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☆第四幕:夢想、狂想、時々狂乱(後編)
が、サザーランドは執務室に入って真っ先に、夢の中で幸せそうにしているメイリンを見るなり、仕事中の彼女を叩き起こすのを忘れて、生来の性癖である人間観察の目を彼女に向けてしまったわけである。
実のところ、サザーランドはその人を値踏みするような禍々しい視線のためか、メイリンには非常に警戒されている。メイリン配下の3幹部の中でメイリン自身の信頼度指数を取るとするのならばエルンスティン=ライヒが95、エルガー=グレゴリーが83、そして最後にサザーランドが負の値で100点を取ってしまうという事になるであろう。
つまり、公務で会おうと私事で偶々遭遇しようともメイリンはサザーランドに対しては100%治安警察省の魔女の仮面を被って対応してくるのである。たとえ、メイリンが素の顔を曝(さら)け出した状態で偶々サザーランドと会おうとも、メイリンは内心のバッグから急いで魔女の鉄仮面を取り出してそれを被ってから対応してくるのだからメイリンの警戒ぶりがどれだけ高いものかが理解できる。
これがグレゴリーだと私事でさほど緊迫した状況でもなければそれなりに素の愛想を振りまいて対応してくれるし、エルンスティンに至っては公務で話している時でさえ半分漫才化してしまうのであるから、人間観察を生涯の趣味としているサザーランドにとっては非常に面白くない話なのである。
そのサザーランドにとってはまるで兎の表情ばかりして裏の表情を地球に見せない月の如く、魔女の仮面でしか相対していないメイリンが無防備なその表情を曝け出している。正しくサザーランドにとっては垂涎、涎を垂らして息も整わんばかりの興奮を抑えつつメイリンの顔を中心とした全身を舐めるように観察するのである。
傍(はた)から見たら少しでも動かしたら暴発して野獣化してしまいそうなまでの変態熱気オーラをムンムンと開放して余りあるサザーランドの姿は正しく強姦魔一歩手前なのだが、当人は本当に『趣味の人間観察』を”普通”にやっているつもりなのだから性質(たち)の悪さもここに極まれり、メイリンが常々臨戦態勢に入るのも納得できるというものである。
「やれやれ、こんな様では美丈夫で女生(にょしょう:本来は『女性』だが書き分けの都合上、異字体とする。)を引き寄せる割には縁切りをされてばかりというのも納得できるわい。」
と、余りにもメイリンの観察に夢中になり過ぎて周囲への観察を怠ったサザーランドに左側から初老の声が掛かってくる。
何となくメイリン観察を邪魔されて少し不愉快になりながらもサザーランドが左を向くと、そこには治安警察省の良心ともいえるアスハ主席の治安警察省側の護衛担当者(ちなみに、アスハ主席の護衛は他にも近衛監査局、平和の使者、統一連合軍などが常時行っている。)エルガー=グレゴリーがいた。
「何で私が振られ易い事と今の事が繋がるんですか?」
自分でも結構気にしていた事を突かれて余計不愉快な思いをしながらグレゴリーに質問するサザーランド。
「お前さん、常々興味のある人間に対しては今のように欲望を解放させて”人間観察”をするであろう。傍から見るとそれはその者に欲情しているようにさえ見えるのだ。さて、ではお前さんが今参事官にしていたような”観察”をしているところをお前さんの女生に見つかったとする。そうすれば、その女生はお前さんとその参事官の関係をどのように見るであろうかの。」
「それはつまり、私の人間観察は人によっては”発情”しているように見えると?」
相当不愉快な顔付きで聞くサザーランド。最早年長者への敬意などというものが消え去っている。が、グレゴリーはそんな事は気にせずに。
「『人によっては』というより『大部分の人にとっては』の言い間違いじゃの。お前さんが初めて長官の姪御殿に会った時の顛末で、それは身に沁みて分かったとわしは考えておったのじゃがな。」
「うぐっ!………」
