仮想第26話:ガルナハンの春(後編):第十九幕A

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☆第十九幕:勝利と敗北



〈この雌豚風情がぁっ!!〉


〈ゴキブリや蚊より先に死にたいみたいね、インポテンツ。〉


 2機のフリーダムブリンガーのパイロットは憤っていた。が、シンにとってはそんな事はどうでも良い。向こうとの関係より、今は味方との関係の方が重要である。


『手先のコントロールは俺がしよう。確実に受け止める。』


「頼んだぜ、レイ。ユーコもよろしく。」


『だ~いじょ~ぶ!!万事OKだよ~!』


「シホとシェリーはどうだ?」


『ダメージの把握は済みましたわ。連携の範囲内でしたら十分ですわ。』


『いいわよ。さ、まずはあの口汚い女から仕留めるわよ。』


「『『了解!!』』」


 動く。狙いはゲイル機。


〈馬鹿ね。0がいくら集まっても0なのにね。〉


 先手を取るのはシホ。左肩のガードを利用しながらゲイル機の弾幕をかわしながら接近する。


〈無駄よ。格闘戦になる前にそのガードが爆散するのが落ちね。〉


『そうね。ならガードが砕けるまで近付いてあげるわ。』


 シホはガードが壊れる事などお構い無しに突っ込んでゆく。それに対して容赦無くゲイル機は弾幕をぶつけてゆき、遂にガードが砕ける。


〈終わりね。〉


『いいえ、始まりよ。ユーコ!』


『行っくよ~!!』


 シホの攻撃は”先手”に過ぎない。次の一着はユーコ。超低空からせり上がり備え付けのエクスカリバーでゲイル機を叩き切ろうとする。


〈対艦刀!?さすがにフリーダムブリンガーでもまずいわね。けど。〉


 しかし、相手もさるもの。ゲイル機は旋回してこれをかわす。


『シェリー!!』


『下の次は上でしてよ。』


 次はシェリー。上空から唐竹割りにエクスカリバーを振り落とす。


〈いくら対艦刀だからって、避けれないわけないでしょう、蚊トンボ!〉


 これもかわすゲイル機。だが。


『シン、受け取って~!』


「ようやく俺の出番だ!」


 ユーコのエゼキエルがエクスカリバーを外す。そして、自由落下するエクスカリバーをシンのダストが受け取る。


『シン。受け取ったぞ。』


「良し!次は横だ!」


〈インポテンツがうるさいわね!!〉


 3段目のエクスカリバーの一振り。息も付かせぬ連続攻撃だというのにこれもかろうじてゲイル機はかわした。


〈もう終わりかしら?全員振り切ったわね。〉


「いや、終わってないね!あんたに当てるつもりなんか無かったからさ!」


 エクスカリバーを振り抜いたシンはその遠心力の余波を生かして軌道を強引に修正し突進していく。その先にいるのは狂牛、カリスト機。


〈………己、己ぇっ!何をこの糞虫がぁっ!!〉


「エクスカリバーならビームシールドもPS装甲も問題無い!」


 バットを振り抜くように高速突進しながらダストはエクスカリバーを振る。


「斬り伏せろ!!エクスカリバー!!!」


 カリスト機は回避を観念して二刀流のサーベルでダストと相討ちになろうとする。2機の刃が接触する。




 一方、シホの視点より。


〈終わりね。〉


「いいえ、始まりよ。ユーコ!」


『行っくよ~!!』


 ユーコの一閃でゲイル機の注意が逸れる。その瞬間にシホはゲイル機の射程外に逃れる。その行く先は。


「交代よ、シン!」


『分かった!』


 カリスト機と戦っていたシンをゲイル機への攻撃に参加させる為に一旦対カリスト戦を引き受けるのである。無論、一旦であり手数をかけてシンが再びカリストと向き合いこれを斬る手筈である。


