DREAM DIVER:Rookies file sidestory02

ページ名:...

 



 『ビリーザキッド』宛てにメールが届いた。ビリーザキッドは僕に与えられたダイバーとしての名前だ。

サイドストーリー『機械仕掛けのカウボーイのブルース』

今からちょうど一週間前の同時刻、僕は夢現領域にいた。ほかならぬトニーの推薦で。あいつは儲かる仕事だって言ってた。それを証明するようにそれなりに名の知れた傭兵がこの夢現領域での仕事に参じているらしい。なかなか錚々たる顔ぶれだ。『”凶弾の”レイヴン』、『”ハイエナの”バンディット』……それに『”無差別の”スイーパー』までいるじゃないか。しかも依頼者はあの蒐集家だ。彼女が高額の報酬で彼らを一か所に集めている。ボクは蒐集家と親交があるわけではないし、そこまでかねに執着しているわけじゃないけれど、まあ断っても暇を持て余すから、なんとなく請け負おうか程度の熱量でしかない。ここへ特心対の訓練生救出のために来た。詳しい事情は知らないし興味がないが、彼らの乗った列車が領域内でローグに襲われたとかなんとか。
「ローグのやることは段々悪質化してるな……」
僕が独り言を呟くと横にいた傭兵バンディットが反応してきた。
「仲間がいる領域にマリーゴールドを派遣するお役人はもっと悪質クソだと思うぜ」

