『DREAM DIVER:Rookies file』chapter22

ページ名:DREAM DIVER Rookies file.22

 

『DREAM DIVER:Rookies file』

-主な登場人物

・初夢 七海
「不知火機関」に配属予定の新人ダイバー。真面目な性格で心の中で他人を罵倒する悪癖があるが、仲間を思いやり他人の心に寄り添うことができる心優しい青年。漠然と映画に登場するスパイ像に憧れている。また認識改変などによる他者の介入に若干耐性がある。

・深瀬 陸朗
初夢の同期として特殊心理対策局「実働部隊」に編入された新人ダイバー。初夢と同じく仲間想いで人懐こい性格だが、考えるよりも先に身体が動く。身体能力は同期の新人の中でずば抜けて高い。

・切崖 櫻
初夢の元大学の同級生の女性で傭兵派閥「デイドリーレイダース」に所属している。大学一年生の最後に大学を中退し、特殊心理対策局の適性検査を受けたが落第し傭兵派閥へ転向した。初夢は自身がダイバーになり初めて彼女がダイバーであったことを知る。

・笹凪 闘児
元暴走族の青年。街で仲間と共に夢の力を使って悪さをしていたため「イリーガル」認定され、特心対が差し向けた傭兵と交戦したがために仲間を皆殺しにされた。その時にその場で命を落とすかは薄給で正規ダイバーになるかの二択を迫られ、訓練所で初夢たちと同じように正規ダイバーになるための訓練を受けることとなった。

・唯億
教養があり肝が据わっているが、野心家でプライドが高い。大手企業の代表取締役の父親と国会議員の母を持つ。何を成しても両親の付属物のように扱われることをコンプレックスに思っており、両親の功績でダイバーになることを予め免除されていたにも関わらず、自分自身の力で名を上げるために特殊心理対策局に加わった。

・澄田
優しく礼儀正しい性格で、相手が何者でも丁寧な言葉遣いを崩さない。特殊心理対策局、実働部隊の深層級ダイバーである内垣 真善とは親戚関係にある。両親はどちらも特心対のダイバーであり、小学生の頃にはダイバーとしての素質を見出されていた。そのため彼は自分はダイバーになることが道理であると信じて疑っていない。

・深宮
真面目で融通が利かない性格をしている。某県に存在する小さな寺の子供として生まれた。両親は夢の使者に属するダイバーだが没落しており、彼は家の名を背負って特殊心理対策局で武勲を立てる期待をかけられている。本人はそのことを自身が果たすべき最大の目標として掲げており、訓練時間外の鍛錬を欠かさない。

・グエン
勉強家だが極度の貧乏性なのが玉に瑕。かつては故郷のベトナムで両親、弟、妹、妻の五人で畑仕事に精を出していたが、生活苦により出稼ぎに出ることにした。やがて日本に不正入国の罪で摘発されたが、空港で発生した夢現災害でダイバーとしての才覚を発揮し、強制帰還とダイバーとの二択を迫られ特心対に入局した。いつか日本に家族を連れてきて全員で住むのが夢。

・エナジーバーの少年
深瀬が率いる訓練生の集団に属している心優しい少年。年齢は高校生くらいだろうと初夢は見ている。夢の姿はロボットのような見た目をしており、掌に備え付けられている立体プリンターを使用すれば食糧品などを作り出すことができる。

第二十二夢現領域(三)』


 

 

