『DREAM DIVER:Rookies file』chapter23

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『DREAM DIVER:Rookies file』

-主な登場人物

・初夢 七海
「不知火機関」に配属予定の新人ダイバー。真面目な性格で心の中で他人を罵倒する悪癖があるが、仲間を思いやり他人の心に寄り添うことができる心優しい青年。漠然と映画に登場するスパイ像に憧れている。また認識改変などによる他者の介入に若干耐性がある。

・深瀬 陸朗
初夢の同期として特殊心理対策局「実働部隊」に編入された新人ダイバー。初夢と同じく仲間想いで人懐こい性格だが、考えるよりも先に身体が動く。身体能力は同期の新人の中でずば抜けて高い。

・切崖 櫻
初夢の元大学の同級生の女性で傭兵派閥「デイドリーレイダース」に所属している。大学一年生の最後に大学を中退し、特殊心理対策局の適性検査を受けたが落第し傭兵派閥へ転向した。初夢は自身がダイバーになり初めて彼女がダイバーであったことを知る。

・笹凪 闘児
元暴走族の青年。街で仲間と共に夢の力を使って悪さをしていたため「イリーガル」認定され、特心対が差し向けた傭兵と交戦したがために仲間を皆殺しにされた。その時にその場で命を落とすかは薄給で正規ダイバーになるかの二択を迫られ、訓練所で初夢たちと同じように正規ダイバーになるための訓練を受けることとなった。

・唯億
教養があり肝が据わっているが、野心家でプライドが高い。大手企業の代表取締役の父親と国会議員の母を持つ。何を成しても両親の付属物のように扱われることをコンプレックスに思っており、両親の功績でダイバーになることを予め免除されていたにも関わらず、自分自身の力で名を上げるために特殊心理対策局に加わった。

・澄田
優しく礼儀正しい性格で、相手が何者でも丁寧な言葉遣いを崩さない。特殊心理対策局、実働部隊の深層級ダイバーである内垣 真善とは親戚関係にある。両親はどちらも特心対のダイバーであり、小学生の頃にはダイバーとしての素質を見出されていた。そのため彼は自分はダイバーになることが道理であると信じて疑っていない。

・深宮
真面目で融通が利かない性格をしている。某県に存在する小さな寺の子供として生まれた。両親は夢の使者に属するダイバーだが没落しており、彼は家の名を背負って特殊心理対策局で武勲を立てる期待をかけられている。本人はそのことを自身が果たすべき最大の目標として掲げており、訓練時間外の鍛錬を欠かさない。

・グエン
勉強家だが極度の貧乏性なのが玉に瑕。かつては故郷のベトナムで両親、弟、妹、妻の五人で畑仕事に精を出していたが、生活苦により出稼ぎに出ることにした。やがて日本に不正入国の罪で摘発されたが、空港で発生した夢現災害でダイバーとしての才覚を発揮し、強制帰還とダイバーとの二択を迫られ特心対に入局した。いつか日本に家族を連れてきて全員で住むのが夢。

・エナジーバーの少年
深瀬が率いる訓練生の集団に属している心優しい少年。年齢は高校生くらいだろうと初夢は見ている。夢の姿はロボットのような見た目をしており、掌に備え付けられている立体プリンターを使用すれば食糧品などを作り出すことができる。

第二十三話『夢現領域(四)』


 

 

どこかの家のリビング。
ハンバーグを焼く香ばしい匂い。
子供たちが遊ぶ声。
女の人がいる。僕に笑いかける誰かが。
これは、現実ではない。
僕は……、夢現領域にいる。
友達を、探す為に。



