先祖がアルトマーレに授けたという伝説の秘宝で、秘密の庭にある噴水の中に祀られている。
アルトマーレの平和を護る大きな力を秘めているが、基本的にラティオス達しか扱えない模様。
一方で、秘密の庭の石碑に刻まれた“本当の使い方”によると、大聖堂の装置を介すれば人間もその力を扱えるとされる。
ただし、悪しき心を持つ者が使用し続けると濁っていき、最終的に装置を暴走させてしまう。
予告では「二匹の危機に『こころのしずく』が、秘められた街の力を呼び覚ます」と言われているが、悪の手に落ちたことから、さらに危機に晒してしまっている。
普段は秘密の庭の水の流れを維持する役割を担っており、噴水の台座からなくなると流れが止まる。
つまり、秘密の庭から水の流れが失われた時は、悪用されるにせよ街の防衛に使うにせよ、アルトマーレに非常事態が迫っているということになる。
ゲーム内では彼らの潜在能力を引き出す力を持っており、ラティアス・ラティオスの特攻・特防を1.5倍に上げるという壊れ性能。
あまりに強力すぎるため、対戦やバトル施設では使用不可だった。
が、第七世代から「ラティアス・ラティオスのエスパー・ドラゴン技の威力を1.2倍に上げる」効果になって解禁されるという何とも反応に困る調整がなされた。
▷ 以下余談
ちなみにこれとアルトマーレの関係は、ナポリにある城塞『卵城 (Castel dell'Ovo)』にまつわる伝説と非常によく似ている。
卵城の基礎部分には古代ローマの詩人、ウェルギリウスによって護符となる卵が隠されている。
その卵は水に満たされたガラスの水差しに入れられ、さらに強固な鉄篭に入れられ厳重に守られており、卵が無事である限り城は安泰とされていた。
しかし卵が壊れると城はおろかナポリも滅びると言われている。
卵→『こころのしずく』、卵城→秘密の庭、ナポリ→アルトマーレと置き換えることが可能であり、実際にモデルにしたのかは不明だが非常に興味深い。
- 古代マシーン(Defense Mechanism of Alto Mare)
我々の先祖は、『こころのしずく』に秘められたパワーを、ラティオス達を“使って”引き出す装置を作り上げた。
この島を、護るために……
大聖堂の一角、太陽の塔内部に鎮座する巨大な装置。
大聖堂自体は何度か改装工事がされているが、この装置だけは初めから同じ場所にある。
その正体は、人間が『こころのしずく』の力を利用できるようにするもので、アルトマーレをあらゆる外敵から永遠に護るために作られた。
おとぎ話のおじいさんがこの力の用途を決め、カノン・ボンゴレの一族の先祖がこれを作ったのだという。*5
街を封鎖したり、化石ポケモンを復活させたり、運河の水を自在に操ったりと、性能はチートそのもの。
おまけに初めてこれを使用したリオンが手足のように扱えた辺り、UIも非常に優秀なことが窺える。
しかし……
この装置は『こころのしずく』の力をラティオス達を“使って”引き出すとされるが、それはすなわち、彼らの生命エネルギーを奪い動力源にすることである。
早い話、XYの最終兵器、ORASのムゲンダイエナジーなどと同じような仕様。
つまりアルトマーレとこの一族は、ラティオス達と深い絆を持つ一方で、護ってもらった恩を仇で返すとも取れる形で平和を維持していたという歴史を持つことになる。
大聖堂と太陽の塔は、彼らに感謝の気持ちをこめて作ったというが、よりによってその建物の中にこれを建造してしまうあたり業の深さを感じさせる。*6
さらに使い道を誤ると、アルトマーレを護るどころか破滅へ導く極めて剣呑な代物。
そのため、秘密の庭の石碑には、おとぎ話の絵本の原型と思しきレリーフや装置の使い方だけでなく、警告とも予言とも取れる文が刻まれていた。
悪しき者が『こころのしずく』を使う時、こころは汚れ、しずくは失われるだろう。この島とともに……
大聖堂でガイドをしているボンゴレが「平和のために作られたものらしいのですが、その使い方はわかっていません」と言葉を濁したり、
おとぎ話の装置関連の記述が秘匿されたり、石碑の図解がバラバラに並べ替えられたりしている辺り、その実態は極秘か黒歴史扱いされていることが窺える。
「平和のために作られた」という言葉のイメージとは真逆の苛烈な仕様の数々。
まさにアルトマーレの暗黒面を象徴する存在と言えるが、かつてはそれだけ「邪悪な怪物」の再来が恐れられていたことの証だろう。*7
さらにラティオス達が島内に一匹も飛来していなければ起動すらできないという仕様を考えると、使用するには彼らに街や人間に対しての愛情と信頼があること前提になってくるはずである。
そういう意味ではアルトマーレと彼らの深い信頼関係を表しており、本作の事件以前まで平和を維持し続けた功績は本物であると言えるだろう。
が、永遠の平和を願い作った物が、結果的に新たな「邪悪な怪物」となってしまったのは皮肉以外の何物でもない。
