『DREAM DIVER:Rookies file』chapter24

ページ名:DREAM DIVER Rookies file.24

 

『DREAM DIVER:Rookies file』

-主な登場人物

・初夢 七海
「不知火機関」に配属予定の新人ダイバー。真面目な性格で心の中で他人を罵倒する悪癖があるが、仲間を思いやり他人の心に寄り添うことができる心優しい青年。漠然と映画に登場するスパイ像に憧れている。また認識改変などによる他者の介入に若干耐性がある。

・深瀬 陸朗
初夢の同期として特殊心理対策局「実働部隊」に編入された新人ダイバー。初夢と同じく仲間想いで人懐こい性格だが、考えるよりも先に身体が動く。身体能力は同期の新人の中でずば抜けて高い。

・切崖 櫻
初夢の元大学の同級生の女性で傭兵派閥「デイドリーレイダース」に所属している。大学一年生の最後に大学を中退し、特殊心理対策局の適性検査を受けたが落第し傭兵派閥へ転向した。初夢は自身がダイバーになり初めて彼女がダイバーであったことを知る。

・笹凪 闘児
元暴走族の青年。街で仲間と共に夢の力を使って悪さをしていたため「イリーガル」認定され、特心対が差し向けた傭兵と交戦したがために仲間を皆殺しにされた。その時にその場で命を落とすかは薄給で正規ダイバーになるかの二択を迫られ、訓練所で初夢たちと同じように正規ダイバーになるための訓練を受けることとなった。

・唯億
教養があり肝が据わっているが、野心家でプライドが高い。大手企業の代表取締役の父親と国会議員の母を持つ。何を成しても両親の付属物のように扱われることをコンプレックスに思っており、両親の功績でダイバーになることを予め免除されていたにも関わらず、自分自身の力で名を上げるために特殊心理対策局に加わった。

・澄田
優しく礼儀正しい性格で、相手が何者でも丁寧な言葉遣いを崩さない。特殊心理対策局、実働部隊の深層級ダイバーである内垣 真善とは親戚関係にある。両親はどちらも特心対のダイバーであり、小学生の頃にはダイバーとしての素質を見出されていた。そのため彼は自分はダイバーになることが道理であると信じて疑っていない。

・深宮
真面目で融通が利かない性格をしている。某県に存在する小さな寺の子供として生まれた。両親は夢の使者に属するダイバーだが没落しており、彼は家の名を背負って特殊心理対策局で武勲を立てる期待をかけられている。本人はそのことを自身が果たすべき最大の目標として掲げており、訓練時間外の鍛錬を欠かさない。

・グエン
勉強家だが極度の貧乏性なのが玉に瑕。かつては故郷のベトナムで両親、弟、妹、妻の五人で畑仕事に精を出していたが、生活苦により出稼ぎに出ることにした。やがて日本に不正入国の罪で摘発されたが、空港で発生した夢現災害でダイバーとしての才覚を発揮し、強制帰還とダイバーとの二択を迫られ特心対に入局した。いつか日本に家族を連れてきて全員で住むのが夢。

・ダニエルズ
三年前の夢現領域における訓練で行方不明となった少年。夢の姿はロボットのような見た目をしており、掌に備え付けられている立体プリンターを使用すれば食糧品などを作り出すことができる。初夢たちの前に姿を現し、今期の訓練生だと偽って手助けをした。その真意は謎に包まれている。

第二十四話『夢現領域(五)』


 

 

