『DREAM DIVER:Rookies file』chapter14

ページ名:DREAM DIVER Rookies file.14

 

『DREAM DIVER:Rookies file』

-主な登場人物

・初夢 七海
「不知火機関」に配属予定の新人ダイバー。真面目な性格で心の中で他人を罵倒する悪癖があるが、仲間を思いやり他人の心に寄り添うことができる心優しい青年。漠然と映画に登場するスパイ像に憧れている。また認識改変などによる他者の介入に若干耐性がある。

・深瀬 陸朗
初夢の同期として特殊心理対策局「実働部隊」に編入された新人ダイバー。初夢と同じく仲間想いで人懐こい性格だが、考えるよりも先に身体が動く。身体能力は同期の新人の中でずば抜けて高い。

・切崖 櫻
初夢の元大学の同級生の女性で傭兵派閥「デイドリーレイダース」に所属している。大学一年生の最後に大学を中退し、特殊心理対策局の適性検査を受けたが落第し傭兵派閥へ転向した。初夢は自身がダイバーになり初めて彼女がダイバーであったことを知る。

・笹凪 闘児
元暴走族の青年。街で仲間と共に夢の力を使って悪さをしていたため「イリーガル」認定され、特心対が差し向けた傭兵と交戦したがために仲間を皆殺しにされた。その時にその場で命を落とすかは薄給で正規ダイバーになるかの二択を迫られ、訓練所で初夢たちと同じように正規ダイバーになるための訓練を受けることとなった。

・星乃 麗子
ゼロメア株式会社所属のダイバー。ダイバーネームは『レイジメイジ』。打算的で強い者には忠実かつ狡賢い性格でだが、方向性がブレないことから仲間からは色んな意味で信頼されている。過去の経験からか意外にも仲間想いで面倒見がよいことを買われて特心対に雇われて訓練生たちの夢界訓練の教官を務めることとなった。

・22番目の羊
虹水晶に属する生きる夢。自らが宿主の少女の入眠時に二十二番目に数えられた羊であることを誇りに思っている。明るい性格で、困っている者がいれば積極的に助けにいき、誰かの役に立つことで好かれることに喜びを感じている。

・權田職員
初夢たちが暮らしている訓練所に勤務している職員。ダイブ能力はあるが戦闘力は低く、しかし広大な夢界を安定して構築できることから専ら夢界訓練に自身の夢を提供している。今年で三十七歳。

 