なぜ捕虜のローグは、僕の隠蔽を看破できたんだ?そんなことを貰った一口大のエナジーバーを口に放り込みながらふと考えた。これは実は重要なことなのではないか。そう思い深瀬にも共有しようと思った。しかしまずは僕の夢の姿が性転換したところから説明しなければならないのがなかなかしんどい。
「なあ、深瀬。ちょっと話があるんだけど━━」
僕が言い掛けたとき、唯億の怒号が休憩地に響き渡る。
「敵だ!ローグ野郎共が来やがった!数は━━」
緊急事態を知らせている最中に茂みの辺りが光った。銃撃されていると勘でわかった。反射的に目を閉じる瞬間、唯億が肩に被弾したのを見た。その事実を整理するよりも先に、目を閉じたまま硬直する僕を深瀬が自分ごと押し倒して射線から避難させた。すぐそばの地面や木々、岩に着弾する音と振動がわかる。
「おぉぉぉぉおっ!」
すぐ頭上で響く雄叫びに恐る恐る目を開くと、深瀬が得物の自動小銃で果敢にも応戦していた。ごろんと転がり他の訓練生たちの様子を確認する。遮蔽物に隠れて応戦する者もちらほらといるが、何人かは地面に倒れて動かない。負傷した唯億は岩の裏に避難しつつ澄田の手当を受けているようだ。僕も、僕もなにかしなければ。
「深瀬ぇ……」
出たのは情けない声だけだった。足がすくんで一歩たりとも動く事ができないどころか、立ち上がることすらままならない。仕方なく這って仕込み傘を手に取ったとき、視界に解き放たれて自由になった捕虜のローグダイバーの男が映った。男はこちらを発見すると刃物のような武器を構えて近寄ってくる。深瀬は銃撃戦に集中して男に気づいていない。
「深瀬!」
僕の呼びかけで彼は奇襲に反応し、男の刃物を咄嗟に銃身で受ける。
「しんどいでほんま……!」
「素人どもが!こんなところでピクニックかよ!?」
押し倒される形で形勢不利になっている深瀬を見た僕は、急いで仕込み傘のモードが”殺傷”になっていることを確認し、男の脇腹目掛けて散弾を発砲した。男は被弾の衝撃で吹き飛んで深瀬から引き剥がされた。
「助かったで!七海!」
「あ、ああ……!」
男は散弾をモロに受けた腹から流血しながらもまだ立ち上がろうとしている。
「まだ立つのか!」
僕たちが追撃を喰らわせようとしたとき、今交戦している捕虜のローグの男と全く同一の外見をした人物が立ち上がろうとする男を本人の得物で突き刺してトドメを刺した。人物は直後ナイフを捨ててこちらに近寄り、僕に手を差し出した。
「立つんだ」
脊髄反射で手を取って立ち上がってしまった。ああ、僕はこの声を知っている。僕の身体の秘密を看破できたことも納得できた。あなたは━━
「初めまして……。初夢くん」
僕がそう言うと人物からローグの”ガワ”が消失してゆき、全くの別人が現れる。
「あなたが、エコー……」
深瀬が牽制射撃をしながら背後の僕たちに警告する。
「ローグがあとからあとから湧いてきやがる。全部片すのは無理や。後退せんと全滅やで」
エコーは頷くと僕に指示を出した。
「彼の言う通りだ。仲間を集めて速やかに移動しよう」
僕は頷いてすぐに行動に移した。遮蔽から飛び出してすぐにデコイを生成する。生み出されたデコイは即座に銃撃に曝されて消滅した。どうやら敵の攻勢は衰えてはいないようだ。対する訓練生たちは遮蔽に隠れつつ銃撃された方向に向け応戦している。肩に被弾した唯億は岩陰で澄田の手当を受けている。僕は二人のいる遮蔽に滑り込んだ。
「大丈夫か!?唯億」
「……問題ねえ」
「問題なくないですよ。骨折しているかもしれないんですから」
僕たちが隠れている岩にも度々銃弾が飛んでくる。迂闊には顔が出せない状況だ。
「……」
仕込み傘を両腕で強く抱き寄せる。次の行動に踏み出せずにいた。こんなときに思い出したのは、行きの列車内で僕にガッツポーズをしてみせてくれた櫻さんの表情だ。
(彼女もきっとどこかで戦っているんだ。それなのに、僕だけがここで縮こまって怯えているのか?)
僕は覚悟を決めて澄田に
「澄田。敵の注意が逸れたら、唯億を連れて深瀬たちと合流しろよ」
それだけ告げると僕は遮蔽から飛び出した。
「初夢くん!早まっちゃダメです!犬死にです……、犬死にだあっ!」
