『DREAM DIVER:Rookies file』chapter12

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『DREAM DIVER:Rookies file』

-主な登場人物

・初夢 七海
「不知火機関」に配属予定の新人ダイバー。真面目な性格で心の中で他人を罵倒する悪癖があるが、仲間を思いやり他人の心に寄り添うことができる心優しい青年。漠然と映画に登場するスパイ像に憧れている。また認識改変などによる他者の介入に若干耐性がある。

・深瀬 陸朗
初夢の同期として特殊心理対策局「実働部隊」に編入された新人ダイバー。初夢と同じく仲間想いで人懐こい性格だが、考えるよりも先に身体が動く。身体能力は同期の新人の中でずば抜けて高い。

・切崖 櫻
初夢の元大学の同級生の女性で傭兵派閥「デイドリーレイダース」に所属している。大学一年生の最後に大学を中退し、特殊心理対策局の適性検査を受けたが落第し傭兵派閥へ転向した。初夢は自身がダイバーになり初めて彼女がダイバーであったことを知る。

・笹凪 闘児
元暴走族の青年。街で仲間と共に夢の力を使って悪さをしていたため「イリーガル」認定され、特心対が差し向けた傭兵と交戦したがために仲間を皆殺しにされた。その時にその場で命を落とすかは薄給で正規ダイバーになるかの二択を迫られ、訓練所で初夢たちと同じように正規ダイバーになるための訓練を受けることとなった。

・アントニオ・イニエスタ・キャバレロ
デイドリーレイダースの深層潜夢士。ダイバーネームの『プルポ』は蛸を意味する。豪快で面倒見がいい性格で、訓練所の新人たちの世話を焼きたがる。

・氷室 静雄
デイドリーレイダース所属の中級ダイバー。素直で情に厚い性格。辻導の保護者。

・辻導 哲乃
デイドリーレイダース所属の中級ダイバー。話し方が哲学的で朝に弱い。氷室の保護者。

・内垣 真善
特殊心理対策局、実働部隊に所属する三等深層潜夢士。ダイバーネームは『イレイザー』。なにかと面倒を押し付けられる苦労人。

・十善義仁
特殊心理対策局、実働部隊に所属する最先任境界潜夢士長。ダイバーネームは『スウィートビジネス』。現実世界では大人しく温厚だが、任務の前後に必ず飲む元気1,000倍ドリンクプラチナγ-ブーストの影響で戦闘中は人が変わったように騒がしくなる。

・犬養部 須臾
ヘクセンナハト下部組織、魔法騎士団-マジック☆キャバリアーズに所属する女性。現実世界では気弱で頼りなさげだが、夢の姿では正義感の強い開放的な性格となり、身の丈ほどの大剣を振り回す。

・オズ
ゼロメア株式会社所属の生きる夢。300年ほど前から宿主を転々としながら魔術の探求をし、やがて魔術の同士であるヘクセンナハトに所属していたが、ここ数十年で生身の人間に自身の魔術を試したくなり、より戦闘の機会が多そうな傭兵派閥へ鞍替えした。

 

