ロッカと織田は、すっかり静かになった村を進んだ。村人は皆、蠅にような化け物に変化したからだ。彼ら村人が見た目だけ耕していた畑はすでに死んでおり、井戸も見た目ばかり手入れされているようで実際には枯れている。
少し進むと上で対岸に見えたものより小さくこぢんまりとした礼拝堂が見えてくる。礼拝堂の外装には星印の装飾がされている。世界樹のシンボルマークとは異なる意匠だ。
- ロッカ「お話だと籠を探せばいいんでしたっけ?」
「誰も居なさそうっちゃ居なさそうですけど、軽く中も一応見ておきますか」 - 織田「そうだな。教父に関するもんも出てくるかもしれねぇし」
そう言って織田とロッカは表門の前に並んで立つ。巨大ではないにせよ、それなりには大きな扉が閉じられている。
二人はお互いがお互いを一顧すると、扉に掌をつけて力を込める。すると、扉は金具を軋ませ、埃を舞い散らせて徐々に内側に開いていく。もはや長い期間この扉が使用されていないであろう裏付けである。
二人はさらに力を込めて扉を押し開こうとするが、半端なところで可動しなくなってしまった。織田とロッカは仕方なく、開いた隙間から礼拝堂の中へ足を踏み入れていく。
建物内は外観と比べれば整頓がされており、書物などはきちんと本棚に収められている。さらには照明器具などが置かれているわけではないというのに、薄暗い程度に留まっていた。
織田とロッカが周囲を観察すると、すぐに違和感に気が付く。礼拝堂の最奥で、こちらに背を向けて祈りの姿勢をとる人影を確認した。
ダイバーとしての経験則から湧き出る緊張を制御し、声を絞って状況を整理する。
- ロッカ「先客か、はたまた主人がいらっしゃるようですよ」
- 織田「世界樹を信仰してる奴らとは別みたいだな」
「アイツの言葉を借りるなら、"まともな奴"」
祈る人影が男性の声で話す。
- ???「あぁ、なんということ。どなたかが絵画を夢源で満たしたのですね」
- ロッカ「聞こえましたか」
「正気で、しかも何かを知ってる言い方でしたよ、今の」 - 織田「あぁ、俺にも聞こえた。話を聞く必要がありそうだ」
ロッカは織田に浅く頷くと、生み出した糸を繭のように張り巡らせ、姿を隠した。少しして繭に亀裂が走ると、人間の五体を持つロッカが排出されると、シスター服を軽くはたいて立ち上がる。
- ロッカ「血と腐肉に塗れているのは、些かドレスコードに反するでしょう。織田さんもその包帯、解かれては?」
- 織田「……確かにそうだな」
ロッカの忠言に素直に従い、織田はダイバー体を解除する。
二人が戦闘状態を解いたあと、静寂に包まれる礼拝堂内で、祈りを捧げる人物が、ほっ、と溜め息を吐く。
- ???「皆が神、我が友よ。貴女が約束を違えたとは思いません。これは非常事態なのでしょう」
人物はよくよく見れば、聖職者然としたローブを纏っているのが見てわかる。
ロッカは男を刺激しないように、ゆったりとした足取りで接近する。
- ロッカ「こんにちは」
「すみません。勝手に入らせてもらいましたが、ご勘弁を」 - ???「構いません」
- ???「構いません。私もそうすべきだと」
- ロッカ「ありがとうございます」
「それと、立て続けに不躾な質問で恐縮ですが、少し……人をお尋ねしてもよろしいでしょうか」
何も答えない男にロッカは続ける。
- ロッカ「……さっき見かけた人たちは、どうも言葉が通じなくて、ほとほと困り果てていたんです」
- 織田「異教に傾倒した教父と、その教父を唆した人物を探している、んです」
「……何か知りませんか」
男は、頭上の印に顔を上げて言葉を発する。
- ???「……神託を……受けていました」
そう言って男は、緩慢に立ち上がってロッカと織田に向き直る。
- ???「今は、何も聞こえない」
厚手のローブと目深なフードにより、男の肌は殆ど隠されているが、僅かに覗く顔や手首の肌は焼死体のように黒く焼け焦げ、発生している亀裂の内では残り火が燻っているのが見える。