サザーランド討ち取られたり。ライヒ長官の姪御殿たるエルンスティンと初めて会った時、余りの奇天烈ぶりについつい生来の人間観察本能が発揮されてしまい、少なからぬ人間からライヒに『サザーランドは長官の姪御様に下心を抱いている。』という、まあサザーランドの観察の仕方が最悪すぎたのだから身から出た錆といえばそれまでな讒言(ざんげん)のせいで妙に普段の5割増しで寒々しいライヒ長官の視線に3ヶ月近く晒されたのは、サザーランドの今までの人生の中でも一二を争うほどに恐ろしい時期であったのは容易に想像が付く話である。
実はその後、オーブ中央省庁の人々は『”あの”ライヒ長官にも真っ当な親族への愛情があったのか。』と挙(こぞ)ってこの冷血治安警察省長官の意外すぎる親族愛に驚きを示したのであった。
「まあしかし、お前さんが見とれるのも分からんわけではない。」
グレゴリーはそう言うと穏やかな視線でメイリンの寝顔を見る。
「こんな若奥様にも至らんお嬢さんが我らが治安警察省の誇る魔女というのだから、世界は皮肉というか残酷だわい。」
グレゴリーの顔には憐憫の色が窺(うかが)える。彼も彼なりにこの若すぎる参事官の苦悩を大まかなれども感じていたのである。
「反政府勢力の強制的鎮圧という誰でも欲しがるわけでもないような才能に開花してしまった歳足らずな女性。彼女がその本心では何を考えているか、どう思いますか?」
「知るかい。そんなに興味があるなら近衛総監殿にお聞きすれば良かろうに。じゃが、内心を見透かせるわけではないが、参事官殿には自然に目が覚めるまで眠ってもらった方がよろしかろう。これだけ幸せそうな顔を、現実の中で何秒保つ事ができるか、知れたものではないからの。」
こうして、同床異夢を現実にしたような3者の均衡が実現した。一人は眠る者を慮るが故に、一人は己が興味を満たすが故に、そして最後の一人は一刻も多く胸中にその夢を残したいが故に。
しかし、均衡は崩れエントロピーは増大する。この一瞬の閉鎖系を破壊する第4の要素の存在に、この時3者とも気付く事ができなかった。
「失礼します。」
カタリ。と、扉を開いて入ってきた均衡の破壊者の名はエルンスティン=ライヒ。あのターミネーターやC-3POと比較してさえ尚寒々しいと評判の泣く子も黙る治安警察省長官ゲルハルト=ライヒの姪という、出生の時点で既に曰く付きな人物。加えて大西洋連邦にいた時には当の叔父であるライヒ自らの判断によってエリート人間生成プロジェクトの試験体として成長したというオマケ付きである。
それ以外にも空間認知能力がメビウス運用可能なほどに高かったり、さすがライヒの姪御様というだけの愛想の無さっぷりを広めていたり、何故か服のボタンが右に付いていたり、その割りに可愛らしい顔付きが有名だったりと、癖のある連中の多い治安警察省の中でもとりわけ奇妙さと異彩を放つ天然少女である。
その少女が両手に抱えるのは書類の束。大方、サザーランドやグレゴリーと同じく書類の決裁を求めてやってきたのであろう。そして、眼前にはすやすやと心地良さそうに寝ているメイリン。この構図を見た2人の感想。
「(さあ、どうやって起こすかな?)」
というのは当然サザーランド。で、グレゴリーはというと。
「(ああ、夢見果てたり。同情するわい。)」
既にエルンスティンに叩き起こされるメイリンの図が脳裏に映っていた。そして、当のエルンスティンは大方の予想通り、人の寝起きなど関係無しにメイリンの元へと向かい、『これがあなたの仕事ですから。』とでもいいながら大方あんまり寝覚めの良くない方法でメイリンを叩き起こすはず。が、事は予想の斜め前を進んでいった。
「(何!?)」
「(これは………)」
何と、エルンスティンはメイリンの手前2メートル地点で直角90度に、それこそ軍隊畑のグレゴリーが感嘆するほどに美しい右向け右を見せるとそのまま右方向へと向かい、その先のあったテーブルに自分の持っていた決裁書類をパタンと据え置いた。