澄田の制止に耳を貸さずひたすらに走った。敵集団にもっと接近すべく次の遮蔽に向けて走り出した。無数の銃弾が僕の横を通過する。生成したばかりのデコイは銃弾の雨で紙屑のように消滅する。もっと接近しなければ。ただそう思って次の遮蔽に辿り着こうというとき、ローグの集団と僕たちの中間地点に、なにか質量のあるものが落下してきた。その衝撃で僕は結果的に遮蔽物の影に飛ばされることとなった。ローグたちも落下物に驚いたようで少しの間攻撃が中断される。落下してきたものを確認しようと物陰から顔を出すと、漆黒の甲冑に身を包んだ細身の騎士が立っていた。二挺の拳銃を携えた黒騎士はローグたちに今すぐにでも飛び掛かからんと姿勢を低く構えている。状況を理解するよりも先に焚かれた眩い閃光で目が眩む。直後戦場に銃声が復活する。だが先ほどとは違う銃声が混じっているのがわかる。それがローグの軍団を圧倒しているようだ。少しずつ目を眩しさに慣らしつつ、指の隙間から空を見れば人型の飛翔体から天使の翼のように発光物が放たれているのが見える。古典的な魔女衣装の人物が瞬間移動してきたかのように騎士の横に現れローグの集団に火球を放つ。間違いない。『オズ』だ。傭兵たちが加勢にきてくれたのだ。空からは続々と傭兵たちが降下してきた。その中には知った顔もちらほらと見えた。空の人型の飛翔体からは無数のミサイルがローグ集団の頭上に降り注ぐ。この短時間で完全に形成は逆転していた。深瀬はこの機を逃すまいと訓練生たちを鼓舞した。
「逆転した!これから押し返すでっ!!」
次いで澄田が能力により敵味方を識別しマーキングする。
「マーキングしました!これで誤射の心配はありません!」
澄田の能力により視界に映る人影の頭上に極薄い青と赤のマークが表示された。敵を意味する赤がマークされたダイバーは既に撤退を始めている。しかしその多くは背中を押されたように地面に倒れるか、中空を舞ったのを最後にマーキングが消える。僕も仕込み傘搭載の銃で攻撃に参加したが手応えはない。ほとんど傭兵たちがやってしまった。少しして完全に敵の反応は無くなった。マーキングが外れるくらい遠くまで逃げたか、あるいは全滅したのか。傭兵の集団からレイさんたち面識のあるメンバーが僕と深瀬に会いに来てくれた。
「よく耐えたな。新人ダイバーとしては文句無しの合格だ。外まで送ったら私らの任務も一応終了だ」
「ちょっとレイ!私の生徒っすよ!私の!!……みんなよく生き残りましたっ!」
僕たちを労ってくれる二人に割り込んでオズさんが水を差す。
「死に損なったな。ここを生き残っても特心対の元で馬車馬の如く働き続けるという苦難が待っている。儂は応援しているぞ」
彼女たちは僕たちを褒めてくれた。さらに安全な帰り道も保証してくれるという。なんと贅沢なことか。だが僕はそのまま帰るわけにはいかない。仲間たちを……、櫻さんを連れて帰らなきゃいけない。
「ありがとうございます。でも……、帰るわけにはいかないんです」
オズさんは少し驚いた表情を見せた。
「ほう?なんでだ?」
「友達を探しにいくんです」
オズさんは納得がいかない様子で続ける。
「私らはこいつらを本局まで送り届けなければならん。往復はできぬかもしれぬぞ」
「それでも行きます」
さらに追及しようとするオズさんをレイさんが制止した。
「馬鹿らしい話だが、死んででも助けたい奴がいるんだろうよ」
「上等だ」とレイさんは言うと他の訓練生を集めて誘導し始めた。最後に小野河さんが僕の手を握ってくれた。
「こんなとき……どういっていいかわからないけれど……。無茶はしないでください」
「……ありがとうございます」
唯億も僕についてきてくれると言ったが、僕と深瀬、澄田がそれを止めた。彼の肩の怪我は決して浅くない。ここからは僕だけでよかった。深瀬すらも、僕の我儘に付き合わせるわけにはいかない。
「ありがとうな、みんな」
 僕はこの決断で、生存の切符を永遠に失ったかもしれない。でも構わないと思った。僕をいつも気に掛けてくれた彼女をこんなどうしようもない場所に見捨てるわけにはいかない。それに、自分を裏切ることはできない。僕は僕自身がどうしたいか知っている。でも保守的な自分がそれを見えなくする。去ってゆく傭兵たちと、避難するために彼女たちに誘導されてゆく多くの訓練生たちの背中を眺めながら、少し恨めしく思った自分が憎い。僕は大木に背中を預けて座り込んだ。すぐに出発するのは愚策だ。少し休まなければと思った。そして……心身ともに疲れていた僕はそのまま泥のような眠りに落ちた。
 

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