この任務には特殊な条件が付加されている。それは最高位ダイバー『マリーゴールド』が出撃が確定しているということ。まだ領域に到着こそしていないが、彼女が活動を開始すれば領域内の生物の悉くは死に絶える。そんな兵器を特心対の誰かが、自分たちのタマゴがいる領域に送り込むことを決定したんだ。僕たちは彼女が到着する前に可能な限り訓練生を救出して領域を脱出しなきゃならない。
「……頭おかしいですよ」
「違えねえ。こんなタイミングのダイブはイカれてる。だからこそ儲けになるってもんだが。……パイナップルだ」
彼女は先ほどからしきりに耳元で振っていたラベル無しの缶をボクに突き出した。
「はい?」
「食うか?」
「あ、はい。あとで食べます……」
ボクは彼女のペースに乗せられてを缶受け取った。正直常温のパイナップルを好んで食べたいとは思わないが、中身が本当にパイナップルで合っているのかどうかは少し気になった。彼女は再び別の缶をシャカシャカと振り始めた。
「豆系のスープだ」
彼女がそう予言して感を開けると、冷めきったポークビーンズが入っていた。
「見ろ。当たりだ」
彼女は満足げに言うと管を逆さにして中身を口に流し込んだ。すると横を歩いていたレイヴンがそんな彼女に苦言を呈す。
「その辺の荷を勝手に開けんじゃねえよ。缶詰くらい帰りに買って帰れ」
「どうせ数十分後かには全部灰だの粘液だのになるんだ。構わんだろ」
「そんなだからハイエナだなんて呼ばれんだよ」
「言ってろ。……うん?おい」
空けたスープ缶を投げ捨てたバンディットが何かを発見したようでレイヴンとボクに声を掛ける。拾い上げた其れはキャラバンが販売している強壮剤の空き缶だった。
「『元気1,000倍ドリンクプラチナキャラバンのやばいやつγ-ブースト』だな。貨物の一部か?」
レイヴンがそう言ってケースの山に掛かったシートを剥がすと、サメのエンブレムが描かれていることがわかった。それを見た彼女は苛立つ様子で舌打ちをした。
「このサメはリオンのパーソナルマークだ」
リオンというのはキャラバンの古株構成員だ。日本におけるキャラバン創設の最初の四人の一人とも言われている。どうやら彼女はこの列車に乗っていたようだった。
 貨物の周囲をよく散策すると訓練生や乗務員と思しき若い男女の遺体の他に、ホームレスのような小汚い身なりの遺体も数体転がっているのを見つけた。
「思ったより酷い有様だ。この小汚いのはローグダイバーですかね?」
「多分な。鍵山、ローグから要る物かっぱらったら訓練生ルーキー乗務員スタッフ
にシート掛けてやれ」
「もうやってる。それよりこれ見ろ」
バンディットに手招きされて僕たちが見たものは中身が奪われた後の貨物や地面に滴る血の跡だった。
「まだ新しいな」
「向こうに続いているように見えませんか?」
点々と続く血痕はその先に出血した本人がいることを示していた。ここに集まっている傭兵ならば誰もが気づくことだ。血痕の続く先を見ていたレイヴンは少し眉をひそめた。
「確認するぞ。バンディ、レイジメイジと貨物の維持をしろ。ビリー、お前は私と来い」
了解コピー
ボクはレイヴンの指示で血痕を辿ることとなった。ボクたちはお互いをカバーできる立ち位置で木々の間を縫って痕跡を探した。肉眼ではわかりにくい痕跡も熱線暗視装置サーマルを通せば丸裸同然だ。しかし痕跡は不自然なほど簡単に見つかった。試しに装置を切ってみてもはっきりと辿ることができる。ボクにはわかる。これは罠だ。この先の人物は追い詰められてなどいない。ボクのセンサーは先ほどから仕掛けられている複数の罠の存在を感知している。……それに掛かった哀れなローグダイバー達のことも。どうやら血痕のヌシは追跡者を逆に狩るつもりらしい。
「このやり口はリオンだ。だがここまで積極的なのは珍しいな」
レイヴンも痕跡のわざとらしさと罠の存在に気づいていたようだ。そしてその手口はボクたちが探しているリオンのものだという。荷物は奪われたんじゃない。彼女が荷解きして使っているんだ。ボクは思考を整理しながらも前に進まなければと一歩踏み出した。
「ストップ!そのまま足を地面に着かないで戻して!」
何者かの突然の忠告に脊髄反射で従いボクは体勢を崩した。あわや後方に転倒するところだったが、レイヴンはボクを受け止めてくれた。
「ありがとう、ございます」
「大丈夫か?……リオン!リオーンっ!私だ、レイだ!姿見せろ!」
レイヴンが森に響き渡るような声量で名前を呼ぶと、少ししてリオンも応答する。
「……こっちだ」
声は少し先にある大木から聞こえてきていた。ボクたちが足元に注意しつつ木に近づくと、ひらひらと布がたなびくのが見えた。
「君が僕を助けに来てくれるなんて珍しい」
彼女は地面に座って大木に寄り掛かりながら売り物のドリンクを飲んでいる。しかし飄々とした態度とは裏腹に苦しそうに呼吸をしていた。
「……撃たれたのか?」
レイヴンは尋ねるとリオンは鼻で笑って脇腹を隠していた左手を退ける。すると彼女の深緑のコートに黒い染みが広がっているのが見えた。
「僕は戦い向きじゃないんだよ」
「退路は確保済みです。急いで離脱しましょう」
「ドリンクで騙し騙し起きてられるけど、こうして座ってるだけでもしんどいんだ。走るなんて無理だね……。それにローグもうじゃうじゃいるしね」
「じゃあどうするってんだ?ここで倒れてメソメソ泣くつもりか?」
レイヴンがそう言うとリオンは口に人差し指を当てた。よく感覚を研ぎ澄ませばボクたちの周囲を数人が移動しているのがわかった。すぐに銃声が聞こえて他の傭兵とローグが戦闘を行っているのがわかった。レイヴンと僕は武器を構えて戦闘態勢を取った。しかしリオンが袖をひらひらさせながら笑った。
「……まあ、まあ。君たちも見ていけよ」
リオンがそう言うと同時に明らかに仲間ではない人影がボクたちが来た方角から現れた。ボクとレイヴンは武器を構える。しかしボクが引き金を引くよりも早く人影とボクたちとを突如生成された何かが遮った。その時にボクは勢い余って物体に衝突した。金属と金属がぶつかる音が周囲に響く。複雑で機械的な部品の隙間からは慌てて踵を返すローグダイバーが見えたが、次の瞬間には和太鼓を連続で叩くような爆音が聴覚を支配した。等間隔で明滅する眩い閃光は僕のセンサーを狂わせる。思わず目を瞑ってしまったボクが再び目を開けたときに見たのはボクたちに背を向けた大型のタレットだった。普段キャラバンが用意するものよりも遥かにデカい。タレットの射線先の全容は土煙のせいで把握できないが、確認するまでもないだろう。鉢合わせたローグダイバーは全滅だ。
五十口径フィフティーキャリバーだよ。油断したら深層級だって粉になっちゃう」
リオンが自慢げにそう言った。レイヴンが
「半自動の対物ライフルを二挺乗っけてるのか?頭おかしいよお前ら」
「これが商品ですか?」
ボクは何の気無しにタレットのことを尋ねた。すると彼女はボクに興味を示したらしい。
「君は?」
「あ……、ビリーザキッド。インビジブルウォールの傭兵です」
「名前は?」
「……市」
「イチ。僕は現実世界で紙媒体にして試験量産したコイツを特心対に納品する予定だったんだけど、列車が事故ったせいで全部お釈迦さ。でもローグに代償は払ってもらう。コイツの実地試験に付き合ってもらおうってね……」

