『DREAM DIVER:Rookies file』chapter15

ページ名:DREAM DIVER Rookies file.15

 

『DREAM DIVER:Rookies file』

-主な登場人物

・初夢 七海
「不知火機関」に配属予定の新人ダイバー。真面目な性格で心の中で他人を罵倒する悪癖があるが、仲間を思いやり他人の心に寄り添うことができる心優しい青年。漠然と映画に登場するスパイ像に憧れている。また認識改変などによる他者の介入に若干耐性がある。

・深瀬 陸朗
初夢の同期として特殊心理対策局「実働部隊」に編入された新人ダイバー。初夢と同じく仲間想いで人懐こい性格だが、考えるよりも先に身体が動く。身体能力は同期の新人の中でずば抜けて高い。

・切崖 櫻
初夢の元大学の同級生の女性で傭兵派閥「デイドリーレイダース」に所属している。大学一年生の最後に大学を中退し、特殊心理対策局の適性検査を受けたが落第し傭兵派閥へ転向した。初夢は自身がダイバーになり初めて彼女がダイバーであったことを知る。

・笹凪 闘児
元暴走族の青年。街で仲間と共に夢の力を使って悪さをしていたため「イリーガル」認定され、特心対が差し向けた傭兵と交戦したがために仲間を皆殺しにされた。その時にその場で命を落とすかは薄給で正規ダイバーになるかの二択を迫られ、訓練所で初夢たちと同じように正規ダイバーになるための訓練を受けることとなった。

・星乃 麗子
ゼロメア株式会社所属のダイバー。ダイバーネームは『レイジメイジ』。打算的で強い者には忠実かつ狡賢い性格でだが、方向性がブレないことから仲間からは色んな意味で信頼されている。過去の経験からか意外にも仲間想いで面倒見がよいことを買われて特心対に雇われて訓練生たちの夢界訓練の教官を務めることとなった。

・22番目の羊
虹水晶に属する生きる夢。自らが宿主の少女の入眠時に二十二番目に数えられた羊であることを誇りに思っている。明るい性格で、困っている者がいれば積極的に助けにいき、誰かの役に立つことで好かれることに喜びを感じている。

・権田職員
初夢たちが暮らしている訓練所に勤務している職員。ダイブ能力はあるが戦闘力は低く、しかし広大な夢界を安定して構築できることから専ら夢界訓練に自身の夢を提供している。今年で三十七歳。

 

第十五話『絶滅を逃れ』



 

