『DREAM DIVER:Rookies file』chapter20

ページ名:DREAM DIVER Rookies file.20

 

『DREAM DIVER:Rookies file』

-主な登場人物

・初夢 七海
「不知火機関」に配属予定の新人ダイバー。真面目な性格で心の中で他人を罵倒する悪癖があるが、仲間を思いやり他人の心に寄り添うことができる心優しい青年。漠然と映画に登場するスパイ像に憧れている。また認識改変などによる他者の介入に若干耐性がある。

・深瀬 陸朗
初夢の同期として特殊心理対策局「実働部隊」に編入された新人ダイバー。初夢と同じく仲間想いで人懐こい性格だが、考えるよりも先に身体が動く。身体能力は同期の新人の中でずば抜けて高い。

・切崖 櫻
初夢の元大学の同級生の女性で傭兵派閥「デイドリーレイダース」に所属している。大学一年生の最後に大学を中退し、特殊心理対策局の適性検査を受けたが落第し傭兵派閥へ転向した。初夢は自身がダイバーになり初めて彼女がダイバーであったことを知る。

・笹凪 闘児
元暴走族の青年。街で仲間と共に夢の力を使って悪さをしていたため「イリーガル」認定され、特心対が差し向けた傭兵と交戦したがために仲間を皆殺しにされた。その時にその場で命を落とすかは薄給で正規ダイバーになるかの二択を迫られ、訓練所で初夢たちと同じように正規ダイバーになるための訓練を受けることとなった。

・唯億
教養があり肝が据わっているが、野心家でプライドが高い。大手企業の代表取締役の父親と国会議員の母を持つ。何を成しても両親の付属物のように扱われることをコンプレックスに思っており、両親の功績でダイバーになることを予め免除されていたにも関わらず、自分自身の力で名を上げるために特殊心理対策局に加わった。

・澄田
優しく礼儀正しい性格で、相手が何者でも丁寧な言葉遣いを崩さない。特殊心理対策局、実働部隊の深層級ダイバーである内垣 真善とは親戚関係にある。両親はどちらも特心対のダイバーであり、小学生の頃にはダイバーとしての素質を見出されていた。そのため彼は自分はダイバーになることが道理であると信じて疑っていない。

・深宮
真面目で融通が利かない性格をしている。某県に存在する小さな寺の子供として生まれた。両親は夢の使者に属するダイバーだが没落しており、彼は家の名を背負って特殊心理対策局で武勲を立てる期待をかけられている。本人はそのことを自身が果たすべき最大の目標として掲げており、訓練時間外の鍛錬を欠かさない。

・グエン
勉強家だが極度の貧乏性なのが玉に瑕。かつては故郷のベトナムで両親、弟、妹、妻の五人で畑仕事に精を出していたが、生活苦により出稼ぎに出ることにした。やがて日本に不正入国の罪で摘発されたが、空港で発生した夢現災害でダイバーとしての才覚を発揮し、強制帰還とダイバーとの二択を迫られ特心対に入局した。いつか日本に家族を連れてきて全員で住むのが夢。

 

第二十話『夢現領域(一)』


 