〈雌豚に用は無い!消えろ!〉


「言われなくても消えるわよ!でもね!」


 マシンガンでカリスト機を牽制するシホ。狂牛を捌きながらもゲイル機への注意は怠らない。


「シェリー!」


『下の次は上でしてよ。』


 ゲイル機側は回避に手一杯である。全ては計算通り、計算が違うとすればシンがあやしていたこの狂牛はシホの予想以上に狂暴だったという点のみである。


〈この俺をおちょくるのもいい加減にしろ!〉


 カリスト機はマシンガンを全てビームシールドで弾いて突撃してくる。サーベル以外の武装を持たないシホはシンと同じくやはり回避に徹する事になるが2振りの兇刃は執拗にシホを追い詰めてゆく。


〈この俺を侮辱した罪、死んで償え!雌豚あぁっ!!!〉


「一つ言わせてもらっていい?あんたはそうやってプライド張っているつもりなの?」


〈何だと!?〉


「『この俺』とか『侮辱』とか、あんたが自尊心の塊なのは私にも分かるわ。でもね、あんたのそれは誇り高いんじゃなくてただの横暴、人を惹き付けるどころか追い払うだけのただの愚挙よ。本当に誇り高い人には、人を寄せ付けなさそうな厳しさもあるけれど、人を惹き付ける何かがある。」


〈黙れい!黙れ黙れ黙れ黙れ!雌豚あぁっ!〉


「芸が無いわよね。人を貶(けな)してしか自尊心を維持できないって。」


 その一言がよほど内心に刺さったのか、狂牛カリストは更に怒り狂って刃を振るう。


〈………えぇいっ!!死ね!殺してやるぞ!殺してやるぞ雌豚!〉


 狂牛がシホ機を狙う。赤い布目掛けて飛び込む闘牛の如き突進だが。


『今度の相手は私ですわ。』


 右側からのゲイル機からカリスト機に攻撃対象を変更したシェリーの攻撃によろめいたのである。


『隊長、ご無事ですか?』


「ええ、大丈夫。この馬鹿を見ていて何故か昔の事を思い出しちゃって。全く、だからシンにああも貶されるわけよね。」


『???』


「じゃあ、シンが来るまで頼んだわよ!」


『分かりましたわ。』


 カリスト機をシェリーに任せてシホはゲイル機へと向かう。


〈もう終わりかしら?全員振り切ったわね。〉


『いや、終わってないね!あんたに当てるつもりなんか無かったからさ!』


 ゲイル機との戦いはちょうどシンがエクスカリバーを振り切った時点であった。正しく時間通り。


〈何ですって!?〉


「あんたの相手は私だったって事よ!」


 シホのシグナスが突撃する。サーベルによる突き。例えPS装甲持ちであろうとも薙ぎ払いならともかく突きならば確実に仕留める事ができる。ゲイル機に対する全ての連携はこの時の為、シホが超高速の突きで穿つ為の準備だったのだ。


〈このっ!いい加減に死なさい、ゴキブリ!〉


 ゲイル機は最早回避を断念して一点に突撃するシホを迎撃しようとする。迎撃するは必殺の一撃ハイマットフルバースト。全砲門がシホの動線を覆う。


〈消し飛べ雌ゴキブリ!ハイマット、フルバースト!!!〉


 ゲイル機の全砲門が輝く。そして、次の瞬間に七色の光の槍が放たれた。




『くそっ!もうこんなところか!シン達のところまであと少しかよ!!』


『もう少し踏ん張りたかったのですが、これが限界です!』


 大尉達とティクリー小隊との戦線は既にゴランボイ付近にまで押し込まれていた。


〈しかし粘るねえあんた達。俺達にここまで歯向かえたのはあんた達が初めてだよ。いや、嫌味じゃなくて普通に褒め言葉さ、これ。〉


「あいつらに300秒は耐えるって約束したからよ。俺達の沽券って奴は反故にするには高過ぎる代物だからよ。反故にしたかったらピースガーディアン全軍引き連れて来いってな。」


 あからさまな強がりを言う大尉。既に大尉のシグナスも、中尉と少尉のダガーコンシューマも満身創痍、戦闘能力を失わずに立っているのが奇跡とも思えるほどの激戦を戦い抜いた結果である。しかし、その結果、大尉達は300秒を守り切ったのだ。


