仮想第26話:ガルナハンの春(後編):第十七幕A

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☆第十七幕:プライド部隊



「たった7機だと?」


 一方、ピースガーディアン側の小隊長カリストは自らに歯向かって来るリヴァイブの者共の人数が『たった7機』”しか”いないという事に怒りを覚える前に愕然としていた。


『愚かね。あんたも愚かだけど、あたしに立ち向かうのにたった7機で十分って考えるあの脳幹も無いミジンコ共に比べれば百倍の百倍はマシね。』


 普段は意見の一致を見る事の無いゲイルからの援護射撃を受けてカリストの感情は愕然から激怒へとシフトしていく。


「ふざけやがってぇー!!この俺をおちょくりやがって!この俺に対して、たった7機だと!?この俺に向かって!殲滅など生温い!一族は愚か九族に至るまで皆殺しにしてくれる!」


『あんたと意見が一致するのは不愉快だけど、今度ばかりはあたしも同感ね。愚鈍、蒙昧、そして傲慢。一片の容赦だって入り込む余地なんかないわ。あのこの世のミジンコを知る人間を全員殺さなきゃモビルスーツ乗りとしての恥よ。』


「当然だ!!ゲイル、ナツメ!2人とも下がってろ!あのふざけた連中は俺が地獄に叩き落とす!!!」


 憤怒に駆られたカリスト以下のカリスト小隊は彼らを馬鹿にしたようなわずか7機の貧弱そうな部隊に向かって一直線に駆けて行く。最強の反乱軍と最悪の正規軍の戦いが今始まる。




『来るぞ!!』


 大尉の声を受けてシンはダストの推力を落とす。バーニアの出力に余力を持たせて機動性を確保する為だ。


『フリーダムか。厄介な奴が来たな。』


「問題無いさ、レイ。あの時のようにエクスカリバーで突き抜いてやればいいだけだ。」


 シンと生前のレイはZAFT軍時代にアークエンジェル隊の殲滅任務に参加し、その中で当時最強を謳われたフリーダムガンダムを撃墜している。

今思い返せばあの頃がシンのZAFT軍時代の頂点だった気もする。ステラを殺された怒りに震え、家族の仇に苦杯を嘗めさせられ、仇討ちをなして虚無感に流されていても、それでもシンの傍らには多くの仲間がいた。今やあの時の仲間は3人しかいない。内2人はシンの反対側に、1人はシンの傍で機械となってしまっている。


『シン。感傷に浸っている暇は無い。来たぞ!』


 AIレイの言葉に心は現実世界に引き戻されると共に自らの目の前で振るわれるサーベルを目の当たりにする。


〈死ね!!自らの立場を弁(わきま)えない無知蒙昧の蛆虫がぁっ!!!〉


 逆推進を噴かす、否そんな事をすれば追撃される。ならばタックル。

グァシャーン。サーベルをかわしたシンのダストのタックルによって、金属同士の激突音と共にカリストのフリーダムブリンガーはよろめく。


「何!?」


 はずだった。


〈己ぇっ!身の程を知らぬゴミ虫がぁっ!!!〉


 激突したダストがカリスト機に押し止められている。否、それどころかダストの激突部の装甲がグニャリと歪んでいる。


『PS装甲か。』


 ダストの装甲は薄い上に軽い。増加装甲も軽量化の為に比較的薄い。加えてカリスト機は対物理最大防御PS装甲持ち。


〈早々に消えろ!!ゴキブリ風情めがぁっ!!!〉


 カリスト機は腰よりもう一本のサーベルを振り抜こうとする。


『増加装甲を爆破しろ。距離を取るにはそれしかない。』


 ダストを覆う増加装甲が爆散する。爆煙の中でフリーダムブリンガーは確かによろめき、ダストはそれ以上に派手に吹き飛ばされる。戦闘開始直後だというのに既にダストの装甲には先の爆発とタックルのせいで生傷が絶えない。が、ここで休んでいる暇は無い。


『爆煙から脱出した様子は無い。ライフルで仕留めろ。』


 爆煙を穿つ緑色は幾多のビームライフルの射線。爆煙の中にいる限り確実に相手を射抜く必殺の連射。機体を射抜かれたカリスト機は良くて部分破壊、悪ければ爆散し更なる爆発を引き起こす。