そして、また回れ右をしてメイリンの元へと行くと、ポケットからティッシュを取り出してメイリンの涎の湖を拭き取るという、”あの冷血治安維持マシーンたるゲルハルト=ライヒ”の姪とは思えないほどの真心の行いを見せたのである。
「(ば………馬鹿な!?”あの”エルンスティン=ライヒに、あのエルンスティンにこんな人に優しい行動ができるはずがない!?というより、今まで観察してきた中で、彼女がこれほどまでに優しい行為をした事があったであろうか!?いや、ない!これは何かの間違いだ!!私の観察に一部の隙も無いはずだ!?!)」
などと自分勝手に混乱して迷走を深めているのはサザーランド。確かに、今までのエルンスティンを見ていた者ならこの真心溢れる対応にはサザーランドほどではなくても驚くであろう。
「(おぉっ、”あの”エルンスティンが、ついに人に真心を持つ事を覚えたか。才幹に溢れ、若くして実力も伴っておったが、どうにも人との擦れ違いが珠に疵の者であった。しかし、ここでこうして真心を手に入れたからには、いずれその難点も解消されるであろう。真心は人同士の潤滑油、いやはや良かった良かった。)」
そして、サザーランドとは対照的に内心で結構感動していたのがこのグレゴリーであった。最年長者である事に加えて、面倒見が良い生来の性格も手伝い、グレゴリーは治安警察省内でも精神面のフォローを担当している部分があった。
今回のチームでもリーダーのメイリンは自身に少なからぬ心の傷を持ち、更にそのトップにあるライヒに至っては心の傷のフォローなどとは一切無縁の人物であったから、グレゴリーはこのチーム全体の精神面に気を遣う事になっていた。そんな最中でのこの一件である。エルンスティンの成長をグレゴリーが喜ばないはずがない。
傍観者2人を色んな意味で翻弄したエルンスティンは、涎を処理し終わると再び回れ右してテーブルに置いておいた決裁資料を再び両手へと抱え込んだ。そして、回れ右して再びメイリンの元へ来ると。
ドスン。
と、オーバーなまでの効果音が聞こえるぐらい派手にその決済書類をメイリンの手前、つまり少し前まで涎の湖があった場所、に叩き落したのである。叩き落された書類とは対照的に上半身丸ごとぐらりと浮いてしまったメイリン。
そして、ぐらりと浮かんだ事で歯の噛み合わせの間にゆらりと舌が入り込んでしまい、そして地面に着地した下顎と下に向かって全頭蓋分の重量を得た上顎が重力加速度を伴って落下してくる。そして、上顎が舌を押し潰した瞬間。
「いったぁ~~い!!!」
それこそ飛び上がらんばかりのメイリンの悲鳴が執務室中に響いたのである。
「おはようございます、参事官。決裁してもらいたい書類がありますので資料と一緒にお渡しします。」
激痛にメイリンが飛び起きるとその眼前には決済書類の束とエルンスティンの顔。メイリンもエルンスティンとの付き合いは長い。すぐに、この天然少女が決裁書類を始末してもらう為に、何故か知らないが舌を噛ませるような滅茶苦茶な叩き起こし方をしたのだと理解した。
「もうちょっとマシな起こし方は無かったの!たとえば、平手打ちでパシーンと打ち抜くとか!」
「これがあなたの仕事ですから。早めの決裁、お願いします。」
余りにも無機質なエルンスティンの一言。それを聞いただけでメイリンは反論する気が失せてしまった。この少女には何を言っても無駄だと直感してしまったのだ。
一方、思わぬ展開に傍観者の2人は。
「(よし!やはり私の観察眼は正しかった!エルンスティンにあんな真心が存在するはずがないのだ!)」
内心で無駄な勝利宣言を高らかと謳い上げるのはサザーランド。
「(おぉっ、まさかとは思ったが、やはりエルンスティンには早過ぎる事であったか。しかし、つくづく惜しまれる。もしあれが本当の誠意であったならば………)」
表情にこそ表れないが落胆するグレゴリー。
その後、メイリンは2人からも決裁書類をもらい、しばらくはその決裁書類に目を通すだけの時間を過ごすのであった。
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