失脚、そして就任

ページ名:失脚、そして就任

――人は『何かを成し遂げるため』に『生きる』のでは無い。

『生きた』からこそ『何かを成し遂げられた』のだ――

ロマ=ギリアム






……暗闇。初めはそれだけ。

でも、世界に突然“銃声”が轟く。私が何時からか、聞き慣れてしまった音。

私は何処か、安心していたんだと思う。

……あの人達は、どんな時でも還ってきてくれた。

恐ろしい戦場を何処吹く風で。何時しか、それは当たり前の事の様に思えてしまった。

少しでも考えてみれば、それは明らかな間違いだと直ぐに気が付くのに。放たれた銃弾の一つ一つが、容易に私や、あの人達を壊してしまう事に。


<――ソラ、逃げて!>


あの子は私にそう言った。私を引っぱたいて、私を嫌っていたはずのあの子が。そして、私はあの子もきっと大丈夫だと、何の裏付けも無しに信じていた。

――私を庇って、相当な出血をしていて、それでも――。


<……アンタ、あったかいよね……冷たくならな……>


……それが、最後の言葉。その時の私には意味の解らない

――私の大事な友達の、思い出のカタチ。

世界は暗闇だった。それを私は、見ない様にしていただけだったんだ……。






目を開くと、馴染みのある天井が目の前に広がっていた。窓一つ無い、ほんの少しの家具だけが置いてあるソラの部屋――リヴァイヴでのソラの個室だ。

ソラは、汗をびっしょりとかいていた。けれど、拭う気にもならない。

胸が痛い――締め付けられる様に。


(また、あの夢……)


ここ数日、ターニャ――タチアナ=アルタニャンの夢を見ない日は無い。それだけあの一件はソラの心に刻み込まれていた。彼女と過ごしたのはほんの数日――しかし、自分と彼女はもっと前から知り合っていた様な錯覚すら感じる。彼女が居ない今、その思い出も遠い日の様で、しかし決して消えない記憶となっていた。


もしあの時、自分が何かしていれば――

自分がもしも、シンさん達の様に強かったなら――


(……ターニャは今頃、私に変わらず笑いかけてくれていた?)


それは――後悔。どうにもならない思いを、どうしようもなく反芻するだけの――

思い、悩んでも、何一つ解決する事は無い。結論は、とうの昔に出てしまったのだ。ターニャがソラを庇って死ぬ――ただ一つの、その結論が。それはソラにも解っている。


だが……

ソラは、何となく己の両手のひらをを見る。汗だくの手のひら

――それがみるみるうちに赤く染め上げられていく

――あの日の様に。それが幻覚だと解っていても、ソラはそれを恐れ、そして……。


「…………!」


(――ターニャ!)


口に出せば、激情が止められなくなってしまう。そんな思いが、ソラを止める。

人が命を失う瞬間。それをソラは見てしまった。感じてしまった。体温が失われ、命というものが人の体から抜け落ちる瞬間。どうしようもない、人が死体に変わる瞬間。


それにソラは立ち会ってしまったのだ。ソラという人間が信じていた世界。その外に居る者達が何故これ程までに切望するのか――何となくだが、ソラには解った気がする。


……その瞬間を見たくないが為に、人は戦うのだ、と。






あの後、ソラとシンは二人でターニャの祖父に報告に行った。


「気が済むなら、幾らでも俺を殴ってくれ。……詫びて済むもんじゃないが」


シンは既に、大尉に――見ているソラが痛くなる位――殴られていた。けれどシンは一言も弱音を吐かなかった。むしろ、殴っている大尉の方が辛そうだった。


そして、ターニャの祖父はシンを殴らなかった。ただ、シンとソラを一瞥しただけで、こう言った。


「アンタを殴って、ターニャが還るならそうするさ……」


シンの顔が歪んだ――百発殴られた方がマシな位に。

……どうすれば良かったのだろう。

何一つ、救いは無い。それだけは解った――解らざるを得なかった。






その後、ソラはターニャの最後の言葉を祖父に伝え、そして知った――ターニャの言葉の意味を。


(あの子は、幼い頃妹を亡くした。一緒に寝ていた時に、な。……その時感じたのだろうさ、妹が冷えていく瞬間を。『自分の体温を分けてあげたかった。』――何時だったか、泣きながらそう言ったのを良く覚えているよ。……最後の最後に、あの子はアンタに救われたんだな。礼を言わせて貰うよ……)


