『DREAM DIVER:Rookies file』chapter17

ページ名:DREAM DIVER Rookies file.17

 

『DREAM DIVER:Rookies file』

-主な登場人物

・初夢 七海
「不知火機関」に配属予定の新人ダイバー。真面目な性格で心の中で他人を罵倒する悪癖があるが、仲間を思いやり他人の心に寄り添うことができる心優しい青年。漠然と映画に登場するスパイ像に憧れている。また認識改変などによる他者の介入に若干耐性がある。

・深瀬 陸朗
初夢の同期として特殊心理対策局「実働部隊」に編入された新人ダイバー。初夢と同じく仲間想いで人懐こい性格だが、考えるよりも先に身体が動く。身体能力は同期の新人の中でずば抜けて高い。

・切崖 櫻
初夢の元大学の同級生の女性で傭兵派閥「デイドリーレイダース」に所属している。大学一年生の最後に大学を中退し、特殊心理対策局の適性検査を受けたが落第し傭兵派閥へ転向した。初夢は自身がダイバーになり初めて彼女がダイバーであったことを知る。

・笹凪 闘児
元暴走族の青年。街で仲間と共に夢の力を使って悪さをしていたため「イリーガル」認定され、特心対が差し向けた傭兵と交戦したがために仲間を皆殺しにされた。その時にその場で命を落とすかは薄給で正規ダイバーになるかの二択を迫られ、訓練所で初夢たちと同じように正規ダイバーになるための訓練を受けることとなった。

・唯億
教養があり肝が据わっているが、野心家でプライドが高い。大手企業の代表取締役の父親と国会議員の母を持つ。何を成しても両親の付属物のように扱われることをコンプレックスに思っており、両親の功績でダイバーになることを予め免除されていたにも関わらず、自分自身の力で名を上げるために特殊心理対策局に加わった。

・澄田
優しく礼儀正しい性格で、相手が何者でも丁寧な言葉遣いを崩さない。特殊心理対策局、実働部隊の深層級ダイバーである内垣 真善とは親戚関係にある。両親はどちらも特心対のダイバーであり、小学生の頃にはダイバーとしての素質を見出されていた。そのため彼は自分はダイバーになることが道理であると信じて疑っていない。

・深宮
真面目で融通が利かない性格をしている。某県に存在する小さな寺の子供として生まれた。両親は夢の使者に属するダイバーだが没落しており、彼は家の名を背負って特殊心理対策局で武勲を立てる期待をかけられている。本人はそのことを自身が果たすべき最大の目標として掲げており、訓練時間外の鍛錬を欠かさない。

・グエン
勉強家だが極度の貧乏性なのが玉に瑕。かつては故郷のベトナムで両親、弟、妹、妻の五人で畑仕事に精を出していたが、生活苦により出稼ぎに出ることにした。やがて日本に不正入国の罪で摘発されたが、空港で発生した夢現災害でダイバーとしての才覚を発揮し、強制帰還とダイバーとの二択を迫られ特心対に入局した。いつか日本に家族を連れてきて全員で住むのが夢。

 

第十七話『特殊な能力?(二)』


 