また、おとぎ話の「邪悪な怪物」については正体不明であるものの、機械的な模様をした津波のような姿で描かれており、暗示させるものはある。なお、石碑の文字は楔形文字らしきもので記されているが、リオンのPCの翻訳ではキリル文字をアルファベット順に並べただけだったりする……*8
ちなみにラティオス達は邪悪な闇を追い払ったという伝説からか、アルトマーレでは太陽と結びつけて描かれることが多い。
彼らに感謝の気持ちを込めて建造された建物の名前は太陽の塔。その中にある防衛装置を起動するための生贄の台座にも、太陽の文様が刻まれている。
そして設定画によると、起動前の装置を上から見ると太陽の形になっているという……
▷ 以下余談
巨大なシステムを作り上げることで島を護ろうとしたアルトマーレ。
現実のヴェネツィアでも、高潮による水没の危機を防ぐために、アドリア海の3カ所に可動式の防波堤を建造する「モーゼ計画」が進められている。
構想のきっかけとなったのは、1966年に起きた194センチの歴史的高潮による大きな被害だった。
工事は本作公開の翌年に当たる2003年から開始され、2023年9月に完成予定。現在は最終段階のテストに入っている。
しかし自然の脅威を相手にした計画であったり、莫大な予算がかかることから、これまで完成は度々延期されている。
さらに安全性や環境への影響などが危惧されていることから、まだまだ課題は山積みと言ったところ。
◆映画終盤
古代の装置を操るリオンからの数々の攻撃をかいくぐり、何とか太陽の塔にたどり着いたサトシとラティアス。
装置は悪事に使われた影響で暴走を始めており、エネルギーを吸収する3つの輪の中に取り込まれていたラティオスは命の危機に瀕していた。*9
ラティアスが輪の動きを封じている間にサトシたちはラティオスを救助し、装置を止めることには成功した。
しかし、悪用された『こころのしずく』は限界まで濁りきっており……
「触っちゃいかん!」
ボンゴレの叫びもむなしく、うっかりザンナーが触れたことがトドメとなり、『こころのしずく』はついに粉々に弾け飛んでしまった。
これにより、爆発時の衝撃で吹き飛ばされたザンナーはリオン共々装置の操縦席に閉じ込められ、力を失ったはずの装置が再び暴走を始めた。
そして…… アルトマーレ全土の水路から、この星が大声で泣いているかのような凄まじい轟音を上げながら水が引いていき、水平線の向こうから未曾有の大津波が襲いかかってきた。
悪しき者、『こころのしずく』を使う時、こころは汚れ、しずくは消える。この街とともに……
ボンゴレがつぶやいた、秘密の庭の石碑の一文。
それは、おとぎ話の真の結末でもあったのだ。
封印を解かれた真の結末が牙をむく中、人間たちはもはやどうすることもできない。
ラティアス、ラティオスは街を護るべく、最後の力を振り絞り津波へと飛び立った。
二匹の体はまばゆい光に包まれ、一撃で津波を食い止めることに成功する。
かくして、水の都アルトマーレを襲った大災厄は鎮まったのである。
◆ネタバレ
しかし、津波が治まった後も光は消えない。その中で、ラティアスは兄の様子がおかしいことに気づく。
ラティオスの体が、異様なまでに透き通っている。
ラティオスはまるで別れのあいさつでもするかのように手を差し出し、妹がそれに応えると、そのまま光の柱となって天に昇っていった……
アルトマーレの水路には水が戻り、いつものように平和な朝が来つつあった。
目を覚ます人々、装置の中でケンカする怪盗姉妹。
……その直前まで島が存亡の危機にあったことや、取り返しのつかない犠牲が払われたことなど露知らずに。
明け方、海で二匹を捜索するサトシ達の姿があった。
ラティアスは海のポケモンたちが発見してくれたが、ラティオスは見つからない。
カノンがラティアスにラティオスの居場所を問うと、ラティアスは空を見上げた。
街を救ってくれたラティオスは光とともに消え、もう帰ってこない。
あまりにも重すぎる事実が突きつけられたその時、ラティアスの目が突然光り出す。
最後の「ゆめうつし」が始まったのだ。
「お前が見せてくれているんだよな……ラティオス!」
そこに映し出されたのは……果てしない宇宙の闇の中に輝き、全ての命を分け隔てなくはぐくむ「青い水の星」*10。
「青い水の星」はだんだんと遠ざかり、サトシ達を覆っていた光の球体はやがて収束し……失われたはずの『こころのしずく』がカノンの手の中に収まる。
「ゆめうつし」が終わった後、『こころのしずく』は秘密の庭の噴水に納められた。
『こころのしずく』が光を放つと、噴水は再び水を噴き出す。
「この光、あったかい……」
「ああ……」
「世界で一番きれいな光じゃ」
「ずっと、この街を護っていてね、ラティオス……」
つまり、『こころのしずく』の正体とは、ラティオス達の魂そのものだったのだ。*11
