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☆第四幕:夢想、狂想、時々狂乱(前編)
夢の中で夢を見る。まるで合わせ鏡の最果てにいる自分を覗き込むような奇妙な感覚。果たして、合わせ鏡に写っている自分には自我というものがあるのだろうか。否、そもそも今自我を感じていると思っているこの自分も合わせ鏡に写った一つの虚像でしかないのではないか。そんな哲学的な問いが絶え間無く思考の深淵から気泡のように浮かび上がってくる深遠な状態、それが夢の中で夢を見る事。果たして、そんな奇妙な夢の内容は夢を見る本人にとって幸せなものなのだろうか。
夢を見ていた。過去の回想ではない、未来の想像でもない。自己の本質でも、他者の内面でもない。何の意味も無い、何の価値も無い、たった一つでありながら、無限の種類を持つ、とても淡白な夢。ただ、見る者にとっては安逸と無我の境地を彷徨うが如き幸福な夢。そんな夢であった。
「………スースースー………」
「ちょっと、一体あんた食堂でいつまで寝ているのよ!もう交代の時間よ!」
パシーン!清々(すがすが)しい音を立てて風のような平手打ちがメイリンの頭を打ち抜く。普通、これだけきれいに音としてエネルギーが放出されれば実測の痛みはそれほど強くならないはずなのだが、あいにく今回は打ち抜いた平手の速度が速すぎてメイリンにダメージを残す。
「………ったぁ~い………」
ほとんど無我の夢見状態から一気に覚醒状態へと強制的に意識を再起動させられたメイリンは痛みの原因を探す為に半開きの目の付いた顔を左右に振る。そして、右の視界の端っこにメイリンの良く知る、今はもう出会えないはずの女性の顔を見つけるに至った。
「『ったぁ~い』じゃないわよ!もう交代予定時刻を1時間も過ぎてるんだから!副長カンカンよ!大体、何でこんな変な場所で高いびきかいてるのよ!あんたの寝室やあたしの寝室、シャワー室まで探してもいなかったから、本当にあんたがいそうなところ全部隅から隅まで探したんだから!」
「………う~ん、ごめん。………」
メイリン個人の感想としては、艦内広しといえどもこの食堂を除いてどこをどうやって探し回れば1時間以上の時間を浪費できるのか、そこが非常に気になったのであるが、さすがに今回の件には自分に圧倒的な非があったのでその突っ込みは沈黙した。
「ごめんじゃないわよ!あんたがどこにもいなかったから、ひょっとしたら何かトイレでヒソヒソと危ない薬を筋肉注射してそれで薬物打ち過ぎてぶっ倒れたんじゃないのかと思って艦内全ての女性トイレの扉無理矢理開いて中を確認したんだから!」
なるほど。それだったら探すだけで20分潰れる事は確定である。
しかし、何であろうか。中に人が入っていようが無理矢理ノックして中の人間を断定して行ったのだとしたら、正直相当恥ずかしい話である。この先1週間は女性クルーから白い眼で見られる事確定であろう。ついでに後6週間は人の噂の俎上に上る事請け合いである。
それに、トイレの中で注射とはメイリンは彼女からよっぽと不安定な人間と思われているのであろうか。そうだとしたら結構ショックであり、そうでなかったとしたらそんな変な想像が唐突に出て来た彼女の頭自体が結構ショックである。ついでにいうと多分その注射は筋肉注射ではなく皮下注射である。筋肉注射だったら余りの激痛に艦内全体に響き渡る悲鳴を発しているはずである。
まあ、一時期アルコール兼アスピリン依存症となったメイリンの身としては全否定のできないところであるが。
「で、それでも見つからなかったから今度は恥を偲んで男のクルーに頼んで男性トイレを探してもらって、それでもいなかったからシンやショーンやアスランのいる部屋にまで行って探したっていうのに!!あーんっ、もう何よこの徒労感と絶望感はぁー!!!」
『徒労感は大いに結構だけど絶望感はこっちの方よ。』と彼女に対して言いたそうにするメイリン。