ロッカの直感は、この男とは会話が成立しないのではないかと告げていた。
- ロッカ「ええっと……。ではオズ、という言葉に聞き覚えとかは……」
- ???「我が友の名を口にする者と話すのは久しぶりです」
「ご用件は礼拝ですか?」 - ロッカ(やっぱり会話が成立しないタイプか)
「はい、下の谷でその名と信仰を聞きましたものですから、少し関心を持ちまして」
「誰かにかの神への教えを乞うのと、その祈りを、と」
ロッカは社交辞令を終えると咳払いをし、本題に近づける。
- ロッカ「しかし、あなたは今その神のことをご友人と仰られました」
「それにはどのような背景があるのでしょうか?」 - ???「…………ああ、物語をご所望の方ですか。では話して差し上げましょう。お急ぎですか?」
- ロッカ「そうですね、まだやり残しが多いものですから。今は少し急ぎで聞かせていただけると助かります」
「全てを終えたら、そのときにちゃんとまた」
ロッカの言葉に男が頷く。
- ???「よろしい。では掻い摘んでお話しましょう」
「わたくし……、聖職者アルタイルの生きた時代に彼女はいました」
アルタイルと名乗った男は、饒舌に続ける。
- アルタイル「彼女は、人の手の及ばないあらゆる技法に精通しており、万病を癒し多くの民を救いました」
「しかし、権力者の目に留まり、従属を命じられると、彼女はそれを拒みました。
「やがて彼女は、魔女と称されるようになりました」
「彼女と親交のあった私は偽証を強要され、それを拒否すると処刑されました」
「そうして夢のみが身体を離れ、彼女の世界で生き続けるのです」
「今は浄化を待つのみ」
ロッカは考えを巡らせ、アルタイルの話を噛み砕いてから尋ねる。
- ロッカ「ふむ。浄化とは?」
「あなたは夢のみになってなお、穢れが残っているのでしょうか」
「で、あるならば取り払うべき穢れとは?」 - アルタイル「絵画はやがて腐るもの。その前に焼き尽くさねばならないのです」
ふむ、とロッカは顎に手を沿える。
- ロッカ「下層の蠅や枯れ木のように、ですか」
「しかし絵画が失われればあなたもその火に巻かれてしまうのでは?」 - アルタイル「世界が終わるならば、必然的に」
「しかしどこにも居場所の無い者たちにとって、暖かな火で迎える終焉はむしろ望ましいことなのです」 - ロッカ「……ふむ、なるほど。……お話ありがとうございました」
「私達は外から来て外に帰る存在ですから、ここの宗旨には馴染めないかもしれません」
「けれど、それでもいずれあなたがたに安らかな眠りがあらんことを。心から願います」
ロッカは、そう言って丁寧にお辞儀する。
- アルタイル「その気がないのなら、早くお帰りなさい。私はこれより教父様にお会いします」
- ロッカ「はい、失礼しま」アルタイル「会って殺します。そして私が浄化を成すのです」
- 織田「突然物騒だな!」
- ロッカ「えっめっちゃテンション上げますね……??」
- 織田「えーと、わた……。あぁもう面倒だ!」
織田は苛立ちを露わにして敬意を払うのをやめ、アルタイルの前に立つ。
- 織田「俺たちも教父に話がある。それに今浄化されると俺らも巻き込まれて困るんだよ」
「だから少し待ってくれねぇか?それが終わったあとなら煮るなり焼くなり好きにしてくれていいからよ」 - ロッカ「おっ……おぉぅ……」
ロッカは説得が送れた事も含め、双方のテンションに完全に置いて行かれ、精神的に右往左往する。
- アルタイル「?……ああ、あなたもなにかにのまれているのか」
「異教か、あるいは他のなにかか」 - ロッカ「えっ?えっえっ?」
- 織田「だとするならどうするんだ?俺らだって手荒な真似はしたくない」
「お前が少しここでジッと待ってればお互い損は起きねぇんだ。わかるか?」 - ロッカ(終わった)
(戦いの準備しよ)
織田の言葉に、アルタイルは分厚い教典を手に取る。
- アルタイル「まあ、よろしい。とっくり時間を掛けて説教したいところですが」
