DREAM DIVER:Rookies file sidestory01

ページ名:DREAM DIVER Rookies file.side1

 

 

”あの戦い”のあと、正式に不知火機関のダイバーとなった僕は仕事のあとに傭兵たちと話す機会があった。僕は兼ねてより気掛かりだったことをこの機会に聞いてみることにした。
「そういえば、夢現領域には誰からの依頼で来たんですか?」
尋ねられた小野河さんはレイさんの表情を伺うように顔を見た。見兼ねた彼女は小野河さんの代わりに質問に答えた。
「詳細は答えられねえが、そうだな。一人は”蒐集家コレクター。そいつに依頼したのは生きる夢の古株ロングハウルだ。会ったことあるだろ?」
「ハウルさんが?」
「ああ。あいつ蒐集家がそう言ってた。ふん、どうせモノで釣られたんだろ」
僕は意外な答えが返ってきたことに少し驚いた。ハウルさんは悪いネコではないが、僕たちがどうしているかなどまるで興味がないと思っていたからだ。

 

サイドストーリー『老猫の生き甲斐』

 

-列車事故から一時間後-
 [ハウル。あの子たちの身に危険が迫っていること、なぜ俺に隠していた?]
気持ちよく昼寝をしているところを起こされた上に、開口一番にご挨拶な小僧だ。ブレイズフーフは発語こそできないが夢界の力を応用した一種のテレパシーで会話ができる。こいつをわざわざ使うときは、どうしても伝えたいことがあるときか、饒舌に文句を垂れるときだと相場が決まってる。人間たちの"神秘的"な自分のイメージを守りたいかららしい。
「アンタに話したって何にもならないだろう」
  [そうか。だが俺は今からでも助勢に向かう]
そう言うと奴は夢界の姿を解放した。こいつは放っておくと本当に行くだろう。
「やめときな。今から行ったって結局間に合いやしない。それにアンタが行ったところで何ができる?賞味期限切れの馬刺しが一皿出来上がるだけさ」
  [ぬう……]
「それにねえ……。もう対策は打ってあるのさ」
  [対策?]
「なんでも”脚”で解決すりゃ良いってもんじゃない。ココおつむを使いな」
  [?]

 


-数十分前-
ヒトが気持ちよく昼寝をしていたら、電話のけたたましい呼び出し音で目が覚めた。しかも、ああ。この番号は登録してある。不知火機関でいいように絞られてるエコー坊やじゃないか。
「『エコー坊やかい』」
『お久しぶりです、ハウルさん。……今日は折り入って頼みがあります』
「『いきなりだね。挨拶もそこそこに。いいよ。暇潰しに話だけは聞いたげようかねえ』」
『ご無礼をお許しください。緊急を要する要件です。実は訓練生たちが乗る列車が事故を起
こしました』
「『ほう。ご災難様だね。遠足にでも行ってたのかい?』」
私がそう言うと坊やは黙った。
「『もしもし?』」
『……犯人はローグダイバーです。夢現領域内で襲われました』
「『……なに?』」
私は床に置いたスマホに顔を近づけた。
「『どこの夢現領域だ?』」
『エリア4です』
「『三年前の事故を忘れたのか?私は三年前も止めたはずだ。今回はお伺いにすら来なかったがなあ!』」
私が怒号と同時にスマホに猫パンチをすると、縁側で寝ていたスパイクが心配そうにこちらを見つめてきた。
『返す言葉もありません。ですが、恥を承知であなたの力を借りたい。訓練生たちの命が今この瞬間にも、脅かされています』
「『わかったわかった!でもね、相応の見返りは覚悟しなよ。普段のようなオママゴトでは済まさんぞ』」
『覚悟しています』
「『追って連絡するから、お前は他所に根回ししな』」
『ありがとうございます。失礼いたし』
私は坊やが話し終わるより先に電話を切った。坊やが直接悪いわけではないことくらいはこの年寄り猫でもわかる。だがこんな時くらいにしか連絡を寄越さないことも腹を立たしいじゃないか。だが外ならぬ坊やの頼みだ。私はすぐさまスマホの電話帳からある名前を探したさ。”蒐集家”。クオリアの著名なコレクターであり、傭兵とも協力な繋がりコネクションがある。私は発信ボタンを押した。数回の呼び出しのあと通話が繋がった。
『どうした、ハウル。新しいクオリアかい?』
「『いや、今日はアンタに頼みがある』」
『ほほう?珍しいこともあるもんだ。続けて?』
「『急ぎで傭兵を何人か雇いたい。アンタ、ゼロメアの鴉女と仲良しだろう?』」
『……仲悪かないが、あいつは報酬がないと動かないよ。私にセコい借りを作ってるような覚醒級ルーキーならタダ同然で寄越せるが』
「『寄越して欲しいのは
チンピラハイウェイマンじゃない。腕の立つ殺し屋ガンフォーハイヤーさ。宇蘭』」
『寄越せるとも。だがそいつをタダでとは言えない。それで、あんたは何を出せるんだい?』
「『ホームうちにある”青龍”のクオリアをあんたにやる。座布団に載ったデカいやつ。あんたもうちにきたときに飾ってあるのを見たろう。あれをやる』」
『……冗談、ではないね。あんたはそういうジョークを言わない。だが二言はないね?』
「『ない』」
電話の向こうで手を叩く音が聞こえた。
『よしきた。早速取り掛かろう』
「『ありがとうよ。詳細はすぐにメールで送る』」
通話を終えた私は間髪入れずに坊やに電話を掛けた。坊やは一コールで通話に応じた。
「『傭兵を雇った。それも”とっておき”のをね。仲介は蒐集家。アンタが詳細を説明しな』」
『ありがとうございます……。何から何まで』
安心した声色の坊やに私は満足して床に寝転び、一声鳴いた。
「『たまには遊びにきなよ。そのときに”報酬かくごの話をしようじゃないか』」
『……わかりました。では失礼します』
そう言って坊やは忙しなく一方的に通話を終えた。これ以上私ができることはない。私は陽が良く当たるお気に入りのスポットで日光浴を始めることにした。
「よっこいしょ……」
昼寝から覚める頃にはすべてが終わっている頃合いだろうかね。私は人間が生きようが死のうが知ったこっちゃない。一度でも挨拶に来た人間は、まあまた会えるかな程度には気に掛けてたりもする。私自身が身体を張るつもりはもうないが、まあ手を貸して結果だけを楽しみにするのも年寄り猫の生き甲斐のひとつなのさ。

 

 

 

 

シェアボタン: このページをSNSに投稿するのに便利です。

コメント

返信元返信をやめる

※ 悪質なユーザーの書き込みは制限します。

最新を表示する

NG表示方式

NGID一覧