『DREAM DIVER:Rookies file』chapter13

ページ名:DREAM DIVER Rookies file.13

 

『DREAM DIVER:Rookies file』

-主な登場人物

・初夢 七海
「不知火機関」に配属予定の新人ダイバー。真面目な性格で心の中で他人を罵倒する悪癖があるが、仲間を思いやり他人の心に寄り添うことができる心優しい青年。漠然と映画に登場するスパイ像に憧れている。また認識改変などによる他者の介入に若干耐性がある。

・深瀬 陸朗
初夢の同期として特殊心理対策局「実働部隊」に編入された新人ダイバー。初夢と同じく仲間想いで人懐こい性格だが、考えるよりも先に身体が動く。身体能力は同期の新人の中でずば抜けて高い。

・切崖 櫻
初夢の元大学の同級生の女性で傭兵派閥「デイドリーレイダース」に所属している。大学一年生の最後に大学を中退し、特殊心理対策局の適性検査を受けたが落第し傭兵派閥へ転向した。初夢は自身がダイバーになり初めて彼女がダイバーであったことを知る。

・笹凪 闘児
元暴走族の青年。街で仲間と共に夢の力を使って悪さをしていたため「イリーガル」認定され、特心対が差し向けた傭兵と交戦したがために仲間を皆殺しにされた。その時にその場で命を落とすかは薄給で正規ダイバーになるかの二択を迫られ、訓練所で初夢たちと同じように正規ダイバーになるための訓練を受けることとなった。

・アントニオ・イニエスタ・キャバレロ
デイドリーレイダースの深層潜夢士。ダイバーネームの『プルポ』は蛸を意味する。豪快で面倒見がいい性格で、訓練所の新人たちの世話を焼きたがる。

・氷室 静雄
デイドリーレイダース所属の中級ダイバー。素直で情に厚い性格。辻導の保護者。

・辻導 哲乃
デイドリーレイダース所属の中級ダイバー。話し方が哲学的で朝に弱い。氷室の保護者。

・鴉羽 麗子
ゼロメア株式会社所属のダイバー。ダイバーネームは『レイヴン』。同社のCEOである叉島 仁の秘書を務めるほか、所属する境界級以下の若年ダイバーたちのリーダー格として知られる。

・小野河 奈々子
ゼロメア株式会社所属のダイバー。ダイバーネームは『スイーパー』。真面目で優しい性格だが、選択肢に弱く優柔不断な面がある反面、命令は必ず遂行する強さがある。

・オズ
ゼロメア株式会社所属の生きる夢。300年ほど前から宿主を転々としながら魔術の探求をし、やがて魔術の同士であるヘクセンナハトに所属していたが、ここ数十年で生身の人間に自身の魔術を試したくなり、より戦闘の機会が多そうな傭兵派閥へ鞍替えした。

・星乃 麗子
ゼロメア株式会社所属のダイバー。ダイバーネームは『レイジメイジ』。打算的で強い者には忠実かつ狡賢い性格でだが、方向性がブレないことから仲間からは色んな意味で信頼されている。過去の経験からか意外にも仲間想いで面倒見がよいことを買われて特心対に雇われて訓練生たちの夢界訓練の教官を務めることとなった。

 