「今回は適度に揉んでお引き取り願いましょう」 - 織田「……警告はしたからな」
織田は包帯姿のダイバー体を展開し、格闘の構えを取る。
- ロッカ「嘘でしょお……」
「一応連れなので、すいませんが……」
ロッカが申し訳なさそうな声色でそう言うと、急激に下半身が肉塊のように膨張し、破れ、ダイバー体に変化する。
- ロッカ「私も後ろから大人しく見てるというわけにはいかなくなりました」
- アルタイル「何人で来られても、構いませんよ」
アルタイルはそう言うと、左手で術を使い霧状の水銀を発生させ、正面の空間に停滞させる。
続けて教典を開くと、参照された頁が紅く光輝き、柱ほどの直径を持つ魔力のレーザー、奔流を発射した。先の水銀を円形に掻き分けて直進する奔流を、ロッカは生成した糸で落下軌道をコントロールする事により回避する。しかし奔流は放たれたまま横薙ぎに振るわれ、その予測軌道上には織田がいた。
織田「くっ!」
身体を固めて防御姿勢を取る織田を、ロッカの糸が強引に移動させる事により、奔流を辛くも回避する。
しかし、それによりロッカ自身の回避行動に狂いが生じ、返す刀の奔流が僅かな時間だが直撃する。ロッカは被弾により床に墜落するが、受け身を取って体勢を素早く整える。が、側頭部が大きく抉れている。
- ロッカ「っつぅ……。これ痛いですね、相当」
- 織田「うおっ!それ大丈夫か……?」
- ロッカ「もう一発は微妙ですけど動けないわけじゃないです」
「それより、あなたの担当は前に突っ込むことですからちゃんと歯食いしばっておいてくださいよ!」
ロッカがそう言うと、喪失した側頭部の肉がもこもこと再生していき、頭部の形を取り戻していく。
- 織田「わかってる!」
織田が果敢に格闘戦を試みると、アルタイルはそれに反して奔流を停止させる。そして肘を畳むと、接近戦に対応した型で奔流を再度放出する。
- 織田「そう簡単に、当たってやるかよ!……っと!」
錐揉み状に飛び込み、奔流を紙一重で回避した織田は、アルタイルの懐に肉薄する。
奔流の死角に飛び込まれたアルタイルは冷静に戦術を切り替えに掛かるが、初動の速さには織田が数枚上手であった。長身のアルタイルの懐で、織田は気合いを溜めて熱い息を吐く。
- 織田「歯ァ食いしばりやがれ!」
アルタイルの対策よりも数段速く織田の突きは彼の腹部に突き刺さり、衝撃によって落ちてきたアルタイルの顎を狙って正確に拳を打ち上げる。およそ人体からはしない乾いた破砕音がアルタイルから響く。
アルタイルは織田に対して何かしらの対策を講じるべく、左腕を伸ばした。しかし、これは一対一の戦いではなく、ロッカがカットに入るのは自明の理であった。
- ロッカ「悪いことするお手手は食べちゃいましょうね」
ロッカははち切れんばかりに破顔すると、口角は実際に裂け、人体の擬態顎は圧力に耐えきれずに脱落する。そこから鋭い牙を持った蜘蛛の口が顔を出し、アルタイルの左腕に齧り付く。アルタイルはさも何事も無さげに左腕を強引に振ると、引き剥がされたロッカは後退し、抉った肉を何度か咀嚼すると、ぺいっ、と吐き出した。
当のアルタイルは、痛みを感じないのか、据わった目で二人を見比べる。
- アルタイル「……あなたたちのような者でも神はお救いくださいます」
「あなたたちの神ではありませんが」
すると、織田の腕を左手で掴む。抵抗はするが、凄まじい膂力で固定され、引き剥がす事ができない。
- 織田「なんだ!」
- ロッカ「良くない事です!」
ロッカは再び織田の援護に突撃するが、アルタイルが右の教典から奔流を放ち牽制する。
- 織田「離せよ!この野郎……!」
- アルタイル「お聞きなさい……」
織田を自分に引き寄せると、アルタイルは耳元で誰も知らない言語を囁く。
- アルタイル「██.████.████.」
- 織田「なん──」
それは異国の言葉で紡がれた古い警句であり、"一か所に停滞するべからず"、という意味を持つ。