 ━━まるで身体の内側から燻製にされていくような熱気で僕は目を覚ました。視界からの情報よりも先に頭に血がのぼるのを感じる。どういうわけか僕は上下が逆になった車両内でリュックの紐に引っ掛かって宙吊りになっているのだった。
「……」
僕は言葉を失った。混乱する頭を精一杯に整理するが、ここから状況を読み取ることはできない。とにかくこの状況から逃れなければ。僕はリュックのストッパーを外し、受け身がとれないまま地面……、この場合は車両の天井に背中から叩き連れられた。
「っ痛ぅ……!」
散乱した荷物や細かい備品が背中に食い込み耐え難い痛みを感じた。しかし先に誰かが蹴破ったと思しき車両の出入り口から外の様子を見た時、悠長に痛がっている場合ではないとわかった。
 車外は既に戦場跡と化していた。燃え盛る分離した客車や、そこから投げ出されたであろう雑多な荷物。周囲には数十人の怪我人が手当を受けている。見たところ所属は別々ながら全員が訓練生のようだった。僕がその場に呆然と眺めていると、黒い戦闘服のダイバーが、この怪我人の小さな集団を指揮しているのがわかった。
「怪我が重い順番に並ぶんや!動ける奴は動けない奴に手を貸してやれ!」
独特の関西弁を聞き間違えるはずはない。それは夢の姿を纏う深瀬だった。
「深瀬!」
僕が堪らず名前を呼ぶと彼はすぐに振り返った。
「七海!目を覚ましたか!怪我はないか?」
「ああ、目立ったものはない……。それよりなにが起きてる?」
「動きながら説明する。手を貸してくれ!」
「わかった」
僕は彼の指示で怪我人を一か所に集め、その合間に状況の説明を受けた。
「ローグや。ローグダイバーが襲ってきたんや」
「待ち伏せ?遠征の情報が抜かれてたのか?」
「いや……、こいつらは俺ら本来の日程である数日後の遠征に備えて線路に細工しとる最中やったんやと思う」
「なんでそう思うんだ?」
「運転手がな、列車が吹き飛ぶ直前に線路をいじっとる人間を撥ねた気がすると」
「気がする?今運転手はどこに?直接話を……」
僕が訪ねると深瀬は親指で集団から少し離れた地面を指した。そこには人の形に盛り上がったシーツが数体並べられていた。
「前の方の車両に乗っとった人間で見つけたのはあれだけや」
「そうか……。僕たちはこれからどうする?」
「この辺は外縁とはいえもう夢現領域やが、ひとまず制圧したから安全や。怪我人はここに置いていくが、かろうじて動ける連中と、数人にはここで怪我人を見ててもらう。他は後部車両の方へ行って救助に参加しようと思う。七海、変身できるか?」
「できるとも!」
そう言って僕は姿をイメージしダイバーとしての姿を纏った。
「……あれ?」
前に夢の姿となったときとは何かが違う違和感を感じた。昨日観た最新作の映画に影響され、夢の姿がアップデートされたのだろう。深瀬も僕の姿には客観的に違和感を感じているようだった。
「なんか雰囲気変わったな」
「うん……、うん?」
背丈やスーツ、アクセサリーは変わらない。しかし僕は自分の身体のラインをなぞったときに違和感の正体に気が付いた。
「あ“っ……」
首を絞められたような僕の声に深瀬は驚いた様子だった。
「どした?」
僕の夢の姿は映画『ルーラーガイ』の主人公を模している。同作の最新作では主人公が”女性”であることが明かされた。
「……なんでもない。ネタバレになる」
「うん……?よくわからんが……。戦えるんやな?」
僕は試しに腕を回してみる。具合は悪くない。むしろより理解が深まったことで肉体自体はより引き締まった感じがした。
「……いける」
深瀬は「よっしゃ」と手を打つと集団に向けて話し出した。
「動ける奴は集まってくれ!出発しようと思う!」
彼の号令で既に夢の姿になっている訓練生と思しきダイバー七人が集まった。その中には唯億、澄田、深宮の三人もいた。
「なかなか起きて出てこねえから死んだのかと思ったぜ」
唯億がそう笑って僕の肩を叩く。
「心配かけて悪かったな。……グエンは?」
「腕をヤッちまったみてーでな。処置を受けたから怪我人のお守りだ」
彼が指さす先ではグエンが片腕で荷物整理をしているのが見える。深宮が深瀬に尋ねる。
「深瀬、正規ダイバーたちを見たか?」
「見とらんが、たしか後ろの方の車両におったはずや」
澄田が顎に手を当てて考えを述べる。
「まずは彼らと合流を目指すのがよさそうですね。我々だけでは同じ数の覚醒級ローグを数人相手にするだけでもやっとです……」
「ああ。正直グエンが無茶してくれなきゃあ、今よりもっとヤバかった」
方針が決まったところで僕は深瀬に気になっていることを尋ねた。
「そういえばなんで後部車両を目指すんだ?後ろの方が被害が少ないんじゃ?」
「いんや。爆発で前の車両がダメージを受けたときに、後ろの方はジャックナイフかヌンチャクみたくスイングされたみたいでな。多分今はここよりも夢現領域の奥まった場所にあると思う」
「思ったよりも状況はひどいな。それとローグの戦力はどのくらいだ?」
「全体はどうかわからん。さっき俺らと交戦した連中はせいぜい覚醒級やったと思う。それでもこっちもかなり削られたけどな……」
