『DREAM DIVER:Rookies file』
-主な登場人物
・初夢 七海
「不知火機関」に配属予定の新人ダイバー。真面目な性格で心の中で他人を罵倒する悪癖があるが、仲間を思いやり他人の心に寄り添うことができる心優しい青年。漠然と映画に登場するスパイ像に憧れている。また認識改変などによる他者の介入に若干耐性がある。
・深瀬 陸朗
初夢の同期として特殊心理対策局「実働部隊」に編入された新人ダイバー。初夢と同じく仲間想いで人懐こい性格だが、考えるよりも先に身体が動く。身体能力は同期の新人の中でずば抜けて高い。
・切崖 櫻
初夢の元大学の同級生の女性で傭兵派閥「デイドリーレイダース」に所属している。大学一年生の最後に大学を中退し、特殊心理対策局の適性検査を受けたが落第し傭兵派閥へ転向した。初夢は自身がダイバーになり初めて彼女がダイバーであったことを知る。
・笹凪 闘児
元暴走族の青年。街で仲間と共に夢の力を使って悪さをしていたため「イリーガル」認定され、特心対が差し向けた傭兵と交戦したがために仲間を皆殺しにされた。その時にその場で命を落とすかは薄給で正規ダイバーになるかの二択を迫られ、訓練所で初夢たちと同じように正規ダイバーになるための訓練を受けることとなった。
・アントニオ・イニエスタ・キャバレロ
デイドリーレイダースの深層潜夢士。ダイバーネームの『プルポ』は蛸を意味する。豪快で面倒見がいい性格で、訓練所の新人たちの世話を焼きたがる。
・氷室 静雄
デイドリーレイダース所属の中級ダイバー。素直で情に厚い性格。辻導の保護者。
・辻導 哲乃
デイドリーレイダース所属の中級ダイバー。話し方が哲学的で朝に弱い。氷室の保護者。
・内垣 真善
特殊心理対策局、実働部隊に所属する三等深層潜夢士。ダイバーネームは『イレイザー』。なにかと面倒を押し付けられる苦労人。
・十善義仁
特殊心理対策局、実働部隊に所属する最先任境界潜夢士長。ダイバーネームは『スウィートビジネス』。現実世界では大人しく温厚だが、任務の前後に必ず飲む元気1,000倍ドリンクプラチナγ-ブーストの影響で戦闘中は人が変わったように騒がしくなる。
・犬養部 須臾
ヘクセンナハト下部組織、魔法騎士団-マジック☆キャバリアーズに所属する女性。現実世界では気弱で頼りなさげだが、夢の姿では正義感の強い開放的な性格となり、身の丈ほどの大剣を振り回す。
・オズ
ゼロメア株式会社所属の生きる夢。300年ほど前から宿主を転々としながら魔術の探求をし、やがて魔術の同士であるヘクセンナハトに所属していたが、ここ数十年で生身の人間に自身の魔術を試したくなり、より戦闘の機会が多そうな傭兵派閥へ鞍替えした。
第十一話『夢界訓練(二)』
「それではまず手始めに、君たちには強制ダイブアウトを経験してもらう」
周囲の訓練生たちがざわつき始めた。一方で現役のダイバーたちは不敵な笑みを浮かべる者、おろおろする者、困ったような笑みを浮かべる者など様々だった。職員が話した”強制ダイブアウトをしろ”というのは、簡単に言えば”夢界で倒されろ”ということに等しい。ただし夢の中では致命傷となるような大きなダメージを受けたところで命を落とすことは稀で、他人の夢の場合は夢の姿が剥離して現実世界に送還されるか、自身の夢で撃破された場合はそのまま現実世界で覚醒することがほとんどだ。厳密には後者は言葉と意味が異なるが、これらを強制ダイブアウトと呼ぶことが多い。僕がこないだ櫻さんに爆殺されたときも強制ダイブアウトさせられている。ざわめく僕たちに職員が続ける。
「実戦で初めて強制的なダイブアウトを経験し行動不能に陥るダイバーは非常に多い。君たちにはそうならないよう、今日この場でダイバーたちの攻撃により強制ダイブアウトを経験してもらい、明日以降の訓練や来たる実戦に備えてもらう」
職員は続ける。
「なお、精神に強い負担を掛けるものであるので、ダイブアウトを終えた訓練生は今日は個室で休憩する日とする。他施設からの訓練生は終えた者からバス内にて待機し、全員揃った段階で各訓練所に帰って休憩することになる」
僕は経験済なので免除してもらいたいところだったが、大っぴらにそれを公表するわけにはいかない。櫻さんがルール違反を犯して僕の夢の侵入したときのことが詳らかになってしまう。僕は大人しく順番待ちをすることにした。といっても、誰一人進んで前に出る者はいなかったが。その訓練生の様子を見た職員は「まあそうだろうな」という表情で溜め息を吐いたあと訓練生に喝を入れた。
「やるのか!やらないのか!」
僕が深瀬と顔を見合わせて二人で出て行こうとしたとき、訓練生を押し退けて僕と深瀬の間から笹凪が前に出た。
「やってやるよ!」
笹凪は虚勢を張っているが、汗をびっしょりかいている。
「笹凪か。いい度胸だ。位置につけ」