まあ、これだけ変なところばかり調べていれば1時間などあっという間なのであろうが、とにもかくにも食堂を探す前にそんな奇妙奇天烈な場所ばかり探していた彼女の思考回路というものがメイリンには理解し難い。
一応、ある程度想像力を働かせてやれば普通は女性クルーが遊びにすら行かないであろう男性部屋と男性トイレを彼女が優先的に探した理由が分からないわけではない。が、そんな理由が最優先で浮かぶほど自分は不純だったかとメイリンはこの誤解に眉を顰(ひそ)める。大体、万が一にそんな理由だったら。
「じゃあアスランはともかく、何でシンやショーンのところにまで行ったの?」
「そりゃ、あんたが誰のところで寝ているかなんて―――――って、あんたいつの間にアスランを呼び捨てで呼ぶように!!」
「お姉ちゃんだって最初から呼び捨てに―――――あっ………」
そういえばそうである。この時期はアスランに対してちゃんと『さん』付けして呼んでいたはずである。下手を打ったななどと思う前に彼女の先走り理論が始まる。
「もーっ!冗談半分本気半分で突っついた藪の中が、白いハンカチ覗くな覗き魔、そもそも野外でするんじゃない、当たったところで全然嬉しくも楽しくも無い出会い系サイトのくじ引き当てた気分!何この監視不行き届き、そしてこの出遅れ感!っていうか何より、メイリンに先を越されたのが遅刻より何より一番腹立たしい!!!」
前言撤回。先走り理論などではなく先走りの暴走である。否、むしろ先走っているのかどうかさえ定かではないブラウン運動の如き人間暴走特急。その際限の無い暴走ぶりは殺人コックでも呼んで谷底かどこかにでも落としてやりたいぐらいの暴走っぷりである。
あいにくな事に我が艦の調理担当者が果物ナイフで頚動脈を掻っ切る術(すべ)やマーシャルアーツで頚椎をポキッと折る術を持っていないのが恨めしい。が、さすがに最強のコックが不在であろうとコマンド筋肉男が不在であろうと、メイリンとしては妹としての良心の呵責と恥を痛み分けする肉親の苦労の双方の理由によりこのまま彼女を暴走させたままにするわけにはいかなかった。
「はいはい、ごめんなさい。で、お姉ちゃんが来たのってつまりは遅刻した私を探しにって事でいいんでしょ?」
「そりゃ当然!!だから―――――って、あれ?」
ようやく自分の暴走に気付いたのかしばし赤面する姉。が、今度はその状況を打破しようとメイリンに滅茶苦茶な八つ当たりをしてくる。
「だっ………だから、あんたがこんなところで寝てなきゃ全ては上手くいっていたんだから!?!そこんところ忘れないでよ!」
このカーデシアやロミュランでさえ非論理的だと結論付けるであろう暴論。しかし、まあ遅刻してしまったのは確かにメイリンのせいだったわけであるから、メイリンも非論理的な暴論ぶりには目を瞑って半場不本意なれども素直に姉に従う。
「ハーイ、分かりました。じゃ、急いで艦橋(艦長などの幕僚が戦域全体を鳥瞰して指揮を取る場所。アニメではブリッジと呼ばれている。)に行くね。」
「そうそう。って、何かあんた今日はえらく素直ね。」
が、素直になってみればなってみたで今度は自分の理不尽な暴走に素直に従う妹の状態に疑問符が浮かぶ姉であった。ちなみに、そんな疑問符が浮かぶぐらいなら理不尽な暴走をするななどという突っ込みを思い付く頭はもうメイリンの中では機能停止していた。
「えっ、そうかな?」
「そうよ。」
「何でだろう?」
「あたしに聞かないでよ。あんたの心でしょ。あんた以外に誰が知っているっていうのよ。」
先ほどまで暴走、爆走、激走の限りを尽くしていたとは思えない姉のえらく一般的な台詞。その台詞に釣られてメイリンは何故かを考える。そして、答えを見付けた時にはふと悲しい表情になってしまった。
結局、メイリンはこの姉に遠慮しているのだ。今では墓前に花を供える事さえ能(あた)わない裏切ってしまった姉に、せめて夢の中では素直になりたいと自己満足にもならない儚い思いを抱いていたのである。そして、妹のそんな内心は知らずとも、その表情の変化を敏感に捉える姉。
