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「カナード……カナード=パルスゥゥゥゥゥッ!」
ドムトルーパーのコクピットにヒルダの怨嗟の声が響く。
「必ず、必ず殺してやるぞ!!」
――統一政府発足して間もない頃。統一連合に敵対する大西洋連合崩れの組織を鎮圧する時の事だ。確かに、ブルーコスモスと繋がりがあり、それなりに装備の整った組織ではあったが、けしてヒルダ達が梃子摺るような規模ではなかった。はっきり言えばヒルダ達を投入したのは単なる偶然、「現場に最も近い部隊」だったからに過ぎない。
「私らがやるような仕事かねぇ?」
「そう言うなよ……ほら、作戦概要書だ」
「ホントにマメだねアンタは。こんなの子供のお使いだろうに」
が、そんな簡単な筈の任務が一人の男によって失敗した。
現地に突入する寸前、ヒルダ達の前に一機のモビルスーツが立ち塞がった。
「……見た事のない機体だね」
「連中、助っ人でも呼んだか?」
『そこのモビルスーツ、3機とも追撃を諦めて立ち去れ。素直に立ち去るならこちらに追撃する意思はない』
見慣れぬモビルスーツの外部スピーカーから若い男の声で余りにも傲慢な要求が出される。
「ふざけやがって……行くよ!」
「……一々相手の挑発に切れるなよな」
「ま、誰だか知らんが俺達にそんな大口叩くとは不幸な奴だな」
ヒルダの怒声と共に3機のドムトルーパーがそのモビルスーツに肉薄する。
「フン、やはり言って聞く相手じゃないか」
ヒルダ達の前に立ち塞がったモビルスーツ、ドレッドノートH(イータ)のコクピットで、パイロットと思しき男が不敵な笑みを浮かべる。連中の手の内はわかっている。そして、このドレッドノートHの能力なら造作なく3機を殲滅……
『無用な殺戮は憎しみしか呼びませんよ』
もうここには居ない友、命を譲り受け、自分を打ち負かしたただ一人の男の声にカナード=パルスは笑みと殺気を消す。
「そうだ、そうだったなプレア」
そうカナードは一人ごちる。元より先ほどの『声』も実際に聞こえた訳ではないのだろう。そう、死者はなにも語らない。だが、カナードには実際に聞こえていようが自分の思い込みだろうが構わなかった。この機体とこの命はプレアからの預かり物なのだ。ならばプレアが見守ってくれていてもおかしくはないだろう。
「マーズ!ヘルベルト!アレで一気にカタをつけるよ!」
一瞬で沸騰するほどの気性の荒さ持ちながら、それでもヒルダは生粋の戦士だった。
「やッこさん、隠し玉持ってそうだからね、おかしなマネされる前に叩き潰す!」
「おう!」
「了解した」
疾走するドムトルーパーの前面を紅く輝くフィールドが覆い隠す。触れるもの全てを焼き尽くす攻性フィールド、スクリーミング・ニンバスである。
「ジェットストリームアタック、行くよッ!」
ドレッドノートHは、その眼前にスクニーミング・ニンバスの紅い輝きが迫るとも微動だにしなかった。まるで、その輝きが無害であるかのごとく。
「攻性フィールドでゴリ押しか。ここまで舐めた対応をされると……正直馬鹿にされているような気がするな」
コクピットでカナードが低く呟く。
「悪いがその手の兵装の扱いなら」
ドレッドノートの左腕に蒼い輝きが宿る
「俺の方がずっとよく知っている!」
モノフェーズ光波シールド「アルミューレ・リュミエール・ハンディ」が起動、3機のドムの眼前を塞ぐ様に蒼い「傘」が展開される。
パチン!
アルミューレ・リュミエールの蒼い光とスクリーミング・ニンバスの紅い輝きが一瞬拮抗する。が、流石に1対3では支えきれず、ドレッドノートHが吹き飛ばされる……と思った瞬間。
ふわり、とドレッドノートが宙を舞う。アルミューレ・リュミエールの蒼い光でスクリーミング・ニンバスの紅い輝きを滑るようにして。そして、先頭のヒルダ機の真上に占位すると、そのままアルミューレ・リュミエールをスクリーミング・ニンバスに押し込む。次の瞬間、双方の干渉でスクリーミング・ニンバスに致命的な穴が生まれた。
「し、しまっ・・・」
その瞬間、ヒルダはカナードの意図を悟り青ざめる。
彼我の距離がほぼ密着した状況で火器を使う。確かに銃撃を回避される率は下がるが、同時に自分が回避出来る率も同様に下がる。そもそも、相手を撃破出来たとしても即座に爆発でもしたら自分も只では済まない。しかし、何の澱みもなくザスタバ・スティグマトの銃口がヒルダ機に向けられようとしていた。
(クソッタレが!)