〈300秒ねえ。で、その結果はこの先にあると。〉


「ああ。俺達だけでてめえらを倒すのはさすがに無理だからな。向こうの奴らとも合流しててめえらを潰すってわけだ。」


〈面白いねえ。じゃ、見てみようじゃないの。〉


 と、ティクリー小隊ことフリーダムブリンガー3機は全速力でゴランボイへと向かう。


「畜生。刀折れ矢尽きてこっちももう足止めできねえとは恥ずかしい限りだぜ。」


 大尉達は突破されても最早何もできない。大尉の手榴弾は全て尽き、中尉のケルベロスと狙撃銃は使用不可、少尉の突撃用のガードも砕かれている。今できるのはシン達が勝っている事を祈りつつフリーダムブリンガー達の後方を維持するのみである。と、その時である。


〈なっ!?これは………〉


「何だと?まさか!………」


 彼らは驚くべき光景を目の当たりにした。




「艦長!ゴランボイにて2機シグナルロスト!!」


「どっちだ!どっちのシグナルが消えた!!」


 オペレーターは呆然としたように報告する。


「信じられませんが………我が方のシグナルが………」


「………くっ!!………そうか………」


 ブリッジに艦長の呻き声が響く。無理も無い。彼らは”最強”だったはずなのだ。ダントツの最強、文句無しの最強、その最強が今あっさりと。


「………これで………ゴランボイに展開していた………カリスト小隊長以下のピースガーディアン小隊は全滅です。」


「………」


 ソロネのブリッジに沈黙が訪れる。ピースガーディアン初の敗退であった。




 カリスト機はダストに向かって2振りのサーベルを振り抜いた。肉薄した状況、対艦刀を振るという行為、それら全てがダストとカリスト機の相討ちを予言した。そして、カリストもまた不本意ながらその結果を予見していた。そして。


「そっ………そんなっ………」


 対艦刀はフリーダムブリンガーを振り抜いて両断した。そして、同じように2振りのサーベルもシンの貧弱なダストを三枚下ろしにするはずだった。だが、ダストは生きていた。生傷だらけなのは相変わらず、むしろ地面に擦り付けられて塗装剥がれがひどい。だが、ダストはまだ原形を留めていた。


「対艦刀を振り飛ばして、その反動と逆噴射でギリギリこの俺の二段斬りをかわしたのか………」


 カリストにとっては予定外どころが理不尽でさえある。この俺が死ぬというのに相手は生きている。そして、その理不尽を発散する術をカリストは唯一つしか知らなかった。


「己!己ぇっ!!!己ぇーっ!!!!!―――――」


 カリストの叫びをかき消すかのようにフリーダムブリンガーは対艦刀を巻き込んで爆発する。吹き飛んだ対艦刀の破片がちょうど爆心地のど真ん中に突き刺さる。黒焦げの大地にそそり立つ折れた刀の半身はまるで墓標のようであった。




「終わりね。ゴキブリはやっぱりしぶといのね。でもさすがに死になさい。」


 ゲイルの放ったハイマットフルバーストはシホのシグナスに直撃した。フリーダムブリンガー全ての火力を集めた一撃である。全弾回避する以外に受ける方策は無い。最後の最後で、ゲイルは切り札を放ったのだ。


「カリストは?やられたみたいね。これでようやくあたしが小隊長。長い道のり―――――何っ?」


 ハイマットフルバーストは確かにシグナスを撃った。だが、シグナスは最大限の回避軌道を取って受け止める射線を2つに抑えた。そして、2つの射線を生き残った右肩のガードで防いでいたのだ。


「あっ………ありえない!!」


 シグナスはバーニアを最大限に吹かして突撃を続ける。右肩のガードがさすがに耐え切れず右腕全体を道連れに砕けてもなお、突撃を続けた。そして、もう片方の左腕には貫かん為のサーベルが握られていた。


「………!!!………」


 コックピットを貫かれてゲイルは無言の叫びを上げつつ蒸発した。シグナスはサーベルが胴体を打ち抜いた事を確かめるとそれを引き抜いて飛び上がる。爆散する上半身。奇跡的に誘爆しなかった下半身が支えるべき上半身を失って小火を残しながら倒れ崩れる。奇妙な下半身だけの亡骸と共にこちらの戦いもまた終わりを向かえたのだ。




