静寂の雪夜

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静寂の雪夜

静寂の雪夜

　騒ぎ疲れた子どもたちが眠りにつき、静まった夜が訪れた。読んでいた本を置いて、空になったマグカップをサイドテーブルに置く。顔を上げると、一人掛けのソファで妻が船を漕いでいた。男は頬を緩ませて、眼鏡をはずした。
　揺らめくキャンドルの炎が、曇った窓を照らす。耳を澄ませば、雪風が窓を叩くコトコトが鳴る。今日は朝からずっと雪が続いていた。窓の水滴を拭って外に目を凝らすと、果てしなく続く暗闇の中に、白銀がどこまでも広がっているのが見える。
カタン、と音がして振り返る。妻が起きたのかと思って視線をやると、次男のルイがお気に入りのブランケットを引きずったまま、ぼんやりと男を見上げていた。
「眠れないの」
　どうした、と声をかける前にルイは静かに呟いた。男は黙って頷くと、空いたソファに腰かけて、自分の膝の上を軽く叩いて促した。ルイはブランケットをずるずると引きずりながら、男の膝の上にちょこんと座る。暖炉の火がちらついて、弾ける音がする。
　ルイは何かを言おうとしているようだった。男はじっと黙って、息子が口を開くのを待っていた。長女よりも長男よりも、末の次女よりも、ルイはずっと繊細な子どもだった。日中は楽しんでいたように見えても、何か思うところがあるのかもしれない。息子の抱える不安の正体を頭の中で思考しながら、答えを待つ。
　何十秒か、何分か。曖昧な時間が少し経って、ルイはいよいよ口を開いた。眠気に誘われかけていた男は、ふいと目を開き、口を結んだ。
「……僕、良い子にしてたよね」
　眠りにとろける間際の声。息子の言いたいことは、すぐに理解できた。同時に、わずかに予期していた不安と緊張が解け、安堵する。男は笑みを噛み殺して真剣に答えた。
「お前は良い子だよ。ルイ」
　男の答えに、ルイは返事をしなかった。ただ、もぞもぞと体を動かして、視線をあっちとこっちにやったかと思うと、胸に抱えていたブランケットをぎゅっと力強く握った。
「そろそろ眠れそうか？」
「わかんない」
「父さんが傍にいれば、ベッドに入れる？」
「たぶん……」
　男が問いを出す度に、ふにゃふにゃとした言葉が部屋の中に落ちていく。胸に抱えていたルイの体は次第に重くなりはじめ、男は苦い笑みを浮かべた。もう次の質問に、答えは返ってこないだろう。
　男はルイを抱えたままゆっくりと立ち上がり、戸棚の奥に隠していた包装紙とリボンで包んだ箱を取り出して、静かに部屋の扉を開いた。
　とん、とん、とん……。
　階段を上る音が、静かな夜にひっそりと響く。

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