『DREAM DIVER:Rookies file』chapter16

ページ名:DREAM DIVER Rookies file.16

 

『DREAM DIVER:Rookies file』

-主な登場人物

・初夢 七海
「不知火機関」に配属予定の新人ダイバー。真面目な性格で心の中で他人を罵倒する悪癖があるが、仲間を思いやり他人の心に寄り添うことができる心優しい青年。漠然と映画に登場するスパイ像に憧れている。また認識改変などによる他者の介入に若干耐性がある。

・深瀬 陸朗
初夢の同期として特殊心理対策局「実働部隊」に編入された新人ダイバー。初夢と同じく仲間想いで人懐こい性格だが、考えるよりも先に身体が動く。身体能力は同期の新人の中でずば抜けて高い。

・切崖 櫻
初夢の元大学の同級生の女性で傭兵派閥「デイドリーレイダース」に所属している。大学一年生の最後に大学を中退し、特殊心理対策局の適性検査を受けたが落第し傭兵派閥へ転向した。初夢は自身がダイバーになり初めて彼女がダイバーであったことを知る。

・笹凪 闘児
元暴走族の青年。街で仲間と共に夢の力を使って悪さをしていたため「イリーガル」認定され、特心対が差し向けた傭兵と交戦したがために仲間を皆殺しにされた。その時にその場で命を落とすかは薄給で正規ダイバーになるかの二択を迫られ、訓練所で初夢たちと同じように正規ダイバーになるための訓練を受けることとなった。

・朝似我 時葉
特殊心理対策局「奇書院」に所属するダイバー。ダイバーネームは「シンビオシス」。表立っては奇書院の経営する図書館にて司書を務めている。親身で温厚な人柄を持ち、特に若年層のダイバーに親しまれ信頼されている。訓練所には時折足を運び、傷だらけの訓練生に簡単な手当てを施したり、訓練を見学したりしている。

・鵺塚 ぬえ
夢の使者の若年ダイバー。ダイバーネームは「エニグマ」。使い魔として「白獏」を引き連れている。調子に乗りやすい天真爛漫な性格で知られ、思考するよりも先に身体が動く。戦闘面では異常なしぶとさで知られ、致命的なダメージを負っても涼しい顔で生還している姿が何度も確認されている。

・白獏
鵺塚 ぬえの使い魔。現実世界では主にネズミの姿をしており、普段は彼女の髪に埋もれて熟睡している。ネズミの姿以外にも少女の姿をとることもあるが、いずれにせよ眠たそうに欠伸をしている姿が頻繁に確認されており、どのような状況であろうと眠ってしまう。

・22番目の羊
虹水晶に属する生きる夢。自らが宿主の少女の入眠時に二十二番目に数えられた羊であることを誇りに思っている。明るい性格で、困っている者がいれば積極的に助けにいき、誰かの役に立つことで好かれることに喜びを感じている。

 

第十六話『特殊な能力?(一)』


 

 