━━強靭な脚に鱗に覆われた体表、鋭い牙に突き出した口吻、そして貧弱な前足。その姿は幼い頃に図鑑で見たティラノサウルスの姿ほぼそのままだった。訓練生たちがどよめき始める中、星乃教官と二十二番は腕を組んで恐竜を真っ直ぐ見つめている。權田職員は慌てた様子で星乃教官に対応を仰いだ。
「星乃さん!敵襲ですか……!今すぐに……」
その言葉を打ち消すように彼女は腕部を彼の眼前に突き出した。
「落ち着いてください」
続けて二十二番が自身満々に先頭に出て啖呵を切る。
「二十二番は怖気づかない……!」
そう言いつつもすぐに星乃教官の背後に回る彼女と、浮足立つ訓練生たちを前に恐竜は威嚇するように空中に炎を吐き出す。
[気分いいぜ。誰にも俺を見下させねえ]
「お前、笹凪か?」
恐竜は笹凪の声で喋ったように思えた。少なくとも僕には声が聞こえた。青い火炎を放射して威嚇する恐竜から深瀬が僕を退避させる。
「七海、なんであいつが笹凪やと思うんや?」
「だってあいつの声で喋るじゃないか」
僕がそう言って指さすと、深瀬は合点がいかない顔をする。
「なんも聞こえんがな」
[誰にも俺の馬鹿にさせねえ]
彼がそう言ってる間にも笹凪恐竜の声は僕の耳に届いている。他のみんなに聞こえていないというのならば耳という表現は不適切かもしれないが。僕はもう一度大きな声で恐竜に語り掛けた。
「笹凪!」
[なんだよ!]
僕は応答と同時に吐き出された火炎を仕込み傘で防いだ。
「ほら、やっぱり笹凪だ!変身したのはお前の能力なのか!?」
[うるせえ!]
喋るたびに吐き出される火炎は仕込み傘で防ぐ。どうやら奴の声は僕にしか聞こえていないようだった。星乃教官は僕の横に立ち、笹凪に話しかける。
「その姿で訓練を受けるんすね?」
彼女を前にした瞬間、笹凪は少し委縮したように思えた。僕は奴の臨時通訳として二人の会話を取り持つことにした。
「肯定してます。教官」
「ありがとう。初夢くんには特殊な能力があるみたいっすね。不知火の連中が引き抜くには理由があるということか、ただの偶然か……」
星乃教官がロボットなりに難しい顔をして腕部を顎付近に当てると、今度は笹凪恐竜を見て声を出して笑う。
「レイたちが君を生かしたワケもわかったっすよ。覚醒級にしては育ってる」
笹凪は何を言うわけでもなくその話を大人しく聞いている。というよりは、僕に声を聞かれていると理解したときからあまり喋らなくなった。そして事態が落ち着くまでどこにいたのか二十二番が会話に顔を出す。
「……審判、する?」
「ああ……、もう始めるっすよ。お願いします!」
「まかせて!」
二十二番は元気よく返事をするとカゴから赤と白の旗を取って僕と笹凪恐竜の間に立った。
「位置について!」
「ちょっと」
僕の声掛け虚しく既に彼女は旗を天高く振り上げている。
「スタートぉ!」
二十二番審判が旗を振り下げたと共に、恐竜は直撃させるコースで火炎を放つ。僕は同じように仕込み傘で防いだが、防護布の表面が先ほどとは比べ物にならない温度に包まれる。本来ならば布で遮られている視界は布の内側を使ったモニターで確保できるのだが、覆うように噴射されている火炎で前方の視界は無いに等しかった。
「ちょっと……」
僕がもう一度審判に物申そうとすると、火炎を噴射し続けながら恐竜の大口が迫っているのが見えた。避けるべきだと感覚で分かったが、把握したときには既に仕込み傘で防御するしか選択肢が残っていない距離だった。傘の骨をつっかえ棒にして咀嚼されるのを防いだが、みしみしと悲鳴を上げる傘は限界が近いことを訴えていた。
「ちょっと!」
僕の訴えは傘が爆散する音で掻き消され、身を守る道具を失った僕の身体は次の瞬間には恐竜の口吻により上空に跳ね上げられている。そのときはこのまま奴の口の中に落ちるのを待つのかと思ったが、勝負を確実に決めにきた笹凪が大きく跳躍した。中空で身動きが取れない僕が最後に見たのは、眼前に迫る鋭い歯並びだった。
 僕は現実の訓練所で目を覚ました。もう強制ダイブアウトには慣れっこだ。眠っている現実世界の職員を見守っているはずの教官はいない。サボりだろう。
「ちょっと休憩したら戻るかな……」
そう思った矢先、他の訓練生もぽつぽつダイブアウトしてきた。回転率の速さ的に笹凪の仕業だろう。しかしその中に深瀬の姿はなかった。僕は帰ってきた訓練生のひとりに深瀬のことを尋ねた。
「深瀬はまだ戦ってるのか?」
訓練生は具合が悪そうに質問に答えた。

「ああ。いい勝負してたぜ。俺がダイブアウトさせられるまでの話だから、そのあとは知らんけどな……。もういいか?」
「ありがとう。お大事に」
僕は彼を労うとすぐに職員の夢にダイブした。深瀬を援護しなければ、と思ったからだ。賑やかしにしかならないとしても。
 再びダイブした僕の目の前を訓練生らしき何かが吹き飛んでいき、地面を転がって霧散した。おそらくダイブアウトしたものと思われる。茂みに隠れて彼が飛んできた方を見ると、四人の訓練生が未だ恐竜と戦っている。星乃教官と彼女におぶわれている二十二番審判は、教官の脚部に搭載されているスラスターで上空に避難している。チームの指揮は深瀬が執っているようだったが、そうしているうちにまた一人ダイブアウトさせられた。
「また一人減ったぞ!どうするよ、深瀬!」
「攻撃し続けるしかあらへんよ!」
一人減って三人はアサルトライフルで笹凪恐竜を攻撃し続けている。恐竜はというと、攻撃が全く効いていないわけではないようだが、それよりも息が切れてきているように思えた。
[脚が……]
耳をそばだてると奴の声が聞こえてきた。
[脚が痛え……]
どうやら数分間の戦闘でも巨体は奴の脚部に相当な負荷を掛けているようだ。そうと分かれば深瀬たちにそれを伝えてやらねばなるまい。僕は茂みから飛び出し、戦闘範囲まで走って深瀬たちにその旨を伝えた。
「そいつ脚痛めてるぞ!脚狙え!脚!!」
[この……!]
「脚だな、任せろ!」
訓練生のひとりがライフルの下部にマウントされたグレネードランチャーを構え、笹凪の脚部目掛けて発射する。惜しくもグレネードは回避されたが、その隙を突いて深瀬が銃剣で恐竜の右足を深く抉る。攻撃で大きくバランスを崩した笹凪は、狙ったのか偶然か、あろうことか僕の方へ倒れてきた。本日二回目のダイブアウトである。

 

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