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穴を覗けば

 

 

 

穴を覗けば

 

　僕の部屋の古ぼけたクローゼットの中には、小さな穴が開いている。

 

　服のカーテンをかきわけて、わずかに漏れ出した光の筋を塞ぐように穴を覗きこめば、

　そこには僕の知らない世界が広がっている。

　ある時は、巨人の村。生まれたばかりの赤ん坊をかわいがる、巨人の夫婦が見えた。

　ある時は、妖精の泉。水をかけあって遊ぶ、妖精の子どもたちが見えた。

　ある時は、騎士の城。いなくなった王子様を探している、騎士たちが見えた。

　眠れない夜は、穴を覗いた。

　途切れなく続く使用人たちの足音。屋敷の中はいつだって忙しない。

　退屈な昼も、穴を覗いた。

　絶え間なく続く大人たちのお仕事。屋敷の中はいつだって変わらない。

　いじけた僕は、今日も穴を覗く。

　見たことのない、どこかの島。崩れかけの塔が青い空に伸びている。

　あそこにはきっと、見たこともない怪物が住んでいるんだ。

　大昔に住んでいた人間たちを思い出して、涙を流す怪物が住んでいるんだ。

　寂しくはなかった。少しだって寂しくはなかった。

 

　クローゼットの穴の向こう。夢のような不思議な世界。

　この板を壊せたら、僕も向こう側にいけるのかもしれない。

　そう思うと、勇気が湧いてくる気がした。　

 

　そう思うと、勇気が湧いてくる気がした。

 

 

 

 

 

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