『DREAM DIVER:Rookies file』chapter4

ページ名:DREAM DIVER Rookies file.4

 

『DREAM DIVER:Rookies file』

-主な登場人物

・初夢 七海
「不知火機関」に配属予定の新人ダイバー。真面目な性格で心の中で他人を罵倒する悪癖があるが、仲間を思いやり他人の心に寄り添うことができる心優しい青年。漠然と映画に登場するスパイ像に憧れている。また認識改変などによる他者の介入に若干耐性がある。

・深瀬 陸朗
初夢の同期として特殊心理対策局「実働部隊」に編入された新人ダイバー。初夢と同じく仲間想いで人懐こい性格だが、考えるよりも先に身体が動く。身体能力は同期の新人の中でずば抜けて高い。

・切崖 櫻
初夢の元大学の同級生の女性で傭兵派閥「デイドリーレイダース」に所属している。大学一年生の最後に大学を中退し、特殊心理対策局の適性検査を受けたが落第し傭兵派閥へ転向した。初夢は自身がダイバーになり初めて彼女がダイバーであったことを知る。

 

第四話『鏡写しの姿』



 騎士たちと話した夜、僕はいつもと同じように自分の夢の中にあった。いつからこのような世界をはっきりと認識し始めたかは朧げだが、ダイバーとしての適性を他者に指摘された頃には明確に自身の夢の世界を認識できるようになっていた。ダイバーは夢界では夢の姿を持つ。僕もこの世界では夢の姿をとっているのだろう。だが僕の夢の世界には家電などリラックスするに不自由しない物が揃っているが、なぜか鏡だけはない。従って自身がどのような夢の姿をしているか確かめる術は存在しない。下を向いて腕や身体を見ると、僕は夢界で必ずシンプルなスーツを身に着けている。このサラリーマンのような恰好が僕の夢の姿なのだろうか。
「なんか、ぱっとしないな」
思考を纏めるために声に出してみる。結局のところ余計に落ち込んだだけだったが。それに、ダイバーは戦う職業だというのに見たところ僕は丸腰だ。
「武器よ~……出ろっ!」
自分なりに武器を呼び出してみる。しかし手から武器らしきものが生えてくる気配はない。
「あほくさ」
 今日はもう休もうとしたとき、夢の世界にいわゆる”異物”が紛れ込んだことを感じた。上手く表現できないが、不愉快とも違う感覚だ。こっちは武器が出ないというのに、間が悪いことこの上ない。感覚がした場所を見ると、黒い戦闘服に身を包んだ人物が立っていた。僕は一瞬身構えたが、すぐに警戒を解くことになる。
「よっ。遊びにきたわ」
現れたのは深瀬だった。彼はまるで友達の家に遊びに来たかのような気軽さで僕の夢にダイブしてきた。
「無意味なダイブは禁止されてるだろうに」
「つまり意味があったらええんやろ?遊びに来た」
「怒られても知らないぞ……」
「そんときは七海も道連れにするからええわ」
僕らは軽口を叩き合いながらも夢界での雑談を楽しんでいた。現実世界での会話と内容自体はあまり変わらないが、夢の世界でのできごとはそれだけで特別な感じがした。僕はいい機会だと夢の姿の話題を切り出した。
「なあ、深瀬」
「なんや?」
「お前は自分の夢の姿ってちゃんと見たことあるか?」
深瀬は顎に手を当てて少し考えてから答える。
「いやあ、気にしたことなかったな」
「気にならないの?」
「そう言われてみれば確かに気になるな」
深瀬は顎を引いたり足を曲げたりして主観で自身の姿を確認する。
「特殊部隊っぽくてカッチョええやん」
な?と僕に同意を求めてきた。
「実働部隊っぽいと思うよ」
深瀬が「せやろー」と満足げにふんぞり返る。
「前に研修で夢に潜る練習してたときは、そんときに着てる服のまんまだったのにな」
「ようわからんけど、ダイバーとしての能力が上がっとるっちゅうことなんやない?」
