二日目になった直後の真夜中の0時過ぎ、三人の仕事用の共同連絡先にノスから連絡が届いた。
☒ From Nitrous Oxide System(NOS) 認可のお知らせ ☆6:21 |
メンバーのみなさま。 夜分遅くにすみません。 明日(というか今日)10:00に奇書院にアポイントメントを取っていますので、 特に質問等なければ返信不要です。 |
連絡の内容は、絵画世界へダイブする許可が下りたという内容だった。深夜に気づいた者もいれば、朝起きてメールの存在に気が付いた者もいるが、いずれにせよ三人とも準備はできていた。
定刻に奇書院に集結した三人は、再び絵画の前に立った。絵画を守る役目を負っている絵画守りたちは、絵画世界に想像力を注ぎ、ダイブするという行為が認可された事に戸惑っているようだった。
- 絵画守り「ほんとうに許可を取ってきたんですね……」
- ノス「私がね」
明らかに気が進まなそうな絵画守りに対し、ノスは得意げに胸を張る。
- ロッカ「お疲れ様です……」
(まあ自主的に生贄3匹出てくるなら研究部門のおじさんは渡りに船だと推してくれるかな、って期待もあるにはありましたが) - ノス「今回のダイブに人数分の瓶詰の夢の支給があります。お受け取りください」
ノスはそう言って三人にケースを開いて見せ、厳重に保管された三枚のコインをそれぞれに手渡す。これはキャラバンが生産している、潜夢士向けの道具"瓶詰の夢"を使用するために必要なコインだ。これを所持したままダイブする事で、夢界でコインの枚数の応じた道具を使用することができる。生産数が限られる高価な代物なのだ。
瓶詰の夢は服用または身体に振りかける事で傷付いたダイバー体に夢源を補給し修復することができる道具だ。
- ロッカ「ありがとうございます」
- 絵画守り「すぐにダイブされますか?」
- ロッカ「あ、そうですね。織田さんは一応奥さんに遺言残しておいたほうがいいんでは?」
織田はロッカの言葉に舌打ちをすると、靴紐をきつく結びながら視線を上げる。
- 織田「奥さんじゃねぇし死ぬつもりもねぇよ」
「さっさと原因の悪夢をとっちめてロトを治し、次百に怒られずに帰る。それだけだ」 - リオン「絵画の中にいるとは限らないけどねえ」
リオンは織田を笑いながら背嚢を外し、商売ではなく純粋な戦闘用の衣服とハーネスを装着する。
- ロッカ「うわ、いかにもって感じだ」
- 織田「ったく、不吉な事言うんじゃねぇよ」
織田は不要な荷物をノスに渡し、軽くストレッチしながら恨めしそうにロッカを見る。
彼らを見渡した絵画守りは、お互いに頷き合って絵画に封をしているアクリル板を取り外す。
- 絵画守り「……では、絵画に想像力を供給します」
そう言った絵画守りらは絵画に手を振れ、絵画世界に夢源を送り始める。するとまるで時間が巻き戻るように、みるみるうちに雪山と、その麓の村々を描いた風景画へと変化してゆく。
- ロッカ「うえっ、めっちゃ寒そう」
「やっぱり帰りたくなってきたかもしれないな……」
蜘蛛であるロッカには寒冷地耐性がないに等しい。
- リオン「熱源くらい織田くんが想像力で出してくれるでしょ」
- 織田「出来なくはねぇが……何があるか分からねぇ以上、想像力は温存させておきてぇな」
「包帯出してやるからマフラー代わりにでもしとけ」 - ロッカ「えぇ~……」
「いやほんと、変温動物に生まれると不便ですよ……」
リオンはそんなロッカを笑いながらゴルカスーツに首をすぼめる。
- リオン「モロに外気の影響受けるからねえ」
外気温の事しか懸念しない三人に絵画守りは咳払いをし、最後の忠告をする。
- 絵画守り「絵画世界へのダイブは前代未聞です」
「まずどこに到着するかもわからないですから。気を付けて」 - リオン「はーいよ」
- オズ「待て!」