 「僕の能力についてなにかわかったのか?」
僕ははやる気持ちを抑えきれず、席につくなり深瀬に尋ねた。
「おう!だがまあ、話は飯をよそってからに……」
そう言って席を立とうとする深瀬の肩をグエンが押さえて座らせる。
「ナナミに話してやるといい。お前らの分オレらもってくる」
そう言って深瀬と僕以外の五人は食事が並ぶ長テーブルに向かった。
「あ……、悪い!ありがとう!」
僕は五人に聞こえるように座面から尻を浮かして大きな声で礼を言い、そのまま身を乗り出して深瀬に詰め寄った。彼は水を一口含むと段階的に話し出した。
「まず、変身状態の笹凪と会話できたことがひとつやな」
僕は固唾を飲んで静聴する。
「もうひとつ俺が思い出したんは、ハウルさんバスに乗ったときのことや」
「ホームに行くときのことか」
「そう。あんときに七海は壁の中から脈拍が聞こえると言うとったな。俺はそのことも無関係とは思えへん。なにしろ他の訓練生が気が付かないことはもちろん、言われて耳を近づけた俺にも脈拍なんぞ聞こえんかったからな」
僕は当時のことを思い返す。バスの壁から鼓動のような音が聞こえたのは、ハウルさんがバスそのものに変身していたからだろう。そして、その鼓動を聞いたのは僕だけだった。少なくとも深瀬には聞こえていなかった。
「……変身を見破る能力?」
「それも、ある。だが俺はそんなもんじゃないと思っとる。なにか他に心当たりはないか?」
僕は顎に手を当てて考えた。そうして二つの出来事を思い出した。
「ふたつ、ある。ひとつはサー・ミモザと話したとき、もうひとつは星乃教官と話したときだ」
「詳しく話してみてくれんか?」
僕は記憶の中からサー・ミモザと会ったときのことを引き出して話した。
「あのときは、確か彼の声が一瞬女性の声に聞こえたんだ。ただの勘違いかもしれないけれど……」
「全くの無関係とは、この段階では言い切れんな。もうひとつは?」
「昨日の夢界訓練中に、星乃教官の本音が聞こえた。流れ込んできたと言うべきか」
深瀬は真剣な表情のまま右腕で頬杖をつき、左手の人指し指ではテーブルをこつこつと叩いている。しばらくそのままでいると、僕たちの分まで食事を持ってきてくれたグエンたちがテーブルに戻ってきた。全員がテーブルに座ったところで深瀬がこれまで出た情報を纏めてみんなに話す。
「……生きる夢の現実の姿を形作るのは夢の力やんな。笹凪が恐竜に変身するのも夢の力や。サー・ミモザが何かしらの細工を施していたとしたらそれも夢の力」
深宮が深瀬の話ではたと気づいたように割り込む。
「夢の力を”透かして”見たんだ。夢の力を透視する能力」
唯億と澄田も彼の考察に続く。
「夢で隠されたものを看破する力か?」
「それが事実ならば、不知火機関が欲しがるのも頷けます」
静観していたグエンも会話に参加する。
「ホシノ教官の件はどうなる?まさか相手の考えが読めるわけではないだろに」
「仮説ですが、初夢くんの能力にかかるとしたら特定の人物にのみ届くように夢の力でなにかしらの保護を掛けていたんのでは」
「あの場にいた人間の中だと、権田にか?しかしなんのために」
「奴の昇進をアシストするため以外に目的が思いつかねェな」
僕以外が寄ってたかって僕の力を考察している現状には少し恥ずかしさを感じた。しかしそれ以上に今までは朧げだった自身の持つ可能性が形なってきたことに対する嬉しさがあった。“夢の力を貫通して看破する能力”。それが仮に僕の能力だとしたら、どんなことで役に立てるだろうか。
「だけど、誰が初夢の能力に気がついて不知火にスカウトしたんだろうな」
そう言われてみればそうだ。仮説が正しければ僕でさえ気づいていない能力に気が付いて、僕を不知火に招いた者がいるということになる。知っているならば会って聞いてみたいものだ。
「そうだな……。でも自分の能力に自信が持てた気がするよ。ありがとう、みんな」
「ひとりだけ不知火機関に引き抜かれた段階で、きっと只者ではないとはみんな思っていましたよ。戦闘能力だけがダイバーの資質ではないですから」
深瀬たちは次々に頷いた。僕たちが話し込んでいる間にも食堂は混みあってきて、入り口には列が形成されている。
「つい話し込んでしもうたな。ちゃちゃっと飯食って席空けよか」
僕は起きたばかりなのでまだまだ話し足りない気分だったが、彼らは一日訓練を終えたあとなのだ。僕たちはそれから急ぎめに食事を片付けて、その日はそれぞれの部屋に戻ることにした。
 僕は部屋に戻ってからも、ずっと今日の話を思い返していた。そのことを思い出すたびに、今までピントが合っていないようにぼやけていたものが鮮明に見えたような快感と、探していたものが見つかったような幸福感が往復した。しかし考えれば考えるほど僕のこの能力を、ずっと知っていたような違和感を覚えるのだ。まるで僕以外の僕が、すでにこの能力を知っていたかのような……。
[君ならば辿り着くだろう]
目を瞑っていた僕は、囁くような声で驚いて目を開いた。そこは既に僕の夢界だった。あれだけ寝たにも関わらず、僕はあれからすぐに眠ったようだ。謎の声は復唱する。
[君ならば辿り着くだろうと思っていた。これは音声記録だと思ってくれ]
僕が言葉を失っていると、音声記録だと言う声は話を続ける。
[君を不知火機関に推薦したのは俺だ。名前は……、そうだな。”エコー”と呼んでくれ]
エコーと名乗った声は、そのまま僕の意思を無視して話し続けた。
[俺が君になっている限り、俺は君だ。君の気持は自分のことのようにわかるよ。だからこそ記録を残した。君が自分自身の能力に気が付いたとき、俺の声がきっと聞こえるだろう。君は俺が君に干渉したときのログを辿っている。過去の情報すらも探ることができるんだ]
エコーはそれだけ話すと静かになった。それ以降彼の声が聞こえることはなかった。しかしこの短い時間であらゆることがわかった。何者かが実際に僕の能力を予め調べていて、それを基に僕を不知火機関に推薦したこと。それがエコーという名の男性だということ。僕はなんとなく、彼には近いうちに現実世界で会うことになるような気がした。そう考えているうちに、その日は深い眠りに落ちた。

 

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