穢された『命の証』

ページ名:穢された『命の証』

「コード308のデータが到着したぞ」


無数の白衣の男女が詰める部屋に、分厚い紙束と無数の記憶媒体を持った男が入ってきた。


「ほう、どれどれ?」

「正直、期待はできませんよ……」

「ああ、彼か!エクステンデッドとしては破格の数値を叩き出したんだったな」


其処には、セシルの全てが記されていた。エクステンデッドと成ってからの、全てが。


「ほほう?正常な男性としての機能も健在のようだな?」

「品が無いですね……まあ、人間性が欠落されては実験の意味が無くなりますが」

「ガールフレンド?……自分の立場を理解してるんですかね?」

「『それでもヒトは誰かを求めなくてはならない』ってね」

「誰の言葉ですか?」

「私の祖父の言葉だよ。愛人を何人も作って、最後は祖母に……」


諜報部による観察と、セシルの体内のセンサーからの情報を元に、その全てをこの部屋の男女は無遠慮に暴き立てた。

そこには、セシルの命に対する敬意など微塵も無かった。


「無駄話は其処までだ」


まるで死体を貪るハイエナのようにデータを突付いていた研究者の中の、リーダー格の男が声を上げる。


「肝心の『人格的綻びを生まぬようにY検体と同程度の戦闘能力を獲得させる』ことに失敗している。……コレでは只の『強力なエクステンデッド』だ」

「瞬発的にはY検体に引けを取らぬ数値を出している部分もありますが?」

「いきなり完成できるとは到底思えませんよ。まずは納得できる数値かと」

「瞬発的では意味が無い!」


反論を許さない口調で声を荒げる。


「コード308は当地ではもっとも優れた被検体だった。だが、結果はコレか」

「計算上ではY検体と同等の能力を発揮するはずだったんですがね。後付の強化処理とアンプルに肉体が耐えられなかったようで」

「現地に連絡してくれ。『新鮮な林檎の追加発注を』と。コレでは、何時になったらY検体の量産にこぎつけられるやら……」



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