「じきにこの夢現領域には『マリーゴールド』が投入される」
僕は一瞬ピンと来なかったが、数秒経過してからその言葉の異常性に気づいた。
「……マリーゴールドって、スージーさんですか?」
氷室さんが目を細めて僕に尋ねる。
「スージー”さん”て。初夢くん、あの超兵器と知り合いなのかよ?」
「以前訓……、じゃなくて。いや、教科書に載ってたので」
「スージー”マリーゴールド”・アシュビー。かつては札付きのローグダイバーだったが、現在は特心対の施設で身柄が確保されている。ここまでは周知されているな」
辻導さんがマリーゴールドについて続けた。
「彼女は作戦参加の要請への拒否権を放棄する代わりに、今は不自由の無い軟禁生活を送っている。つまり要請があれば彼女は戦場に味方として現れるというわけだ」
「頼もしいですね」
「そうなのだが、問題もある。マリーゴールドの戦闘方法だ。彼女の外敵への攻撃方法は全てが解明されているわけではないが、代表的なのはガスや毒の類だ。対策を怠った範囲内にいる生物は死滅するだろうな」
「まだ仲間がいる領域にそんなのをけしかけたんですか……?」
「実際どういう手続きと報告で処理が行われたかは、かなり怪しい。おそらくは生存者はいないという前提で出撃要請を通し、あわよくば”事実にしてしまおうとしている”」
僕は呆れて言葉も出なかったが、すぐ横では深瀬が怒りを滲ませている。
「狂っとる!」
「事実狂っているのだろう。この遠征は完全に失敗だ。その者にとっては倫理を犠牲にしてでも失敗を覆すほどの功績が必要なのだろうな」
辻導さんの話にエンジンが掛かりかかったところでトーニョさんが割り込んできた。
「辻導。そろそろ先に進むぞ。瓶詰の夢を使っておけ」
「了解した。ではまた、いずれ話そう」
辻導さんは彼に投げ渡された瓶詰の夢を使用すると、僕たちに別れを告げて持ち場に戻って行った。トーニョさんは櫻さんを僕たちの前まで連れてきて指示を下した。
「櫻。二人を護衛して夢現領域から離脱し、特心対と連絡を取れ」
「でも……!」
「”リコシェット”」
「うぅ……」
トーニョさんは其れがお願いではなく命令だと強調したのだ。だが言わずもがな、僕も深瀬もここで引き下がるつもりは無かった。
「この先も進むなら僕たちも行きます」
トーニョさんは「やっぱりな」という視線で僕たちを見ながら深い溜息を吐いた。
「この先の戦争では面倒を見切れんのだ。危険なローグダイバーの報告も上がっている。大人しく領域から離脱しろ。これは命令だ」
「……僕たちはもう特心対のダイバーです。レイさんから”合格”を貰いました。自分の面倒は自分で見ます」
「聞き分けの……」
「それに戦争では斥候が必要でしょう?僕は潜伏技能だけならトーニョさんに負けませんよ。……絶対に役に立ちます」
なおも難色を示す彼に深瀬が僕の支援をしてくれた。
「七海の能力は本物です。俺は、まあ……。戦闘員として貢献します」
駄目押しとばかりに僕たちに便乗して櫻さんも同行の意思を主張した。
「私も!ここで離脱だなんてあんまりです!」
腕を組み目を瞑って黙ったままのトーニョさんに辻導さんが報告する。
「プルポ。議論している時間はない。夢の使者から連絡があった」
「彼らはなんと?」
「領域内で”アックアック”の姿を見た者がいるらしい」
それを聞いたトーニョさんは更に難しい顔をした。
「……最悪の事態は続くものだな。それが確かな情報ならば、我々のみでローグを殲滅することはほぼ不可能となった。この夢現領域は、マリーゴールドの毒に曝される。メルトロック、マリーゴールドを積んだ部隊に連絡は取れるか?」
「もう領域付近まで来ていれば、あるいは……『こちらは領域内のレイダースだ。特心対、聞こえるか。繰り返す、こちらは領域内のレイダース。特心対、聞こえていたら作戦無線で応答してくれ』……運が良ければこれで返事が来るはずだが。二人も無線は持っとけ」
氷室さんがそう言うと、櫻さんが夢の姿に通信装置を生成できていない僕と深瀬に余剰の無線機とインカムを手渡してくれた。僕たちが慣れない手つきでもたもたとチャンネルを合わせている間にも氷室さんはオープンチャンネルで定期的に呼びかけを続けている。
「……駄目です。奴ら応答しやがりません」
「まだ到着していないということか、あるいは見捨てられたか。あと三度試したら」
トーニョさんが途中まで言い掛けたところで、無線に雑音が混じる。そのあとに聞こえて来たのは男性の声だった。
『驚きました。生存者がいるとは聞いていない』
「『特心対か!?こちらはレイダースのメルトロックだ』」
『メルトロック。こちらは特心対臨時特殊潜夢士運用課の内垣三頭深層潜夢士です。ダイバーネームは”イレイザー”。たった今領域内に到着しました。そちらはどういう状況ですか?どうぞ』
「『イレイザー、失礼しました。こちらは二名の訓練生を保護しています。他にも複数の訓練生が領域内で遭難していると思われます。攻撃を中止してください』」
暫くの間沈黙が続く。その間は無線の向こうでなにか小さな声で話しているのは僅かに聞こえてくるのみだ。その後、再び内垣さんが応答する。
『……攻撃を中止する権限は、私にはありません』
「『おい!それは』」
「氷室、俺が話す」
トーニョさんは氷室さんと特心対の会話に強引に割り込んだ。
「『内垣三等深層。代わってこちらはプルポだ。多くの人命が懸かっているんだ。マリーゴールドの出撃を中止させてくれ』」
『……私が中止の判断を下すことはできません』
「『そんな事務的なことを言っている場合か!?全員が死ぬぞ!』」
『わかっていますっ!』
これまで声色を変えずに応答していた内垣さんが声を荒げる。そのあと彼女は深呼吸を挟み、落ち着いた様子で続けた。
『……でも……、マリーゴールドの不調ということなら、出撃を遅らせることができます』
「『なに?』」
『マリーゴールド、準備は万全ですか?』
彼女が訪ねると、マリーゴールドことスージーさんが会話に参加する。
『少しお腹が痛いわ~。出撃はまだできなさそうだわね』
彼女がわざとらしくそう漏らすと再び会話相手が内垣さんに戻る。
『……三十分。短くとも三十分間は機材とマリーゴールドの不調で出撃ができません。申し訳ありません』
「『恩に着る』」
『幸運を』
彼女はそう言うと一方的に会話を終えた。トーニョさんは僕たちに傾聴するように言った。
「聞いての通りだ。彼女たちが捻出してくれた重要な三十分だ。我々はその時間で可能な限り生存者を保護し、領域からの脱出を図る。行くぞ!」
そのあと僕たちは移動しつつ今後の詳細な動きを話し合った。レイダースの当初の予定であった夢現領域の横断はおろか、中心部でローグたちと正面から交戦することも不可能となった。僕たちはこれから夢現領域を南西方面に四十五度折り返して未踏破地域を埋めつつ領域からの脱出を図る。これから抜けるエリアは三年前にダニエルズたちが訓練を行った地域だと辻導さんは教えてくれた。櫻さんもそのことは知っているはずだという。トーニョさんはそのことに言及しなかったが、彼女にけじめを付けさせるには必要なことだったのだろう。一方で氷室さんは行方不明の四号車を気に掛けていた。先ほどのローグの野営地に到達するまでに客車の残骸を確認したが、四号車だけがその並びから抜けていたのだという。恐らくは一両のみ単独で吹き飛んでいったのだろうと推測していた。彼によれば予測位置的に南西エリアにある可能性が高いらしい。望みは薄いが生存者がいれば助けてやる必要があるだろう。


 

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