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「無理だ!」
目の前の男が声を張り上げる。色々な意味合いで耳が痛い。豪州に着いた俺たちは、友好関係にある現地のレジスタンスのアジトに訪れていた。
そこで例の少女を引き取ってもらおうと現地のリーダーに接触、返答がこれだ。大声を出した為か息を荒くしている現地のリーダー。歳は四十前後、髪は短く顔は厳つい。
伸ばした髭を弄りながら男は再び口を開いた。
「犬や猫じゃないんだ。人間一人匿うのがどれだけ大変か解っているのか?オーブに返すにしても、先日の騒ぎでセキュリティが強化されている現状では不可能だ。大体お前たちの厄介事を俺たちに押し付けるのは筋違いというものだろう」
そう言い終えると、男はもう話すことはないと応接間を後にした。バタンと扉が閉まる音。必要以上に大きく聞こえたそれを聞き終えると、部屋に残された俺たちはそれに負けじと大きく溜め息を吐いた。
お世辞にも座り心地がいいとは言えない椅子から重い腰をゆっくりと上げる俺たち二人。
「あー!やっぱり駄目だったか!」
俺の隣に立つコニールが突然両手で頭を掻きながら叫ぶ。気持ちは解らなくもない。が、恥ずかしいのでやめて欲しい。別に誰かに見られているわけではないのだが。
「最悪ダンボールに入れて街中に放置するか。幸い若い女だ、その手の趣味の奴なら迷わず拾ってくれるだろう」
「冗談でもそういうことを言うんじゃない、よっ!」
よっ、のタイミングで無防備な脇腹に肘を撃ち込まれる。痛みで声が漏れる。言っておくが本気で痛い。俺はあまり冗談が得意な方じゃない。それでも場を和まそうと頑張った結果がこれだ。
コニールが痛みで身悶えする俺を見下した顔つきで見つめ、溜め息を一つ吐く。いつか仕返しをしてやると誓い、俺はコニールを睨み返した。
「やっぱり私たちのアジトに連れて行くしかないみたいね」
仕方ないとコニールは呟く。この場合本当に仕方あるまい、少女には迷惑をかける。あの夜偶然巻き込んでしまった少女。
蒼い瞳が印象的で、性格は非常に温厚ながら確り者なんだろう……本来ならば。どうやら俺はあの少女に嫌われているらしい。あの騒動の後からは碌に口を利いていない。
別に好かれようとは思わないが、少女の平穏を奪ったのは他ならぬこの俺だ。後悔の念は後を絶たない。そう言えば、もし妹が生きていたらあれ位の年頃なのだろうか。
(マユ……)
妹の名をひっそりと心の中で呟く。一瞬、少女と妹の姿が重なる。
――彼女は彼女だ。俺はそれを振り払うようにそう自分に言い聞かせた。
「ガルナハンか、飛行機をチャーターする必要があるな」
「そうと決まったら早速行きますか。……あ、あの子はどうするのさ?」
部屋の扉を半分ほど開けた状態でこちらを振り向くコニール。
「置いて行く、念の為に相棒を置いてきたから大丈夫だろう」
ふと少女の元に置いてきた相棒を想う。
少なくとも俺より人付き合いが上手いアイツの事だ。今頃きっと少女と上手く打ち解けているだろう。相棒の”姿”に驚く少女を想像すると自然と頬が緩む。そんな愉快な事を考えながら、俺たちは応接間を後にした。
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