第十二話『怪物の箱庭』


 僕が目を覚ましたところは、僕たちがダイブした訓練場だった。ダイブアウトの影響か少し痛む頭を押さえて周囲を見ると、ダイブ前と変わらない位置に眠って夢界を提供している職員と教官がほか、夢界からダイブアウトしたであろう訓練生たちがぐったりとしながら訓練場を後にしている。中には他の者に肩を借りてやっと歩行している者もいる。僕はまず先にダイブアウトした深瀬を探したのだが、その場から見渡す限りは訓練場にはいないようだった。僕はすぐ傍でタオルをアイマスクにして伸びている顔見知りの訓練生に深瀬の居場所を尋ねた。
「なあ。深瀬がどこにいったか知らないか?」
訓練生はタオルを指で上げて僕を見ると、具合が悪そうに質問に答えた。
「せめて目を覆っていない奴に聞けよな。裏庭の方だ」
「ありがとう」
彼は再びタオルで目元を覆うと、腕を枕にして仰向けに横になった。
「ありがたいと思ってるなら、俺たちを小馬鹿にするのをやめろよな。気づいてるぞ。お前が俺たちを脳筋みたいに思ってるのを」
「いや。今は思ってない」
「そうかい」
僕は彼に別れを告げると、裏庭に向かった。訓練所の裏庭はちょっとした公園のようになっており、コンクリートの壁にあるバスケットゴールで運動をしたり、木の陰にあるベンチで昼寝したりすることができる。僕は裏庭には滅多に行くことがないが、深瀬のお気に入りの場所だということは知っていた。
 裏庭には心地よい風が吹いていた。木々の先には木陰のベンチに腰掛けている深瀬が見えた。深瀬もこちらに気づいたようで手を振っている。僕は彼の横に座って尋ねた。
「ここは静かだな。いつもこんな感じなのか?」
「いんや。今はみんな個室におるやろうからな。普段は誰かしらおるよ」
「そうなのか」
僕と深瀬は取り留めのない会話を挟んで話題は強制ダイブアウト体験に移った。僕は誰と当たったかとか、どういう感じでダイブアウトしたかを聞いた。
「辻導さんやったで」
「どういう技だった?」
「杭打機みたいなのでしばかれてな。どてっ腹に大穴開いたかと思ったわ」
僕たちは強制ダイブアウトさせられたときの話で盛り上がった。今日はまだ午前であるにも関わらず訓練がないと思うと、なんとなく気持ちが軽くなった。
「そういや切崖さんとの仲はどうなんや?」
「というと?もともと仲は悪くないよ」
「そうやないわ。お前ら付き合っとんのとちゃうんか?」
僕は予想だにしていなかった見解に驚いた。
「付き合ってないと思うけど……」
深瀬は僕の答えを聞くと頭を掻いて溜息を吐き始めた。
「夜を共にしたのにか」
「してねぇよ」
僕は食い気味に否定した。
「だって夜中に切崖さんが七海の部屋から飛び出したって聞いたで」
「おい。誰から聞いた?」
「ここの訓練生全員知っとるで」
僕は水面下で広がっている僕の風評被害に頭を抱えた。
「ここでは浮いた話もそうないでな。みんな期待しとるで」
「そうか……」
 僕が頭を抱えて目を伏せていると、男女の話し声が近づいてくるのが聞こえた。
「部外者が所内をうろついてんじゃねえよ」
「失礼しちゃうわねぇ……」
声のする方を見ると、笹凪が女性の頭上でコンクリートの壁に手を突いているのが見えた。
「なんやあいつ。ナンパかいな?」
深瀬は僕にだけ聞こえる声で笹凪を冷やかす。しかし僕はそれに言葉を返せずにいた。我が目を疑った。注目すべきは女性に絡んでいる笹凪ではなく絡まれている女性の方だ。黒い瞳の外周に黄色い瞳。そして緑色の髪。僕たちは確かに会ったことがない女性だが、僕たちはあの女性を知っているはずだ。写真を見たのは座学で使った資料の巻末。生存している捕獲済ローグダイバーを掲載している場所。そこには万が一対象と遭遇した場合の対処法が記されていた。
“1.マリーゴールドと対峙した場合、最高位級の戦闘力を持つダイバーであっても無暗に戦闘を開始しないこと。仮に制圧することができたとしても、その被害範囲は計り知れないことになることが想定される。”