すると、織田の身体は一瞬で光り輝く粒子と化し、その場から消失してしまった。
それを目撃してか、ロッカの攻撃は苛烈さを増し、奔流によって末端の脚が破壊されようが構う事はなく、アルタイルと攻防を繰り広げる。
そうしているうちに、霧散した織田の粒子がアルタイルの目の前に集まり、再び織田として再構成される。当の織田は、ぎゅっ、と強く閉じていた目をゆっくりと開き、目の前の攻防を目の当たりする。
- 織田「な……」
- ロッカ「はやく!」
- 織田「な、何が起こったか良く分からねえが…チャンスには違いねぇなっ!」
織田はアルタイルに拳を叩き込み、アルタイルが大きく後退した事で攻防は中断される。
アルタイルは織田を据わった半月状の目で織田を見る。
- アルタイル「……おかえりなさい」
- 織田「何処に行かせようとしたかは知らねぇが、帰って来てやったぜ」
- アルタイル「左様ですか」
アルタイルは傷付いた身体を見ると、目を伏せ、無言の祈りを捧げる。すると、逆再生されるように爛れた肌以外の戦いの傷が修復されてゆき、ロッカに齧られた左腕も元通りの姿となる。
そして、その効果はロッカにも及んだ。
- ロッカ「……あら?」
元通りに修復された脚を見て、ロッカは目をぱちくりとさせる。
- ロッカ「ご親切ですね。あくまで排除対象は織田さんだったり?」
アルタイルは、自身の修復箇所を撫でながら、ロッカを流し見る。
- アルタイル「神は平等に癒しを与えてくださいます」
勝負は一旦仕切り直しで、妙な静寂が続く。
そして、それを破ったのは、織田だった。セオリー通り格闘戦の間合に飛び込んだところで、強烈な突きを放つ。
だが、アルタイルはその行動を見切っていた。
- 織田「てんめぇ……!」
尋常ならざる膂力で織田の腕を掴み取り、彼が読めるように教典を開く。
- アルタイル「不遜なる者よ。聖書をお読みなさい」
「物語になぞらえて罰を与えればあなたの罪は拭われるでしょう」
「故に今からあなたの頭部に奔流を撃ち込みます」
アルタイルがそう宣言すると、織田に開かれた頁の文字が紅色に淡く発光する。
- 織田「……物騒すぎる懺悔だな!おいっ!」
織田も激しく抵抗するが、力負けして抜け出す事ができない。
- ロッカ「ダメですよー!」
奔流が射出される瞬間、その向きは直上に逸れ、天井の構造物を破壊する。
ロッカが展開した子蜘蛛たちが、一斉に網糸を教典へ投射し、奔流の軌道を天井へと逸らしたのだった。
- ロッカ「……そんなことしたら、もっと織田さんの頭悪くなっちゃうかもしれないじゃないですか」
- 織田「もっとは余計だつーの!」
ロッカの援護の隙に、織田も拘束から抜け出す事に成功する。
その事により、アルタイルの優先順位はロッカに移行し、お互いがお互いの攻撃の間合に入った。
- アルタイル「腕白ですね。少し修道院の子供たちを思い出します」
ロッカとアルタイルは力比べのようにお互いの腕を掴み合うが、単純な膂力であればアルタイルに分がある。
- ロッカ「元気な子だと大変なんですよねぇ。ちょっと気持ちわかりますね。……こんな風に!」
ロッカは不意を突いてアルタイルの腹に低空の蹴りを見舞う事で、不利な力比べを拒否する。
- ロッカ「……お腹蹴ってくる子とかもいたりして」
アルタイルは、ほとんど体勢を崩さないまま、僅かに後退する。
- アルタイル「そうですね。絶対に女の子にやってはいけませんよ、と教育せねばなりません」
- ロッカ「言って聞かせるのが中々骨なんですよね」
ロッカは掴まれるのを警戒し、距離を取り直す。
- アルタイル「体罰は最後の手段です」
「それは、子供たちが他者に修復困難な加害を加えたときなど」
「……しかしあなたは私の庇護すべき子供たちではありません」
「死になさい」
再び教典に光が集まり、奔流を射出する。
- ロッカ「うふ、結構楽しくなってきましたよ」
ロッカは、奔流の軌道を遮るように周囲の瓦礫や机を投げ飛ばしつつ駆け回った。
- ロッカ「案外避けられるものですね」
