『DREAM DIVER:Rookies file』chapter8

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『DREAM DIVER:Rookies file』

-主な登場人物

・初夢 七海
「不知火機関」に配属予定の新人ダイバー。真面目な性格で心の中で他人を罵倒する悪癖があるが、仲間を思いやり他人の心に寄り添うことができる心優しい青年。漠然と映画に登場するスパイ像に憧れている。夢の姿はスパイ映画の主人公を模した姿である。武器として特殊な道具を生成できるほか、認識改変などによる他者の介入に若干耐性がある。

・深瀬 陸朗
初夢の同期として特殊心理対策局「実働部隊」に編入された新人ダイバー。初夢と同じく仲間想いで人懐こい性格だが、考えるよりも先に身体が動く。身体能力は同期の新人の中でずば抜けて高い。夢の姿は実働部隊に多い黒い戦闘服姿である。主な武装はアサルトライフル。

・切崖 櫻
初夢の元大学の同級生の女性で傭兵派閥「デイドリーレイダース」に所属している。ダイバーネームの『リコシェット』は”跳弾”を意味する。大学一年生の最後に大学を中退し、特殊心理対策局の適性検査を受けたが落第し傭兵派閥へ転向した。初夢は自身がダイバーになり初めて彼女がダイバーであったことを知る。夢の姿は対爆スーツの頭頂部にソンブレロが乗った姿である。主な武装はグレネードランチャー。

・アントニオ・イニエスタ・キャバレロ
デイドリーレイダースの深層潜夢士。ダイバーネームの『プルポ』は蛸を意味する。豪快で面倒見がいい性格で、訓練所の新人たちの世話を焼きたがる。

・氷室 静雄
デイドリーレイダース所属の中級ダイバー。素直で情に厚い性格。辻導の保護者。

・辻導 哲乃
デイドリーレイダース所属の中級ダイバー。話し方が哲学的で朝に弱い。氷室の保護者。

・内垣 真善

特殊心理対策局、実働部隊に所属する三等深層潜夢士。ダイバーネームは『イレイザー』。なにかと面倒を押し付けられる苦労人。

・相守めぐり
夢の使者「ドレアム騎士団」に所属するダイバー。ダイバーネームは『グリフィス』。尋常ではないお人よしで、困っている人を絶対に放っておけない性格の持ち主。ときにはローグダイバーにも救いの手を差し伸べる筋金入り。

 

第八話『紛い者たち(一)』

 