僕は人差し指を口の前で立て、無意識に深瀬に反対の掌を見せて制止していた。深瀬はまだ状況を理解できずにいるようだ。
「なんや?」
「あいつ、多分ローグダイバーだ。それもヤバイやつ。教科書で見なかったか?」
「いや……、名前は?」
「……マリーゴールド」
名前を聞くと深瀬も危険性を理解したようだった。
「嘘やろ。なんでこんなところに」
「わからん。多分別人だと思うけど……、万が一ってこともある」
マリーゴールドは正規ダイバーで言うところの最高位級に位置するダイバーだ。現在は捕獲されて所在が明かされない場所に置かれていると書かれていた。それがなぜこんな場所にいるのかは理解が追い付かなかった。
「行こう」
僕は笹凪を置いて逃げたかったが、奴が彼女を怒らせてしまったときのことを考えると訓練所内に逃げ場所はないだろうと考えた。僕と深瀬は二人の元へ走った。マリーゴールドは僕たちに気づいて上品に手を振った。
「あら。あなたもここの生徒さんかしらねぇ」
「……」
僕は声が出ず頷くことしかできなかった。間近にすると彼女が放つ存在感がわかる。前にロータスさんから感じたプレッシャーに似ているが、こちらはどこか禍々しく重苦しい。彼女は意地の悪い笑みを浮かべて続ける。
「この大きい子が私に出て行けってうるさいのよねぇ」
彼女は笹凪を指さす。座学を受けていないせいでマリーゴールドを知らない笹凪は悪態を貫く。
「オメーが勝手に入ってきてんだろうが」
「やだわぁ人聞きの悪い」
僕はやっとのことで声を出した。
「笹凪、ささなぎ……!」
「んだよ」
「やめろ……」
「あ?」
身体が強張ってなかなか言葉が出ないせいで会話が不完全になる。その様子を見ていたマリーゴールドが話に入ってくる。
「私のことを知っているのかしら?」
僕は俯いて目を合わせずにいた。彼女は続ける。
「ちょうどいいわ。この子に私を紹介してくれる?」
僕は恐る恐る視線を上げる。彼女は僕を見ていた。
「僕、ですか?」
「そうよ?」
僕は絡まる頭の中で文章を纏め、何度も何度も心の中で復唱して彼女を怒らせるような要素が無いかチェックした。そして状況を理解していない笹凪に彼女を紹介した。
「……この方は……、特心対が保有する最高位級ダイバーのひとりで……。マリーゴールドさん」
笹凪は額に皺を寄せて首を傾げている。見兼ねた深瀬が補足する。
「この訓練所にいる連中が束になっても勝たれへん」
笹凪は怪訝そうな顔でマリーゴールドを見る。彼女はギザギザの歯を覗かせて笑いかける。
「私、元ローグダイバーなの。最高位のね。今は特心対に間借りしているわ」
彼女の瞳はおよそ人間のものとは思えない深みがある。ビジュアルもそうだが、視線が身体を貫通して精神を凝視されていると感じるような圧迫感がある。蛇に睨まれた蛙と例えるのが最適かもしれない。笹凪も徐々にその影響を受けてきているのか、言葉数が少なくなってきている。
「なん……?」
笹凪が青い顔をして小声で僕に尋ねる。僕は俯いたまま無言で頷いた。気まずい静寂の時間が流れる。どうしたらよいかわからない。笹凪がこの訓練所を吹き飛ばす要因に粗相をするのを回避したまではいいが、もはや逃げ出すには遅すぎる。それにそれで機嫌を損ねては実も蓋もないではないか。僕たち三人が縮こまって喋らずにいると、マリーゴールドが話を切り出した。
「私、喉が渇いちゃったわ」
それを聞いた僕は光の速度で挙手した。
「……僕たちが何か買ってきます」
僕はどうにかしてこの状況から抜け出そうと思った。しかし逃げ出そうとしているのは見え透いていて、彼女は笑顔で首を横に振った。
「三人も行く必要はないわよねぇ?あなたは残りなさいな」
彼女はそう言って僕を指さした。
「僕ですか……」
「四人分の飲み物だもの。身体が大きい二人に行ってもらったほうがいいでしょう?」
理にかなっているが、どう考えても僕は人質だ。黙って従う方針でいこうと、僕は頷きながら二人に目で訴えた。二人もそれに対し小さく頷いた。
