ハロウィンの大人の仕事

ページ名:5日遅れなんだよなあ

 

一(はじめ):不知火派閥、神羅エリの三部下の一人。やりがいでは飯が食えず、金欲しさにダイバーもとい奴隷契約を結んだ。過酷な労働に肉体が耐え切れず、現在入院中。今回は出てこない。

デュオ:不知火派閥、神羅エリの三部下の一人。元ホストで、生活の質を下げることに耐え切れず、金欲しさにダイバーもとい奴隷契約を結んだ。言動は全体的にチャラく、また一番陽キャ。あだ名を人に付けがち。

三郎:不知火派閥、神羅エリの三部下の一人。元ヤクザの鉄砲玉、ケジメ怖さに組を抜け出し、安全保障のためダイバーもとい奴隷契約を結んだ。ヘタレかつ縦社会原理主義で、目上と目下で態度がやたらと変わりがち。また一番常識人。

神羅エリ:上三人の護衛対象の少女、あるいは飼い主。不知火上層の父に溺愛され育ち、幼く尊大で全体的に性格が悪い。彼女自身もダイバーであり、戦場では彼等を肉盾とMPバッテリーと矛として駆使する。

エル―シリア・ラザリア:イタリア帰りの軟派男……である兄の影武者として日々奮闘している妹。ドレアム騎士団の一人であり、敬虔な信徒。ただ純真すぎて影武者するのにだいぶ無理がある。

 


 

 

 

「うわ”っ、へっ、あっあっあ”ぁ”あ”あ”あ”あ”あ”ォあ””あ”あ”あ”ッ!!!」

不知火機関に提出の仕事を終えて帰りのことだ。微かだが確かに、その青年らしき悲鳴は奥の部屋から聞こえた。支部とはいえ拠点に襲撃とはにわかに信じがたい。相当な猛者が来たのだろうか?……けれど、それで躊躇うようでは騎士の名折れだ。僕は足に全力を込めてそちらへと駆け出す。間に合ってくれ、と祈りながら。

ようやく掴んだ扉のノブを一気に捻る。焼ける音や毒の臭気は感じないが……。

「大丈夫かい!?一体……」

「こんなもんでいいっしょ?」

「……ちょっと演技臭すぎないか……」

その先に居るのは、フランケンシュタインの怪物と狼男……に扮した2人の青年が台本らしきメモ片手に演技と相談をしているところだった。……全身の力がみるみる抜けていくのを感じた。

「何……が」

「もー、サブっちはそればっかじゃーん?テン下げだわ~……おっ?ラザっちじゃん、一体どったの?」

「……ゴホッエフッ。いや、あー……えっと早とちりの勘違いだったみたいだ。ノックもなしにすまなかったね」

今の僕は息も随分切らしてるし、だいぶ元深層級の影武者している者として相応しくない振る舞いだった感が否めない。今からでも挽回していかねば。

「ん?あ~……オッケーわかった、あれだ。音漏れてた、的な。」

「すいません……なるべくそうならないよう部屋を選んだつもりでしたが、心配掛けてしまって」

「それな。やっぱ防音室とか借りてリハるべきだったんじゃね?俺も申し訳ないっすマジで。」

「いや、こっちは大丈夫………。ええっと、そうだ、悲鳴の真似とかここで一体何してたんだい?」

落ち着こう。ゆっくり息を整えて……。

「あー、アレっすよ。ハロウィンの悪戯対策……的な?」

「毎年毎年妙に気合入れてるから。不発だとお嬢が不機嫌になるんですよ」

「し・か・も、っすよ?最近は火薬系で指が飛んだー、とかそういうのばっかで。」

「うわっ……それは……」

身分が身分な以上、本当に洒落にならない。下手をすればいや、しなくてもクビでは済まないんじゃあなかろうか……。僕の偏見、というか、そもそも異国の諜報機関なのだから知っていることはたかが知れているといえ。

「……リアクションどころか言葉も出せませんよ。いくらなんでも性質が悪すぎる」

「それをガチ事故orトリック見分け―の、すぐリアクションしーのでマジ難易度高いっす」

「……その……大変だね……」

「そうなってくると予めリハーサルでもしないと流石に無理でして。」

「あ、ついでにラザっちもTOT(トリックオアトリートの略意)、リハっちゃいます~?」

「えっ、そ、そうだなあ……」

この後は兄の捜索なのだけど、とはさすがに言えない。

そうやって僕が言葉を濁してる間に、2人の間で会話がどんどん進んでいく。

「今日は暇なんで、何ならそっちのお供にも行けますよ。これでも元本職ですから、脅かすとかなら多少は」

「おっイーネイーネ!サブっちもノリ気じゃ~~~ん」

「まあ、その前にまずは自分達のことを終わらせるべきだと思うが……」

「そーだそーだ。思い出したけどサブっち、指摘するなら代案もー」

「お前は一々面倒くさいな………普通に、ただ普通にって言ってるだけだろ……」

「そのフ・ツ・ウを聞いてんの。ただ漠然とケチ付けるだけならいくらでもできるっしょ?」

……どうしよう。完全に口を挟めるチャンスを見失ってしまった感じがする。でも流れ的にせめて断りは入れないと退出しにくいし……。

 

どうしたものか、と案じていると、そこでちょいちょい、と指先で肩を叩かれる。少しだけ視線をそちらのほうへずらせば、白く、透き通った指で何かを指差すのがわかった。そちらの方へ目を凝らす。ああ、なるほど。一瞬でそれが誰の指なのか、そしてどうしたいのかが理解できた。

「……ごめん、ちょっといいかな。……ねえ、そこのカレンダーはもう見た?」

僕が指差す11月1日の文字を見て、サーッと彼等の顔が青褪め血の気が消えていくのが見て取れる。

それから、取り乱しつつもスマートフォンを弄り回してさらに絶望するのは正直可笑しかった。そこまで時刻を合わせてるのか、本当に入念な仕込みだなあ。……悲劇は喜劇と言うが、同じ立場に立たされるのだけは勘弁だなとも思った。


「100点満点の演技ね。ありがとう、おかげでいいものが見られたわ。……あなた、奴隷4号に興味はない?」

「はは、それはどうも、お嬢さん。……悪いけど、一人の女性には縛られないのが僕のポリシーなんだ」

お兄ちゃんならきっとこう返すだろう。返すに違いない、返すよね?

「あら、残念。」

やいのやいのと慌てふためく騒がしさの中、背中越しの声はそう言うと最後にクスリと笑った。

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