「どうしたのよ?いきなり陰鬱な顔して。」
「う、ううん!何でもない!!」
慌てていつも通りの顔をするメイリン。姉はしばらく怪訝そうな顔をしてメイリンの顔を見つめていたが、やがて顔の表面に張った偽りの表情に騙されて『ふーん、ならいいわ。』と追及を諦めた。
このあたりの人を騙す表情が普通にできるようになった事に、メイリンは内心で苦笑せざるを得なかった。結局、夢の中でさえ自分は現実から逃れる事ができないのだという諦めとも苦しみともつかない軽い苦味を噛み締めながら。
「ねえ、お姉ちゃん。」
ふと、今度はメイリンの方から話を切り出した。
「何?」
「ずっと………一緒にいてくれる?」
「はぁ?何、昔お化け屋敷に入った時のような事―――――」
そういったものの姉は押し黙ってしまった。きっと、妹の瞳の奥底にある本質的な恐怖心に気付いたのであろう。そして、姉は妹の不安を取り除いてあげるために丁寧に優しく答えてあげた。
「―――――そうね。メイリン、あたしは、いなくなったり、しないから。」
そして、その姉の心を受け取った妹は、顔面に張っていた巧妙な厚化粧を剥がして、とても懐かしそうでとても悲しそうな今の彼女の感情をそのままに映し出した顔を姉に向けってゆっくりと心を込めて言った。
「うん。ありがとう。」
寝首を掻くという言葉がある。眠りに就いている時は人間の生活の中でも最も無防備な状態である事から、裏切りのような相手の善意の裏を掻くような外道を以って物事を為す意味で使われる。
一部のプロに至ると起きている時は当然の事ながら、寝ている時でさえ容易には寝首を掻けないというのだから恐ろしい限りである。この男、オスカー=サザーランドは人間観察や人間心理の攻略が専門分野ではあるが、寝首すら掻けないプロになるなどとは10年の修行を以ってしてもまず無理であろう。
さて、寝首を掻けるかどうかはともかくこのサザーランドのボス『治安警察省の魔女』ことメイリン=ザラ女史はこの一種の『プロ』であるか否か。現在のサザーランドの観察結果からいえば到底寝首を掻けないプロではあり得ないという結論に達する。
理由はいくらでも列挙できるであろう。外界の変化に鈍感である、呼び掛けにすら答えない、はしたなく涎(よだれ)の湖を机に作っている。が、サザーランドの観察では彼女の最も寝首を容易に掻けてしまう理由は寝ている彼女の表情にあった。
夢の世界でこの世で得られるであろう全ての幸福分の幸せを一度にでも受け取ったかのような幸せな表情。その夢を一瞬でも長く見続けたいのか空をがっしりと掴んで放さないような格好をしている両腕。
そして、その夢の世界へと旅立てるのなら今一思いにこの世との繋がりを断たれてしまって構わないとでもいいたげなまでに弛緩した嬉しさに包まれた顔。それら全ての身体全体で示している表情こそがサザーランドをして『寝首を掻きやすい』と思わしむる最大の理由だったのである。
実はサザーランドも当初はとある文書の決裁を仰ぐためにこのメイリンの執務室にやって来たわけである。アスハ主席暗殺未遂事件の主犯格とされるオセアニア解放軍、その主要メンバーを”泳がせる”事を許可してもらう為の書類である。
オーブ連合首長国代表にして統一地球圏連合主席であるカガリ=ユラ=アスハの暗殺未遂事件。統一地球圏連合への明確な敵意であるこの事件の分析と対処は当初から治安警察省の管轄で行われる事となった。
サザーランドはこの件の責任者として事件発生から今に至るまで調査を続けていたわけである。続けていたといえどもそれを行っていたのは他ならぬ治安警察省の上級幹部オスカー=サザーランドである。大方の情報はそれこそ1ヶ月以内に瞬間的に出揃ってしまったのだ。
主犯勢力は大洋州連合に本拠を置く旧ZAFT系穏健武装勢力『オセアニア解放軍』。親オーブ国に根付いた勢力だけあって、この勢力がかねてからコネとして保有していたオーブ領海警備の穴を提供して実行グループの上陸を行う。