 僕と深瀬は次の日の朝食のときに、レイダースのいつもの面々に生きる夢たちの話をした。彼らは興味深そうに僕の話に耳を傾けてくれて、そのあとにそれぞれの生きる夢に関する話をしてくれた。櫻さんが訓練生の社会科見学に同行できないことに対して最後の最後まで抵抗したという話もしてくれた。
「私も行きたかった!」
櫻さんが肩を落として恨めしそうに僕に話す。そんな彼女をトーニョさんたちが慰めつつ窘める。辻導さんは相変らずダウンしている混沌としたテーブルを治めなくてはならないと思った。
「今度僕と行こうか」
何の気無しにそう言ったが、櫻さんには効果覿面だった。彼女は「行く!」と興奮して勢いよく立ち上がった。そのときに下がった椅子が背後を通った男性の足に軽く当たった。
「……痛ってーな、この野郎」
彼は櫻さんを睨みつける。
「ごめんなさ━━」
「ナメんじゃねえぞ傭われが」
彼は櫻さんをそう罵ると舌打ちをしてその場を立ち去って自席へと歩いていった。僕はあまりに突然のことに言葉を失っていた。当の彼女は背中を向けて去る彼に向けて中指を立てて密かに反撃している。ひとしきり反抗すると満足したのか乱暴に席に座った。
「なんだアイツ……。ムカつく~……!」
他のレイダースの面々は一連の様子を微笑ましそうに眺めていた。
「まるでデカいチワワだ。あんな威勢のいい奴、訓練生にいたかな?」
トーニョさんが笑ってそう言うと氷室さんと辻導さんが答える。
「今朝今日付けで訓練に加わる奴の書類が混じってた気がしますねェ」
「”笹凪闘児”、24歳。元『イリーガル』。身長182cm、体重97kg。不良仲間とダイバー能力を使って非行に及んでいるところを傭兵チームが捕獲。女性経験は無し」
「よく憶えてんな哲乃」
「プロとしての嗜みだ」
辻導さんの話に出て来たイリーガルのことは座学で聞いたことがある。ローグダイバーに区分されるが、特定の派閥に所属していないダイバーのことだとか。
「なんでローグダイバーが訓練に加わるんやろ」
「それはな」
声に振り返ると全身黒ずくめの見知らぬ女性二人が立っていた。気の強そうな女性の方が続ける。
「そこで死ぬか、訓練受けて薄給で正規ダイバーになるか。選ばせたからだ」
続けて気の弱そうな方の女性が困ったような笑みで補足する。
「えっと……、”そういうの”もありますよ~。……みたいな。もっと平和的に」
この二人が何者なのか聞きたかったが、まずは僕が自己紹介することにした。
「あ、えっと……。僕は訓練生の初夢っていいます。あなた方は……」
気の強そうな方の女性が話す。
「おっと。そういやまだだったな。私はゼロメアから来た鴉羽だ。仲間には”レイ”って呼ばれてる。よろしくなルーキー」
「よろしくお願いします」
「俺は深瀬です。よろしくお願いします!」
僕と深瀬はレイさんと自己紹介を終えた。一方で気の弱そうな方の女性はなにも言わずにもじもじしている。レイさんが女性の脇腹をつつく。
「ひぇっ!」
「自己紹介の仕方で迷ってんのか?」
「いえ……、どのタイミングで切り出そうかなと……思ってました。えと、私はゼロメア株式会社のダイバーの、小野河奈々子です。以後よろしくお願いしますね」
僕たちは小野河さんとも自己紹介を終えたところで、二人はレイダースの面々とも話し出した。どうやらダイバー同士顔見知りのようだった。
「二人ともお久しぶりです!」
「よお、櫻。こないだの仕事以来だな。三人も久々だな」
「お互い、景気が良さそうでなによりだな。レイ。今日は仕事か?」
「あぁ。イリーガル小僧のお守りでな。もう終わったからタダ飯食ったら星乃に引き継いで私たちは帰るが」
氷室さんと辻導さんが会話に加わる。
「お前がイリーガルに直接稽古つけてやるのかと思ったよ、レイ」
「冗談きついぜ氷室。今度こそ本当に殺しちまう」
レイさんとレイダースの面々は大笑いする。僕と深瀬、それと小野河さんだけノリについていけていないようだった。小野河さんが話に加わるタイミングを伺いながら、やっとの思いで話題を差し込む。
「あの、レイさん……。午前の予定もありますから……その、ご飯……、頂いちゃいませんと……」
「おう、悪いな。ついお喋りに夢中になっちまう。じゃあ、またな」
「失礼しました」
僕たちが別れを告げると二人は僕たちのテーブルを離れていった。ふと笹凪の座っていたテーブルを見ると彼はもういなかった。訓練の準備がある僕たちは急いで朝食を食べた終えた。
「それじゃあ、僕たちも行きます」
「おう。頑張れよな」
氷室さんたちに別れを告げ、僕たちは食堂を後にした。深瀬は訓練場のロッカーに書類を取りに行くと途中で別れ、僕はひとりで個室に帰ることにした。自室のある廊下まで来ると、笹凪が狙い済ましたかのように廊下の壁に腕を組んで寄り掛かっている。僕は嫌な予感しかしなかったが、そこを通らないわけにもいかないので知らないふりをして通り過ぎようとした。しかし、僕が目の前を通ろうとしたとき、笹凪が壁から離れて僕の進路を塞いできた。
「……なに」
「オメーさっき傭兵と俺のことバカにしてたろ?ナメやがってモヤシが」
「初めて見る顔だから誰だろうなと思っただけだよ」
「テメーに関係ねぇだろ」
「どうだろう。……部屋戻りたいんだけど」
「いいぜ。通りなよ」
笹凪が横に退いた場所を通ろうとしたとき、唐突に腹部を殴打され、僕は鈍い痛みに耐え切れず膝をついた。笹凪が愉快そうに笑う。見た目通りの奴だ。
「悪りーな。手が滑った」
「……」
「何してんねんゴリラ」
僕が痛みで何も言えないでいると、書類を取って戻った深瀬が合流した。
「なんだとてめ」
「お前ん部屋は三階やろ。ここ二階やぞ。自分の部屋番くらいきちっと憶えとけよ」
「……オメーは訓練でどさくさに殺す」
「やってみぃや」
笹凪は舌打ちをし深瀬の横を通って廊下の先に消えて行った。僕は深瀬の肩を借りて立ち上がる。
「大丈夫か?」
「朝食が出そう……」