一言一句、良く覚えている。……忘れられる訳が無い。


<……アンタ、あったかいよね……冷たくならな……>


人が人を救う事が出来るのなら。人が温もりを分け与える事が出来るのなら。

そういう事が出来る者は、結局それ以上の不幸を身に染みて知っている者達だけだ。だからこそ、ターニャはソラを命を賭して救ったのだろう。――文字通りの意味で。


ターニャはもう一人の妹を作りたくなかった。……しかし。


(……ターニャ……)


ソラの心からターニャの事が離れる事は、おそらくこの先永久に無いだろう。それは、ソラという個人が命を救って貰った事への紛れもない代償。目を閉じれば、幾らでも思い出せるターニャの面影。……そしてその死。思い出す度、親しい人と会える嬉しさと、死という別れ。

――それはたかが十五歳の少女が背負うには、厳しい内容だった。


ソラは泣いた。泣き続けた。……それ位しか、出来なかった。






夜のゲルハルト=ライヒの邸宅は豪奢ではあったが、同時に薄ら寒さを感じる場所だった。


(……まるで、住んでいる人間の心を移したかの様な雰囲気ね)


黒を基調として、控えめに赤い宝石をあしらったカクテルドレスに身を包んだメイリン=ザラは、運転手にエスコートされながら送迎のリムジンを降りる。降り立ったのは、彼女一人。本来こうした席には居るはずの夫、アスラン=ザラの姿は無い。


……それはそうだろう、これは夜会であって夜会ではない――ゲルハルト=ライヒ率いる治安警察幹部達の会合なのだ。


その席に、メイリンが招かれた。……ということは。


「余程、ライヒ長官は『カテゴリーS』を恐れておいでの様ね」


メイリンは玄関から続く赤絨毯を踏みしめ、ゴシック様式で統一されたライヒの“城”に入っていく。それは現世に蘇った貴族の城であり、ライヒの何処か人間臭い虚栄心を間見た様な気になりながら、メイリンは歩んでいった。






“会合”に参加したのはライヒ、メイリンを入れて五名。そして、席次はメイリンにとって奇異を感じるものだった。細長いテーブルの上座にライヒが座り、居並ぶ様に他の者達が差し向かいに並んでいく――そこまでは奇妙でも何でもない。しかし一方の側にはメイリンだけしか座らず、残りの三人がメイリンの差し向かいに座る状況は、非常に圧迫感を感じるものであった。


(新参への嫌がらせ?随分と姑息な事をするのね、治安警察は……)


出てきた料理は非常に高級なもので、一口食べただけでそのシェフの技量が当代きってのものであろうと想像出来る。……しかし、この状況はとても“美味しく”頂ける状況ではない。


それはそうだろう、眼前に居並ぶ三人の人間の瞳がメイリン一人に注がれているのだ。それは好奇の瞳に間違いなかった。失礼だとか無礼だとか、そういう事を一切考慮しない、値踏みの視線。メイリン自身、男性にそういう視線で見られた事は少なくない。だが、こうも遠慮無く射すくめられるのは不快でしかない。


この状況が奇異なのは、他にも理由がある。


(席に着いた時、私は名乗った。……名乗らされた。なのに彼らは誰一人、名乗りはしない。礼法など一切守る気は無い、という事?)


