『DREAM DIVER:Rookies file』chapter6

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『DREAM DIVER:Rookies file』

-主な登場人物

・初夢 七海
「不知火機関」に配属予定の新人ダイバー。真面目な性格で心の中で他人を罵倒する悪癖があるが、仲間を思いやり他人の心に寄り添うことができる心優しい青年。漠然と映画に登場するスパイ像に憧れている。夢の姿はスパイ映画の主人公を模した姿である。武器として特殊な道具を生成できるほか、認識改変などによる他者の介入に若干耐性がある。

・深瀬 陸朗
初夢の同期として特殊心理対策局「実働部隊」に編入された新人ダイバー。初夢と同じく仲間想いで人懐こい性格だが、考えるよりも先に身体が動く。身体能力は同期の新人の中でずば抜けて高い。夢の姿は実働部隊に多い黒い戦闘服姿である。主な武装はアサルトライフル。

・切崖 櫻
初夢の元大学の同級生の女性で傭兵派閥「デイドリーレイダース」に所属している。ダイバーネームの『リコシェット』は”跳弾”を意味する。大学一年生の最後に大学を中退し、特殊心理対策局の適性検査を受けたが落第し傭兵派閥へ転向した。初夢は自身がダイバーになり初めて彼女がダイバーであったことを知る。夢の姿は対爆スーツの頭頂部にソンブレロが乗った姿である。主な武装はグレネードランチャー。

・氷室 静雄
デイドリーレイダース所属の中級ダイバー。素直で情に厚い性格。辻導の保護者。

・辻導 哲乃
デイドリーレイダース所属の中級ダイバー。話し方が哲学的で朝に弱い。氷室の保護者。

・内垣 真善

特殊心理対策局、実働部隊に所属する三等深層潜夢士。ダイバーネームは『イレイザー』。なにかと面倒を押し付けられる苦労人。今日も事務をキャンセルされ、訓練生たちの社会科見学の引足を押し付けられたが、今回に関しては満更でもない様子。

 

第六話『生きる夢(一)』

 

 いつもなら問題なく起きている時刻になっているというのに、瞼が重いし身体もどこか怠い。完全に寝不足だ。昨夜の出来事を考えれば合点がいくというものだが。それにしても櫻さんと顔を合わせるのが若干気まずい。夢界で夢の姿を破壊されただけとは言え、僕は彼女に爆殺されたに他ならないからだ。
「きっと櫻さんはもっと気まずいんだろうな……」
彼女は昨夜、僕の為に笑い、怒り、涙を流し、そのあと僕を夢界で爆殺した。自分で言っていても全く意味不明だが。弛み切った僕を叱咤激励するために模擬戦をしたが、勢い余って殺ってしまったといったところか。まあ夢界での話なので僕は強制的に起床させられるだけで事無きを得たが、爆殺される感覚は憶えている。僕は手早く準備をし、いつもよりも少し早く食堂へ向かった。
 僕が食堂に到着した時間には訓練生はまばらで、それだけにぽつんと座る氷室さんは簡単に見つけられた。
「よぉ、おはよう初夢くん」
「おはようございます。今朝はお一人ですか?」
「トーニョさんは急用、哲乃は部屋でまだ寝てる、切崖ちゃんは向こうで朝食に悩まされてるぜ」
氷室さんが指さす先にはトレーとトングを持って悩む櫻さんがいた。
「ありがとうございます。僕も朝食を取ってきますね」
「おう。ついでにマーガリンも取ってきてくれるかな」
「わかりました」
僕はテーブルに沿って朝食のおかずを皿に取りながら櫻さんに近づく。
「おはよう櫻さ」
「うひゃあっ!」
僕が声を掛けた瞬間、櫻さんは素っ頓狂な声を上げて驚いた。彼女のトレーの上のおかずたちが皿の上で踊っている。僕は改めて挨拶する。
「おはよう」
「あは、おはよう七海くん」
彼女は変な汗をかきながらにへらと笑った。
「何で悩んでるんだい?」
「いや、その……」
彼女はもじもじとしながらトングを鳴らす。意図が伝わっていないようなので僕は続けた。
「違う。パンのこと」
「あ、パンね……。クロワッサンとバターパン、どっちにしようかなって」
「僕なら断然クロワッサンだ」
「じゃあバターパンにする!」
「なぜ」
「半分こしたらどっちも食べられる」
「ちゃっかりしている」
僕は朝食と頼まれたマーガリンを手に取り、笑い合いながら氷室さんのテーブルに戻った。すると席には辻導さんが加わっていた。