第十三話『お前らで22番目』



 昨日は午後を利用して英気を養い、夜には早めに眠り十二分に身体を休めた。僕は万全の体調で今日から始まる本格的な夢界訓練に臨むことができる。僕と深瀬が食堂に到着したときには既にレイダースの面々と、いつか自己紹介した三人を含めた星乃教官らゼロメアの四人が隣同士のテーブルで食事を摂っていた。彼らは僕たちに気が付くと手招きして席に招待してくれた。僕と深瀬は朝の挨拶を彼らに簡単に済ませると、朝食が盛られたトレーを持って定位置と化した中央の席に着いた。訓練生の間では僕たち二人は”傭兵軍団に絡まれてる二人”という認識になっている。トーニョさんが話を切り出すと、話題は今日から始まる夢界訓練のことになった。
「今日から夢界に入っての訓練だな。準備はできているか?」
僕が肯定すると、深瀬が上腕を叩いて意気込みを語った。
「夢界訓練でも一番になってやります!」
その言葉を聞いてレイさんが星乃教官に絡む。
「お前が持つ訓練生は活きが良いな?星乃」
「まだ私は一日しか教官してないっすけどね……」
ゼロメアの二人がそのことについて話しているさ中、深瀬はレイダースたちの話題の只中にいる。傭兵たちは皆近くの人と思い思い別々の話をするが、どこか変わっていて饒舌な傭兵の中で小野河さんだけはひとり皿の上のクロワッサンとバターパンを凝視してフリーズしている。僕は席が隣だったこともあり、なんとなく彼女と話をしてみようと思った。
「あの、小野河さん」
「ぐっ……!」
驚いて息が詰まったような声をあげた小野河さんは僕を見ると半笑いで浅く会釈をした。
「すみません……、なんでしょう?」
「こちらこそすみません。いや、きちんとお話したことはなかったなって」
「そういえばそうですね……。最初にご挨拶したときは色々と立て込んでいたので。その……、ダイブアウトのあとに身体の不調とかは出ませんでしたか?」
「はい。大丈夫でした」
彼女は「それは良かった」と言って優しく微笑んだ。穏やかで落ち着いた雰囲気はどちらかというと特心対のダイバーを思わせる。
「夢界訓練では撃破されても命を落とさないとはいえ、ダイブアウトし続ければ精神を病むことも少なくありませんから、疲れたら休むことが大切ですよ」
小野河さんはそれからも得意げにダイバーとして仕事をしていくコツを僕に教えてくれた。彼女と会話をしているうちに時間は過ぎてゆき、訓練の準備をする頃合いとなった。
「色々とありがとうございます」
「頑張ってくださいね」
小野河さんはそう言うと微笑んだ。僕は訓練の準備をすることを告げて席を立った。ふと彼女の皿を見ると、クロワッサンとバターパンがそのまま残されていた。会話を始める前からそのままだ。僕が席を立ったあとも彼女の後姿は二つのパンを凝視している。不思議に思っていると、レイさんが僕の肩を軽く叩いて耳打ちしてくれた。
「”ああ”なると、どっちを先に食べるかで暫くフリーズする」
彼女はそう言うと笑って小野河さんの椅子の背もたれに肘を着いた。やはり傭兵は変わった人が多いようだ。僕と深瀬は彼らと別れて個室に戻り、夢界にダイブする準備を始めた。
 全体への連絡でも”ダイブをする準備をはじめるように”と言われたが、夢界に荷物を持っていけるわけでもなしに、準備することと言えば歯を磨いてトイレに行っておくくらいだろうか。僕は準備をして廊下で深瀬と合流し歩き出すと、同じく訓練所へ行こうとする笹凪と出くわした。奴は僕らを見ると口をへの字にして何か言いたげな表情をしたが、ポケットに手を突っ込んだまま無言で立ち止まった。随分大人しくなったものだと二人で話していると、所内アナウンスが始まるメロディが流れた。
「-所員各位に連絡です。現在所内にて、『二十二番目の羊』の行方が分からなくなっています。彼女を発見した所員は、事務室まで連絡してください-」
そのような連絡を二回繰り返すとアナウンスは終了した。
「二十二番目の羊ってなんや?」
深瀬が僕にそう尋ねてきたので、質問に答えられない僕は笹凪の顔を見た。奴もまた首を傾げている。なにか僕たちが知らない存在が所内で行方不明になっているらしい。三人のうち誰よりも心配そうにしている笹凪の背中を深瀬が叩いて激励する。
「まあ、現役のダイバーもたくさんおるし平気やろ!」
曖昧に返事をする笹凪を加えて訓練所に向かうことにした。
 訓練場には既に訓練生が集合していた。ベッドの上では相変わらず夢界提供役の職員が眠っている。続いて時刻通りに星乃教官が現れ、訓練生への話が始まった。
「みんな集まったっすね。詳しい話は夢界でするので、どんどんダイブしていいっすよ」
彼女のGOサインでダイブ先である職員を見ると、なにかにうなされているようにうんうんと唸っている。しかし訓練生たちはそんなことはお構いなしに次々にダイブしてゆく。僕は違和感を感じつつも訓練生としては最後にダイブした。
 目を開くと昨日も訪れた草原だった。ただ違うのは、まるでクレヨンで描いたような草原と空に、紙に落書きしたような太陽が吊られている。さらにはそこかしこで羊の群れが草を食んでいる。そしてその様子を訓練生と職員が困惑した様子で見つめている。僕のあとからは地面にホバリングしているロボットがダイブしてきた。おそらくは星乃教官の夢の姿なのだろう。僕は事態を把握するために集団に合流し、最後にダイブしてきた星乃教官らしきロボットに状況の説明を求めた。
「教官、これは……?」
星乃教官は早くも羊をマニュピレーターで抱えて匂いを嗅いだりして調査をしている。
「夢界の主のコンディションや気分によって夢界の内容が変化することはよくあることっすけど……。權田さん、これはどうしたんすか?」
星乃教官が職員に尋ねると、彼は答えに詰まって首を振る。
「わかりません……。私にもどういうことなのか」
僕はここに来るのは二度目だが、一度目には確実に羊はいなかったし、なにより夢界の主である職員の權田さん自身が身に覚えがない現象だといっている。これは想定していない事態なのだろう。星乃教官が一度ダイブアウトすることを提案していると、突如耳を塞ぎたくなるほどの声量の声が夢界に響き渡った。
「ここで”二十二番”目……!」

 

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