リオンはそう言うと手動で残りのタレットを起動した。夥しい数の砲口が番犬のようにキョロキョロと標的を探している。銃声を聞きつけた他の傭兵もこちらに合流したが、タレットは彼らには反応しないようにできているらしい。
「君たちはもっともっと領域の奥に行くんだろ?何枚か持ってけよ。後払いでいいから」
「あ、ありがとうございます」
彼女はボクに数枚の紙束をくれた。紙は瓶詰の夢が現実で支給されるときの用紙によく似ている。表面には目の前で稼働しているタレットに似たイラストが描かれている。レイヴンはリオンの前に立った。
「お前は?」
「僕は……、まだしばらくここで休んでるよ。データを取らないとならないんだ」
「そうか」
彼女はボクたちにひらひらと手を振る。そして口角が裂けそうなくらいの笑顔を向けた。
「またね。”イチ”。今度は商品が潤沢にあるときに会おう」
スイーパーはレイヴンに「助けなくていいのか?」という旨の確認をしたが、結局は置いていくことになった。ボクは彼女がもう助からないという判断から置き去りにしたものと思っていた。だからなるべくリオンの目を見ないようにした。
 夢現領域内での戦闘は他の戦場と変わり映えしなかった。大したことないローグダイバーがうじゃうじゃいて、そいつらを斃して進む。でもその日は普段よりか楽ができた。リオンから貰ったタレットは想像以上に凶悪な性能で便利な代物だった。コイツの有用性はこの戦場が証明してくれただろう。結局ボクは五枚受け取ったタレット用紙を領域内で全て消費した。その戦闘のあと、ボクたちは一客車分の訓練生の集団と合流できた。忘れてはいけない。ボクたちが仰せつかった仕事は訓練生の救助。ローグをスイスチーズみたいにすることでもキャラバンの新製品の批評レビューでもない。ボクたちはマリーゴールドが来る前に訓練生たちを引率して領域内を離脱することにした。そのときは確か三名の訓練生が現場に残ったんだったか。仲間を探すだのなんだの話していた。訓練生の離脱を優先するボクたちはリオンのように三人を置き去りにして、その場にいた殆どの訓練生を領域外へ離脱させることに成功した。ああ、きっとあの三人の訓練生はここで死ぬだろうな。だからボクは礼を言われても目を合わせなかった。領域外へ出ると迎えの車両が来ていた。訓練生を本局行きの弁当箱みたいなトラックに積み込むと、ボクたちはここへ来たときの車両に乗り込んだ。傭兵の帰りの車内での話題はもっぱらローグを何人殺しただの、報酬の話だの野蛮なものだ。もちろんキャラバンのタレットの話題も出た。現場での評価は上々で、半端な傭兵は仕事を奪われるだろうと冗談を言った者もいた。あれが毎度支給されればかなり楽ができるだろうとボクも思った。でもそんな評価がキャラバンの耳に入ることはない。なんとも虚しいことだ。でもだからといって、なんとなくボクがキャラバンに電話を一本入れてレビューする気にはなれなかった。そうしてモヤモヤしているうちに出撃も無く一週間が経ち、『ビリーザキッド』宛てにメールが届いた。
 差出人は……、『キャラバン』。メールを送られるような用事は無いはずだ。ボクは疑いつつもメールの中身を見た。


 

『タレットの使い心地はどうだったかな?』
やあ👍イチ。リオンだよあれから元気かな❔僕はすごく元気👍👍👍👍
これが届くまでに君が戦死してないといいけど💦💦💦まあ、大丈夫か
そう、タレットの性能はどうだったかな❔❔あれは僕の自信作❕❕
良かったら👇のレビューで⭐⭐⭐⭐⭐つけてよ✌✌もっといいものを作るからさ👍👍👍
レビューする:☆☆☆☆☆
 



ボクは不覚にも少し口角が上がってしまった。メールの絵文字の量はそこはかとなくイラっとさせてくれるが、赤の他人とは言え曲がりなりにも死んだと思っていた人間からの生存報告はどこかボクを安心させた。それにタレットが優秀だったのは確かだ。ボクは星五つでメールを返信した。すると数秒後にまたキャラバンからメールが来た。

 

『Re:Re:タレットの使い心地はどうだったかな?』
最高評価ありがとう👏🎉🎉これは次の商品開発に役立てられるよ
ところで、僕があれからどうやって生き残ったのか知りたいでしょ❓❓
👇👇





















元気1,000倍ドリンクプラチナγ-ブーストを腹と口から摂取したからさ❕❕
この野郎って思うだろうけど、これは本当の話❕いつかピンチになったらダメ元でやってみるといいよ👍👍ちょっと傷に染みるけど💦💦💦
それじゃあまたね❕❕



スマホの画面に反射するボクはなんとも言えない表情をしていた。なるほど。リオンという人間がどんな人間かわかってきたぞと。しかしアンニュイな余韻に浸り切るよりも先にもう一通メールが届いた。わざとやっているのだろうか。遊ばれてるんじゃないかと疑い始めた。まるでこちらの反応が筒抜けであるかのようだ。ボクは件名をよく見ずにメールを開いた。

 

『アイテム購入明細』

トニー・フレッチャー様

 

この度はキャラバンをご利用いただき誠にありがとうございます。

 

ご購入の明細をお送りいたしますので、内容をご確認ください。

 

◆このメールは記録のために保存してください◆

商品詳細

重機関銃タレット
重機関銃タレット
重機関銃タレット
重機関銃タレット
重機関銃タレット

◆料金は引き落とし済です◆



ボクはスマホを投げた。

シェアボタン: このページをSNSに投稿するのに便利です。

コメント

返信元返信をやめる

※ 悪質なユーザーの書き込みは制限します。

最新を表示する

NG表示方式

NGID一覧