 ━━僕は遠くの爆音で目が覚めた。まだ地響きが止まない。独特の土臭さと火薬の香りが混じり合って鼻孔を擽り、目を閉じていてもここがまだ夢現領域なのだと実感させてくれる。早く行動を開始しなければ。彼女が僕を待っているとは思えないが、それでも櫻さんを探しに行かなければならない。僕が、僕の為に彼女を探して見つけ出して、連れて帰らなければならない。僕はゆっくりと重たい瞼を開いた。
「起きたか。そろそろ起こそうと思ってたところや」
特徴のある怪しい関西弁。僕はどこかで期待していたのかもしれない。
「……深瀬」
他の訓練生が離脱して寂しくなったこの場所に、深瀬だけが残ってくれていた。傲慢な話だが、”彼ならば一人残ってくれるんじゃないか”という甘い考えが無かったと言えば嘘になる。彼はそんな僕の邪な気持ちを知ってか知らずか、僕に手を差し出した。
「手ぇ貸すで」
「ありがとう」
僕は彼に手を貸してもらい立ち上がりスーツの砂を払った。
「でも……、付き合う必要はないんだぞ」
「俺がいないと始まらんやろ」
僕は口をへの字に結んで仕込み傘を持ち出発の準備を完了させる。
「そんなにわかりやすいかな」
「あ!初夢さん。起きたんですね!」
声に反応して振り向くと、巨大なリュックサックを背負ったロボットが心なしか笑っていた。エナジーバーを掌で作れる少年だ。
「君まで……。生きて帰れる保証はないんだよ?まだ合流が間に合うかもしれない。悪いことはいわないから……」
「足は引っ張りません!」
「そうではなく」
「誰がゴハンを作るんです?」
「……」
少年は思ったよりも強情だ。深瀬が膠着状態の会話に割って入る。
「こいつも覚悟の上でここにおるみたいやで。加えてやったらどうや?」
難しい感情が僕の内を巡る。個人的な巻き込むのは心苦しい。だが彼がいれば食糧の不安はないだろう。それに彼の気持ちを無碍にするのは忍びなかった。結果的には僕が折れて彼を同行させることとなった。
「それは……、うれしいけど」
僕が複雑に微笑むと彼は自信なさげな笑みを向けてきた。
「ありがとうございます!特心対の端くれとして役に立てたら嬉しいです」
「ありがとう。……そういえばエコーさんは?」
「エコー?」
少年が深瀬を見ると、彼も銃の動作を確認しながら不思議そうな顔で僕を見つめる。
「うん?エコーって誰や?」
「あー……、えっと……。戦闘中に手を貸してくれた人、いたじゃない?」
「いすぎて憶えてないわ」
「そうか……。そうだよな」
「その人がどうした?」
「いや、大したことじゃない。知り合いなんだ」
今は彼らにエコーに関して説明している暇はない。なにしろ僕自身も彼の存在と正体に自信を持てないのだから。煙のように掴もうとしても掴むことができない。今この瞬間も彼は僕から観測できない位置から僕を試しているのだろうか。
「多分他の連中と離脱したやろ。それで、これからどう動くんや?」
「これまで通り、後部車両を目指すよ。もう三分の二は消化したから、そう遠くはないはず」
「問題は……」
「進めば進むほど戦闘は激化するってことやな。戦力的に正面から当たるのは無理や」
「ああ。だから僕が少し先を偵察しながら進もうと思う」
「了解」
深瀬は得物の銃口部分に消音器を生成する。
「僕はできるだけ目立たないように頑張ります……」
少年ロボットは背負ったリュックサックよりも小さく縮こまった。そこで彼を呼ぶための名前をまだ聞いていないことに気が付いた。
「そういえば、自己紹介してなかったね。僕は初夢七海。そっちの関西弁のは深瀬」
「下の名前は睦郎や」
「君の名前は?」
「あ……、そうですね。失念してました。ダニエルズって言います」
「よろしくね。ダニエルズくん」
「長ぇから”ダニー”って呼んでええ?」
「あー……、できれば”エル”の方がいいです!……みんなそう呼びます」
 僕と深瀬、エルくんの三人は更に先へと進んだ。吹き飛んだ客車と客車の感覚は徐々に広がっていっている。僕は横たわる客車に刻まれた『八号車』の表示が目に入った。出発前には何両編成の列車かなんて気にしたこともなかったが、おそらくは十両前後だろうと今の僕たちは踏んでいた。そしておそらくはそこに櫻さんたちはいる。ここまでで生存者は今のところ見当たらない。多くはローグダイバーの遺体だが、訓練生やそれ以外と思われる遺体が少し転がっているのみだ。それにどれもまだ新しい。それはついさっきまでここで戦闘が繰り広げられたことを裏付けている。そして戦闘音は森のどこにいてもこだましてくるが、いくつかの銃声のうちひとつに少しずつ近づいていることに気が付いた。そのことを一早く察知した深瀬は僕たちの気を引き締めるように言った。