「そういうもんかね」
正直なところ、そんな自覚は一ミリたりとも無い。だが他人からそう言われるとそんな気がしてくる。曲がりなりにも僕の姿にも変化があったのだから。そして満を持して、僕は気になっていることを訊いてみた。
「なあ、僕の夢の姿ってどんな感じだ?」
「せやなあ……」
深瀬が僕の問い掛けを聞いて僕の姿を観察し始める。
「……サラリーマン?」
「やっぱりそう見えるか?」
「せやな。でも銀髪とグラサンはばっちしキマっとるで」
僕は夢界だと銀髪だったのか。
「僕は今銀髪なのか。染めた銀髪っぽい?」
「いんや。自然な銀髪やな。外人さんみたいやで」
悪くないじゃないか。
「というか、心なしか顔も外人さんみたいやで」
僕はそう言われて自身の顔をぺたぺたと触ってみる。確かに普段よりも堀りが深いかもしれない?
「瞳も青いしな。ていうかアレやな」
「”アレ”とは?」
深瀬が身振り手振りで何かを思い出そうとする。
「そう。お前が図書室のプレーヤーで観とった映画のにいさんに雰囲気似とるわ」
僕が図書室で観ていた映画は『ルーラーガイ』というスパイ映画だ。書店の店員である『ジャック・グルー』は裏世界では凄腕のスパイで、いつも店に来ている常連の女性を秘密道具の日傘を始めとしたあらゆる手段で救う物語。僕はシリーズを通してのファンでもある。特別スパイ映画だけが好きというわけではないが。
「僕が……、ジャック・グルー……?」
「いや知らんがな」
僕は興奮気味に立ち上がり、自身の姿をもう一度確認する。
「俄然やる気が出て来た」
「そらなにより」
今なら頑張れば武器が出せるかもしれない。僕はもう一度強く念じた。
「日傘ぁっ!」
「は?」
僕が掌に武器を作り出すイメージを集中させると、まるで物質が焼失する様子を逆再生したかのように手の中のグリップを中心に日傘が形成されてゆく。
「おぉ~」
深瀬が僕にぱちぱちと拍手を贈る。僕は生成した日傘を振り回してみる。
「ちゃんと頑丈そうだ」
「傘やけどな」
「すごい日傘なんだぞ。これで悪党をしばき回すんだ」
「はえ~」
深瀬はよくわかっていないなりに適当に相槌を打つ。
「そんなら、ちょっと試し斬りせんか?」
「試し斬り?」
「せや」
深瀬はそう言うと手に自動小銃アサルトライフルを生成する。
「お前ももう武器が作れてたのか」
「三日前くらいに生えてきたわ」
夢現領域ではない夢界での戦闘では仮に致命傷を負い倒れたとしても、体力を消耗して現実世界に弾き出されるのみで命を落とすことはあまりないという。深瀬はそのことを承知で模擬戦を持ち掛けてきたのだ。
「僕がお前に喧嘩で勝てると思う?」
「素手の喧嘩ならな。でもこれは喧嘩やない。想像力の勝負や」
深瀬はこうなると引き下がらない。現実の格闘訓練では実力差を考えて僕に吹っ掛けてくることはまずないが、他の訓練生相手には積極的に試合を申し込んでいるようだ。
「それじゃあ、受けて立とう。僕もちょっと誰かで試したいところだった」
「そうこなくちゃな」
僕と深瀬は空間のほぼ中心から現実世界での試合と同程度離れる。
「傘で戦うなんて小学生以来だ」
「そんなん言うたらアサルトライフルなんて持ったこともないわ」
ひとしきり笑い合い精神を集中させる。武器のグリップを強く握り、密度を上げていくように想像力を込める。
「いつでもええで!準備ができたら来いや!」
彼が左手で僕に「来い」とジェスチャーする。そしてそのときになって僕は気づいた。この距離だと僕が射殺されて終わるんじゃないかと。
 僕は地面を蹴って深瀬に接近を試みた。それが開戦の合図となり彼も発砲する。小銃から発射された銃弾は僕の身体スレスレを通過していき、そのたびに僕のスーツが大気に引っ張られる。もちろん僕は飛んできた銃弾なんか見えず、着弾していないのは幸運と彼のエイム力の低さによるものが大きい。