〈なっ!?!〉


 ティクリー小隊の面々が驚いているのは大尉達にも分かった。無理も無い、シン達はピースガーディアンとぶつかり、1機も欠ける事無くこれに勝っていたのである。


『大尉、奴らは両方とも叩き終りました。』


「ったく、300秒もくれてやってようやくか?世話の焼ける奴だぜ。」


 そう言いながらも大尉の表情は明るい。


〈おいおい、まだあんた達が勝ったわけじゃないぜ?まさか俺達忘れ去られていたとか?それにあんた達全員満身創痍だぜ。〉


「さすがにてめえらを忘れられるほど俺達は楽天家じゃねえよ。だがよ、これで3チームまた揃ったわけだ。俺達は満身創痍だがてめえらはむしろ慢心総意だぜ?」


〈ほお。じゃ、どっちが”まんしんそうい”か今から試してみるかい?〉


 と、休憩もつかの間、第二の戦いの幕が空けようとした時である。


〈んっ?通信?こちらティクリー………ああ、艦長ですか。………えっ、撤退って、俺達はあいつらみたく………はあ、分かりましたよ。まっ、増援が来るならそれで良しか。………ってわけなので、不本意ながら俺達ティクリー小隊は上官命令で撤退します。あんた達には悪いけどそんなわけだからサイナラ。〉


 と、言い残してティクリー小隊のフリーダムブリンガー3機は惜し気も無くこの場を去って行く。


「………」


『『『『『『………』』』』』』


 戦闘は終結した。流星の如く唐突に現れた2条の兇星は、片方は打ち砕かれ、もう片方は流れ去っていった。そして、ハルマゲドンを防いだ英雄達は一人も欠ける事無く、300秒の瞬きの如き戦闘の余韻にただ身を任せていた。


『こちらスレイプニール、ラドルだ。全員どうした。何があった。』


「………おっと、すまねえ。こちら大尉、艦長も把握しているとは思うが敵ピースガーディアンは3機撃破、3機撤退させ全機駆逐した。特にこれ以上のターゲットが無ければ今から帰還する。全機かなりやられたが全員生存だ。整備クルーには申し訳無いがな。」


『いや、厳密には2機撃破、3機撤退、1機生存だ。大尉達が戦っていたフリーダムブリンガーがまだ動いている。動いているといっても戦闘力は失っているようだが一応けりを付けてほしい。』


「しまった、奴めまだ生きていたか。大尉、了解した。すぐに片を付ける。オーバー。」


 あまりの激闘の為に殺し損ねた敵機の事さえ忘れ去っていた自分の迂闊ぶりに舌打ちしながらも、大尉達は最後の1機の残る場所へと走った。大勢は既に決した。だが、この戦いがまだ終結したわけではない。




 さて、その最後の1機とは当然ナツメ機である。カリストはエクスカリバーの半身を、ゲイルはフリーダムブリンガーの下半身をそれぞれ墓標として散っている。手榴弾の嵐に戦闘力と行動力のほとんどを奪われていながらも、ナツメ機は健気な事に搭乗者を守るという航空機の使命を全うしたのである。


「このっ!動けってばっ!このポンコツ!!」


 が、これの主人ナツメはこの機体に搭乗者を守る以上の働きを期待していた。一応は動いている電子機器に再起動の為の入力をひたすら打ち込んでいたのだが、生憎そもそも機能停止した理由がソフトではなくハードの問題なのだから意味をなさない。最後にはポンコツ呼ばわりしながらキーボードを殴ってみるのだがそんな事で動くわけも無い。


「くっ!!早くしないと戦闘が終わるっていうのに!!」


 こんな時にこんな悠長な台詞が言えてしまうのは初陣の特権であろう。普通なら『早くしないと破壊されてしまう』のだから。それだけに、気付いた時には最早どうにもできない状況となってしまったのであろう。