僕が目覚めたのは医務室のベッドの上だった。そこに至るまでの過程は全く憶えていないが、なぜそのような状況になっているかはなんとなくわかる。時計を見ると時刻は十八時を少し過ぎたところだった。僕たちが訓練を受けていたのは昼間のことなので、だいたい五・六時間ほど失神していたことになるのだろうか。枕に深く埋まった頭を上げて周囲を見渡すと、朝似我さんと二十二番、ぬえさんとその生きる夢の━━白獏さんが話をしていた。僕が薄目を開けて起きるタイミングを伺っていると、傾眠していて会話に不参加気味だった白獏さんが僕が意識を取り戻していることに気が付いた。
「あのひと……。あふ……、起きたみたい」
「あら」
僕は報告を受けて僕の顔を覗き込む時葉さんと目が合った。
「お、おはようございます」
「おはようございます。具合悪かったりしませんか?」
僕はベッドから上体を起こし頭を振ってみた。まだ記憶はごちゃごちゃした感じがするが、体調は特に悪くはない。むしろしっかり寝たせいか連日の筋肉痛が癒えているくらいだ。僕は彼女にその旨を伝えた。
「━━そうですか。それはよかった」
時葉さんは穏やかな表情でそう言うと、僕の下瞼を親指で押さえて眼球を観察している。
「僕は何時間眠っていたんですか?」
僕が時葉さんに自分が眠っていた時間を尋ねた。しかし時葉さんよりも早く、その質問には鵺塚さんが元気いっぱいに答えてくれた。
「丸一日半くらいだそうだぞ!な?」
「そうみたい!」
二人は曖昧な答えを出すと一斉に時葉さんを見やる。僕と言えば想像よりも遥かに長い時間寝ていたらしいことに驚きを隠せずにいた。
「丸、一日……?」
困惑する僕に対し時葉さんは真面目な口調で事の経緯を説明し始めた。
「あなたは訓練中に二度、被ダメージによって強制ダイブアウトを経験しました。ここまでは憶えていますか?」
僕が頷くと彼女は続けた。
「それから現実世界であなたを保護して、今の今まで失神していたんですよ」
それを聞いた途端、眩暈がしたような気がした。
「そんなに長い時間……、みんなは」
こうしてはいられないと僕がベッドから降りて荷物を取ろうとすると、時葉さんがその手を取って制止した。
「素人目で見ても絶対安静です」
「すみません……。でも訓練期間は全部で一ヵ月しかありませんから。その間にやれることをしないと」
僕はそう言ってゆっくりと時葉さんの手を剥がした。鵺塚さんと白獏さんも心配そうにしてくれている。時葉さんも僕の身を案じる言葉をかけてくれる。
「あまり頑張り過ぎないでくださいね。ダイバーになってからも長いんですから」
「はい。長くダイバーを続けられるためにこそ、訓練に精進しようと思います」
彼女は複雑な表情で微笑んで僕の肩をさすり、僕の横を通って棚からなにかを持ってきた。
「それは……?」
「”瓶詰の夢”のコインです。これを持ってダイブすれば、夢界で想像力を回復する道具として使えます」
僕は手を包まれるように掌にメダルを置かれた。
「貴重なものなんじゃ?」
「訓練生を回復させるためにいくつかストックがあります。なにしろあなた、短期間でダイブアウトし過ぎです。心配にもなりますよ」
「すみません……。ありがとうございます」
僕は感謝を述べてコインをポケットに入れた。すると二十二番が僕の視線の先に拳を出してきた。
「私たちはこれをあげる!とっておきなんだから!」
二十二番が手を開くと、そこにはくっしゃくしゃの萎びた四つ葉のクローバーがあった。
「あ、ありがとう」
「幸運の”あかし”!あなたの頑張りと、二十二番と出会えた幸運の記念に!」
鵺塚さんも僕の肩を叩いて激励してくれる。白獏さんはいつのまにかネズミとなって彼女の頭頂部で眠っている。
「頑張れよな!いつか一緒に戦おうぜ」
明らかに僕よりも年下の少女は、実年齢や外見からは想像もできないであろう頼もしさのようなものを内包していた。少なくとも、僕にはそれが感じられた。
 僕は四人に見送られて医務室を後にした。この時間ならばみんなは食堂だろうか。みんなの元へ向かう道すがらポケットの中でコインを弄び、もう片方の手では四つ葉のクローバーを持って見つめていた。
「いろいろ貰っちゃったな……」
「七海!」
僕が贈り物の、特に四つ葉のクローバーの処遇を思案していると、聞き慣れた声に呼び止められた。僕が振り向くと、深瀬を中心に笹凪と数名の訓練生が手を振ってくれていた。
「目が覚めたのかー!心配してたぞ」
「ごめんよ。みんなはこれから食堂に行くところ?」
「そんなところだ。ついでに七海の様子を見てから行こうって話してたんだが、手間が省けた。一緒に飯行こうぜ、飯!」
僕は深瀬に押されて集団の中心に置かれて食堂に向かうことになった。僕の記憶が混濁していなければ、このメンバーは僕が再ダイブしたときにしぶとく戦っていた五人だ。この場にいるのは訓練生の中でも戦闘に秀でたメンバーだと言える。僕以外は。なんとなく面白くなかった僕は意地悪を言った。
「食事のメンバーはこの五人が定番になったの?」
深瀬が屈託のない笑みでそれに答えた。
「実力が近い同士で一緒にいたほうが切磋琢磨できると思ってな!」
深瀬に一切合切の悪気はないのだが、僕は百倍のカウンターを食らったかのように、彼の言葉は僕の心に深く深く突き刺さった。
「そっか」
おそらく不貞腐れていたであろう僕の態度の意味がわからず深瀬は頭頂部にハテナを浮かべる。すると笹凪が僕の男心を察したかのように会話に加わってきた。
「そん中にはよぉ、初夢。お前も入ってるつもりで話してるんだぜ。深瀬はよ」
笹凪の言葉を受けて深瀬は自信満々に肯定する。
「当たり前!」
「いや、実力が近いってお前」
僕は反論しようとして途中で言葉が詰まった。僕とお前たちの実力が互角なわけがないだろう??お情けで加えられるなら、それは御免だと思った。なによりも彼らの成長の妨げになるのは耐えられないと思った。
「なにも戦闘力だけがダイバーの素質ではないと俺たちは思ってる」
メンバーの唯億、澄田、深宮、グエンが会話に加わってきた。四人とも訓練時や廊下ですれ違えば挨拶をする程度の仲なので、きちんと彼らのことは知らない。そのせいか僕は彼らの言葉の真意が読み取れずにいた。
「というと?」
唯億が話を続ける。
「俺たちはお前に、単純な戦闘力以外の特殊な力があると考えてる」
「特殊な力?」
四人は順番に話し出した。
「そうだ。お前、恐竜になった笹凪と会話できてたろう?」
「できるけど……」
「あれ、俺たちはできないんだ」
僕は言われてそのことに気が付いた。確かにこの五人が笹凪の言葉がわかれば、脚部の疲労にも気が付けたはずだ。
「動物の言葉がわかる能力か?」
「深瀬はそれは能力の一部に過ぎないだろうと思ってるらしい。長くなりそうだから、続きは食堂で話そうか」
話し込んでいるうちに僕たち五人は食堂に近づいていた。僕は彼らの考察が気になって仕方が無かったが、言われる通りにまずは座席を確保することにした。

 

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