「めっちゃブレよる!めっちゃブレよるでこいつ!」
深瀬は自分の銃に振り回されているようだった。そうしているうちに僕は日傘で殴打できる距離まで接近することができた。僕は全力で日傘を振り下ろした。しかし傘は深瀬の身体には届かず、防御のために彼が突き出した小銃に防がれるにとどまった。そして地の身体能力の高さで傘を受け流し、カウンターで僕の腹を銃口で殴打する。僕は苦痛に顔を歪めたが、現実世界で同じ目に遭うよりかはいくらか痛くないような気がした。僕は少し距離を取り地面に膝を着いた。それをチャンスとばかりに深瀬が銃口をこちらに向ける。
「なんぼなんでもこの距離なら外さんやろ!」
僕はそのとき恐ろしさから目を瞑ってしまった。しかし一方で、こんなとき『ジャック・グルー』ならどうするか想像した。きっと日傘の能力を活用するはずだ。僕は目を閉じたまま日傘を深瀬に向けて勢いよく開いた。それとほぼ同時にほぼ目の前で発砲音が聞こえ、日傘を通じて手に強い衝撃を感じた。恐る恐る目を開けると、地面に潰れた銃弾が数発落ちたのがわかった。さらに眼前には傘の紺色の生地は無く、代わりにスクリーンのように透明な生地越しに驚愕の表情を浮かべる深瀬が見えた。
「……ズルやない?」
「いいや。これでトントンだ」
僕は映画の見様見真似で傘のハンドルについた引き金を引く。それと同時に傘の先端からゴム弾が発射され、彼の額を直撃して強制的にバク宙させ地面に倒した。
 勝負ありと認識した僕はすぐに深瀬に駆け寄った。
「大丈夫か?」
「まだ頭ピヨピヨしよるわ……」
「立てるか?」
「手え貸してくれ」
僕は彼に手を貸して立たせた。彼の額にはゴム弾の形に真っ赤にくっきりと模様がついている。
「便利やな。その日傘」
「ほぼ映画のまんまだからね」
「俺も映画観よかなあ……」
深瀬は額をさすりながらそう言うと、武器を収めた。
「今回は七海の完全勝利やで」
「やったぜ」
僕も日傘を収める。そうすると深瀬が拳を突き出してきた。
「おめでとさん」
「サンキュー」
お互いの健闘を讃えて深瀬と拳を軽くぶつける。
「次やるときは負けへんで」
そう言うと彼は大きく伸びをする。
「したらそろそろ帰るわ。サンキューな」
「あぁ。そのうち僕からもそっちに行くよ」
「またな」
そう言って深瀬は僕の夢の世界から帰っていった。彼が完全にいなくなったのを確認して、もう一度日傘を生成してみた。コツが掴めたらしく二回目は驚くほど簡単に日傘を出すことができた。僕はまるで特撮ヒーローのベルトを弄るかのように日傘を隅から隅まで調べ回した。やっとダイバーらしきなってきたではないか。
「これはもう、ダイバーを名乗っても差し支えないのでは?」
しかし夢中になれたのも束の間だった。また何者かが侵入した気配を感じたのだ。そのときは深瀬が戻ってきたのかと思った。しかし、違った。
 突如僕の夢の世界で爆弾が落ちたかのような大爆発が起きた。爆発による凄まじい衝撃波に僕は思わず尻もちをついてしまい、目を腕で覆って破片から防御した。爆音による弊害も冗談では済まされず、僕は3、4秒ほど耳鳴りで聴覚を失ったほどだった。そして腕の隙間から爆発がした方向を見ると、地獄のような爆炎からずんぐりむっくりした人影が歩いてくるのが見えたのだ。
「やあ~やあ~やあ~!我こそは━━」
その喧しい声には聞き覚えがある。僕が間違っていなければ━━
「デイドリーレイダース二等境界潜夢士~!名を『リコシェット』と申す者~!」
━━切崖 櫻だ。
 

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