次に出てくる勢力は一気に飛んで東ユーラシア共和国コーカサス州に本拠を置く地方独立派中道レジスタンス『リヴァイブ』。セイラン家前当主ティムール=ロア=セイランと内通していた勢力だけあって、巧妙な手口でオーブ国内での狙撃ポイントの確保を担当した。
最後に登場するのがニッポン系のくせに何故かカロリン諸島やマーシャル諸島の方が地盤の強い穏健派海賊勢力『ミカドム・フリート(The Mikadom Fleet。皇国の艦隊という意味。Mikadomは天皇を意味するMikadoと、~の領地を意味するdomの合成語。)』オーブ周辺海域への侵入や撤退の為の隠密潜水艇の提供を行った。
この3勢力が共同して統一連合地上軍の守る絶対の防御を潜り抜けカガリ=ユラ=アスハの心臓にその凶弾の矛先を後1ミリのところまで押し付けたわけである。
普通ならこれらのテロリストを主席暗殺未遂犯として強権を以って逮捕してしまえばよい。リヴァイブやミカドムフリートのように本拠地に治安警察省の権力が行き届いていない場所ならともかく、大洋州連合はレイヴェンラプター師団の鎮圧などの為、既に治安警察の裏庭と化している。市民からの支持も悪くはなく、密告が多いというわけではないオセアニア解放軍といえども、大多数の幹部や指導者の潜伏先は実のところ既に治安警察省の手に落ちているのである。が、サザーランドはここに来て彼の灰色の脳細胞が警告音を鳴らすに足る2つの事実に思い至ったのである。
一つ目はこれらの勢力同士の繋がりがまず考えられなかった点である。確かに実行されてみれば、オーブ近海の情報を持つオセアニア解放軍、オーブ国内の情報を持つリヴァイブ、オーブ海域の移動権を持つミカドムフリートと3勢力とも本拠が離れ離れな割には意外とオーブに対する強みを持っていた事が分かる。
だが、そんな事を果たして本拠が大洋や大陸で離れ離れとなったテロリスト同士で共有できるであろうか。
そもそも、これらの情報は3勢力それぞれにとって隠し玉に近い情報であった。オセアニア解放軍はこの件の捜査で少なからぬ身内の逮捕者を生み、リヴァイブは最大の協力者であったティムールを失い、ミカドムフリートに至ってはそれこそオロファトからトーキョーに至るまでの海域全てに厳戒態勢を敷かれ日干し状態となっている。
3勢力がこれほどの犠牲を払うような隠し玉の3連続だからこそのあの暗殺事件ともいえるが、それだからこそそれこそ顔も知らないような他団体に自分の隠し玉を教えてやる意味が理解できないのである。
そして、もう一つにしてサザーランドの頭の中でギンギンと壊れた目覚まし時計のようにギャラルホルン(北欧神話の終末のラッパ。)を吹き続ける最大の理由。それは、これらの勢力がテロリストといえども政治世界を尊重する超穏健派の勢力ばかりだった事である。
テロリストにも2種類の存在がある。一つ目は完全に統一地球圏連合を目の敵にして統一連合憎しと反統一連合活動に重点を置くグループである。この勢力は基本的に統一連合嫌いを支持基盤にしている為、統一連合との紛争の平和的解決などは一切考慮しない。はっきりいえば、統一連合を滅ぼす為に存在しているわけであるから統一連合との妥協など組織が崩壊してしまう為できないのである。現在のローゼンクロイツはこの系統に属する。
そしてもう一つ目が統一連合の”政策”を嫌って闘争を行っているグループである。この勢力は悪くいえば利益主義、良くいえば柔軟である。統一連合の特定の”政策”が嫌だからその政策の是正を求める勢力。裏を返せば統一連合がその政策を呑めばそのグループは統一連合の支配システムに甘んずるのである。それらの勢力にとって戦闘とは統一連合への交渉の為の道具であり、何より統一連合がその対話の席に座ってくれる事を心から望んでいる。よって、それらの勢力は外交チャネルを積極的に求める、結果的に穏健派となるわけである。
そして、オセアニア解放軍、リヴァイブ、ミカドムフリートの3勢力はいずれもが後者に属する勢力である。