「これで好きな飲み物を買ってきてくれるかしら。私この施設の自販機の場所わからないのよねぇ」
そう言って彼女は深瀬に千円紙幣を手渡した。深瀬はそれを握りしめて僕を見る。”待ってろ”と言いたげな目で彼は笹凪と共に自販機がある本棟の方へ足早に歩いて行った。
「ちょっと」
彼女が背を向けて歩き出した二人を呼び止める。
「私ミルクティーがいいわ」
「……了解です」
注文を受けた二人は走ってこの場を去って行った。残った僕は彼女と碌に目を合わせられないまま、膝の上で組んだ指を俯いてただ見つめていた。見えはしないが、マリーゴールドの視線を感じる。そう思うと余計に顔を上げることができなかった。そうしていると彼女から話しかけてきた。
「ねぇ」
「……はい」
「あなた」
僕は絞りだすように返事をすると、彼女は俯いている僕の顔を覗き込むように横から顔を出した。僕は驚いて顔を上げる。
「具合でも悪いのかしら?」
「あ、いえ……。大丈夫です」
「そう」
彼女はにこりと笑って続けた。
「二人はあなたのお友達?」
僕は小さな声で肯定して頷いた。
「いきなり大きい方の子に絡まれて、びっくりしちゃった」
「それは……、すみません」
「あなたが謝ることではないわ。あなた、お名前は何ていうの?」
僕は乾いた唇を舐めて潤し、やっとの思いで自己紹介する。
「初夢、七海です」
「七海くん。私はスージー・アシュビー。みんなはマリーゴールドって呼ぶけれど……、お友達には下の名前で呼んでほしいわ」
彼女はそう言うと口角を釣り上げて悪戯な笑みを浮かべる。
「お友達、ですか」
「あなたはもうお友達よ?」
僕を捕捉したとでも言うのだろうか。とんでもない人と関わり合ってしまった。今この訓練所が無事がどうかは僕のコミュニケーションに懸かっている。
「わかりました……、その。スージーさん」
「ふふ、嬉しいわ」
彼女はベンチで足をぱたぱたさせて喜ぶ。所作だけを見ていると、彼女が最も危険なローグダイバーのひとりだということを忘れそうになる。そうしているうちに深瀬と笹凪が全速力で帰ってきた。手には注文のミルクティーとスポーツドリンクが一本がある。
「ありがとう。……あなたたちはそれを回し飲みするのかしら?」
「いや……、そういう感じになりますかね……」
深瀬は言葉を濁らせながらミルクティーとお釣りをスージーさんに渡した。彼女がミルクティーに口を付けたとき、遠くから複数人が草を踏む音が近づいてくるのが聞こえた。僕たちの目の前に現れたのは、スーツ姿の男性五人だった。その中では一番年長と思しき男性がスージーさんに礼をして話しかける。
「探しましたよ、マリーゴールド」
「……もうお迎え?」
「はい」
年長の男性が他の四人に合図をすると、僕たちの方に来て身体を調べる。
「何もしていないわよ」
男性は溜息を吐いて彼女に話す。
「勝手に我々の前からいなくならないでください……。肝が冷えっぱなしでした」
「そうね。今度はきちんと断ってから自由行動するわね」
彼女はそう言うと飲みかけのミルクティーを男性に手渡し、僕たちに別れを告げる。
「もっとお話がしたかったのだけれど、またの機会にしましょうね」
彼女はそう言うと四人の男性と何か話をしにいった。入れ替わりに年長の男性が僕たちの前に来て僕たちに尋ねた。
「君たち、危険な目には遭わなかったかい?」
「はい……、大丈夫です」
「そうか」
男性は腕時計で時間を確認した。彼の様子は僕たちを気にかけているというよりは、この後の処理をどのようにするかを思案しているだけのように思えた。
「”彼女”と出会ったことは他言無用でお願いするよ」
僕たち三人は顔を見合わせ、それぞれが無言で頷く。
「ありがとう」
男性と僕たちの話が終わると、スージーさんが僕たちにひらひらと手を振った。
 彼らはそのあと足早に彼女を連れて施設から立ち去っていったようだった。その場僕たちしかいなくなってからも、僕たちは数秒は何もせずに立ち尽くしていた。少しして深瀬が笹凪の脇腹を小突いて最初に口を開く。