「!?!」


 はずであった。爆煙が引いた時、シンの視界に現れたのは機体を覆わんばかりの五菱形で桃色の光の盾を両腕に掲げる無傷のフリーダムブリンガーの姿。


「あれは………デスティニーのビームシールド!?しかも両腕、それもあんなに大きく………」


『物理攻撃も受け付けず、熱量攻撃も意に介さない。加えて一軍を丸々焼き払える火力と機動力。化け物か、奴は。』


〈貴様ぁっ!!よくもこの俺を茶化してくれやがったなぁっ!!!肉片一つ残さん!消えろ!!塵虫がぁっ!!!〉




 一方こちらはシホ隊。


「シェリー、ユーコ、行くわよ!」


『了解しましたわ。』


『うん。行っくよぉ~!!』


 シグナスとエゼキエル2機はシホの合図と共に三方に散開してフリーダムブリンガーを三次元十字砲火に仕留めようとする。フリーダムブリンガーの乗り手はゲイル。


〈見るに耐えないわね。小娘3人が集まった戦争ごっこの真似事なんて。成長とかそういう言葉が存在しないんでしょうねあんた達能無しっ子には。〉


「戦争ごっこはあんたの方よ!機体の高性能に胡坐をかいた戦い方のくせに!」


 そう言いつつもシホはエクスカリバーを片手にバーニアを最大限に噴かしてゲイル機に急接近する。対するゲイルは二丁のビームライフルとバラエーナで弾幕を張るがそれに引っ掛かるシホではない。急速旋回でゲイル機の右前面に避けると、それに連動してシェリーとユーコもゲイル機の死角に回り込む。気が付けばゲイル機は包囲されて必死の状況となる。


「終わりよ!」


 が、ゲイル機は慌てたようなふりさえ見せない。


〈だからあんた達はカリストの百倍の百倍愚かなのよ。〉


「えっ?」


 フリーダムブリンガーの全砲門が稼動する。狙うはシホ、否ユーコ、否シェリー。否、誰かではない。狙っているのはシホ隊全員。全砲門が3機の急所に照準を合わせる。シホは理解する。次の瞬間には叫ぶ。


「2人とも避けて!!」


〈遅いわ。百万倍の百万倍悔やんでから地獄で朽ちなさい。ハイマット、フルバースト。〉


 七色の光の槍が3機を串刺しにせんと突き進む。シホとユーコのエゼキエルは正面面積の少なさから何とかかわすものの、シホのシグナスは急所こそ外すものの右腕の末端が七色の槍に貫かれる。


「しまった!」


 撃ち抜かれたのは右手。そして、それが持っていたエクスカリバー。2つは爆散し、紅色の刃を失い鉄塊と化したエクスカリバーが墓標のように地にそそり立つ。


〈あんた達の武器の中であたしを殺せる武器は対艦刀だけ。自分の馬鹿さ加減に精々苦しみなさい、雌。〉




 シンとシホ達が苦戦している中、最後の一隊である大尉達はどうだったのか。こちらは先の2戦とは少し色合いの違う勝負となっていた。


『ほらほら!鬼さんこちら!手の鳴る方へ!ってね。』


 挑発の他に何の意味も無い台詞を垂れ流しながらフリーダムブリンガーの周りを旋回するのは当然少尉。これがあのダガーシリーズなのかという機動性はサイがダスト並みの軽量改造を施した結果である。


〈くっそぉーっ!!ちょこまかと!〉


 フリーダムブリンガーのパイロット、ナツメがビームライフルで牽制しようとするがそんな事はお構い無しに少尉機は走り回る。


〈くっ!ライフルで駄目だったら!!〉


 ナツメ機の全砲門が照準を少尉機1機に絞る。


『そんなので俺は消せないぜ!』


〈うるさい!!ハイマット!フルバー〉


 ドカン。ナツメ機の右のバラエーナに一撃が入る。バラエーナが誘爆したところでPS装甲持ちのフリーダムブリンガーに傷は付かないが一斉射撃には隙ができてその間に少尉はハイマットフルバーストの有効射程から逃れる。