『―――――ザザッ―――――ザーッ―――――フリーダムブリンガーのパイロットに告ぐ。我々はリヴァイブだ。降伏せよ。命及び最低限の人権、その他陸戦法規に明記される諸権利は保障する。降伏しない場合、戦闘意思有りと見做(みな)し、貴官ごとそのフリーダムブリンガーを破壊する。繰り返す、我々はリヴァイブだ。降伏せよ。命及び―――――ザザッ―――――ザーッ―――――』


 全周波数を通じて送られてくる降伏勧告を聞くまで周辺がどうなっているのかを失念してしまっていたのだ。ようやく自分の状況が異様である事に気付いてナツメは遅まきながらレーダーで周囲を確認する。周囲にいるのは7機、いずれも何の戦闘行為をしていない事を鑑みれば、それが全て同一の勢力、つまり敵である事は明らかであった。

しかし、包囲されたからといってすぐに降伏できるほどナツメは従順な人間ではない。強情、しかも脅威に対しては従順より反抗を選ぶ性格、加えてピースガーディアンの矜持というおまけまで付いてくれば最早選択肢は一つしかあり得ない。


「誰が降伏なんかするもんか!撃ちたきゃ撃てば良いわよ!!」


『―――――ザッ―――――おいおいお嬢さん、少しは周りの事も見てくれよ。俺達だってもう戦闘力を失った敵兵を、しかも女を殺すのは気が引けるんだよ。俺は女好きだけども不本意な事をさせるつもりは無いからさ、降伏してくれ―――――』


「うるさい!女だからって舐めるな!!あんた達みたいなテロリストの虜囚になるぐらいなら死んだ方がましだ!!」


 ナツメの決意は固い。こうなると回線の向こう側も戸惑いが見えてくる。


少尉『あれ?何でこうツンケンされたんだ?俺、何かあの子を不安がらせるような事したか?』


シホ『口説き、いえ交渉したのが少尉だった事自体が悪かったと思いますけど。』


シェリー『隊長の言うとおりですわ。そもそも『不本意な事をさせるつもりは無い』という時点で”合意があればする”と明言しているようなものですから。』


ユーコ『も~ちょっと時と場所を考えた方が良かったね~。』


中尉『少尉………あなたという人は………』


少尉『い、いや。誤解してくれちゃ困るよなあ。シホにシェリーにユーコに中尉も何か勘違いしていないか?別に俺は敵軍のうら若きエースパイロットの捕虜なんていう激甘設定に負けたわけじゃなくて、無益な殺生を―――――』


シホ『自分で言ってどうするんですか、少尉。………けれども、敵軍のうら若きエースパイロットって………だからシンに貶されるのね。』


大尉『お前ら………ボケかましていても本題は忘れてねえよな?』


5人『そ………それは勿論………』


大尉『………まあ、一応は信じるけどよ………で、ボケは終わりにして本題だ。パイロットに告ぐ。これが最後の警告だ。降伏するか、死ぬか―――――』


「うるさい!さっきから言っている―――――」


『無駄ですよ大尉。こいつは絶対口先だけじゃ降伏しない。大尉、俺に最後勧告をさせてください。』


『シン、お前………まあいいだろう。お手並み拝見だ。』


 そう言った次の瞬間である。正しく一瞬、ナツメの視野に強烈な光が打ち込まれた。


「きゃあっ!!」


 光が消え去った後、ナツメは切り裂かれたコックピットの入り口を見た。この男、シンは何とコックピットの入り口部分の装甲だけをサーベルで切り裂いたのだ。そして、その切り裂かれた先に見える外界には人一人を殺すには大きすぎる刀身を有したサーベルの切っ先だけがあった。


「………あっ………あっ………」


『警告は無しだ。一度だけ言う。死ぬか、生きるか、選べ。』


「………くっ………ちくし………」


 それが限界だった。あまりの極限状態にナツメは己が意識を作動させておくだけの気力を使い果たしてしまったのだ。


『………シン、お前いつからそんなことできるようになった。』


『別に。ただ、意地ばっか張った奴だったから、本気で脅せばどうにかなるかなって。とにかく運びましょう。後の事は医療班とサイに任せれば良い。』


 意識を失いコックピットに倒れ伏すナツメ。回線を通じて流れる敵側の通信だけが流れていた。






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