目の前に居る三人は、三者三様、個性的な人間達だった。独創的と言っても良い、街中を隅から隅まで歩いても、彼らと同じ人種には会えないだろう。彼らに共通していたのは、その瞳。油断無く、好奇の様でいて――そうではない。己の命を守るために、彼らは常に誰も彼もをそうした瞳で見ているのだろう。

……既に死ぬ場所を戦場と定めた、人間の瞳。


一番左の男は初老、といって良かった。体格は非常にがっしりとしており、おそらくこの夜会に集まった者達の中ではもっとも恵まれた体格の持ち主だろう。首も指も太く、ワイングラスを割れない様にそっと指二本で摘んで飲む様は何処かしらユーモラスだ。


一番右の男は――いや、女か。男装の麗人、そう言えばいいのか。この夜会の中ではもっとも若い年齢の女……というより“女の子”だ。おそらくメイリンの見立てではこの少女は十四~十五歳位だろう。礼儀作法は他の二人より余程洗練されており、良家の子女として育てられたであろう事が伺える。だが、油断無く辺りに気を配る様はとても良家出身とは思えない。


そして中央の男は、もっともメイリンに嫌悪感を与えていた。容貌や佇まいに文句は無い。未だ二十代位だろうか、相応の美形なので女性の人気もまずまずと行った所か。だが、メイリンはこの男の目が一番気に入らなかった。まるで狐の様な、細く――襲いかかる様な瞳。従順な様で、決して何者にも従わない。そういう意志が何処かしら感じられる瞳。


誰も彼もが、曰くなどダース単位でありそうな者達だった。


そして彼らは愛想も何もなく、ただ淡々と食事をする。油断無く、メイリンを見据えながら。まるでメイリンが彼等の領域に不埒にも侵入してきたかのように。……これではメイリンの方も礼法をかなぐり捨てて、彼等の瞳を受け止めるしかなかった。そして、夜会の主催者ことライヒは、その様子を楽しそうに眺めている。


メイリンは、我ながらかなり長い間その苦境に耐えたと思う。


……しかし、遂にメイリンの堪忍袋も切れる時が来た。あろう事か、中央の男が「クスッ……」と、メイリンを眺めながら笑ったのだ。その瞬間、血が逆流するのをメイリンは止められなかった。


バァン!


料理が散らばるのも構わず、メイリンはテーブルを力任せに引っぱたいた。大した力では無いが、静かな食卓ではあったので部屋中に響き渡る音だった。そして――それでも出来るだけ抑えたのだろう――静かに中央の男に向かって言う。


「……非礼を詫びて頂くわ、ミスター」


静かな、低い声。だからこその恫喝――本気で怒った自分を抑えるかの様に。


メイリンと中央の男は、しばし睨み合った。男の目は冷静で、荒事など何度と無く潜り抜けてきた

――そういう凄みがある。一方、メイリンは怯みそうになる自分を押さえ込み、冷ややかな目線で男を睨み付ける。


(……私だって、もう『守られている女』じゃない。そこらの男に負ける様な女じゃない!)


緊迫した雰囲気――さすがにこの状況で食事を続行出来る者は居ない。ライヒを除いて。ライヒだけはこの状況を薄笑いすら浮かべて眺めている。まるで“微笑ましい事”を見ているかの様に。


不意に、中央の男が目を剃らした。そして、席から立って頭を下げる。


「非礼をお詫びしますよ、新しい治安警察の“実行部隊隊長殿”」


男が唐突に非礼を詫びた――その事よりも男が言った事の方がメイリンに衝撃を与えた。


「……え?」


メイリンは、一瞬思考停止した。その間を縫う様に、更にメイリンの前に座っていた残りの二人も立ち上がる。


「エイガー=グレゴリーじゃ。水中戦ならば並ぶ者はおらんと自負しておる」


「エルスティン=ライヒ。空間認識能力はクラスAを記録。……実戦配備出来るレベルです」


そして、中央の男も名乗る。


「オスカー=サザーランドです。宜しく」


立て続けの衝撃――その三人の名前にメイリンは心当たりがあった。治安警察の中でもドーベルマンに次ぐ実働部隊のエース――ライヒ子飼いの精鋭部隊の事実上の幹部達。その三人が今、メイリンに頭を垂れた。という事は……


「よろしい。この瞬間より我が治安警察省公安部隊は、前隊長ドーベルマンよりメイリン=ザラに引き継がれる。……宜しく頼む、メイリン=ザラ“隊長”」


ライヒの朗々とした言が、メイリンの思考を現実に引き戻す。まさか、と思った事が現実に起こっている。メイリンは混乱する頭を無理矢理クリアにして、状況を把握する。


(ドーベルマンから私に引き継ぐって……治安警察の部隊を!?何を考えて居るの、ライヒ長官!)


