「こんなの̻無意味だ。■■してもしなくても、結果はかわりやしないじゃないか」 「だからこそするんだよ、それでも意義は残るんだから。」 |
寒いな。この時期の青くて澄んだ空は綺麗だけど、身を切るような風だけがどうも好きになれない。
だもんで手をこすったり震えながら近くの木にもたれかかってたら婦人がこっちへやって来た。
寒そうにしてるのを見かねたのか、ホッカイロを手渡しながら尋ねてくる。温っけぇ……。
「これを。……ところで、あなたはどなたかしら?」
「どうも。自分はえっと旧友……の息子です。知らせを聞くのが遅くて、間に合いませんでしたけど。」
「なるほど、親孝行ですのね。……間に合わなかったなんてことはありませんよ、今花をお持ちしましょう」
「花は持参してきてますからお気遣いなく。ただ、別に数枚、彼と昔作った楽譜を持ってきたのですが」
「もちろん構いませんわ。彼、音楽が大好きですもの」
「ありがとうございます。ええ、自分もよぉくそれは知ってますよ。」
第一から第三までなぞってから、楽譜も花もみんな箱に閉まってしまった。幻の歌もいよいよ覚えてるのは俺だけになるか。ずっと近くに居てたものだから、もう顔も合わせられないのはどうしても少し寂しく感じてしまう。
半音ズレてるとか、テンポが遅いとか、歌詞のセンスないなってやいのやいのやってたのも、これでみんなお終いか。
……やり残しは数えきれないなあ。借りも山ほど踏み倒しやがって。もっと取り立ててやるんだったかな、まあでも、どうせうまいこと誤魔化され煙巻かれてたような気がしなくもない。
「さて、これからどうしたものか。」
なんとなく独り言したけど、腹は最初から決まってる。日が出ているうちは眠るにゃ早い。
だから代わりに、空と昇る煙にまたなと手を振った。
青い空とあいつの煙に手を振った。
+-エピローグ的なもの
「その、口ずさんでるのが例の?」
「おっとボーっとしてました……これは失礼を。それでええ、まあこれがそうですね」
「お気になさらないでください。ただ、その歌、教えていただけませんか?」
「わかりました。では、のちほど。」
「お母さん、その歌って誰の歌?」
「それはね……あれ、えっと……。誰に教えてもらったんだったかしらね……」
「よく口ずさんでるのに。変なのー」
「あはは、そうね、変なお母さんね。」
「でもその歌は好きだよ。あたしにも教えて?」
「いいわよ。ピアノのほうへ行きましょうか」
歌は継がれる。
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