「あなたの頭に少し血が昇ってるせいもあるでしょうけど」
回避に専念するロッカの傍を、織田が抜けていく。
- 織田「冷静じゃねぇおかげでこっちは攻撃しやすいわけだが!」
「なっ!!」
再びアルタイルの不意を突く事に成功した織田は、強烈なアッパーをアルタイルの顎に打ち込む事に成功する。さらに体幹が崩れたアルタイルの膝裏を踏み抜き、ついには膝をつかせる。
- 織田「ロッカぁ!」
- ロッカ「はぁい。……いただきます」
ロッカの蜘蛛の顎がこれ以上ないほどに開いたかと思えば、アルタイルの内蔵を大きく抉り貪る。
その直後、噛み千切り、噛み砕き、ゆっくりと嚥下した。
が、まだ足らぬとばかりに、他の部位にも手を付け始め、本格的に捕食を開始する。
アルタイルの頭部がごとりと転がり、生首として正しい向きで地面に立つ。
- アルタイル「あら、負けてしまいましたねぇ」
ロッカと織田は、アルタイルを行動不能にする事に成功した。
バラバラ粉砕され、鉱石の欠片のようになったアルタイルの身体が、音を立てて振動する。
- アルタイル「復活には少し時間がかかりそうですね」
- 織田「不死身かよ、コイツは……」
- ロッカ「んっぐ、むぐ……」
「ふはぁ……。大体炭でしたけどお腹空いてるときは何でもおいしいものですね」
「申し訳ないですけどしばらくそのままじっとしておいてください」
「私達なりの、事情がありますから……」
生首だけのアルタイルは、穏やかに微笑む。
- アルタイル「いやはや。これでまた、教父様にお会いするのに少し時間が掛かってしまいます」
「責任を取って、あなたたちが代わりに教父様を殺してください」 - ロッカ「私達がそれを必要だと思えばそうするかと思います」
- 織田「殺すにせよ殺さないにせよ、これでようやく教父に会いに行けるわけだ」
「……無駄に手間取らせられたがな」
普段物腰柔らかなアルタイルが、じろりと織田を見る。
- アルタイル「こちらの台詞です。あなたは礼儀を学ぶべきだ」
- 織田「そういうお前は物分かりを良くするべきだっての」
- ロッカ「いやあの説得はないです」
「織田さんが全面的に悪いですよ」 - 織田「はぁ!?なんでだよ」
「俺はちゃんと説明も説得もしたし、警告もしたじゃねぇか」 - ロッカ「それだからダメなんですよ織田さんは」
「実質おっきい子供ですからね?」
「……まあこれ以上言うとまた拗ねて隅っこで床いじいじするかと思うので」
そう言ってロッカは立ち上がり、アルタイルの身体を頭部と引き離す。
- 織田「何で俺が悪いみたいになってんだよ……。腑に落ちねぇ……」
[三番目の殉教者アルタイル] アルタイルは現在の聖夢想教会、その源流の一つである古い聖職者の一人であり、現代では聖人のひとりとして知られる。不死の魔女の盟友でもあった彼は、異端として処刑されたのちも夢だけはこの絵画世界に残り、友を信じて暖かな終焉を待ち続けた。絵画世界に残る魔女の信仰は彼が護る旧礼拝堂に僅かに残るばかりだが、そこに籠る彼を住民たちは異端と揶揄した。 |
- アルタイル「礼拝堂の裏手にある籠で上に上がれます。では、よい狩りを」
アルタイルはそう言い残し、砕けた手首から先に頭を乗せて移動してゆく。
- ロッカ(埋めた方がいいのかなあ)
アルタイルの案内通りにロッカと織田が裏手に回ると、古びた昇降用の籠が設置されている。
- 織田「おい、これちゃんと動くんだろうな……」
- ロッカ「行きはよいよい帰りは……って」
二人が話をしていると、昇降機は謎の動力で動き始めた。観覧車のように、等間隔で巡る籠にタイミングよく乗り込み、織田とロッカは谷底から上がっていく。
アルタイルの話が正しければ、崖の対岸にある礼拝堂に辿り着く事ができるはずだ。
この古びて緩慢な動きをする昇降機に揺られる時間は、二人にとって休まらない休息の時間となった。
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