メイリンはライヒに向き直る。そして、メイリンが何か言うより早く、ライヒは言う。


「君の予想通り、私は『カテゴリーS』シン=アスカを恐れている。……おそらく、この地球上で誰よりも、だ。その彼を屠るのに、君という適任者を得た。これはその事への正当な評価、という事だよ」


メイリンは喉元まで出かかった言葉を飲み込んだ。自分が言わんとする事をライヒは先回りして語った。それはきちんとメイリンという『個』を見て言っているという事だ。それほどまでにライヒはシン――『カテゴリーS』という存在を恐れているという事だ。


だが――確認しなければならない事もある。


「ドーベルマンは納得しているのですか?私には地位争いをする意志はありません。高く評価して頂いたのは感謝致しますが……」


思った通り、ライヒはほんの少しだけ眉根を寄せた。が、直ぐに淡々と語る。


「ドーベルマンには失脚して貰わねばならなくなった、という事だ」


「…………?」


これは解らない。メイリンが怪訝な顔をしていると、意外な所から説明が来た。


「議会で現在、主権返上についての論議が行われています。大筋で東ユーラシア政府は主権返上に反対の立場を執っています。ですが、現状の東ユーラシア政府ではコーカサス州の治安確保に乗り出せるだけの戦力が無い事も事実です。それ故、東ユーラシア政府首脳は妥協案に出ました。『コーカサス州の治安を確保してくれるのなら、主権返上に部分的に応じても良い』――東ユーラシア政府は“名を捨て実を取る”つもりのようですね」


何らの感情を込めない声でエルスティンが淡々と語る。その説明をオスカーが引き継ぐ。


「コーカサス州において東ユーラシア政府軍は大きく弱体化した。そのため、東ユーラシア政府は多国籍軍――オーブ軍の出撃を必要としている。現在、“世界の敵”として『カテゴリーS』――ひいてはリヴァイヴというコーカサス州のテロリストは必要な存在になるんだ。居なくなればオーブが介入する余地は少なくなる。皮肉な事だが、現状ではシン=アスカという存在は居た方がこちらにとっても都合が良いという事なのさ」


更に、エイガーが説明を次ぐ。


「……ドーベルマンの大将は『負け犬は御免だ。』と打診してきた。なるほど、あの御仁らしいとは言える。融通の利かん、剛直な男じゃ……」


エイガーはワインを一息に飲み込む。既に顔は赤かったが、酒は次から次へと注がれていく。彼なりにドーベルマンの行く末に思う所があるのか……。


(ドーベルマンは“負け犬”になるしか無くなってしまった。それ故に、私が“隊長”というポストに就く。なんて混迷の世界なのかしら……)


メイリンはようやく座ると、自分のグラスにワインを注いだ。気が付けば皆がワイングラスを片手に持っていたので、なし崩しに乾杯をした。せめてこの混迷の時代が長引かない様に――それだけはこの場の全員の思いであると信じて。






地中海上空、二十三時――


こんな時刻に地中海上空を飛ぶのは、余程の酔狂人か新聞記者だけだ。その両方と言って差し支えないジェス=リブルは長距離輸送機の窓から珍しそうに外を眺めている。――この男は世界を見るのに“飽きる”という事は無いようだった。その様を半ば呆れながらカイト=マディガンはジェスに今後のプランの説明をする。


「……このまま一旦俺達はコーカサス州上空を飛ぶ。エンジントラブルと見せかけて、な。その最中、“荷物が落っこちた事”にしてお前とアウトフレームを降下させる。その後、本機“ポリグラフ”と俺は近くのセヴァン湖に“修理”と称して着陸する。一週間後、お前は脱出用にハチが用意したバルーンを使って……って聞いてるのかお前は!」


