3 years later

ページ名:3 years later

「ただいま」
玄関の戸を閉めた藍司がそう言うと、部屋の奥から「おかえり~」と言うゾーヤの声が聞こえた。そのままリビングまで歩みを進めると、テーブルの上に半端に食べ進めたまま放置されているショートケーキが目についた。
「なんだ。自分で買ってきたのかい?」
「なかなか帰ってこないから、そこのコンビニでね。でも飽きちゃった。残り食べていいよ」
「なるほどー」
彼は寝転がってテレビゲームの攻略に勤しむゾーヤの頭頂部に買い出しの戦利品を乗せる。
Айアイっ!なに乗せた?」
「当ててみて」
彼女は目ではゲーム画面を凝視しつつ頭部の感触だけで正体を予想した。
「瓶でしょ?」
解答を聞いてふふんと微笑む。
「瓶だね」
ゾーヤは少し考えて答えを出す。
「……ジュース?」
答えを聞いた藍司は愛おしそうに笑うと解答を述べた。
「惜しいね。……これはエタノールだ」


「全然惜しくないじゃんっ!」
数秒の思考時間ののち、彼女がコントローラーをクッションにほん投げて彼を見上げる。それによりゾーヤの頭頂部でバランス崩したエタノールを彼が「おっと」とキャッチする。彼女は不思議そうに彼を見る。
「なんでエタノールなんか」
「なんでって……君に”消毒液”を頼まれたから」
言葉を聞いたゾーヤは一瞬機能停止に追い込まれるが、すぐにはっとしてがなる。
「”ショートケーキ”!」
寝不足が原因で血走った眼で迫る彼女を宥めて藍司はレジ袋を漁る。
「ああ、ショートケーキね……」
彼はわざとらしくそう言うと袋の下層からホールケーキの箱を取り出す。ゾーヤはケーキと藍司を視線で往復すると恨めしそうに見つめてはにかんだ。
「……ばっかにしてくれちゃってえ」
「なんか悪戯したくなっちゃってねえ」
「外国人イジメだ。でもまあ、ありがと。頼んだのはショートケーキだけど」
「君が驚いて喜ぶ顔が見たくて」
「見ればわかる?」
彼女が彼の首に両手を回す。
「わかるとも。見栄を張った甲斐があった」
「でもエタノールのくだりで台無し」
二人はけらけらと笑いながらテーブルの上に乱雑に置かれたゲームや書籍を地面に降ろし、ホールケーキを中央に置いた。藍司はケーキを贅沢に切り分けながら、それを期待して待つゾーヤに尋ねる。
「ゲームの進捗はいかがかな?昨日からずっとやってるみたいだけど」
「クリアしたよ」
「ほお!そりゃすごい。発売日に買って、まだ二日しか経ってないのに」
彼は切り分けたケーキを更に乗せて彼女に手渡す。
「ありがと」
ケーキを受け取るとゾーヤはフォークで生クリームに絡めたスポンジを口に運んだ。藍司は彼女の幸福そうな表情を見て満足げな表情を浮かべた。
「ゲームは面白かった?」
ゾーヤは頷きながら口の中のケーキを飲み込むと話し始める。
「面白かったよ。ストーリーもよかったし」
「それはよかった」
彼女は藍司の言葉に頷くと、次のケーキに手を付けて溜息を吐いた。
「でも、クリアしたら飽きちゃった」
「知ってた。君はそういうとこある」
彼が笑ってそう言うとゾーヤは口を尖らせた。
「むう。ソロゲーだから仕方ないんだよ」
「ふむ。今のゲームはもう売っちゃうのかい?」
「売る。売って新しいの買うよ」
「そっか。新しく買ったゲームを遊んだら感想を聞かせてほしいな」
藍司がそう言って皿を置くと彼女はテーブルに乗り出して顔同士を急接近させる。
「今度は二人で遊べるのを買うの。COOPしようCOOP」
COOP協力プレイか。いいね」
「ね。いいでしょ。さっそく買いにいこ」
ゾーヤは二個目のケーキを平らげると、フォークをシンクに投げ捨てておもむろに外着に着替え始めた。彼はその様子をまじまじと見つめながら、自分が買ってきたケーキを冷蔵庫に保存し、彼女がコンビニで買ってきたケーキの残りを一口食べた。
「このケーキだっておいしいじゃないか。僕が貰っちゃっていいのかい?」
「うん。飽きたからもういいの」
ゾーヤは手際よく着替えながら最低限のメイクを施しながら背中で会話に応じる。その様子を藍司はなんとなく見つめていた。
「見すぎ」
「わかるのかい」
「優の視線はぬるぬるクるからね」
彼が座って釈然としない表情をしていると、彼女の外出への準備が完了した。ゾーヤは藍司の前でくるくる回ってみせる。
「変じゃない?」
彼女がそう言うと彼はおもむろに腰回りからシャツに手を突っ込む。
Айアイっ!」
「値札ついてる」
藍司はゾーヤのズボンから外した値札をゴミ箱に捨てる。
「よくわかったね」
「まあね」
彼女が彼の手を掴んで玄関に連れていこうとすると、藍司が思い出したように制止する。
「僕が買ってきたケーキはどうする?飽きちゃったんなら、あとで僕が食べちゃう」
ゾーヤは一秒ほど斜め上を見て考えてから答える。
「あとでボクも食べるから取っとく」

 

 

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