奴は職員の誘導で位置に立った。見た目は普段の笹凪とあまり変わらないように見えるが、頬や肘から先などは爬虫類のような鱗に覆われている。
「私がやろうではないかっ!」
オズさんが攻撃役を名乗り出た。実は笹凪が前に出たときから後ろの方でずっとオズさんがうずうずしているのが見えた。列を越えて躍り出た彼女の存在に笹凪は明らかに動揺している。そもそも順番に並んでいると錯覚したことが笹凪の命取りだったかもしれない。奴は急に弱気になって引き返そうとした。
「やっぱり後にしようかな……」
「儂が怖いものな」
「怖くねえぞ!畜生が……」
笹凪は彼女の不敵な笑みと安い挑発にお約束に則ったかのように乗せられ、そのまま強制ダイブアウトを一番手で経験することになった。全ての訓練生は息を飲んでその様子を見つめている。なにしろこれから全員が凡そ同じ結末を辿るのだ。
オズさんが右腕を左肩から右下の方向へと振り下ろすと、光で構成された刀身が形成された。レーザーブレードといったところか。オズさんが斬りかかる前に笹凪が彼女に質問する。
「てめぇ猫被んのかよ。てめぇは”そんなん”じゃねぇだろ」
「君たち相手ならこの麗しい姿で十分だろう」
彼女はそう言うとブレードの刀身で自身の左腕の肌を撫で、その動作の延長のまま踏み込んで笹凪に突きを繰り出す。彼女の魔術師のような外見から想像できない敏捷さの近接攻撃に笹凪はダイブアウトさせられただろう僕は思った。しかし実際にはその切っ先は奴の身体には僅かに届いていなかった。笹凪が両手を使ってオズさんの突きを白刃取りしたのだ。その様子を見ていた者たちもざわめきだした。しかし一番その事実に関心を寄せていたのは他ならぬオズさんだった。
「ほほう……!」
彼女は瞳をきらきらさせ、ブレードを押さえて焼かれている笹凪の手を見る。笹凪は苦痛に耐えながら貫かれまいと手を離さずにいる。
「……絶対来るとわかってりゃあ、一発くらいは防げるもんだぜ……!」
笹凪は強がりを言ってみせたが、一撃を防ぐのが精一杯という様子だった。そもそも防ぐのはどうなのかと僕は思ったが、オズさんは目を見開き驚愕の表情を見せたあと、すぐに目を細めて満足げに微笑んだ。
「やはり……、やはり生かしておいてよかった」
彼女は笹凪を褒めると左手で笹凪を肩を掴んで力を込め、奴に白刃取りされたままのブレードを無理矢理に笹凪の身体に突き刺し強制ダイブアウトさせる。刃が貫通した笹凪は声をあげることもなく、光の残滓となって僕たちの目の前から消滅した。動揺する訓練生たちをよそにダイバーたちが複数の定位置に集まってきた。次は僕たちの番というわけだ。
「さあ、済ませた者から今日は休んでいいぞ!どんどん行け!」
職員に急かされて訓練生たちは続々と前に出て流れ作業のように強制ダイブアウトさせられてゆく。深瀬も「行ってくるわ」と言って見送ったあとに少し目を離していたら辻導さんか氷室さんの一撃で消滅していた。訓練生は学校の体育館で行われる健康診断のように各自の判断で空いているところに行って強制ダイブアウトさせられなければならない。より取り見取りの処刑台を己で選択して登ってゆくようで何とも言えないものがこみ上げるが、僕もとっとと強制ダイブアウトを経験しなければならないと空いているダイバーを探した。そこら中で鈍い音や炎の音、爆発の音や重たい金属の音や銃声が響いている。そんな中で犬養部さんが手持無沙汰気味に大剣を地面に突き立てて立っているのを発見した。僕は彼女の元へと歩いていって軽く挨拶する。
「よろしくお願いします」
犬養部さんはにこりと笑って剣を地面から引き抜いて構えた。
「よろしくお願いします。初夢くん」
夢界での彼女の雰囲気は現実世界とは違い堂々としていた。彼女は続ける。
「では、早速よろしいですか?」
僕は息を飲んだ。一度経験したとはいえ嫌なものは嫌なものだ。僕は彼女の確認に肯定すると、休めの体勢で彼女の前に立った。ダイブアウトさせられることに特別決まった手順があるわけではないが、自分の手を自由にしておくよりは気楽になるような気がした。
「原始の星々よ━━」
彼女は剣を構えて何かを唱え始めた。
「その星灯は闇を祓う光━━」
文字にすればごく短い言葉なのだろうが、そのときは永遠のように感じた。
「その力を我に与えよ━━」
彼女の剣の発光が強まる。刀身から零れた光は粒子となり、それは彼女自身を包み込むように広がってゆく。
「裁きとなりて、真実を映せ━━」
刀身が眩い光を発して火力が最大まで高まったことを知らせる。それと同時に彼女は剣を高々と振り上げる。
「スターライト━━」
一歩大きく踏み込み、僕を最適射程内に収める。
「ジャッ━━」
そのあと彼女がなんて言ったのか、僕には知る由もない。僕は彼女が最後まで技の名前を言い切るよりも前に、太陽よりも眩しい光に包まれて意識を手放したのだから。
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