『そんなに溜めのある攻撃を私が許すとでも思っていましたか?』


 少尉の派手な陽動に隠れてナツメ機を撃ったのは中尉。遠距離からの丁寧な狙撃はさすが中尉といったところである。


〈ぐっ………でも、今野で狙撃手の場所は分かった。これで仕留める!!〉


 大尉達の連携の前に泡を吹かされてばかりのナツメであるが彼女とてピースガーディアン、狙撃方向から相手の場所を察知する事は朝飯前。そして、狙撃態勢にあって回避が到底不可能な中尉機に向かってナツメ機は直進し。


「やれやれ、こうまで上手く仕掛けに乗ってくれると気持ち良いより前に気味が悪いぜ。」


 中尉機の手前に伏せていた大尉機にぶつかられたのである。


〈そんなっ!?!………〉


「筋は悪くなかったぜお嬢さん。初陣だったかもしれないがそれを差し引いても上出来だ。だが、連携が足りなかったな。機体と己の腕を過信し過ぎた、それが敗因だ。」


 そう言ってから大尉はビームサーベルを引き抜いてナツメ機の胴を薙ぎ払おうと。


〈させるかぁーっ!〉


 するが、ナツメもおいそれとやられるわけもなく腰のもう一基のバラエーナのゼロ距離射撃で大尉機を撃ち抜こうとする。無論、大尉もそれは読んでいてひらりと蝶のように舞い上がって回避し、かくして戦いが再開されるかと思われたが、やはりこの時点でも大尉の方が一枚上手であった。


「終わりだな。下を見てみろ。」


〈!!〉


 ナツメ機の下に残っていたのは大尉機が溜め込んでいた大量のモビルスーツ用手榴弾。閃光、発煙、焼夷、散乱、等々鮮やかに色分けされた手榴弾の一つに大尉のマシンガンが撃ち込まれる。

キィーン。プシュワッ。ブゴォーッ。パーン。以下様々な効果音を放ちながら六色の手榴弾はその役目を果たし辺りは閃光やら煙幕やら火炎やらで彩られる。しかし、並大抵の兵器であれば一瞬でお陀仏確定のその修羅場の中からナツメ機は跳び上がった。

翼の部分は全壊、ライフル等の火器は誘爆して意味を為さず、PS装甲で守られたボディも焼夷弾のおかげで全身火達磨と化している。


〈こんなところで………こんなところで、私はぁ!!〉


 しかし、パイロットの意気も空しく、最後に跳び上がったのが全力だったのかナツメ機はそのまま推力を失い地面へと落ちた。


『よっしゃ!まずは一匹!!』


『まだ確実に仕留めたわけではありません。注意してください。』


「まあ、止めを刺せば完了だな。さっさと止めを刺して、とっととシン達の援護に―――――」


 と、大尉が言いかけたところで大尉に通信が入ってくる。


「んっ?こちら大尉。スレイプニール、どうした?―――――」


 と、聞いたは良いが話を聞く内に大尉の真っ黒な顔色が見る間に蒼白になってゆく。


「あ、………ああ、分かった。すぐに対応する。連絡感謝する、オーバー。」


『『大尉?………』』


 大きな疑問符を頭に乗せている部下2人を画面越しに見ながら、大尉は深刻な顔付きで話を始めた。


「メディクス守備隊が壊滅した。そして、向こうを襲っていたピースガーディアンの小隊3機がこちらに向かっている。」


『何だって!』


「メディクスからの報告だと向こうを襲った連中はこっちと違ってチームワークが良く、メディクスの戦闘能力はほぼ無力化されたそうだ。連中がここに入ってきたら俺達は確実に潰される。」


『では、どうしますか。』


「メディクスからゴランボイまでの距離を生かして俺達が先にメディクスを落とした連中とぶつかって時間を稼ぐ。その間に、シンとシホ達にはあの2機を潰してもらい、合流して連中を叩く。説明は以上だ。あいつらの為に時間を一秒でも稼がにゃならない。全速力で連中の方へ向かうぞ」


『『了解!』』


 大尉以下の3機はメディクス方面へと走った。これでシンとシホ達には一つのタイムリミットが定められる事になった。メディクス方面のピースガーディアンがゴランボイに到着するまでに残りの2機を倒す。それができなければ、シン達には敗北と死以外のものは残されるはずがなかった。






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