「鉄火場が近い。七海」
深瀬が僕に視線で偵察の催促をした。
「了解」
僕は要求を察して辺りに溶け込み、二人の少し先を先行して様子を確認しながら進みことにした。このステルス能力も僕の能力の一部だ。戦闘技能が仕込み傘以外に一切明らかにならない中、スパイ向きの便利能力だけがじわじわと明らかになってゆく。エコーさんは実に見る目がある。いっそ他に何の能力があるのか手っ取り早く教えてくれたらいいのに。進めば進むほど銃声は驚くほどの速さで大きくなってゆく。数百メートルも歩いていないような気がするが、今となってはまるで手で掴めそうなほどに音は近い。僕は二人に待機を提案した。二人がその指示に従って遮蔽に隠れているうちに、僕は草むらから遮蔽へ、遮蔽から草むらへ目立たないように殺傷領域に足を踏み入れた。熱を感知するサーマルビジョンを通して周囲を見渡せば、そこらで倒れている人がまだ温かいことが分かる。まだ立っている人間が数人いる。うち一人の顔の周囲からうねうねと触手のようなものが蠢いている人影が印象的だ。というよりは、特徴的なシルエットの面々はレイダースのダイバーたちだろうか?慎重に偵察していると、身体を撃たれたいずれかの陣営のダイバーが僕の隠れる草むらの前に倒れ込んできた。それも運悪くお互いに目が合ってしまった。
「しーっ」
僕は天に祈る気持ちで”静かに”のジェスチャーを試みた。傷付いたダイバーは僕の所属を知ってか知らずか助けを求めてきた。
「た、たすけて……。ふぐぅっ!」
しかし全てを言い切る前に触手に引き摺られていき僕の目の前から姿を消した。気づけば銃声はそのほとんどが止んでいる。僕がもう少し草むらから顔を出そうとしたとき、目の前に柱のように巨大な鉄柱が降りて来た。別の場所ではもう一本の鉄柱が落下する音と地響きを感じる。目の前の鉄柱は再び持ち上がり、また少し先に運ばれる。なにか巨大なものが二足歩行しているようだ。それに、僕はこの脚を見た事がある。
「氷室さんか……!」
僕が声をあげると、巨大ロボは足元を見下ろした。
「……初夢くんか!?」
「氷室さあん!やっと追いついた!初夢です!」
「ソクラテス!追撃は中止だ!プルポを呼べ!急ぎだ!」
「わかった」
巨大ロボ……、氷室さんは僕に気づいたようで他の仲間たちを呼んだ。皆夢の姿で重武装していたが、僕は見知った顔にやっと出会えた嬉しさを噛み締めた。櫻さんの達磨のような対爆スーツをこれほど愛しく思えるのは今日が最初で最後かもしれない。彼女は僕を見るや突進するように抱き着いてきた。櫻さんは彼女のトレードマークのソンブレロが地面に落ちたのも気に留めずに何秒間も僕を抱きしめた。
「……痛いよ。櫻さん」
「生“き”て“て”よ“か”っ“た”~!あ“ぁ”~~!」
櫻さんはヘルメットの下で泣きじゃくりながら万力のようなパワーで僕をギリギリと締め上げる。見兼ねたトーニョさんが間に入ってくれなければここで絶命していたかもしれない。
「本当に無事でなによりだ。初夢くん」
「ありがとうございます。合流できてよかった」
後ろの方で氷室さんと辻導さんになだめられている櫻さんを一瞥する。トーニョさんは僕の視線に気づいたようだ。
「……彼女も心配していたよ。ところで初夢くんはひとりか?深瀬くんはどうした」
「あ!います!少し前のポイントで待機させてました。今呼んできますね」
そこまで言ったところで深瀬がこちらに小走りしてくるのが見える。
「噂をすれば、だな!」
僕たちは手を振って彼を迎えたが、深瀬は落ち着かない様子で息を乱している。僕はそれが心配になり彼に理由を尋ねた。
「どうした?」
「エルがおらへん!消えてもうた!」
「消えたって……。一緒にいたんじゃないのか?」
「おった。おったんやけど、木の陰から氷室さんの身体が見えたから合流せな言うて遮蔽から出たら、もうおらんかった」