「おはようございます」
「おはようございます!」
「おはよう、二人とも」
挨拶を交わすと辻導さんは僕たち二人をじろじろと目線で観察し始めた。
「あの……?」
「何してんだ哲乃ぉ」
「いや、なに。昨夜の”逢瀬”が気になったのでな」
逢瀬って昨日櫻さんが僕の部屋に入って飛び出していったことか。めちゃ面倒臭いことになってるじゃないか。僕は恐る恐る櫻さんを見た。彼女は羞恥で顔を耳まで真っ赤にして今まさに噴火寸前といったところだ。
「あれには深い事情が!」
櫻さんは暴走気味に余計に事態が拗れる言い訳をする。
「女が男の部屋に夜中こっそり出向き、そのあと足早に立ち去る必要があることといったらそう多くはあるまい?」
辻導さんの詳細な説明で氷室さんも水を軽く吹き出す。
「お前、そりゃあ……」
「ちがーうっ!」
これ以上は限界だ。僕が介入して何とかするしかないと確信した。
「僕が説明します」
僕は櫻さんが僕の夢に侵入したところから訓練試合を始めよようとしたところまでを話した。
「━━というわけです」
「そう!そーですぅ!」
僕の話を聞いて氷室さんは安心したような表情をしたが、櫻さんが直後勝手にダイブしたことを叱った。
「なんだ、そういうことか。……じゃねえっ!勝手にダイブすんなって言われてたろうがっ」
「すみません~……」
辻導さんは心なしかつまらなそうな顔をしている。しかしすぐにニュートラルな状態となり、僕と櫻さんに質問してきた。
「それで、どっちが勝ったんだ?」
僕と櫻さんは顔を見合し、質問に彼女が答える。
「私です!」
「そらな。負けたら減俸もんだ」
「あるいは、金の卵の発見者と称えられるかもしれんな」
「でも七海くん、すごいいい線いってましたよ!接近戦攻撃をせざるを得ないところまで接近されました」
「ほう」
「初夢くんが二、三発は擲弾を避けたってことか?そりゃすげえな」
「ありがとうございます」
「将来有望だぜ」
それはそれとしてな、と氷室さんが続ける。
「なんでルールを破ってまでダイブしたんだ?遊びにいったってわけでもなしに」
「それは……」
言い淀む櫻さんの代わりに僕は理由を話す。
「未熟な僕を鍛え上げるために無理をしてダイブしてくれたんです」
「鍛える?初夢くんをか」
「はい」
「そうなんか?切崖ちゃん」
「……」
櫻さんは無言で頷く。
「切崖ちゃん。友達を贔屓したい気持ちはわかるが、俺たちは━━」
「だって、そうしないと死んじゃうじゃないですか」
氷室さんの話を遮って櫻さんが話し出す。
「ここの先生に任せて仮に毎日12時間必死に訓練しても、最終的な訓練時間は400時間に満たないんですよ?そんなのでその数日後には戦場だなんて、生き残れませんよ」
彼女は精一杯の様子で話す。彼女は続ける。
「ダニエルズを憶えていますか?三年前、私と同時期に訓練を始めて、訓練期間を二週間も飛び級して主席で特心対に入った子です。私よりも三つも若いのにしっかりしていて、仲間の面倒も見られる良い子でした。それなのに、私が規定の訓練を終えて行ったときにはもう、いなかったんです。夢現領域で戦死したと後から聞きました」
氷室さんたちは黙って彼女の話を聞いている。
「私は、七海くんだけでも鍛え上げて戦場に送り出したいです。他はどうなってもいいとは思いませんけど」
彼女の目は真剣だった。そして深く暗い、きっと死と生を取捨選択してきた者の目だ。ダイバーというのはみんなそういう目をするのだろうか。
「……わかった。本当はそういうのは良くねぇんだが……」
氷室さんは苦しそうに続ける。
「そうまで言われて止めることはできねぇ」
辻導さんが続ける。
「つまり状況や条件に応じてルールは破ってもよいということだな。必ずしもルールを遵守することが全てではないということに関しては、私も同じ意見だ」
二人はそう言って彼女を赦すと、優しく微笑んだ。やはりというか櫻さんは目から滝のように涙を流している。
「あ”り”が”と”う”ござい”ま”す”う”ぅ”~!あ”あ”ぁ”ぁ”ぁ”~!」