三人がいざダイブをしようとした瞬間、彼らを呼び止める声に手が止まる。
オズ「はぁっはっ……間に合ったか」
振り返ると、そこには息を荒くしたオズが立っていた。
- ロッカ「っと、オズさん。昨日振りですね」
「あー……えっと、何か、用事がある感じですよね?」 - オズ「……いや。用事というわけではないんだが、ただ━━」
眉間に皺を寄せてオズは直上を仰ぎ見る。
- オズ「見送りと……馬鹿弟子によろしく頼む」
ロッカはその言葉を聞いたあと、少し間を置いて話す。
- ロッカ「わかりました。伝言あれば、お伺いしますけどどうされます?」
- オズ「そうだな。……もし会ったら、伝えてくれ。"務めを忘れるな"と」
- ロッカ「承りました。もしそれらしい人物に会えたら、そう言っておきます」
その言葉を聞いてオズは少しほっとした表情を見せる。
- オズ「ありがとう。それと、これも」
そう言ってオズがロッカに手渡したのは、魔光粉塵と呼ばれる道具を宿した三枚の紙片だった。その粉塵は戦闘中、
自らの武器に振りかける事により、標的に限りなく正確な攻撃を加える事ができる。瓶詰の夢もそうなのだが、この手の道具は生産が困難なため非常に高値で取引されており、キャラバン以外の流通自体が極めて少ない。
ロッカは、それを自分たちの旅への期待と投資だと解釈して受け取った。
- ロッカ「では、お言葉に甘えて」
- オズ「儂とて当事者意識がないわけではないからな」
「……それでは婆はお暇するとするよ」
オズは浅く会釈をすると、その場から煙のように姿を消した。
- ロッカ「ふむ」
「私が預かっていても?」 - リオン「いいんじゃない?」
- 織田「だが失くすんじゃねえぞ」
- ロッカ「はいはい……」
ロッカは織田を軽くあしらって紙片を懐にしまい込む。
- リオン「じゃあ、行こうかあ」
先ず最初にリオンが絵画へ手を伸ばすと、触れた面が発光し、夢源が充填された絵画の表面は、まるで水面のように手を飲み込んだ。さらに体を預けると潜水するように吸い込まれてゆく。ロッカと織田も彼女に続いて絵画の世界へ入っていく。
感覚は普通のダイブとなんら変わりなく、少しすると身体の実感が戻ってきた。ただし目覚めた場所は雪山の山肌に建つ木製の櫓の上であり、ここからは絵画世界の全体像がなんとなく把握できる。
ロッカは蜘蛛型の怪物"アラクネ"へと姿を変え、子蜘蛛達に即席の衣服を縫わせながら周囲の状況を観察する。
- ロッカ「うっかり着地地点間違えたらそのまま即死してそうでしたねーこれ」
「怖い怖い」 - 織田(包帯いらねえじゃねえか)
「こっから悪夢か、あるいは悪夢に関する情報を探さなきゃなんねぇんだな」 - リオン「ふうむ」
リオンが櫓の手すりに触れると、その部分が簡単に腐り落ちる。その様子をロッカと織田も見ていた。
- リオン「……なんなら今からでも落ちれそうだけど」
- 織田「……とりあえず慎重に降りるか」
三人は抜き足差し足で慎重に、階段を使って櫓を降りようとする。が、早速階段の一段目が腐って抜け、バランスを崩す。それにより櫓全体が大きく揺さぶられ、下の方から構造体が破損する音が聞こえる。
- リオン「うわっ」
- ロッカ「ああ、余計なこと言うから!!」
- 織田「なんでよりにもよってこういうのは的中すんだよ!!」
ロッカと織田は咄嗟に糸と包帯を咄嗟に伸ばし、倒壊を防ぐ悪足掻きをする。しかし、糸や包帯を結んだ箇所さえも腐ってへし折れていき、四本ある太い支柱のうちの一本が折れた影響で、櫓そのものが大きく傾き始める。
- リオン「まずい……!」
分解され木っ端微塵になった櫓の構造物と共に、三人は雪山の急斜面を成す術なく滑落してゆく。
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