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「……ああ、終わらせよう」
ソラが通信機から聞こえた最後の言葉はそれだけだった。
「待って!アスランさん!!」
既に切られてしまった通信機に向かって思わず叫ぶ。そして、次の瞬間に辺りに低い爆音が響いた。
「……そんな……」
言葉を失う。そう表現するしかないような脱力感にソラは苛まれる。
その爆音の意味することはただ一つ。シノが望んだ夢。カシムの望んだ夢。あまりにも悲しい二人がたった一つ望んだ夢。
それが失われたと言うことだった。
「セシルさん………」
思わずソラはその場にへたり込んでしまった。切れてしまった通信機から出るホワイトノイズがやけに耳につく。
また、救えなかった。
その事実がジワリとソラの体を蝕んでいく。
ターニャも救えなかった。
シノも死んでしまった。
カシムも……そして、セシルも。
あまりに多くの命が自分の手をすり抜けていく。それは16歳の少女に耐えられるような現実ではなかった。
「……なんで………」
虚空に言葉を放つ。
そのまま薄闇の中に言葉は吸い込まれていく。それでもソラは言葉を放ち続ける。
「なんで、アスランさんは………なんで……」
見かねたジェスがソラの肩に手を置く。ビクリと体を震わせて、ソラはジェスに向き直った。
ソラにはジェスは辛いような、そして怒りを押さえるような表情をしているように見えた。その表情をみて、思わずジェスにつかみかかる。
「なんで、アスランさんはセシルさんを助けてくれなかったの!?」
ジェスに当たることは何の意味も無いことはソラ自身良くわかっていた。それでもソラは自分を止めることが出来ない。
一番近くにいる「大人」に自分の中の言葉を全てぶつけていくしか、今のソラには出来なかった。
「なんで、セシルさんは戦いをやめなかったの!? シノやカシム君がどんな思いでいたのか分かっていたのに!」
黙ってジェスはソラの言葉を受け止めていた。ソラはかまわず言葉をジェスにぶつけ続ける。
「なんで! なんでよ!! なんでセシルさんが殺されなきゃいけないの!!」
その言葉に黙っていたジェスが重い口を開いて答えた。
「それは、セシルが『あちら側』の人間だからだ」
「……『あちら側』?」
「そう。セシルはシノやカシムやソラとは違う。 ……アスランやシンと同じ『あちら側』の人間。 戦う側の人間だからだ」
「そんな! 誰もセシルさんに戦うことなんて望んでない!!」
「それでもだ。多分セシルにはもっと他の生き方も出来ただろう。 それでもセシルはそれを選びはしなかった」
ジェスは勤めて静かにソラに語りかけた。それはソラに対する最低限の礼儀のようにジェスには感じられたからだ。この暴力でしか判りあうことの出来ない世界にい続けなければならない、この当たり前の少女に対する。
「何故……選ばなかったのか。 本当のところはセシルに聞かなきゃ分かりはしないが、それでも俺は思う。 セシルはシノやカシムを守ることは出来ても、シノやカシムの思いを受け止めるやり方は知らなかったんだろう」
「……ジェスさん、何を言っているのか分からない……」
「セシルは人を愛することは出来ても、愛されることは出来なかった。 それも当たり前だ。セシルはまだ少年と言ってもいいくらいの年だろう。 それでもセシルは生きていかなきゃならない。 この意味は分かるな?」
ソラはジェスの腕をつかんでいた手を離す。そして、ゆっくりとおろされた腕は、所在なさげにソラの胸元に収まった。
「セシルさんは……この戦争の中を……たった一人でカシムを守っていた……ってこと……です」
「そう、そのためにどれだけのものを犠牲にしたのか想像もできない。それでもセシルは生きていかなきゃならなかった。 それは、何のためだ? カシムを守るためだ」
ソラはハッとした。
その「生きる理由」そのものであるカシムの死。
それを自分はセシルに伝えてしまった。
セシルがシノやカシムの思いを理解しさえすれば、戦いの舞台から降りられる。そう信じて。
「……セシルはセシルとして生きる意味を失ってしまったんだ。 それでも、セシルが『こちら側』の人間なら、シノやカシムの思いを受け止めて、自分の生を全うしようとも思えたかもしれん。 が、セシルは『あちら側』の人間……戦士だったんだ」
「戦士……。戦うことしか出来ない……?」
ジェスは黙って頷いた。
「そんな! そんなこと……」
「そして、俺たち『こちら側』の人間は『あちら側』の人間の死の上に生きている。 それはガルナハンでいくらでも見てきただろう?」
ソラは愕然とした。
ここも「戦場」であることに。
そして、戦場にある数多の戦士たちの命の上に世界は乗っていることに。
「……俺たちは『こちら側』の人間だ。だが、だからこそ出来ることがある。俺たちは世界から目を背けちゃいけない。俺たちのために散っていった命のためにも……」
ソラは黙ってジェスの言葉に耳を傾けていた。
自分達に何が出来るのか。
それは裏を返せば「自分達にできることがある」ということだったから。
この、悲しみと苦しみの渦巻く世界で、自分が何かを出来る。
その希望だけが、ソラの小さな体を支えていた。
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