「僕が売ったモノで誰かを始末する時は、僕の事を考えながら殺ってね」
水底再音という商人がダイバーに武器を売った時は必ずこの台詞を吐くらしい。初見のダイバーは引き気味に会話を終わらせるか、彼女を非難してその場を後にするという。一部では魔女とも揶揄される彼女だが、今回初めて彼女が任務の担当商人になる私は、その言葉の真意が気になっていた。
「……なんでそんな事させるかって?それ僕にわざわざ訊くかい?意地悪だなぁ」
悪戯な様子で毒づいた彼女は少し考えだしたが、少しするとまた口を開いた。
「自然に感謝って言うだろ?」
言葉の意図を理解できない私を置き去りにして彼女は続ける。
「草木は茂り、小鳥は鳴き、川はせせらぐ。そして僕は君たちと取引をして、君たちは誰かを始末する」
指揮棒を振るようにリズム良く言葉を続けると、最後に彼女は「わかる?」という風なジェスチャーを私に向けた。
「自然の成り立ちさ」
そうして芝居掛かったセリフを言い切ると、腰に手を当て、したり顔で私の目を見つめた。
「えーつまり……、人のやり取りも自然の一部でね。だからそれを当たり前のものにしないために、その都度僕を思い出して感謝をだね……」
いかにもたった今話を考えたかのような歯切れの悪さに、私が釈然としない顔で曖昧に肯定の返事をすると、俯きがちな僕の視界に割って入ってきた。
「君、僕に興味があるのかあい?」
咄嗟に返す言葉が無かった。勿論、興味が無いといえば嘘になる。
「でも君今回で出撃3回目だろー?違う事考えながら戦うのはおっかないぞ?」
彼女の忠告に対して真剣に思案する私を再び置き去りにして、彼女は機関銃のように話を続ける。
「ま、いいんだけどねえ僕はどっちでも。君たちのやり方にあんまり口出すと怖い人に怒られるし?僕の売り物でえ、君たちが秩序を少~しでも拡げてくれれば、僕は満足さ」
そう言うと彼女は限りなく嘘らしい顔で笑った。そして舌の根も乾かないうちに、煙草を一本恵んでくれと言ってきた。私が箱から紙巻を一本取り出して渡すと、彼女は火を点けず手で弄び始める。
「へへ。さんきゅ!代わりにこれあげる」
それは一見してただの紙片のようだったが、彼女によれば紙片を所持しながらダイブする事で夢界で対応した道具を所持した状態で始められるのだという。
「瓶詰の夢。ほんとは紙片は個人取引してないんだけど。内緒だよ」
そう言うと彼女は先ほど渡した煙草を口の前で立てて"他言無用"のジェスチャーに見立てる。そしてその紙巻のフィルターではない方を私の口に突っ込み、「またね」と言い捨て逃げ去るようにその場を去っていった。
彼女の一種のミステリアスさが私の関心を惹くのは簡単な事だった。
私は次の取引も彼女を指名するつもりだ。私の内にある興味と関心の元を探るために。
おそらくは、その次も。あるいはそうさせる事こそが、彼女の魔女と呼ばれる所以となる、魔力なのかもしれない。
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