「とんでもない奴が加わったもんやな」
どさくさに訓練中に殺りたいのは僕の方だ。あいつが正規ダイバーとして活躍する姿を僕は想像できない。僕は痛みを堪えながら深瀬に部屋まで送ってもらい訓練への準備をした。
 「うわ……、痣になってる……」
僕は簡単に応急処置をして訓練場に向かった。学校の体育なら確実に見学ルートの痛みだったが、そんなことで訓練を休むわけにはいかないだろう。なにより、一度休むと休み癖がつきそうなのが怖かった。大学ではそれで商学総論の講義を落としたからだ。僕が訓練場に向かうとほとんどの訓練生はすでに集まっていた。その中には憎き笹凪もいた。友達がいないので端っこにいやがる。反対の方を見ると深瀬が教官と話しているのが見えた。僕は二人に合流することにした。
「おはようございます教官」
「おぉ、噂をすればや」
「おはよう。今深瀬から笹凪との話を聞かせてもらっていたところだ」
今朝僕が腹パンされたことだろう。
「そうですね……」
もしかしたら胸を張って休めるかもしれないので、服をめくって痣を見せる。
「わ~、痛々しいわ」
「……」
教官は顎に手を当てて黙って僕の痣を見ている。少しすると教官は判断を下した。
「……一応医務室で診てもらった方がいいか。戻ったら今日は大事を取って見学するといい」
予想だにしていない僥倖に内心ガッツポーズした。休み癖がつくのが怖いとは思ったものの、見学を返上するほどの理由にはなりえない。僕は教官が背中を向けて連絡している間に深瀬にサイレントで感謝の意を伝えた。
 僕は二人に見送られて医務室に向かった。教官からは医務室に向かうことの確認をしたという証明のレシートのようなものをもらった。今日の格闘訓練をパスできると思うと不思議と身体が軽い。相変わらず腹部は痛みはあるが。しかし僕はこの訓練所に来てから一度も医務室を利用したことがない。怪我をした訓練生が度々足を運んでいるのは知っているのだが、どの程度の傷の手当てができるところなのだろうか。そのようなことを考えながら、廊下の壁に設置されている地図を頼りに医務室へ辿り着いた。ドアには”在室”のボードがさがっている。
「ええっと……」
僕がドアを三回ノックすると、医務室から女性の声で「はーい」と返事がする。僕はゆっくりと引き戸を開け、中の様子を確認した。
「こんにちは。どうされました?」
医務室には一人の女性がいた。僕は彼女の胸のネームプレートを確認する。
「こんにちは。えっと……”ちょう”……?」
「”ちょうじが”と読みます。朝似我時葉といいます。怪我ですか?体調不良ですか?」
「あ……、ちょっと怪我を診てほしくて来ました。教官に許可は取ってあります」
僕はそう言って証明書を朝似我さんに渡した。彼女は証明書を簡単に読むと机にそれを置いた。
「……はい、わかりました。傷痕を見せてください」
僕は言われたまま上着を捲りあげ、腹部の痣を見せる。
「うわ、痛そうですね……。訓練ですか?」
「いや……、ちょっと色々ありまして……」
彼女は「そうですか」と言うと僕の痣をまじまじと見つめる。無言の空間に耐え切れなくなった僕が訪ねる。
「その……、冷やしておけば良くなりますかね?」
「うーん……。私も専門ではないので……」
じゃあなんで医務室にいるの?と、もう少しで声に出るところだった。もしかしたら顔には出ていたかもしれない。しかし幸いなことに彼女は僕の腹部を凝視していたので気づくことはないだろう。彼女が判断に迷っていると、医務室のドアが三回ノックされ開かれる。僕が首だけで入り口を見ると見知った人物が二人いて驚いた。内垣さんとめぐりさんだ。
「あら、初夢くん。お久しぶりです」
「意外なところで会ったね」
「お二人とも、お久しぶりです」
朝似我さんが一度身体を上げて二人を見る。
「三人は顔見知りですか?」
「ええ。訓練初日に挨拶に伺ったときに」
「私はサー・ロータスの護衛で来たときにね。彼はどうかしたのかい?」
「お腹が痣になってるんです」
内垣さんとめぐりさんが朝似我さんの両サイドから僕の患部を見る。
「これは結構ひどいですね」
「訓練にしてもやり過ぎじゃないか?」
「それが訓練ではないと」
「訓練ではないとしたらなんですか?」と内垣さんが僕に尋ねてきた。別に隠すつもりもなかったし、笹凪なんかを庇うつもりなんて全くない。ただ一方的にやられたことが少し情けなくて積極的には話したくなかったのだ。しかしこうなっては話さないわけにはいかないだろう。僕は彼女たちに朝食での出来事から最後までを話した。
「……ひどいね」
めぐりさんは難しい表情をして膝の上で拳を固めている。内垣さんと朝似我さんも怒っているような表情をしている。
「笹凪闘児。確かに投降したイリーガルの資料にも素行不良とありました。一般の訓練生と混ぜたのは特心対の不備です。ごめんなさい、初夢くん」
内垣さんは申し訳なさそうにそう言うと、僕の腹を優しく撫でる。嬉しいような、むず痒いような感覚に少し鳥肌が立った。
「いえ、大丈夫です。ありがとうございます」
めぐりさんも手を伸ばして僕の患部を触診する。
「内蔵は大丈夫そうだね」
「冷やして安静にしておきましょう」
朝似我さんは患部を丁寧に応急処置し直してアイシングしてくれた。医務室に来る前よりも大分よくなった気がする。身体的にも精神的にも。
「ありがとうございます」
「またなにかあったら来てくださいね。私は今日限定ですけど……」
僕は簡単に返事をすると医務室のドアを開けて外に出る。そしてドアを閉める前に三人に向けて礼をしてからドアを静かに閉めた。患部を適切に応急処置してもらえたのもあるが、目と耳と肌から取り入れた情報でかなり癒しになった。これだけで腹パンされて地べたに膝をついた価値はあったかもしれない。僕は浮かれた気持ちのまま訓練場に戻っていった。

 

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