The inseparable

ページ名:腐れ縁の二人

 

 『夢現領域内に集結した四名のローグダイバーの撃破、あるいは撃退』。聞くからにヌルそうな仕事だ。要は追っ払えばいいわけだからな。それも相手は境界級下位か、それ以下ときた。加えてこっちは俺を含めりゃあ境界級が四人。全員他派閥から選出されている。油断するつもりはないが、こいつは所謂”コネ作り”だ。出資者達は派閥同士の接点をお望みらしい。
━━と、辻導のやつが言ってた。ああ、辻導だ。あいつが他派閥の、しかも”あの”「デイドリーレイダース」から代表として出張ってくるとはな。俺はてっきり蟹のねーちゃんが来るもんだと思ってた。あいつは言った。
「牧師服が似合っているよ。静雄」
今ならあいつに悪気がないことくらいわかる。でも当時の俺はなんというか━━置いてけぼりをくった気がしたんだろうな。フリーの傭兵から俺に何も言わずにレイダースに派閥変えしたあいつに。だからつい、尖った態度を取っちまった。若気の至りだな
 夢現領域に入ったら俺は”ウィッカーマン”だ。あの頃はメルトロックがいなかったから、みてくれはクソでかい枝を束ねた人形に過ぎないが、質量兵器としちゃ一等役に立つ。辻導以外の二人はどんな奴だったかは、正直あんまり記憶にない。だが辻導の姿は前に見た時とは違っていた。ひとことで表現するなら”剣闘士”。魚みたいな妙ちくりんな兜を被り、まな板みたいな盾とデカいナイフを得物にしていた。それとゴテゴテした装飾のやけに露出が多い鎧。どういうわけなのか訊きたかったが、一旦夢現領域に入っちまえばそこはもう戦場なわけで、雑談してる暇なんかない。少なくともその時の俺たち程度のダイバーにはな。
 背の高い木の森林を少し進んだら開けた場所に出た。デカくて目立つ俺は”はいはい”の体勢で身を潜めた。打ちっ放しのコンクリートの建物の脇で四つの人影が、ドラム缶の焚火で暖を取っているのが見えた。情報通りだ。距離はおよそ百メートル。先制攻撃を仕掛けりゃあ堂々と正面から強襲しても制圧できる。追っ払うだけならなおさらのこと。俺たち四人の中にいた仕切り屋が、有難いことに攻撃までのカウントをやり始めた。カウントがゼロになった瞬間、そいつが銃を使って相手の一人を狙撃した。狙われたそいつは椅子から転げ落ちてうずくまった。火蓋を切った銃声を合図に俺たちも突撃した。
 俺が歩幅にモノを言わせて一番最初に辿り着いた。俺は大きく飛び上がって、豆鉄砲を物ともせずに相手の二人のそばの地面を踏み鳴らした。地鳴りで体勢を崩した三人のうち二人はもう一人の仲間と辻導が斬った。残った一人は飛び散ったコンクリート片で足を怪我したらしく尻もちをついて動けずにいた。その場の誰もが勝負はついたと確信した。
 残った一人のローグダイバーは、しきりに「殺せ」だの「死んだほうがマシ」だのほざいていたと思う。正直そんな言葉に耳を貸すやつはいなかったし、俺もそっぽを向いてダイバー体を解いて開けた場所で目立たないようにしていた。そのときだ。肉屋みたいな音がしたと思ってローグの方を見ると、辻導のやつが得物をそいつの喉に突き立てていた。俺も二人の仲間も驚いて言葉を失くしてた。でもそうしているうちに、あいつはローグの首を狩ろうとしていた。俺は牧師服のまま辻導に体当たりした。
 得物の刃はローグの首を切断する前にすっぽ抜けて地面に落ちた。その瞬間辻導と目が合った。あいつは驚いたような意外そうなような表情をしていた。俺は怒鳴ったと思う。「なにしてんだ!」とかそんな感じに。それに対してあいつは「とどめを刺すまでが戦いだ」とか確かそんなことを言った。正直その瞬間のことはあまり憶えていない。頭に血が昇ってたんだな。「なんで首を狩ろうとした?」そう俺は訊いた。するとあいつは答えた。
「戦利品として静雄に見せようと思った」
なあ、いつから俺の幼馴染は未開の蛮族になった?そんなんで俺が喜ぶわけがないと言うとあいつは「そうか」と言って驚きの早さでローグに興味を無くした。だがこうも言った。「戦いは鮮烈な方がいいだろう」と。そのときの辻導は身も心も剣闘士そのものだった。剣闘士は観客を喜ばせるために残虐に戦い、倒した相手の生首を掲げて歓声を誘う。その時の辻導はまさにそんな感じのことをやりかねない危うさがあった。
 局に帰還して報告を済ませたあとに部屋を出ると、廊下の長椅子に辻導が座って待ってた。「少し歩こう」とあいつは言って俺の手を掴んで歩き出した。そうして人がいない夕暮れの中庭まで行くと、あいつは立ち止まって言った。「迷惑をかけた」って。気にしてないと俺が言うと辻導はわからないレベルで安堵したように見えた。あいつは申し訳なさそうに続けた。
「久々に君に会って舞い上がったみたいだ」
そのときに決心した。俺はぐっと歯を食いしばって辻導の肩を掴んだ。そうして言ったんだ。「俺もレイダースに入る!」って。今度は俺がこいつを助ける番なんだって思ったから。我ながら無茶苦茶だと思うが、それが無ければ今の俺はいない。
 だからきっと、これでよかったんだ。これだから”腐れ縁”なんだよ。俺たちは。

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