ヒルダは背中に冷たいものを感じながらギガランチャーをドレッドノートへ向ける。こうなれば一瞬でも早く引金を引いた者の勝ちだ。
そんなドムトルーパーの動きを見たカナードがほくそ笑む。 あとはタイミングを見計らって行動するだけだ。
そして、遂にギガランチャーがドレッドノートを捉える。最早躊躇う事なくトリガーを絞るヒルダ。しかし……
ゴオオン!
ギガランチャーからビームと実体弾が飛び出す寸前、カナードがアルミューレ・リュミエールを引き抜く。同時に相互干渉が失われ、蒼と紅の光が復活する。再び展開したアルミューレ・リュミエールとスクリーミング・ニンバスの二つの障壁に阻まれ、バズーカの砲弾が暴発し、フィールド内にビーム粒子がバラ撒かれる。
それこそがカナードの狙いだったのだ。 右腕と頭部を失い、崩れ落ちるヒルダ機。
「ヒルダ!?」
「なんだと!?」
マーズ機とヘルベルト機が一瞬、ほんの一瞬だけ動揺から動きが鈍る。そして、それをむざと見逃すカナードではなかった。ザスタバ・スティグマトの無数のビームが2番手のへルベルト機へ降り注ぐ。
バリバリバリ!
耳障りな音と共にフィールドがビームを弾き飛ばす。しかし、へルベルトもフィールドを解けず、反撃が出来ない。そこへ、構わずドレッドノートが突っ込んできた。咄嗟にマーズ機がヒルベルト機のフォローに入ろうとするが、それより早くヒルベルトとカナードがぶつからんばかりに接近する。
(同じ手が効くと思うな!)
次の瞬間、スクリーミング・ニンバスを解除、同時にソリドゥス・フルゴールを展開し、ビームシールドの隙間からギガランチャーを乱射するヒルベルト。が、カナードはそれらを見切り、ソリドゥスのビーム膜へアルミューレを突きつけた。カナードの意図が判らずいぶかしむヒルベルト。が、次の瞬間、機体の右腕と右脚を吹き飛ばされる。
「なっ……バカな!」
光の槍と化したアルミューレのビームシールドが、ビームサーベルの様に機体を斬り裂いたのだ。コクピットに被害が及ばなかったのは、単なる偶然であろう。
『よくも二人を!』
マーズはビームサーベルを引き抜き、ソリドゥスを展開してカナードへ迫る。対してカナードも背部のビームソードを起動して迎え撃つ。
(手品のネタさえ判っていれば!)
奇策は手の内を見せないから奇策たり得る。アルミューレ・リュミエールは確かに厄介な武装だが、けして難攻不落でも絶対無敵でもない。そう考え、接近戦を仕掛けたマーズだが、ビームサーベルが届く間合いに入る寸前。ドレッドノートのビームソードが頭上へ振り下ろされた。
(この間合いで届くかよ?!)
ビームシールドで咄嗟に受けとめるが、更にビームソードが横薙ぎに払われる。そのまま胴を薙がれる寸前、マーズは機体を飛び上がらせ、ドレッドノートの頭上を飛び越えて難を逃れた。しかし、ビームを受けていた左腕のソリドゥスの角度が変わり、次の瞬間にはビームシールドの隙間から左腕が斬り落される。
更に、追い討ちとばかりに落下地点に向けてドレッドノートのザスタバが火を吹く。
(畜生!)
着地寸前、マーズはスラスターで機体を捻るが、それでも避け切れずに機体のあちこちが火を吹く。さらに、無理な機動が祟り機体がまともに地面に叩き付けられ、そのままドム・トルーパーは沈黙した。
「存外あっけなかったな」
そう評するカナードへ通信が入った
「カナード、もう全員基地から脱出した。時間稼ぎはもういい、コッチに合流してくれ。一気に国外まで突っ切るぞ!」
「わかった。そちらに合流する」
そう答え、動かなくなったドムトルーパー3機に一瞥をくれるとその場を後にした。
『ご無事ですか!?』
カナードが去ってしばらく後、救援部隊からの通信がヒルダへ入った。
『敵の戦力に予想外の相手が居た事が出撃直後に判ったんです』
「……」
ヒルダは何も答えない
『旧ユーラシアの特務部隊に所属していたカナード=パルスと言う人物で、未確認ですが……キラ様に匹敵する戦闘力の持ち主だとか』
「カナード、パルス……?」
『あの……』
「ク、クク……ククク、いいさ!ここであたしらを殺しておかなかった事、地獄で後悔させてやる!」
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