Collector and Mercenary and Sometimes Warmonger

 

「なあ、レイ」

現代風の鎧に身を包んだ女が狙撃銃の光学照準器を覗き乍ら、すぐ隣のレイと呼ばれる女に語り掛ける。
二挺の拳銃を得物としレイと呼ばれる彼女の名は、鴉羽麗子という。

「なんだい」
レイは双眼鏡を覗き乍ら、ぶっきらぼうに返事をする。

「やつら、いつ顔を出すと思う？」

レイが少しうんざりしたように問いに答える。
「またそれかい。宇蘭。そんなに急ぐなら、私が行って皆殺しにしてきてやるって言ったろ」

現代風の鎧を纏った女の名は織笛 宇蘭という。フリーの傭兵ダイバーである以前にクオリアの蒐集家として知られる彼女は、夢界では錆付いた夢界用外骨格の姿をとる。

宇蘭がレイの返事に更に言葉を被せる。
「だめだ」

「なんでだ」

「それこそ"またそれかい"って感じだよ。レイ。お前がやると"ぐちゃぐちゃ"にするだろ。それがいただけない」

その言葉を聞いたレイが深い溜息を吐く。
「お姫様の仰せのままに」

「今日も皮肉の出ること出ること」

"蒐集家"宇蘭が戦場に出る目的は一つのみだ。それは、夢が外殻を喪失し核のみを残し結晶化した存在"クオリア"を入手する事である。

「クオリアを綺麗に摘出するには、私のライフルで急所を一撃で吹き飛ばすのが確実さね」

「当てられればな」

「優しい言葉に涙がでるなァ」

数秒の会話のうちにも風向き、気温、そして人の動きは刻一刻と変化する。最高の瞬間を見逃さんと、乳繰り合いのさ中にも照準器と双眼鏡から目は離さない。

「レイ。もう一度、悪夢の特徴を教えてくれないかい」

「ほいよ。えっとなあ……。『赤いシルクハット、白いタキシード、光る靴』なんだこりゃ。赤いシルクハットって言ってもたくさんいるぜ」

それぞれが集団の中にいる一人を指して話す。
「あの黄ばんだタキシードは白に含まれるのかねえ」

「光る靴ってのは電飾か？それともあのテカテカのやつがそうなのか？情報が適当なのはいつも通りだな」

それぞれが照準器と双眼鏡で現場の状況を再確認する。情報の特徴に適合する標的は大勢いる。だが一撃で親玉を仕留めない限りは乱戦は避けられないだろう。

「もう面倒だ宇蘭。適当に弾いちまえ」
弾く、とは引き金を引いてしまえ。という意味である。

「他の奴に気づかれないかな？」

「どうだかな。ほれ。あの集団から外れてる奴からだ」
レイが標的の一体を指示する。それに従い、宇蘭は照準器の倍率を八倍に合わせ、呼吸を止めて引き金を絞る。

銃弾は標的の左胸に着弾し、背中側に真紅の放射模様を描いた。

「……ハートショット。ヒット。うつ伏せに倒れ込む。ちょっとズレてんじゃねえか」

「うるさいよ」

「まだ終わってねえ。ヘッドショット。エイム」
おそらくは息をしている標的を確実に仕留めるべく、二射目の指示を出す。

宇蘭が再び息を深く吸い込む。

「ファイア」
宇蘭がレイの指示で二度目の引き金を絞る。銃弾は吸い込まれるように標的の頭頂部に着弾し、血飛翔と共に赤いシルクハットを中空に散らす。

「ヘッドショット。鴨撃ちだぜ」
一先ずの狙撃成功にお互いの拳を小突く。

「あぁ。だが……」
狙撃した標的は敵対者ではあるものの、標的とした人物では無かった。悪夢を斃した手応えが無かったからだ。

「奴の仲間に気付かれたかな？」

宇蘭の予感は的中し、仲間が狙撃された事に気づいた何名かが、崖上の二人に向けて短機関銃を乱射する。何発かが二人の狙撃ポイント脇の岩を掠める。レイがどこか楽しげに宇蘭に交戦の合図を叫ぶ。
「撃ってきやがった！」

「さあ、てんやわんやだ。プランBは？」

二挺の拳銃で適当に応戦し乍ら素早く答える。
「"できるだけ地獄に送り届けてから、死体を漁る"」

「結局いつも通りだねぇ。私は場所を変えて援護するが、現場はお前一人でやれるのかい？」

レイは宇蘭の問い掛けを鼻で笑い飛ばす。
「へっ。あんたが上手くやりゃ、こっちは朝飯前だってんだよ」

狙撃銃と拳銃をかち合わせ、お互いの持ち場へ移動する。

その後の出来事は、それぞれの口頭によって語られるのみである。鴉羽麗子はこの時の事をこう語る。「完全に無駄な労力だった。私に最初から全部任せときゃあ、万事うまくいったものを」と。反対に織笛宇蘭は「繊細な任務にあいつを連れて行ったのは間違いだった」と語っている。

この話の最後には、それぞれがそれぞれに失敗の原因があるというオチが必ずつく。しかし、二人ともこの話をするときには、なぜか少し楽しそうな表情をするのだった。