「なに自分の分まで買ってんねん笹凪」
「だって、好きなの買ってこいって……」
「あの状況で素直にスポドリ買うやつがあるかい」
深瀬が笹凪を非難している間に僕は深呼吸をして呼吸を整えていた。彼女が非礼に激昂して能力を発動するようには見えなかったが、万が一ということも十分にあり得た。僕は胸を撫で下ろして二人の仲裁に入った。
「しかし無事に済んでよかった。生きた心地がしなかったよな」
深瀬は僕の仲裁で笹凪から離れて安堵の溜め息を吐く。
「ほんまにな」
一方の笹凪は深刻な面持ちでやや俯いている。僕は噛み付いてこない笹凪を不審に思って様子を伺っていた。少しすると笹凪が僕たちに質問をしてきた。
「……なんで割って入ってきた?」
「なんの話や」
「あのまま俺がローグに殺されるのを見てることだってできただろ」
確かに備え無しに奴とスージーさんの諍いに割り込んだのは失策だったかもしれない。だがあのときは訓練所ごとみんなが吹き飛ばされるかもしれないと思って咄嗟に身体が動いた。もし笹凪単体の危機だったとしたら、動いたかはわからない。
「……僕らも含めた訓練所全体が危ないと思ったからだよ」
それを聞いて苦虫を噛み潰したような顔の笹凪が言葉を絞り出す。
「そうか。そうだろうな。でもそれでもな。俺はお前らに謝るべきなんだろうな」
奴から出た意外な言葉に僕と深瀬は面食らった。
「お前らはあの女がヤバい奴だと知ってて止めにきたのに、俺はあいつからプレッシャーを感じたときにイモ引いちまった」
「だから謝るって?」
「悪かった」
そう言うと笹凪は僕たちに頭を下げた。
「なにに謝ってるのか知らんけど、七海に腹パンしたことだけは謝っとけや」
「……悪かった」
「もういいよ」
僕は笹凪に顔を上げさせた。奴は僕の目を直視できずにいた。
「もういいから、お前は突っ張ってないで他の訓練生とも仲良くしろよ」
「……」
笹凪は全く反論してこない。もはや牙を抜かれてしまったかのようだった。僕は笹凪の腹を軽く小突いて話をつづけた。
「お前の腹パン、死ぬほど痛かったぞ。明日からの訓練で覚悟しろよ」
「わかった」
「”わかった”じゃないがな」
深瀬が食い気味にツッコミを入れると笹凪は驚いた顔をするが、少し緊張がほぐれたようだった。ふと裏庭の時計を見ると既に昼を過ぎていた。
「いい時間だな。昼飯でもどうだ?」
「ええな。……お前も来るか?」
深瀬が笹凪に声を掛ける。笹凪は少し間をおいて返事をした。
「……いや。俺はまだここにいるわ」
「そっか。それじゃあな」
僕と深瀬は笹凪に別れを告げて食堂に向かった。食堂には多くの訓練生がいたが、この中でローグダイバーの最高位級ダイバー、マリーゴールドの来訪を知っているのは僕と深瀬と、ここにいない笹凪だけだということには奇妙な優越感があった。彼女との邂逅は僕たち三人に強制ダイブアウトよりももっと恐ろしい何かを覚えさせた。そしてそれをきっかけに僕たちに何かしらの変化を与えた。僕は昨日まで笹凪のことは大っ嫌いだったが、重大な秘密を共有したからだろうか。それとも謝罪を受けたからだろうか。僕の中では「明日の朝食くらいには誘ってやろうか」と思える程度には許せていた。そのあと奴がみんなに受け入れられるかは奴次第だが、僕はそのときには一言くらいは弁護してやってもよいと深瀬に話した。彼は僕に優しすぎると言ったが、そんなに立派なものではない。僕は波風が立たなくなるならば、それが一番無難だと思っただけだ。僕たちは一時間以上かけて昼食を終えてお互いの個室に戻り、僕は倒れ込むようにベッドに転がった。少しでも身体を休めなければと思った。明日から始まる夢界での訓練のことを考えると目は冴えたが、反対に身体は疲れを感じていたようですぐに眠ることができた。

 

 

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