幼き過去

ページ名:幼き過去

タチアナ=アルタニャンことターニャが一番覚えているのは、あの冬の日だ。


幼い頃、村はずれにあった家に母と妹と三人で住んでいた時の事。外は一日中ふぶきに覆われ、止むことを知らない。激しい雪嵐が容赦なく窓を叩く。

ペチカの火も落ちて、もう加える薪も何も無い。食べられる物は小麦一つも無く、母はそれを探しに3日前に家を出たままきりだった。妹と二人ベッドの上でありったけの毛布――といっても数枚しかないけど――に身を包み、じっと我慢していた。

寒くて寒くて。お腹が減ってお腹が減って。

そんなのがずっと続いて。

気づけば隣の妹はもうとっくに冷たくなっていた。ターニャも体や手足が冷たいのか痛いのか分からなくなって、いつの間にか眠っていた。眠ればもう寒いのは感じないで済むと思ったのかもしれない。

だがターニャは、知らない家で目を覚ます。

朦朧とする意識の中、寝ていたベッドの横で母が泣きながら縋りながら彼女に謝っている。何と言っていたかはよく覚えていない。

後で母が教えてくれたが、ここは村長の家だった。あとわずかで凍死するところを村の人達に助けられたのだという。

……妹は駄目だった。もう気づいていたけど。


その後、ターニャと彼女の母は祖父の住むコーカサス州に移り住む。しかし母親はそれまでの心労が祟ったのかまもなく亡くなった。祖父がなんとかターニャを高校までは入れてくれた。


「学がないと自分のように貧しく、苦労する」


というのが祖父の口グセだった。

ところが高校卒業後、ターニャは飛び出すように西ユーラシアの旧軍隊系レジスタンスが主催するキャンプに半年参加し、そのままローゼンクロイツが引き起こした「九十日革命」にまで参加してしまう。


「学をつけたらから世の中の仕組みが分かった。だから銃を取った」


当時モスクワでターニャは隣の戦友にそう洩らした。反乱が失敗に終わって、命からがらカルナハンに逃げかえってきて、リヴァイブに拾われて現在に至る。


あの時の戦友とは、あれっきり会っていない。



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