 彼女は落ち着くまでその場で号泣し続けた。人が少ない時間帯でよかった。僕は朝食を終えると三人とは一旦別れ、自室で今日の特殊な訓練の準備を始めた。今日は施設から少し遠出して”生きる夢”と呼ばれる生物?とふれあいに行くらしい。座学では生きる夢は”夢”そのものだと習った。動物レベルの知能の個体から人間よりも高い知識を持つ個体まで様々な生きる夢が存在しているらしい。人に友好的な生きる夢の派閥は大きく分けて二種類に分類される。善なる夢『虹水晶』と悪夢由来の夢『黒曜石』だ。実際には生きる夢同士が取り決めた小さなコミュニティがいくつもある。教科書に載っていたのは虹水晶の最高位潜夢士『”世界樹”ユグドラシル』と、黒水晶の実質的な支配者『”名の無い狼”ウル』の二名だ。彼女らはともかく生きる夢というのは基本的にきまぐれな性格らしく、連れてくるよりは僕たちが出向く方がスムーズにことが進む。さらには現実世界で物質系の姿を取る生きる夢がうっかり紛れ込むと探すのが手間になるという理由もあるらしい。集合時間まで十分ほどというところで僕が支度を終えて正面玄関に向かう途中、深瀬に会った。
「よっ。ちょっとした遠足やな」
「まあ、事実上の遠足だな」
僕たちが今から向かうのは、確保可能な生きる夢が集団生活を行っている施設の一つだという。生きる夢がどのような存在なのかを目の当たりにし、慣れておくというのが目的らしい。
 集合地点である正面玄関前エントランスに到着すると、内垣さんが目印として立っていた。彼女はこちらに気が付くと手を振ってくれた。
「こんにちは、内垣さん」
「こんにちは!」
「こんにちは。早いですね!立って待つのも辛いでしょうし、先に乗車して構いませんよ」
正面玄関の前には見慣れないバスが停車している。バスはこのご時世にアイドリングしたままで停車し、ときたま意味もなく空吹かししてくる。早く乗れとでも言うのだろうか。
「なんや感じ悪い運ちゃんやなあ」
バスのガラスにはスモークがかけられていて運転手の顔を見ることはできない。僕たちが後部ドアから中に乗り込むと、中は普通のバスよりも堅牢な雰囲気をしていた。運転席の前には鉄板が貼られており頑丈な扉により固く閉ざされている。
「護送車みたいだな」
「俺ら囚人かいな」
「それだけ危険な用途に使われる車両なのかも」
僕たちがバスの考察をしている間に訓練生たちが続々と乗車してくる。
「あれ、もう居るんだ。早いねぇ」
「言うて集合時間5分やぞ」
全員乗車したタイミングで内垣さんが乗り込み、運転席前の鉄板を手で叩く。
「全員乗車です!お願いします」
彼女の合図でバスは発進する。どう考えても普通のバスではない、獣の唸り声のようなエンジンサウンドを奏でながらバスは道を進んでゆく。道中に内垣さんにこれから行く施設のことを聞いてみた。
「生きる夢たちが共同生活ないし保護されている施設ですね。生きる夢に関しては座学だけではわからないということで、実際に生きる夢たちと触れ合って知識を深めていただきたいと思っています」
「知能が高く通常の生活を送れる個体は人間と同じ生活を送り、まだ未発達な個体は職員によって世話をされ保護されているという感じですか?」
「そういうことですね」
「ありがとうございます。では物質系の生きる夢はどのように暮らしているんですか?」
内垣さんは僕の質問に快く答えてくれた。
「いい質問です。ずばり保管されています」
「保管、ですか」
「現実世界では基本的に動体ではない個体で、動体になることが難しい個体は職員により完全に保管状態にあります。簡単に言えば破損しないように大事にされているということです。それでも生きる夢には違いないので、プラスチックのケースで周囲を見渡せるような場所、あるいは他の住人が多くいるパブリックエリアに置かれていることが多いです」
僕たちは内垣さんの話を食い入るように聞いていた。まるで魔法の世界のような話が、現実世界で起きているという異文化に僕たちは全員胸を躍らせた。もっと彼女の話を聞きたかったが、無情にも僕たちを乗せたバスは施設の敷地へ到着していた。
「私は守衛さんと話があるので一度降りますが、みなさんはそのまま席に座っていてください」
彼女はそう言ってバスから下車していった。
「やっぱええわ内垣さん」「わかる~」「正直姉にほしい」「姉なら相守さんじゃね?」「サー・ミモザは?」「おまえソッチかよ」
訓練生たちは本人がいないことをいいことにわいのわいのと好き勝手話し始めた。僕はそれなりの時間シートに座って固まった身体をほぐすために伸びをした。そのときだった。指先が車内壁の上部に触れたとき、確かに指先が心臓の鼓動を感じた。

 

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