新たな『こころのしずく』として生まれ変わったラティオスは永遠に、アルトマーレを護り続けていくことだろう……
▷ 『こころのしずく』とアルトマーレ、EDの考察
これを踏まえると、先代の『こころのしずく』は、「邪悪な怪物」との戦いで犠牲を出す形で“持ってきてくれた”のではないか?という推測が成り立つようになる。
もしこの推測が正しければ、先代の『こころのしずく』は、犠牲になった後も長年街を護ってきたのに、最後は魂すら穢され滅ぼされるという、あまりにも悲惨な末路を辿ったことになる。
事実、おとぎ話では仲間を呼びに行った兄妹が「邪悪な怪物」が倒されるまでの間、なぜか濁った『こころのしずく』のような姿になっているという不気味な描写も存在する。
さらにつけ加えると、後述の理由により、先代の『こころのしずく』=おとぎ話の事件直後に授けられた『こころのしずく』でない可能性もある。
また、古代の装置のシステムを考えると、ラティオス達はこの島を護るために生命力ばかりか、魂だけになっても利用され続けることになる。
つまり、おとぎ話の時代以降のアルトマーレの平和は徹底的にラティオス達の犠牲に依存する形で成り立っていると言える。
事実、一族はサトシから怪盗姉妹について警告された時、心配こそすれど何の手も打っていない。
その後秘密の庭が襲撃された際、二匹はステルス能力を完璧に対策した怪盗姉妹の作戦の前に完敗、ラティアスを逃がすのが精いっぱいだった。
彼らの力を過信していたと言われても仕方ないだろう。そもそも普通の人間に攻撃を軽々とかわされてる時点で相当マズい
最後のカノンのセリフも、よく見ると感謝の言葉でなかったあたり、一族のスタンスが窺える。
また、前述の推測通りだった場合、一族の先祖は『こころのしずく』の正体を知っていながら装置を開発した可能性があり、その建造場所も考えると……
実態をひた隠しにしたがるのも無理はない。
そしてボンゴレや一族の先祖は、『こころのしずく』が濁るとどうなるか知っていた。
このことから、本作の事件以前にも似たような事件があり、『こころのしずく』の喪失=新たな『こころのしずく』を生み出すための犠牲が繰り返された疑惑すら浮上する。
実際、海の水が引いた時に遺跡らしき建物が見えるシーンが存在しているのである。
EDでは、(悪用されたとはいえ)あれだけの災厄と悲劇を引き起こしたにも関わらず、装置が修復工事されている描写が見られる。
しかも工事の指揮を執っているのは、この事件の一部始終を目の当たりにしていたはずのボンゴレ。
彼は先祖の遺志をそれでも遵守し続けるのか、今まで通り古代の謎として扱うのか、あるいは隠し続けていた負の歴史を明かし、それを伝える意味で残すのか。
歴史的に重要な展示物である以上簡単に撤去はできないだろうが、もしその後も使用し続けるとしたら、この街が抱える問題は何も改善していないことになる。
こうなると、ラティオスが『こころのしずく』として戻ってきたということは、街の構造の犠牲になりながら、結局それを存続させる後押しになってしまったとも取れるようになってくる。
ちなみにアルトマーレは設定上ヒワダタウン南方の海に位置し、周囲に何もないという、無防備な地理的配置となっている。
一方元ネタのヴェネツィアは、イタリア半島とバルカン半島に挟まれた内海の最奥に位置し、湿地帯のため侵入が困難など、国防という意味では恵まれた立地だった。*12
アルトマーレがあそこまで極端な防衛策に走ったのも、こうした地理的な問題があったからなのかもしれない。
さらに付け加えると、怪盗姉妹はEDにて逮捕される描写があり、相応の罰を受けた……
ように見えるが、直後のカットで平然としているばかりか、『ルギア爆誕』の悪役ジラルダンを新たなターゲットに定め脱獄を実行したという、すっきりしない展開が待っている。*13
この二作は個人の行きすぎた欲が破滅を呼び寄せる展開が共通しているが、彼の場合は世界規模でそれを引き起こしており、いわば姉妹のスケールをそのまま拡大したような存在。
転んでもただでは起きない怪盗姉妹らしいが、リオンの性格も考えると、さらなる事態の悪化もあり得るだろう……
このように本作の結末は、犠牲を払いつつも最悪の事態を回避したとはいえ、EDでこれからも負の歴史が紡がれ続けることが示唆されており、かなり不穏なことになっている。*14
それだけに、後述のラストシーンと、どんな苦境でも希望を失わないことの大切さを高らかに歌い上げた主題歌『ひとりぼっちじゃない』が輝きを放っていると言える。
ぶっちゃけると、新たな『こころのしずく』と化したラティオスが妹に宛てたメッセージそのものの歌詞である。
実際、本作を観た方で、後味が悪かったと感じる人はあまりいないだろう。
まさに闇が深いほど、光も強く輝いて見えるものなのである。
コメント
最新を表示する
NG表示方式
NGID一覧