オセアニア解放軍は旧来のプラント系の政党の承認(厳密に言えば政党の承認というより選挙区制の改正。親オーブ勢力がかなり多い大洋州連合では親オーブ勢力が実際よりも多く議席を取れるように死票の多い小選挙区議席が議会の7割を占める。残りの3割は全国区の比例代表制なのだが、この3割から選出されるプラント系議員の数では議会規則により政党会派を作れない状態に置かれている。小選挙区は実質的に第一党と第二党の争いなのだが、現在は中道親オーブと左派親統一連合の両会派が第一党と第二党を占めている為にプラント系勢力が小選挙区で勝つ事はほとんどできない。結局、膨大な死票があるもプラント系議員はほとんど生まれないという皮肉な現状となっている。それを打破する為に、オセアニア解放軍は小選挙区3つ以上を統合しての中選挙区制度への改変、比例代表と選挙区との議席配分を7対3から5対5に変更するなどの政策を要求している。)。
リヴァイブはコーカサス州の独立(厳密に言えば独立というより各種産業の非国有化が目標。現在、ほとんどの有望な産業が東ユーラシア共和国政府ないし統一連合に国有化されており地域内の富がほとんど吸い出されてしまっている為、リヴァイブは各種産業の生産物の分配権をコーカサス州内に帰属せよと要求している。)。
ミカドムフリートはニッポン国の復活(厳密に言うと天皇家の復活。身分特権の完全否定を行った東アジア共和国ではチベットの転生活仏とニッポンの天皇に権威の返上が強制された。これを嫌った両者の支持者は東アジア共和国から亡命して赤道連合に逃げ込み現在に至る。ミカドムフリートは現在の天皇の権威を東アジア共和国が容認した上でリーベンニポン自治区の自治区民統合の象徴として君臨できる事を要求している。)。
をそれぞれ要求しており、それは形式的には統一連合の体制と相容れる可能性を有する要求ばかりなのである。つまり、統一連合との共存が最終目的である以上、その統一連合内の世論を硬化させる主席暗殺などという荒業に組織が全力で手を染めるなどという事はあり得ないのである。それは世論的な問題でもありコスト的な問題でもあるのだ。
それが万里の距離を挟んだ3勢力の間に連合が組まれ主席暗殺未遂の暴挙が起きた。その理由は何であろう。サザーランドの頭脳は幾つかの可能性を提示した。
第一に考えられるのは何らかの理由で3勢力の内のどこかが強硬派に転じ残りの2勢力を抱き込んだという考えである。
だが、この考えではこの3勢力の内のどれかに主席暗殺未遂に至るほどの転換点が必要である。3勢力共にリーダーも代わっていなければ、スタッフと目される連中の顔合わせも変わらず、何か転機となる事態もそれこそ主席暗殺未遂以外には特に無い。そうなると、この勢力の方針の転換はあり得ない事になる。
第二に考えられるのは3勢力とも穏健派の皮を被った密かな反統一連合組織であり、一見統一連合との対話を図る姿勢を見せて官憲の注意を逸らし、機が熟したと見て今回の事件を起こしたという考えである。
実際問題として、膨大なレジスタンスの中でこれら3勢力は大勢力である事から注意を払われた事こそあれ、最上級の危険性を有しているとは考えてられてはいなかった。旧ローゼンクロイツのミハイル=ペッテンコーファーなどのように存在そのものが反統一連合と呼べるような存在に対しては治安警察省は形(なり)振り構わぬ弾圧と捕縛に乗り出しており、現在まで生き残っている抵抗勢力とはある意味では統一連合内で一種黙認された意味合いを持っている。
黙認といっても存在が承認されたわけではなく、彼らの政治スタンスが統一連合内でも明確で統一連合自体の破壊に繋がらないと認識されている為、形振り構わない強権の発動ではなく一般的な対応の範囲内で抑圧を済ませているというだけの事ではあるが。とにかく、確かにこの3勢力は反体制危険度としては中の下程度で武装勢力の中でも武力以外には特に焦点の当てられなかった組織達であった。