「ん? ああ聞いてるよ。――見ろよカイト! あの帆船、すげぇ年代物だ!」


怒鳴るカイト、瞳を輝かせてジェス。もはや何年見たか判らないこの二人のコントにハチは画面に顔文字『……( ̄へ ̄|||)』を表示して呆れてみせる。


何処で仕入れてきたか判らない様なオンボロ貨物機ポリグラフでいつもの様に始まった二人の言い合いは――他の搭乗員にも慣れっこだったので――何時終わるとも知らず続いた……。






「……で? なんでそんな面倒な言い訳しなきゃいけないんだ? 正々堂々正面から行けば……」


そのジェスのぼやきは最後まで言えなかった。


『馬鹿野郎!お前さっき何を聞いてたんだ!』


ジェスは先程からアウトフレームのコクピットに居た。気圧の事も考えてパイロットスーツを着せられている。隣ではハチが忙しく発進準備を整えていた。カイトは輸送機のコクピットで最終調整をしているはずだ。


コーカサス州に戒厳令が敷かれたのは三週間も前の事だ。テロリストを国外に出してはいかん、というのが東ユーラシア政府の答弁。だが実際は出稼ぎで呼称『テロリスト』達――実際はその辺に居る青年達――が国外に出稼ぎに行くのは、特に寒さの厳しいコーカサス州では当然の事だった。それを敢えてやらせない所に、東ユーラシア政府側のささやかな報復がある。


当然産業に乏しいコーカサス州は反対したし、労働力を期待していた隣国からも反対された。だが戒厳令は実行され、海外からの客も激減、勿論報道も自由には出来なくなった。プロパガンダされては堪ったものでは無い、という事だろう。もはや東ユーラシア政府にとってコーカサス州は紛争地域という認識である様だった。


そんな場所に“野次馬”ジェス=リブルが行く――カイトは長い付き合いだから反対こそしなかったが、余計なトラブルにならない様に三日徹夜で今回のプランを考え出していた。


プランとは次の様なものだ――『正規の空港や空路を使わず、エンジントラブルと見せかけて領空に侵入。防空機が飛んでこない内にアウトフレームを放り出してすさかず領空から脱出。その後、取材の終わったジェスをバルーンで空中に飛ばし、ポリグラフに装備されているハーネスでアウトフレームごとジェスを回収する。』というものだ。


本当はカイトもジェスに付いて行きたかったのだが、ポリグラフの方でも各方面にひたすら打診をしなければならない。要するに東ユーラシア政府やその他の場所に嘘八百を並び立てなければならないのだ。……それは、結局カイトがやるしかないのである。


『いいか、余計な事はするなよ!リヴァイヴのリーダーにインタビューをするだけだぞ!……ハチ、しっかり見張っておけよ!』


『ガッテンだ』


今回から追加された音声出力デバイスで、ノリノリのハチ。ジェスはそれに呆れながらも


「そう心配するなよ、カイト。大丈夫だって……」


『お前がそう言って大丈夫だった試しがあるのかぁぁ!!!』


カイトは、誰よりも良くジェスの事を理解している自信がある……甚だ不本意ではあるが。そしてそれは決して間違いでは無い。この生まれついての“野次馬”は何処でも彼処でも“野次馬”なのだ。トラブルの絶えない訳である。


『そろそろ降下ポイントに着くぞ。ジェス、カイト準備しろ』


ハチの的確な突っ込みが怒鳴り合うジェスとカイトを止める。……正しくは怒鳴りまくるカイトに、宥めようとして火を付けまくるジェスだが。


「カイト、そういう訳だから行ってくるぜ!」


『どんな訳だ、ったく……』


しかし――ぼそりと『死ぬなよ』と聞こえてくる。それを言うとまたカイトが怒るな、と思いジェスも言うのを止めた。


モニタに出撃可能のランプが灯る。一瞬の内にアウトフレームは漆黒の夜空に吸い込まれていく。その中でジェスは


「イ――――ヤッホ――――オオォォォォ!!」


……雄叫びを上げつつ、アウトフレームを降下させていく。未知なる出会いの前にジェスの胸は高鳴っていた。この瞬間が好きだからこそ、ジャーナリストをやっているのである。



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