「まだまだいるかもしれないってことか」
「まあ、おるやろうな。このただっ広い夢現領域を数人で囲うとは思えん」
「だがこの遭遇は連中にとってもアクシデントだ。つまり態勢は完璧じゃない。深宮、お前は残って怪我人を見てろ」
「承知。澄田、唯億のお守りを頼んだぞ」
「わかっていますよ」
意見がまとまったところで出発組は深瀬がいる一か所に集合する。
「俺たちはそろそろ出ようか。のんびりはしていられん状況や」
こうして即席チームは深瀬をリーダー格として生存者の捜索に乗り出した。チームの中には一度も会ったことがないダイバーもいた。道すがら話を聞けば、彼らはやはり別の地区の訓練生だった。期日を早めて次の段階に行く僕たちの訓練所に、彼らの訓練所の責任者も便乗した形になるのだという。彼らもまた権田の強権による被害者だ。それだけに最初はお互いに少し気まずさがあったが、この夢現領域で命を預ける仲間として積極的に交流はした。それは、命懸けの戦場を歩いているという恐怖を少しでも和らげようとする表れでもあったのだと思う。
 ああ。進めば進むほど事態の重大さばかり目にした。ひしゃげて木っ端微塵になった客車に、助からなかった訓練生や客室乗務員。そのどれでもない遺骸はローグダイバーのものだろうか。こんな地獄を奥へ奥へと進んでゆくのは、果たして正しいことなのだろうかと考えてしまうのも一度ではなかった。もう半日は歩いた気がしたが、スパイ時計を見ればまだ二十分も経ってはいなかった。さすがの深瀬の顔にも疲れが見て取れた。だがそれ以上にバテているチームメンバーを見て深瀬は休憩にしようと申し出た。
「ここらで休憩しよか」
少し開けた場所に荷物を置き、各々なんなのかすらわからない残骸に座り込んだ。唯億がススで黒くなった顔をタオルで拭うと、いの一番にぼやいた。
「収穫は無しか。休憩にしても、食い物でもありゃあな」
「水ならその辺の物資から唸るほど手に入ったで」
「固形の飯の話をしてんだ。深瀬」
澄田が苛ついている唯億の背中をさすって窘めた。
「仕方ありませんよ。この先で注意深く探しましょう」
「クソッ、そんなんじゃねえよ……。ボンボンの無い物ねだりだ。気にすんな」
場が静かになったところで「あの……」と一人控えめに手を挙げた。
「うん?」
見れば小柄なロボットが手を挙げていた。見た事の無い夢の姿なので他所の訓練生だろう。しかし声は随分若い。おそらくは現実世界では高校生くらいの年齢なのだろう。
「出せます……。簡単な栄養食ですけど……」
そう言うと彼は掌から複数の光線を中空に照射し、レーザープリンターのように何かを成型する。出来上がったそれは、見た目はエナジーバーのようだった。
「……食えんのか?それ」
唯億は懐疑的な態度だったが、腹はよほど減っているのか目を輝かしていた。ロボットは”にへら”と自信なさげに微笑むと頷いた。
「僕のダイバー能力……、みたいです。お腹が膨れる以外にも傷を癒す効果があるみたい」
「それ……、もらっていいのか?」
それを聞くと少年は唯億に微笑んだ。
「はい。こういうときに役に立てて嬉しいです。時間があればいくらでも作れるので、みなさんも良かったらどうぞ」
「……サンキュー」
彼は唯億にエナジーバーを渡すと、他の仲間にも分け与えるため食糧を量産し始めた。僕もフレーバーの違う二本をいただくことにした。潤沢に食糧が行き渡ったチームを見て深瀬は少年の肩に手を回して感謝を伝えた。
「この英雄のおかげで我らが隊の飢餓は救われたわけやな!」
「そんな……、大袈裟ですよ」
周囲の祝福に彼は謙遜しつつも照れ臭そうに笑っていた。僕はその様子を微笑ましく思いつつエナジーバーを人齧りした。
[ジャリどもを見つけた。呑気にピクニックでもしゃれこもうとしてやがる]
まただ。また知らない声が頭に届いた。今度は全く別の声だ。僕は自分達が監視されていると気づいた。勝手はまだわかりきっていないが、背後から何らかの干渉を受けていることはなんとなく感じる。これも『エコー』の言っていた僕の能力の一部なのかは、この段階ではわからない。それよりも監視者に気取られないように深瀬にそのことを伝えるべきだと思った。
「……深瀬」
「おっ。どうした七海?フレーバーの交換でもするか?」
僕はさも雑談をしに隣に座ったかのように続ける。
「腹ごしらえはあとにしよう。お客さんだ」
「……なに?」
彼も趣旨に気づいて声を絞る。
「多分。今僕たちが座ってる場所のちょうど背中側の茂みに違和感を感じる。尾行けられてるかも」
深瀬は顎を撫でで一秒程度悩むが、すぐに答えを出した。
「……やろう」
そう言って彼は静かに食糧を置いた。
[君ならば気づかれずに回り込むことができる]
「!?」
思わず声を出しそうになった。その声は”エコー”のものだった。突然声を掛けて来たかと思えば無責任に可能性を示唆しただけだ。……だが不思議なことに、そのときの僕には今使うべき能力が手に取るように理解できた。僕は武器にそうっと手を伸ばそうとする深瀬の手を取り制止した。
「僕がやる」

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