このような実例がある以上、3勢力の穏健政策はただの面の皮だといってしまっても悪くは無いのだが、サザーランドはそれを敬遠した。可能性としては不可能ではないのだが、そうだとすると3精力の今までの活動が余りにも不合理なのである。何より3勢力の繋がりが見えてこない。
こうして2つの考えが潰えた時、サザーランドは一つの明確な解を得た。
何故、穏健派で拠点も遠くリーダー同士の交流も皆無な3勢力が一堂に会して主席暗殺などという暴挙を為しえたか。その穏健派勢力を黙り込ませるだけの何かとは何であろうか。サザーランド程度の人間には一目瞭然である。資金、物資、それらの消耗品である。
正規の活動がほとんどできない武装勢力には必ず背後にスポンサーがいる。大口であるか小口であるかはともかく、長期間の活動を行う武装組織には必ずこれらのスポンサーが十分に背後に付いているのである。
もし、自分の発言力を隠匿する為に小口のスポンサーを多数用意してそのダミーでかなりの額をスポンサーとして武装組織に送り込んだらどうなるであろうか。普段はただの発言力のほぼ無い小口スポンサーである。
だが、機が来れば話は別となる。これらの小口スポンサーを纏め上げて大口スポンサーに化けてから武装勢力の代表者と会合する。資金を絞られれば武装組織も終わりである。死活問題に至らない程度の要求であれば容易に受けるであろう。後々で謝礼として膨大な金を渡してやればホクホク顔である。
主席暗殺となるとさすがに大事ではあるが、足跡さえ消滅できれば彼らの地盤に何ら影響する事の無い事柄でもある。それにこれだけ3勢力の内情を知っていた者である。否と答えれば統一連合に密告すると脅してやる事もできるだろう。
これらの論理と推論と仮定の切石を重ねて積み上げたピラミッドの頂点に当たる思考、それは世界すらボードゲームのゲーム盤と見る事さえ恐れないサザーランドをして恐怖させしめるものであった。
『世界各地の武装勢力達に膨大な資金を供給し、テロリスト離れしたテロ行為を望む何者かがいる。』
そして、今や世界一の諜報組織となった治安警察省の厳しい監視の目を掻い潜り、これほどの芸当ができるという事実。それは即ち、次の予想を濃厚にさせるものであった。
『治安警察の上層部にこの何者かと内通した人物がいる。』
防諜機関も充実しているはずの治安警察である。その治安警察省内の上層部に裏切り者とは正しく灯台下暗しである。そして、サザーランドは治安警察省の一幹部としてこの脅威に対する最も有効な対処法を考えた。それは『泳がせて尻尾を掴む』という手法である。無論、危険性は高い。
が、今回の事件で駒として使われた3勢力は『何者か』にとっては恐らく一発限りの捨て駒であろう。暗殺が為されれば良し、為されなければ為されないで統一連合とオーブ連合首長国への揺らぎとなる。今までの投資はこの一発の為だけに存在するといっても過言ではない程度にしか『何者か』は考えないであろう。
サザーランドも、もし自分がその『何者か』であれば治安警察省から目を付けられる事が自明なその3勢力にこれ以上接触する愚は犯さないであろう。よって、この3勢力を治安警察省の総力を挙げて検挙したところで、謎の大口スポンサーがいる程度の事しか判明しないであろう。
しかし、もしこの3勢力を泳がせればどうなるか。『何者か』が武装勢力に連絡を取る事はまずあり得ない。だが、武装勢力が『何者か』に連絡を取ろうとする事は容易に考え得る話である。無論、『何者か』も武装勢力程度に尻尾を捕まれるような間抜けはするまい。
だが、その『何者か』が残したほんの僅かな残り香は、武装勢力にとっては無意味でも治安警察省の分析力を以ってすれば『何者か』の正体を暴くに重要な資料となる。その残り香を得る為の、今回の泳がせる判断であり、その判断の決済をメイリンに頼みに来たわけである。
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