第十四話『二十二番は伊達じゃない』



 「ここで”二十二番”目……!」
僕を含めた訓練生たちと權田職員は大岩の上で堂々とした態度で腕を組み、支持基底面積を広く立つ”彼女に”呆気に取られて動けないでいた。そんな中で星乃教官は呆れたように腕を組んで”彼女”を見つめている。そして次第にざわつく周囲に対して教官は黙るように指示する。
「静かに!あれは『22番目の羊』。虹水晶の生きる夢っす」
虹水晶の生きる夢がなぜこんなところに?僕がその疑問を口にするよりも先に、二十二番目の羊と呼ばれる生きる夢は再び大声で喋りだした。
「きっとこの中にいるに違いない!だってここは二十二番目ェ!」
僕はあまりの声量に頭がくらくらした。同時に生きる夢たちのホームを訪問したときのことを思い出した。そういえば生きる夢とはこのような者たちだった。この事態を収束させるために星乃教官が二十二番と対話を試みた。
「ニニちゃん!なにしてるんすか!ちょっと降りてきなさい!」
「はーい!でもその前に~……」
二十二番目の羊は腰を低く落として僕たちの集団を注意深く観察し始めた。最初こそ彼女は希望に満ちた表情をしていたが、次第にその表情は曇っていき最後にはしぼんだ顔となった。
「いないじゃない!██ちゃん!二十二番目なのに!?」
そして次に瞬間、足場の不安定な岩の上で激昂し始めた。
「冗談じゃ……」
彼女はひとしきり取り乱すと狼狽してふらふらと歩きだし、岩の表面で足を滑らせた。
「あっ」
二十二番はそのまま頭を下にして大岩を滑落してゆく。星乃教官と深瀬が訓練生の集団から飛び出して彼女の落下予定地点にビーチフラッグのように滑り込むが、二人の健闘虚しく二十二番は地面に激突した。落下の衝撃により凄まじい土煙が周囲を包み込む。
「大丈夫っすか!?」
「鈍い音したで……」
次第に晴れてゆく土煙の中からピースサインが突き出る。
「よゆう!なぜなら二十二番だから!!」
二人はほっと胸を撫で下ろしたようだったが、置き去りにされた訓練生と職員はその様子をただただ呆然と見つめることしかしていなかった。
「ついていけねえ……」
そう呟いたのは笹凪だった。
「生きる夢はそういうものだと思った方がいい」
僕は投げやりなアドバイスしかできないが、事実そういうものだということを認める以外には処方箋はないと思った。それよりも今日の訓練がどうなるのかが僕は気がかりだった。僕たちは教官と深瀬、そして『22番目の羊』のところへ集まった。二十二番は囲まれたことには一切目もくれずに座って独り言を呟いている。
「おかしい……。ここが二十二番目の夢界ならきっとあの子は見つかったはず……。やっぱり施設に絞ったのは悪手……。今度はカウントリセットして手広く……」
星乃教官は二十二番の肩を叩いて事情聴取を始めた。
「あなたニニちゃんっすよね?生きる夢の」
二十二番はその言葉を受けて顔を上げ笑顔を見せた。
「そう!私は『22番目の羊』!でもニニって呼ぶ人もいるよ」
「なるほど。あなたのことは資料で知ってるっす。ここへは人探しに?」
「そうだよ。でもここにはいないみたい……。正しくは二十二番目じゃなかったからだね。もうここには用が無いから帰りたいんだけど!」
「”彼女”が待っているから?」
「そう! 私がいないと、二十二番目の羊の役がいないんだよ! 二十二番を数えられなくなっちゃうよ! だから早く帰らないと!」
星乃教官は顎に手を当てて少し考え込み、そしてまた話し出す。
「……残念ながら、今すぐは難しいっすね」
それを聞いた二十二番は不満を全身で表現する。
「なんでよ!」
「今はここのほとんどのダイバーがこの夢界にいるもんで、外に出ても見送りができる人がいないんすよね。迷子になったら人探しどころじゃないっすよね」
ぐぬぬ、という表情で二十二番は黙った。教官は続ける。
「そこで、今から彼らが始める訓練の手伝いをしてもらいたいんすけど、いいっすか?」
「手伝い?」
二十二番は不思議そうに小首を傾げた。
「審判をしたり……、傷ついた訓練生を癒したり。そんなところっす。二十二番目のあなたなら容易いことっすよね?」
「とうぜん!私は二十二番だよ?なんでもできる」
「ありがとう。じゃあお願いしてもいいっすか?」
「まかせて!」
二十二番は胸を叩くと座り込んで得意げに準備を始めた。どこから出したのか救急キットの中身を弄り始めた。僕は釈然としない気分で深瀬の顔を見たが、彼も困ったような表情で首を傾げてみせた。一方で星乃教官は不敵な笑みを浮かべている。
[ニニちゃんを特心対に連れて帰れば、局からの私の覚えもよくなるだろう]
朧げだが、確かに彼女の声で聞こえた。僕はなんらかの指示かと思い発言を聞き返した。
「教官、今なんて?」
彼女は驚いた表情で僕を見る。
「いや、何も言ってないっすよ?」
しかし確かに星乃教官の声が聞こえたのだ。ただし言葉は耳から吸収したというよりは、脳に直接語り掛けられたかのような、不可解な感覚だった。僕はこの現象を明かしたかったが、一旦ここでは引き下がることにした。
「そうですか……。すみません」
確かサー・ミモザと相対したときにも同様の感覚に陥った。僕にしか聞こえていないらしい声が聞こえる。サー・ミモザと話したときには確か、彼の声が女性の声に聞こえたのだった。もちろん単なる空耳か地獄耳かもしれないし、疲れから幻聴が聞こえただけかもしれない。しかしこのとき僕は、これが僕のダイバーとしての能力によるものだったらと期待せざるを得なかった。周囲で次々に戦闘向きの外見に変形してゆく他の訓練生たちを見ていたら、一張羅のスーツと仕掛け傘しかない僕は余りにも不利だと感じたこともそのことを助長したのだった。しかしそのとき、僕のちょっとしか悲観を吹き飛ばすような獣の咆哮が夢界に響き渡った。
「なんだ……!?」
僕が驚いて顔を上げると、訓練生の集団から巨大な体躯が突き出ているのが見えた。強靭な脚に鱗に覆われた体表、鋭い牙に突き出した口吻、そして貧弱な前足。その姿は幼い頃に図鑑で見たティラノサウルスの姿ほぼそのままだった。

 


 

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