落ち着きを取り戻した櫻さんを連れて氷室さん辻導さんが加わったことで話に全員が揃った。トーニョさんが深瀬に尋ねる。
「エルというのは、二人の友達か?」
「はい。夢現領域で知り合ったんです」
「その子も訓練生なのか?」
「はい。別の訓練所の所属みたいですけど」
それを聞いて辻導さんは何かを不可解に思うように顎を撫でた。そして僕たちに質問を投げ掛けてきた。
「外国人か?」
「えっと……、多分」
「そうか。”エル”というのは愛称だな。私が記憶する限り、参加している訓練生に外国人名の者はベトナム人のグエンくんだけだったはずだ。フルネームはわかるか?」
僕は深瀬と顔を見合わせる。
「……そういえばフルネームは聞いていませんでした。でも名前はわかります」
「”ダニエルズ”やんな」
彼の名前を聞いた瞬間にレイダースの面々は穏やかではない雰囲気に包まれた。特に櫻さんは何かに囚われるように再び落ち着かなくなった。先ほどとは違う不安に駆られるような落ち着かなさだ。
「ダニエルズ……、ダニー……」
「どうしたんだ?櫻さん」
再び氷室さんと辻導さんが彼女のケアに入る。
「……同名の別人だろ」
「そう断言することはできない。初夢くん、外見の特徴を教えてくれるか?」
「ロボットです。小柄の。あと掌からお菓子が出せます」
それを聞くと櫻さんはさらに小さくなった。
「ダニーがお化けになって出たんだ……」
置いてけぼりを食った僕たちにトーニョさんが状況を説明する。
「前に櫻が食堂で話したことを憶えているか?夜中に彼女が初夢くんの夢界に入って戦った翌朝の朝食だ」
僕は頭を捻って記憶を漁った。
『ダニエルズを憶えていますか?三年前、私と同時期に訓練を始めて、訓練期間を二週間も飛び級して主席で特心対に入った子です。』
「あっ」
僕がそのことについて思い出した拍子に声を上げると、深瀬もその話を思い出したようだった。
「でも夢現領域で死んだんやないんですか?」
「誰も遺体は確認していない。……三年前にも今日のように夢現領域を使って最終訓練を行っていた。そこで悪夢との戦闘中に唯一人、戦闘中行方不明として処理された」
「その夢現領域がここ、と……?」
氷室さんらが夢現領域について話す。
「俺はまだレイダースやってなかったから当時のことは伝聞でしか知らねえが……、死者が出たせいでしばらくは安全面から封鎖っていう話だったんだよな」
「それがなんで急に」
「訓練用の夢現領域が複数あるといっても、そのうちの一か所が封鎖されて使えないというのは、それだけでも特心対にとっては大きな損失だ。特心対が封鎖を解くべきだと指示したかは知らないが、そのことに気が付いて上層部に取り入る足がかりとして封鎖状態を解くべく動いた者がいたとしても不思議ではない」
「結果は大失敗だったようだがな。数年間手入れされていないがために今はローグの住処だ。誰が責任を問われるやら」
櫻さんが話に割って入る。
「そんなことより、ダニーは?生きた人間だったの?」
「正直そう言われるとわからん。夢の住人の可能性もある」
「やっぱりお化け!」
「落ち着け!戦場でいちいち取り乱すな!!」
「ひぃっ」
また興奮し始める櫻さんをトーニョさんが一喝する。混迷する場を彼が一旦治め、今後の動きを取り決めることにした。
「みんな聞け。ダニエルズも気になるが、今はそれよりも今後の指針について話し合うべきだ」
「すみません……」
櫻さんはさらにさらに小さくなりながら彼の話に耳を傾けている。
「俺たちの指針は変わらない。さらに夢現領域の中心部を目指し、ローグの本隊を叩く。だが櫻、お前は初夢くんと深瀬くんを連れて離脱しろ」
櫻さんは興奮して立ち上がった。
「そんな……!私も戦います!」
「護衛も立派な任務だ。二人を送り届けたら領域外で待機し連絡を待て」
「あの」
僕は控えめに挙手した。
「どうした。初夢くん」
「いえ……。一度全員補給に戻るか、後続と合流するのは駄目なんでしょうか」
「いい判断だ。だができれば俺もそうしたいところだが、そうも言っていられん事情があってな」
「と、言いますと……?」
僕が訪ねると、トーニョさんは深刻な面持ちで言葉を発した。
「じきにこの夢現領域には『マリーゴールド』が投入される」

 

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